“ぐっさんのショー”

山口智充

2012.11.01 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 稲田 平=写真
切り替える間もないほど
多忙ゆえ、映画は楽しい

テレビの画面の中、ぐっさんはシロイルカの頭を触っていた。土曜の朝8時半過ぎ。大阪からの生放送だ。同じ日の昼、ぐっさんは六本木の映画会社で「非常によかったです」と言った。映画『のぼうの城』の話だ。朝のシロイルカのシーンから、おおよそ5時間後のこと。

「これは日本でしか作れない映画で、世界に誇れる作品だと思います。それに出てるのが誇らしいです。仮に出てなくても観たかっただろうし、人にも勧めてたでしょうね」

『のぼうの城』は、武州・忍城を石田三成が水攻めにした史実を基にしたベストセラー小説の映画化。成田長親は剣の腕も軍略もからきしダメで、ひまさえあれば農民たちの田植えをぼんやり眺め、時に手伝う。領民たちから「(でく)のぼう様」の愛称で呼ばれている。そんな男が、わずか500の軍勢で2万の三成軍と戦うことを決意。絶対的に不利な状況下、どんな戦いを展開するのか――。

ぐっさんが演じたのは柴崎和泉守。古代ローマの戦士のような兜にファー付きの甲冑を身にまとった豪傑。ヒーローのようであり、怪獣のようでもある。パカッパカッ・ドスッ・グイーン(ネタバレ防止のために擬音と擬態語を採用)と、人間離れした戦いで度肝を抜く。

「それがホントにできる力を持った人物なんやと、観ている人に納得してもらえないといけないと思いながら演じました。最初はなかなかイメージがつかめなかったんです。でも原作の漫画版を読んで(笑)、あとは衣装合わせで、実際に甲冑を着けてどんどん膨らみましたね。“ああ、これって男の子が、めっちゃ強そうやん!って憧れるような感じやな”って。周りのみなさんの“ぐっさんめっちゃ似合うやん”ってリアクションに、今度は顔を作ってみて(笑)。グッて目を剥くと“おおっ!”って喜んでくれる、その場がうれしくて…」

役が見えた瞬間だったという。

「強いけれど、女房がいて子だくさん。戦いは好きでも無謀ではないなと思ったんです。命がけで戦うんだけど、命は守りたい人だろうと。戦略をしっかり立てて戦って、絶対勝ち抜く自信があったんでしょう」

殺陣の稽古などの準備も含めると、撮影は約半年間。バラエティーなどレギュラーの仕事をやりつつ、撮影現場の苫小牧や京都へ通った。

「切り替えるというか、その分、俳優というモードに入りやすかった気がします。いろんな役者さんからよく聞くんですが“演じながら、本当にそれでいいのかって思う”って。僕はそういうのないんですよね。“このイメージや”ってつかめたら、ワーッと演じて、“おつかれさまでした~”ってバラエティーの仕事に行って、また映画の現場に行くとき“よし、あれに戻ろ!”ってなれるんです」

まあ楽しい、楽しい。

「毎回“ウワー、俺、映画の現場にいてる!”って、自分を客観視しながらゾクゾクしてましたね(笑)」

どんな自分が好きか。
それがすべての原動力

客観視。それは山口智充という人のキモだ。

映画出演の決め手を尋ねると「断る理由がない」と笑って、こんなふうに答えてくれた。

「あの火事を消してくれとか家を建ててくれとか、全然僕にはできない仕事は別にして、エンターテインメントの範疇の仕事なら、基本的には全部やりたいんです…家建てるのは楽しそうやけど(笑)」

とりわけ積極的にやっていきたいのは「山口智充という人が最高の状態で世の中の人たちに発信できるような仕事」だという。

「そこに出ている山口智充を客観視したときに“このぐっさんええやん”って思えるのかどうか、それを僕自身がノってやってるのかどうかが大切ですね。作品自体がすごく良くても、そこにおけるぐっさんが良くなければ、セルフプロデュースという観点からすると失格です。このボーダーラインは、たぶん、僕にしかわからないと思うんです。それは映画にかぎらずドラマでもバラエティでも全部、そこのラインにのっとってますね」

気づいたときには「客観視する子だった」という。…え? 子?

「小学生のころから面白いことやって笑いを取るのは好きで、先生のモノマネもよくやってたんですが、“やってくれ”“よっしゃ”って感じじゃなかったです。今は前に出えへん方がいいとか、やるタイミングを見てましたね。偉そうに言うわけじゃないですけど、間合い(笑)。あとは“今、ポケットに手を突っ込んで、廊下をこの角度で歩いていったらカッコイイぞ”とか、“今、夕日の差してるこの窓辺に立って外を眺めたら、あそこの女子からはカッコ良く見えるに違いない”とか、自然とそんな感覚を持ってました。男のカッコつけの一部なのかもしれないですけど、客観視といえば客観視かもしれません(笑)」

今も取材現場に向かう際、一応カッコイイ缶コーヒーの開け方を実践してきたらしい。べつに“カッコイイ”と思われたいわけではない。

「そんなの、本人が思ってるほどカッコイイとか思われませんよ。僕は、自分を客観視してる僕のためにやってるんですよね。バンドマンに音楽始めたきっかけを聞くと“女にモテるため”ってよく言いますよね。僕の場合は“音楽やってる俺ってええやん!”って思ったから(笑)…ホンマに自分が好きなんでしょうね。これをやったらもっと自分が好きになるっていうのが一番大きいのかもしれません」

その“ええやん”はブレない。

「恐る恐る一発勝負を掛けるなら、人の顔色も気になりますけど、自分が好きで“ええ”と思ってずっとやってることですから。結局のところ、学校のころから言ってることは変わってないのかもしれません。やりたいことはどんどん増えてますけど、スタンス的なものは、ホンマに変わってないですね。たぶん自分から当てはまるようにした方が、仕事上もいいと思うんですけど、そうしようとして失敗して傷つき、ダメになったことも何度も経験してきたので。結局、自分らしくやるのが一番いいよなって。芸能人だからじゃなくって、山口智充という人間がどうしたいかっていうことなんです」

高校卒業後、就職したのに25歳で芸能界に来たのもそうだし、30過ぎても芽が出ず、ソロで路上ライブをやったのもそう。

「本来の自分が一番いいと思えるやり方でハマるものが1個でもあったら最高やん! って気持ちでやってたら、だんだん周りの理解が得られていった感じですかね。偉そうな言い方かもしれないですけど、今、僕の中にある “これやねん!”といえるものを観て、“ええやん!”って思ってくれる人がちょっとずつ増えてきている気がします。答えがない世界やから思うままにやっていいと思うんですけど、それを受け入れてくれることが多くなってきている…そういう、ちょっといい時期じゃないですかね(笑)」

バイク雑誌の表紙を務め、オリジナルの革ジャンを作ったり、趣味の木工で作品を発表したり、いわゆる“芸能”の枠にとどまらない仕事の広がりぶりを見せている。

「ここ最近、何屋さんかわかんないですね。僕、自分から肩書きを言ったことがないんですけど、イメージは“山口デパート”ですね(笑)。“俳優”“音楽”“バラエティー”といろんな売り場があって、このデパートが好きな人もいれば、音楽売り場が好きな人もいて、でもオーナーの僕は、自信を持って売り場を展開しようとしているので、あとはお客さんに店を選んでもらったらええかなって思ってるんです」

それぞれの“売り場”に触れるたび、その奥深さを実感する。

「この世界、定年がないですよね。映画も音楽も笑いも、全部答えがない世界で、それはずーっとずーっと遠くまで広がってて、終わりはないですね。最後にはそれをひとつに融合したみたいなエンターテインメントを作りたいと思ってます。笑いと音楽と芝居と…すべてがガーってなったような“ぐっさんのショー”を(笑)。今は1個1個の骨組み、筋肉を鍛えていってる過程なのかもしれないです。それが全部集まったら、ガシーッとすごいものになる予感がしてるんですけどねー(笑)」

ちなみにシロイルカの頭。「猫の舌みたいにザラザラしつつ脂肪っぽくて若干気持ち悪い」らしい。

1969年、大阪府四條畷市生まれ。高校卒業後家電量販店勤務を経て、94年、デビュー。多彩なものまね力に、すばらしい歌唱力、そつのない司会力など、数々の能力を発揮し、自ら「肩書きが名乗れない」ほど様々なジャンルの仕事経験。ピクサー映画『カーズ』シリーズのメーターの声が当たり役。現在は『ぐっさん家~THE GOODSUN HOUSE~』(東海テレビ)、『にじいろジーン』(関西テレビ制作・フジテレビ系列)、『笑顔がごちそう ウチゴハン』(テレビ朝日系列)など出演番組多数。『のぼうの城』公式サイトはhttp://nobou-movie.jp、ライブ活動などの詳細はwww.randc.jp/yamaguchi/discography.html

武田篤典(steam)=文
稲田 平=写真

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