なるべくこんな仕事をやり続けられれば

大根 仁

2013.08.01 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 稲田 平=写真
とことんゲスい、でも
エロくてどこかかわいい

「ゲスとゲスが一緒にやったら、倍どころかすごいゲス度(笑)」

渋谷「シネクイント」のトークショーでの俳優・新井浩文の言葉だ。

最初の“ゲス”は、劇団ポツドールを主宰する三浦大輔。今の若者の生態をリアルに捉え、えげつない性描写も厭わず、人間の本性みたいなものをむき出しにする劇作家だ。

二人めの“ゲス”は深夜ドラマ番長・大根 仁。『週刊真木よう子』『湯けむりスナイパー』『モテキ』など、クセのある作品がドラマ好きの心をわしづかみにする演出家だ。

「ゲスい」を連発する新井に、言う。

「いや、最初は“ゲスいな、俺たちとは全然関係ないな”って思うんだけど、ちょっとずつ共感できるところが出てくると思うんだよね…」

トークの題材は映画『恋の渦』。劇団ポツドールが2006年に上演した舞台を大根が映画化した。

映画監督・山本政志が主宰する「シネマ・インパクト」というプロジェクトの一環である。現役で活躍中の監督たちを講師にワークショップを開き、最後にそれぞれのクラスで映画を完成させる。これはその「大根 仁クラス」の作品。受講者の中から出演者を選び、4日間で撮影した。

「ワークショップという、わりあい経験の少ない役者が集まる機会に、『恋の渦』は合うと思ったんです。そもそも舞台を観て映像化したくて。三浦大輔のことは、それ以前に何本かドラマを一緒に作ってたときに本物の天才だと確信していました。これを映像化するなら、あんまり役者のバックボーンが見えない…つまり、無名の役者たちで作る方が、見る側も感情移入しやすいし物語に没入しやすいだろうなと。そういう意味ではワークショップ向きでしたね」

物語はコウジ(27歳・フリーター)とトモコ(28歳・ショップ店員)の暮らすマンションでの男女9人の“部屋コン”から始まる。イケてない友だち・オサムに、トモコの同僚のユウコを紹介するのがテーマだ。だが現れたユウコのブサイクさに男性陣ドン引き。金髪・ヒョウ柄・極度のダメージジーンズ・長州小力のモノマネ…まるで、DQNたちの生態を扱った『ザ・ノンフィクション』を観せられているかのような錯覚に見舞われる。

弟に自分の彼女のマグロっぷりをディスる兄。告白されてノリで告白し返す女(その後即、着拒)。「あんなブスと!?」って思われるのがイヤで、仲間に付き合ってる女のことを頑なに隠す男…。ゲスさは加速し、男女9人のきわめて自分勝手な恋模様が展開する。

「ルックスとかファッションは“今どき”で、カルチャーや世代間のギャップはあるけど、物語は普遍的じゃないですか。連ドラと単純に比較はできないけど、男女の恋愛群像劇ってことでいえば『ふぞろいの林檎たち』に近いと思います。オサムとユウコの関係なんて、そのまま柳沢慎吾と中島唱子の関係ですよね」

そしてブサイクはブサイクなりにエロく素敵に撮る。大根仁の真骨頂。

「ありがとうございます(笑)。脚本がそういうふうにできてますからね。ただ、ユウコの終盤のオサムとのシーンでは、ブスだけどキレイに撮ってあげようって意識しました。まあそれはレンズのチョイスとか照明とかカメラアングルとか、テクニカルな部分ですけどね」

才能と才能を合成して
ケミストリーを生み出す

ラストのある“オチ”で劇場に驚愕の悲鳴が上がる。9人の男女はキレイにつながり、非常にゲスで、理知的な(?)一言で劇的に映画は終わる。

今年4月、「オーディトリウム渋谷」で12回限定公開の予定だったこの自主映画は、熱狂が収まらず、7月には「シネクイント」で公開、8月末よりさらに追加公開が決定。

「『シネマ・インパクト』に参加するときに思ったのは“テレビ屋として何ができるか?”。『モテキ』のときも考えたんですが、テレビディレクターが映画を撮る理由と最低限の義務は、“ヒットさせること”なんです。俺はとくに作家性とかオリジナリティのある監督ではありません。ならば観客の入るエンターテインメントを作る」

この映画は2時間18分ある。

「『シネマ・インパクト』は短編中心なんです。テレビ屋として、他のそうそうたる監督たちと張り合うには、タイトなスケジュールのなかで観客を飽きさせない作品を撮ることだと思ったので。テレビドラマの作り方で、テレビ屋にしかできないものを撮ろうと、あえて長編に(笑)」

自分からやりたいものはとくにない、と断言する。

「俺が、というよりいろんな才能と才能をくっつけて、アレンジをするのが好きなんです。作詞作曲するタイプじゃなくて、DJですよね。この曲かけて、次この曲かけて流れを作る。サンプリングし、カバーし、…自分がやるべきことはそこかと」

ジャンルは関係なく面白いテレビ番組を作りたくてこの世界に入った。ADをやりながらカラオケビデオの、宮沢りえのデビュー曲「ドリームラッシュ」で監督デビュー。

「最初の4~5年は本当にひどい生活でしたが、なんとかディレクターになって、それで30代前半までテレビディレクターとしていろんな番組をやりました。音楽ものとか旅番組とかドラマもちょこちょこ。自分で初めてピンときたのが『演技者。』。ケラリーノ・サンドロヴィッチさんの『室温』という作品を映像化したとき。“あ、やりたかったことはこれか”と」

ジャニーズの役者を使って戯曲をドラマ化する『演技者。』で初めての総合演出を務め、原作のチョイスからキャスティングまで自分でコントロールすることに。

「そこで、ケラさんというサブカルど真ん中の、僕も昔からずっと好きだった人の作品とジャニーズという超メジャーとのミックスがうまくいって“あ、これが自分のやるべきことだ!”って思ったんです。テレビはもちろん、当時のどの邦画よりも面白いという自信はあったんですけど、一部では評価されたものの、とくにそれで“映画を撮ってくれ”と声がかかるでなく、具体的に何かにつながるでもなく(笑)。確信は得たけど、“これは時間かかるな”と思いました」

でも、自分のなすべきことに自覚的になったのはそれからだ。

「たとえば『モテキ』は「すばらしい久保ミツロウさんの漫画原作があって、映像にしたときこんな音楽流して、この役者さんに演じてもらったら盛り上がるだろうな」、なんて思いながら。『湯けむりスナイパー』は、今はなき『漫画サンデー』連載の劇画×テレビという面白み。

「今は『半沢直樹』とか中年の男向けの経済ドラマや、深夜にゆるく観られる『孤独のグルメ』とかありますけど、以前は自分が観たい深夜ドラマがまったくなくて。温泉宿で元殺し屋の男が働いてる突拍子もない設定で、ちょっとエロいシーンがあって、しんみりする話も、笑える回も、シリアスな回もあって…。中年のおっさんがゆっくり観られる、自分の足場を築いた深夜ドラマは少なくとも年に1回はやり続けたいですね。最近やった『まほろ駅前番外地』も僕のなかではライフワーク的な仕事の位置づけ」

大根 仁の野望はささやかだ。

「三浦くんみたいな天才とか、才能のある監督を見てくると、さすがに40も半ばということも含めて自分の実力もわかるようになりました。幸いにして20代後半ごろからは好きなことで食べてこられたので、カラダの自由が利くうちは、なるべくこんな仕事をやり続けられればなと」

『ロンドンハーツ』の「ミラクルメール」の面白さに歯噛みし、『探偵!ナイトスクープ』に感心し、あらゆる題材を自分の仕事に生かそうとする。

「60~70歳のバラエティのディレクターって聞いたことないけど、映画監督やドラマの演出家ならいますよね。あと、今回みたいな厳しい現場も2年に1回はやっておいたほうがいいかな(笑)。ともすれば自分のなかで甘えが出てきてしまうので。何本かヒット出すと “先生”的に持ち上げられて、周りも意見しにくくなるから。自分はそんなつもりないですけど、なるべくスタッフや役者と一緒に、“地べた”にいて、風通し良く作りたいですね」

1968年、東京生まれ。ドラマ、ミュージックビデオ、CMなど多彩なジャンルの映像作品を手がける。『週刊 真木よう子』『去年ルノアールで』『湯けむりスナイパー』『モテキ』『まほろ駅前番外地』といったテレビ東京深夜ドラマを、いわばホームグラウンドとして話題作を次々演出。劇場版『モテキ』で映画監督デビュー。2014年に撮影予定の2本の映画監督作を準備中。『恋の渦』公式サイトはhttp://koinouzu.info/

武田篤典(steam)=文
稲田 平=写真

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