少しでも高いハードルを越える

真田広之

2013.09.19 THU

ロングインタビュー


三田真一=スタイリング 古久保英人=ヘア&メイク 武田篤典(steam)=文 稲田 平=写真
俳優として、だけじゃない
外国作品への出演

両の拳から鋭い鉤爪を生やした不死身の男・ウルヴァリンが日本へやってくる。増上寺でバトルを展開し、ヲタたちの波を縫って秋葉原を疾走、新幹線の屋根の上でヤクザと戦う。ラブホに潜伏し、日本家屋での甲冑の男とのチャンバラ??。

特殊能力を持ってしまった者たちの“業”を描いた、マーベル・コミック『X-MEN』シリーズの最新作、ウルヴァリンを主役に据えた映画第2弾『ウルヴァリン:SAMURAI』が完成した。

主人公を演じるヒュー・ジャックマンが何年にもわたって映画化を切望。真田広之がオファーを受けたのも3年ほど前の話だった。

「脚本を読ませてもらった後、ロサンゼルスにあるジェームズ・マンゴールド監督のオフィスで、内容についての話し合いをしました」

演じたのは、日本を牛耳る大企業のボス、矢志田シンゲン。

後半の最大の見せ場のひとつ、矢志田家でのウルヴァリンとのアクションシーンは、彼がスタントチームとのコラボで組み上げたものだ。

「3~4日くらいで一気に撮りました。アクションシーンとはいえ、あくまでキャラクターとストーリーを優先させる考え方は、ジム(ジェームズ・マンゴールド)の本領発揮といった感じでしたね。ファイトシーンは振り付けの時点でかなり僕のアイデアをとり入れてもらい、スタントコーディネーターと一緒に作っていきました」

たとえば、ウルヴァリンは両方の拳に鉤爪を持っているので、相対するシンゲンも二刀流で戦うことを提案した。そして、なるべく少ないカットでアクションを撮り切るためのシークエンスづくりにも大きな役割を果たした。鉤爪のウルヴァリンと普段着に甲冑をつけた男の戦いは、設定だけを聞くと珍妙に聞こえるかもしれない。だがタイトで激しく美しいファイトシーンに仕上がった。編集やCGに頼らず綿密に構成された殺陣が、息をもつかせぬ迫力だ。

冒頭に見どころを列挙したが、これらも同様。デフォルメはあるもののドラマやアクションときちんと融合されている。ここでも真田広之の力は大きい。

「まず最終台本に関するジムとの話し合いですね。シンゲンというキャラクターについて、物語の全体的な流れについてなど、内容面を詰めていきました。それと並行してシンゲンの衣装、メイク、小道具、ファイティングに関するスタントチームとのリハーサルを行いました」

一俳優としての役割を完全に超えているが、真田は「毎回そういう羽目になってしまうんです」と笑う。

演じる喜びと献身と。
10年先を見据えて

「異文化に関するスーパーバイザーを置くというシステムが確立されていません。日本の文化、美術、武道もそうだし、慣習などについても、そこは作品に関わった人間が見ざるを得ないんです。これを続けていって、少しでも理解者が増え、役者がしなくてもいいような時代が来るのが理想(笑)。ちょっとその辺が“危なそうだな”と感じるような作品でも、逃げるのではなく、あえて飛び込んで修正する。だってその役は僕がやらなくても、誰かが演じることにはなるわけです。疑問を抱く自分がこだわって、少しでも誤解を解くチャンスが得られればと」

役者として役を演じる仕事はもちろん、加えてそこが「日本に育った日本人俳優としての役割」だと考えている。「日本の観客に観てもらったときに恥ずかしくないものに、世界の観客に観てもらったときにおかしな日本文化が伝わらないように」というのが、切なる願い。

面白いのは、正しさのみを追求するわけではない、という点。

「求められるリアリティは作品によって違います。文芸作品からエンターテインメント、今回のようなフランチャイズのアクション…その都度、設定のレベルに応じたアレンジメントが必要だと思います。それには脚本と役と現場を理解するしかない。その点で、白羽の矢が立つのが…僕、だったりするんですよね(笑)。ですから、できるところは喜んで背負いましょうと」

真田広之は、2005年からロサンゼルスに拠点を移して活動している。だが、この考え方は日本にいるときから変わっていないという。「要は、関わった作品を少しでも良くしたいということです。映画を構成する“俳優というパーツ”を超えて、できる範囲のことはやって映画全体を良くする。もちろんそれで他人の立場を侵害することは避けなきゃいけないので、相手を尊重しつつ、言い方やタイミングをうまく見つけながら言いますけど(笑)。全体が良くなれば、最終的にそれは自分に返ってくることになります」

日本にいたころ…どころか、キャリアの最初の頃から。実は芸能界へのデビューは5歳だ。

「子役をやりながら現場でつかんでいったんでしょうね。幸いにも映画界のいい時代を現場で垣間見られました。僕はその最後の世代だと思っています。役割を超えてみんなが一丸となって物を作るのが当たり前だった時代に現場にいて、いい先輩、悪い先輩(笑)を見ながら自然と培われてきたんだと思います」

ずっと考えてきたのだ。

「つねに少しでも高いハードルを設置して、自分の持ち駒だけでは勝負できない高さを越える。その都度その都度もがくんですけど、やりきったときの自分を想定する。“それをやったとき/やらなかったとき”の自分の10年後を想定して、二頭立てで走らせるわけです。どっちの自分でいたいのかを考えると、仕事への向き合い方ははっきり見えてくるんです」

子役の後、20代にはアクションスターとして人気沸騰。上司に聞いてみてください。現在45歳前後の男子たちには、彼に憧れてアクションを始めた者が必ずいます。

当時は「葛藤のまっただ中だった」という。そこで、あえてアクションのない作品を積極的に選んだ時期もあった。今回『ウルヴァリン:SAMURAI』に出演したのも、未来を見据えてのことに違いない??。

「まあ純粋にジムと、ヒューと一緒に仕事ができる機会だった、ということが大きいんですけどね。ジムはフィルムメーカーとして尊敬してましたし、ヒューとは前々から一緒にやろうと言い合ってましたから」

さらに言うなら、こうした大規模な予算の人気作品のパワーを体感したかったともいう。それを味方につけて、後につなげるために。

「これほどの大作が日本をいかがわしく描いたら、今後、ハリウッドは日本を取り上げにくくなるでしょうし、ひいては日本人俳優が仕事をしにくくなる。テレビドラマに関してもそうですけど、訴求力はすごいわけですから、その作品が良くなって認知されれば、後の作品にも興味を持ってもらいやすい。インディペンデントのアート系の作品に出ても、“アイツが出てるなら観てみるか”って。後々日本で作ったものを持って行ったり、僕らより後の世代の俳優たちが行くときに受け入れられやすいマーケットづくり。橋をかけて舗装しておこうと(笑)」

だが、単なる献身ではない。

「もちろん!(笑) 準備段階ではいろいろと裏方的なことはやりますが、役を背負って現場で演じるときは、それに徹する。純粋に俳優として演じる喜び、共演者、演出家とコラボレーションする楽しみは満喫しています。それに付随して、お客さんに喜んでもらえる。少しずつ理解を得て、自分の意見を取り入れてもらえる。設置したハードルを越えている実感もある。一方で、うまく越えられず劣等感に見舞われたときには、逆にその意識が背中を押してくれるんです。自分ひとりのことだと思うとへこたれてしまうかもしれませんが、“今ここで俺がヘタ打ったら、バトンタッチができなくなるな”って思うと頑張れる。そういう意味では、まず喜びであり、献身であり、エネルギーであり…一石三鳥、いや、五鳥から六鳥は捕まえてるんじゃないかな(笑)」

滞在わずか2日で真田広之は“帰国”した。新しい仕事のためだ。

「科学者役なんですが、英語の専門用語が難しくって!(笑)」

それも、連続ドラマに1話目からのレギュラー出演。また、目の前に新しいハードルが置かれたのだ。

1960年、東京生まれ。子役としてキャリアをスタート。80年公開の映画『忍者武芸帖 百地三太夫』に主演。99~00年には英国ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの『リア王』に唯一の日本人キャストとして出演。02年にはアカデミー外国語映画賞にもノミネートされた『たそがれ清兵衛』に出演。03年の『ラストサムライ』では今作同様、刀さばきや日本のカルチャーに関して教える立場となった。05年より拠点をアメリカに移し、『上海の伯爵夫人』(06年)、『ラッシュアワー3』(07年)、『最終目的地』(08年)などに出演。『LOST』、『リベンジ』などのテレビドラマでも活躍。『ウルヴァリン:SAMURAI』の公式サイトはhttp://wolverine-samurai.jp、facebook:https://www.facebook.com/WolverineJP、twitter:@Wolverine_JPN。現在公開中〈3D/2D 字幕版・日本語吹き替え版(一部地域を除く)同時公開〉

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武田篤典(steam)=文
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