論客としても知られるエンジェル投資家

瀧本哲史「新しい価値観に触れないとゲームオーバー」

2016.04.21 THU

ロングインタビュー

瀧本哲史

たきもと・てつふみ
東京大学法学部卒。同大学院法学政治学研究科助手から、マッキンゼー・アンド・カンパニーに180度方向転換。現在、“エンジェル投資家”ほか京都大学で客員准教授。『武器としての決断思考(星海社新書)』(講談社)、『君に友だちはいらない』(講談社)など著書多数。4月26日発売の『読書は格闘技』(集英社・1080円)は、主張の異なる書籍をテーマごとに戦わせ、新しい論旨を導くヒントが詰まった一冊!

ただの読書はつまらない。より“リッチ”に楽しむ方法とは?


かつては世界的なコンサルタント会社として知られるマッキンゼー・アンド・カンパニーに籍を置き、現在はまだ芽の出ていない起業家に投資を行う“エンジェル投資家”だ。その傍ら、京都大学で教鞭を執る。さらに『僕は君たちに武器を配りたい』(講談社)など、仕事や人生を戦略的に考えるための本を何冊も出している。そしてこのたび上梓したのは、読書の新しい視点を世に示す『読書は格闘技』(集英社)。瀧本哲史、この人いったい何者なのか!

「いろんな出版社から提案を頂くんですが、本を出すかどうかは担当編集者を見て決めています。その人は、太宰治の表紙を『ジョジョ』にして売ったらしくて、今回も変なものを用意しているというので、興味を持ちました。『小説すばる』での連載で、『今までの瀧本さんの作品とは違うものにしよう』ということで、やっぱり読書論かねと。この手の本はそこそこ売れるんですが、似たようなのを世に一冊増やすのは意味がない。多くは、読書の手法と書籍紹介という2軸が多いけど、その常識を破ろうと考えたんです。読書というのは、常々批判的に読まないと意味がないと思っていて」

かくして辿り着いたのは書籍同士を戦わせる“格闘技”。マキャベリの『君主論』と『ビジョナリー・カンパニー』を比べて、時代背景や著者の立場の違いから組織のあり方を考察したと思いきや、教養というリングでは、あだち充の『タッチ』とゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』が拳を交える。そこで青春文学の類似性を指摘しながら「大人とは?」を慧眼鋭く考察するのだ。

「30代の編集者に『何に困っていますか?』と聞いて、テーマに沿った選書をしました」とのこと。しかし瀧本さんは月に20万~30万円分の書籍を買い、気になったテーマを“列買い”する多読家。溜め込んだ知識も半端じゃない。とうてい読者が真似できるものではないが、本書はあくまで戦いの“型”を示す教本という位置付けも強い。

「ここに書いてあるのはプロの戦い方ですけど、同じジャンルの本を比べて読むだけでもすごく視野が広がります。研究者ってそういう読み方するんですよ。主張や思想の変遷もたどれる」

研究職でなくとも役立つという。しかし、これをご覧の読者の多くがスマホかPCであろう。そんなご時世に、読書を勧めるとはこれいかに。

「そもそも僕、無料コンテンツにあまり出ていないんですよ。手間暇かけて作ったものをいいと考えて買っていくような層をターゲットにしていて。ネットメディアを見る代わりに本を読めといっても、それはたぶん無理。ディズニーランドに行ったり、映画を観たりする行為くらいじゃないと、本を読むコストと釣り合わない。だからこの本は、リッチなコンテンツをリッチに楽しむための疑似体験ツールだと考えてほしいですね」

執筆活動も、本質的には投資と一緒


冒頭にも書いたが、本職はあくまで投資家。しかし、本を書くことが本職につながるメリットは大いにあるらしい。

「本を書き始めたのは『ディベート甲子園』の参加校を増やす目的で執筆するという話で、それが『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の編集者・柿内芳文さんだったんですね。彼が立ち上げた星海社で新書を作ることになって、きっちりコンセプトを作って出したのが『武器としての決断思考』。これは30万部近く売れました。次は、週刊現代にいた加藤晴之さんを復活させるために出した『君に友だちはいらない』。自分から本を出すというより、誰か成功すると僕が得するというものばかりで、この作業は投資に近いんですよ」

自分のための目線だけで本を書いたのではないのだ。そして書く利点がもうひとつ。ネットワークを増やすことにもつながる。

「たとえば『僕は君たちに武器を配りたい』を書いたらNHKのコメンテーターとして呼ばれたり、僕がターゲットにしている人のプロフィールが近いことから『クーリエジャポン』で連載を持っているんですが、そこから人脈がつながったり。ターゲットにしている人と出会うネットワーキングツールとして、書くことにはバリューがあると考えています」

40代はもう手遅れ。30代でも実績がないと…


もともと東大法学部の大学院で研究職をしていた。一方で株式投資を行っており、「合理的に考えてリターンが取れておもしろいだろう」という目論見からマッキンゼーに転職したのが1997年。ベンチャーキャピタルが投資する前の案件に投資するエンジェル投資という“枠”が日本になかったから、そこに歩を進めた。書籍執筆も、人生設計も実に戦略的だ。なにせ『戦略がすべて』(新潮社)という本を出しているほど。そして常に、人とのつながりありきだった。

「僕のメインターゲットはやっぱり30代。40代は残念ながら色んな意味で間に合わないことが多い。某G社から40代向けの本の依頼があったとき、試しにいろんな40代に会ったんです。でも『解決策がない』という結論に至りました」

ならば最後に、30代がよりよい人生を歩むための道を示していただこう。

「まず前提として、20代でプレイヤーとして何か実績を作っておかないと難しいかもしれません。というのも、世の中にはいろんなゲームがあって、与えられたゲームのなかで勝ち方を知っておかないと、攻略法の探し方も知らないままゲームを続けることになるから。さらに新しい世代のほうがプレイヤーとしては強く、たいてい太刀打ちできません。だから30代は攻略法を知ったうえで、若者を使うリーダーとしての才を磨くべきです。これからの社会をひと言で表すと“グローバルとIT”。変わりゆく社会を見据えて、たくさんのシナリオを準備しておくことも大切ですね。違うジャンルの人に会って、違う本を読む。しかし時間は有限。1日の10%は新しい価値観に触れる時間としておきましょう。30%は捻出できないし、0%なら確実にゲームオーバー。10%くらいがいい。そのために『読書は格闘技』を読むのは、ちょうどいいんじゃないかな(笑)」

矢切渡司=取材・文/堀 清英=撮影

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