初代ガンダムを再び描く、希代のマルチクリエイター

安彦良和「ファーストガンダムにどう始末を付けるか」

2016.05.19 THU

ロングインタビュー

安彦良和

1947年北海道生まれ。1970年虫プロにアニメーターとして入社。独立後はキャラクターデザインや演出、監督として活動する。1979年『機動戦士ガンダム』を手がける。1989年、漫画家に転身し多数の作品を生み出す。2001年『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を連載。現在は『天の血脈』(講談社)、『ヤマトタケル』(角川書店)を執筆中。15年『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』総監督。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN III 暁の蜂起』は、シャアの青春時代を描く。お馴染みのキャラクターたちの秘められた過去は、ファン必見。ファンならずとも、一連の作品はガンダムの世界の入り口にピッタリだ。5月21日(土)、全国15館でイベント上映!さらにBlu-ray先行販売に加え、先行有料配信も同時スタート
御年68歳。安彦良和は『機動戦士ガンダム』を生んだ、紛れもないレジェンドのひとりとして知られている。アムロやシャアなどお馴染みのキャラクターをデザインし、アニメーションディレクターとして現場を仕切った。1989年には漫画家に転身。2001年からは『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を自ら執筆し、10年かけて完結させる。原作アニメ版の前日談となる『シャア・セイラ編』は2015年に劇場アニメ化がスタート。自ら総監督として指揮を執った。このたび第3弾となる、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN III 暁の蜂起』が上映となる。

こんなバカなことは、これまでもこれからもまずありえない


「年に2本のペースで、やっとここまできたなあという印象です。長いブランクがあったので、1本目のときには何すりゃいいのかなという感じはありましたね」

上井草のサンライズには必要なときだけ赴き、基本は自宅での作業。現場のスタッフが作画を持ち寄り、総監督である安彦さんの指示を仰ぐ。自ら筆を入れるのは、卓越した画力を持っているからこそ。

「絵コンテを切るのは早い方ですし、大事なことなので人任せにはできない。僕が切った絵コンテをそのままレイアウトに使うという特殊なやり方をしているんですね」

自分でデザインし、アニメとして動かし、二十数年の時を経て漫画に仕立て、35年越しで再びアニメにした。一連の作業で手を動かすのは、やっぱりこの人をして他にないのだ。

「こういうバカなことは過去にもないし、今後もきっとないでしょうねぇ。それも30年以上の時差で。成り行き上こうなってしまったとはいえ、本当に自分でもバカじゃないかと思う」

安彦さんの手を離れたガンダムのマーケットは拡大を続け、様々な解釈が加えられ、一大叙事詩となったのはご承知の通り。本作『~暁の蜂起』では、シャアが士官学校の生活を送るさなか、ジオン独立への機運が高まる様子が描かれる。漫画版にはなかったリノ・フェルナンデスというキャラが、シャアの鋭さを引き立てている。

「今回アニメ化した一連の過去編は原作アニメでは描かなかった前段で、僕が漫画で描いたオリジナルなんですよね。ただ単にそのアニメ化と言うことだけではなく、それなりに内容豊かにやっていかなきゃならんということで。今回は脚本の隅沢克之さんのアイデアを大幅にいただいて、もうひとり、キャラクターを訴えようと。それがうまくいったと思っていますね。ありがたいことですけど、『ファースト世代の年寄りが言うんだから』と自由にやらせていただいてる。それをこっちも暗黙のうちに期待していて、『おれはファーストの当事者なんだ』って言ったりしますけど(笑)。ただ当事者はたくさんいるし、一番は富野由悠季からの預かり物だと思っていますけどね」

安彦さん、実に謙虚だ。現場のルールに任せるスタンスを取っている。

「僕自身が絵描きなのでわかりやすく紙に乗せて『こんなふうに』とは言いますけど、現場には現場の仕切り役がちゃんといますから。絵にも作画監督がいるし、CGに至っては僕はまったくわからない。前時代的なツルツルしたCGを思い浮かべていたら、今や手書きと組み合わせても違和感がない。現場からは多少距離を置いていますから、申し訳ないくらいに気楽なもんですよ。現場で埋没していると『これは面白いのか』って思いますが、今はすごく楽しめていますから」

最初のガンダムを、つたないまま世に出してしまったことを後悔している


「『アニメの世界に戻ってきた』といわれると、『戻ってきてないよ』なんですよね。漫画家だから。今手がけている2本(『天の血脈』、『ヤマトタケル』)をちゃんと終わらせて、年齢的にもそれで閉店かなという気がしていますけど」

現在の本業は漫画家。日本の古代史をテーマにした連載を2本抱えている。かつてアニメ制作に限界を感じ、漫画家に転身して以来、そのスタンスは変えていないらしい。

「僕が描く漫画は古代史と現代史が大きなテーマなんです。25年間のキャリアでずっとそれを通してきましたが、実はガンダムも国の成り立ちと戦争を描いてるんですよね。それが重なるなんて、昔は思ってもいませんでした。今にしてみれば、ファーストガンダムをこれだけしつこくやる理由はあったなと思います」

描きたいテーマがやってみたら近かったという話に加え、そもそも気になっていたことがあったらしい。イヤイヤながらもアニメ化を引き受けたのは、ケジメを付ける必要があったから。

「こう言うと不穏な言い方になっちゃうけど、『落とし前を付ける』という意味もあったんです。しっかりと描いていれば、戦争美化に曲解されることもなかったと思う。演出に関しては責任はないけれども、絵作りの責任を負うアニメーションディレクターっていう抽象的な肩書を自分に付けたのは僕自身。時間もお金も人でもない環境で、つたないものを世に出してしまった。ホームビデオも普及する前で、『ひどい角度だ。いや観てるやつがトイレに立つかもしれない。だからいいよこれで』っていうそういう時代だった(笑)。『瞬きしてるうちに終わるよ』なんて言ってたのが、冗談じゃなくなってしまった」

原作アニメ制作時の後半は体調を崩して、現場を離れてしまったことも大きかったそう。今だって、なんだかんだで大忙し。

「いわゆるファーストガンダム本編をどうするのかが、今の課題ですね。それをやらないと、始末を付けたことにはならない。漫画ではやりましたけどね。『見たい』と言ってくれる人が世にどれだけいるかですけど、限りある時間で、どのように始末を付けるかです。ただ、なんだかんだで僕も高齢者ですから、この調子で作ると10年以上生きなきゃいけない。それは無理だよ…と会社にはいってるんですよね(笑)」

柳井隆平=取材・文/林 和也=撮影

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