「恐怖は映画の醍醐味」クリーピーな名作たち

巨匠・黒沢 清監督がオススメ「不気味映画」3選

2016.06.17 FRI

特選!あの人をつくった映画


今回最も大変だったことは? という問いには「香川照之さん演じる西野のキャラクター造形。奇妙だけど、先の読めない魅力的な人物というさじ加減が難しかった」と黒沢監督
6月18日(土)公開の映画『クリーピー 偽りの隣人』。前川 裕の小説を原作に、『CURE/キュア』『回路』で世界を震撼させた名匠・黒沢 清が放つサスペンス・スリラーだ。

今回は黒沢監督に、おすすめの「クリーピー=不気味」な映画3本を選んでもらった。

●『顔のない眼』(1959年)
監督:ジョルジュ・フランジュ
出演:ピエール・ブラッスール、アリダ・バリほか
交通事故で顔に大やけどを負った愛娘のために、若い娘を拉致しては顔の皮を削ぎ、愛娘に移植手術を施す外科医の狂気を活写したフレンチ・ホラー。

「この作品はグラン・ギニョール(※19、20世紀のパリに実在した見世物小屋。転じて猟奇的な作品の意)という分野の映画だと思います。父親であるお医者さんが、他の患者を冷静に診察するのと同じトーンで美女の顔の皮を剥いでいくんです。一番衝撃的だったのが、ソファにうつ伏せて泣く娘とのやりとり。父親の励ます声を聞き、顔を上げた娘に、『マスクをいつもつけろと言っただろ』と父が注意するんです。娘を愛しているけれど、この顔だけは許せないっていうミもフタもなさがすごいんですよね。映画史上最もおぞましく、かつ美しい最高傑作だと思います」(黒沢監督、以下同)

●『四谷怪談 お岩の亡霊』(1969年)
監督:森 一生
出演:佐藤 慶、稲野和子ほか
歌舞伎狂言「東海道四谷怪談」を脚色。浪人・民谷伊右衛門は、仕官のつてとなる「伊勢屋」の一人娘お梅から婿にと望まれ、妻のお岩と生まれたばかりの赤ん坊が邪魔になる。陰謀で毒を飲まされ醜く変貌したお岩は、伊右衛門の裏切りを知り無念のうちに死に果てるが…。

「いろんなバージョンがある四谷怪談のなかで、この作品が一番好きですね。たぶん最も伊右衛門が悪人として描かれていますし、お岩がモンスター化して対決するという設定がとてもドライなんです。“男の欲と女の業が、いざ勝負”的な伊右衛門の有名なセリフもあって、ラストには狂気をはらんだお岩の高笑いが響き渡る強烈な四谷怪談ですね」

●『ミュンヘン』(2005年)
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:エリック・バナ、ダニエル・クレイグほか
1972年ミュンヘン五輪の選手村で、イスラエル人選手11名がパレスチナ・ゲリラにより殺害された史実を映画化。イスラエルの諜報機関モサドは暗殺チームを結成し報復するが、リーダーのアブナーほか4人の暗殺者たちは、任務への疑問や反撃の恐怖から虚無感に苛まれていく。

「スピルバーグにしては珍しいセックスシーンが、テロシーンの回想と交互に描かれます。殺戮とセックスのどちらでも満たされない主人公が、これからどうしたらいいのかと苦悩する絶望と、先に進むしかないという切羽詰まった覚悟が痛いように伝わってくる。そんな主人公が歩いている画面の奥に、貿易センタービルのツインタワーが見えるんです。彼が抱えてしまったテロの報復問題は、こんにちでも無くなるどころかますます世界を覆っているのだ、さあ同じことをまだ繰り返すのか? と不気味に問いかけてくるんですよね」

これまで、人間の心の奥底に潜む根源的な恐怖をスクリーンに刻み付けてきた黒沢監督。その“恐怖の源泉”は映画の初期体験にあるらしい。

「生まれて初めて映画館で観た作品は1961年公開の『モスラ』、もしくはイギリス映画『怪獣ゴルゴ』。劇場内が暗くなるとスクリーンが明るく光り、安全なはずの“家”を破壊するなにやら恐ろしいものが映し出される。幼い頃はそんな怪獣映画を頻繁に観ていました。だから映画館の暗闇の中で観る映画は、まず怖くないとマズいでしょ? と思ってしまいますし、誰かの無残な最期だったり廃墟と化した街だったりが描かれていてほしいなあと。“映画を観る”というのは“怖い体験”なのだという刷り込みがあるんですよね」

『クリーピー 偽りの隣人』でも、“家”を脅かす恐ろしい存在が描かれる。その怪物に立ち向かう主人公は元刑事の犯罪心理学者だが、正義感を持ちながらも隣人の放つ怪しい悪の匂いに惹きつけられていく。

その一筋縄ではいかない人物設定は、1970代前半のアメリカ映画の影響を色濃く受けているという。

「アメリカン・ニューシネマ(『ダーティ・ハリー』などに代表される、1960~70年代の反体制的映画)が今でも好きで、影響を受けつつマネをしているところはありますね。主人公が決して正義の味方ではなくて屈折している。嫌々犯人を追いかけて、最後に射殺する…みたいな作品が多くて、少しもハッピーな感じがしない。だから『クリーピー 偽りの隣人』の主人公もただ“正義”とか、“妻を救い出すために”というのではなく、もっと複雑な彼自身の持っている何かがこの惨劇を呼び寄せてしまったという作りになってしまいました」

画面から不穏な空気が立ち上る、スリリングなダークファンタジー。極上の映画体験は、劇場の暗闇の中で!
(足立美由紀)

  • 『クリーピー 偽りの隣人』 『クリーピー 偽りの隣人』
    犯罪心理学者の高倉は、かつての同僚刑事・野上から未解決の一家失踪事件の再分析を依頼される。一方、高倉が愛する妻・康子と共に引っ越した新居の隣人・西野家には奇妙な点が。そしてある日高倉に、西野の娘である澪の口から「あの人、お父さんじゃありません。全然知らない人です」と謎多き言葉が告げられる…。
    出演:西島秀俊、竹内結子、川口春奈、東出昌大、香川照之
    監督:黒沢 清
    6月18日(土)全国公開
    (C) 2016「クリーピー」製作委員会
  • 黒沢 清(くろさわ・きよし)
    1989年、『スウィートホーム』で商業映画デビュー。『CURE』(1997年)が世界的に評価され、以降『回路』(2000年)、『トウキョウソナタ』(2008年)ほか数多くの作品が評判を呼ぶ。近年では『岸辺の旅』(2015年)で第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞と第33回川喜多賞を受賞するなど、日本映画界を代表する名匠

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