MC、ラジオDJ、俳優までこなす声優

山寺宏一「『おはスタ』の言い訳はもうきかない」

2016.07.01 FRI

ロングインタビュー

山寺宏一

山寺宏一
1961年宮城県生まれ。85年、OVA『メガゾーン23』の中川真二役で声優デビュー。多彩な役で人気を博す。97年『おはスタ』(テレビ東京)のメイン司会者。2000年『合い言葉は勇気』で俳優デビュー。アニメ作品に加え、数多くの洋画の吹き替えも担当。またバズーカ山寺としてラジオDJもこなし、多忙な日々を送る。最新出演作、『ポケモン・ザ・ムービーXY&Z「ボルケニオンと機巧(からくり)のマギアナ」』では、悪役の大臣・ジャービスを演じる。「今回は機巧というだけあって、描かれる世界観も魅力です。またポケモンと人間の関係についても注目してほしいですね」と山ちゃん。7月16日(土)ロードショー!

「ここまでやるのはポケモンだけ」。特別な作品にかける思い


山ちゃんの愛称で親しまれ、俳優、ラジオパーソナリティーまでこなすマルチな声優だ。とりわけ知られているのが、『おはスタ』での軽妙なMC。しかしこの4月、19年目にして番組を引退した。とはいえ、番組の縁で出演していた映画『ポケモン』では7月16日公開の最新作『ポケモン・ザ・ムービーXY&Z「ボルケニオンと機巧(からくり)のマギアナ」』でもゲスト声優を続投。『おはスタ』と『ポケモン』。山ちゃんの声優人生において、大きな意味を持っているらしい。

「『ポケモン』があってこその『おはスタ』だった気がしていて。番組が始まったのは、4月に『ポケモン』のアニメが始まって、その10月からなんです。お話をいただいたときから『ポケモンなどを紹介する番組』と言われるくらい『ポケモン』ありき。思えば『ポケモン』とともに歩んできた感じがするんです。『おはスタ』は卒業したけども、『ポケモン』を続けさせていただいていることは、ありがたく感じますね。来年はわかんないですけど(笑)」

なにせ19作品。ときには味方、ときにはポケモン、悪役のときもあった。その配役は監督やプロデューサーの采配だったという。山ちゃんはオーダーされた仕事は、一作一作、すべて違う作品だと考えて臨んだという。

「とくに今回はわかりやすく一番悪い奴。やってて楽しいですよね。みんなの恨みを一手に引き受けるというか。もう予告見てもポスター見ても、どう考えたって『コイツ悪いだろ!』と」

演じるのはアゾット王国の大臣・ジャービス。ラケル王子の信頼を得ているが、実は悪者だ。ポケモンを操り、王国の支配を画策する。

「まず、秋口くらいに劇場版の特報を録るんです。『今回もよろしくお願いしまーす。ところで…』っていう感じで、ゲスト声優のお話をいただきます。松本梨香さん(サトシ役)、大谷育江さん(ピカチュウ役)、林原めぐみさん(ムサシ役)、三木眞一郎くん(コジロウ役)は、本当に昔からの仲間なんですが、やっぱり『ポケモン』で会うのは特別な思いがあって。また一緒にこうやって作品やれるね、お互い元気でよかったねっていう。この歳になるとそんな感じがありますね。それと予告から録音やって、こういう取材とかやらせていただいて、完成披露があって、初日舞台挨拶があって、お疲れ様ってやる一連の流れにここまで深く参加させていただくのって、『ポケモン』だけなんでね」

思い入れもひとしお。とはいえ、マンネリにならないように気を遣う部分も大きい。

「『無理して山ちゃん使わなくたっていいだろう』って思われないように。見ている子どもたちに大人の事情だと見られないように、たくさんいる声優の中からこの役のためにって選ばれたように仕上げないといけないので、プレッシャーは感じていますね」

チャンスは十分に得た。ここからは自分で挑戦するとき


小さいころから声帯模写などで人を喜ばせることが好きで、大学卒業後は俳協の養成所に進む。卒業後から今日に至るまで、声優を本業にしてきた。今や「7色の声を持つ声優」と評されている。やはり目の前で話を聞くと、ちょっと大きめの映画会社の応接室の空気が、ビリビリと震えるようだ。その傍らにはさすがプロ! 水筒に入った熱い紅茶。

「喉のこともありますしね。でも体が冷えるとダメだからなんですよ。仕事終わった後のビールは必ず飲むんですけどね(笑)」

喉を使った仕事を続けて32年になる。ここ最近の一番のトピックは『おはスタ』の卒業だが、そもそも『おはスタ』自体が自身のキャリアにとって一番の大ごとだったらしい。

「前は5時前に起きてすぐに家を出ていました。声優の吹き替えやアテレコの一般的な現場って、だいたい早くて10時入りなんですよ。今(13時過ぎ)は当時の感覚だと夕方くらいでしたし、ちょっと昼寝しないと寝不足だったんですけど、今は深夜2時過ぎに寝ても全然大丈夫。最初は『おはスタ』を生で見て、後輩たちが頑張っている姿をチェックしようとしましたけど、あっという間に録画チェックになっちゃいました。朝起きてジムに行く予定だったんですけどね。『最近、仕事に間に合うギリギリまで寝ちゃっててダメ人間です』って先輩に言ったら、『それが普通だよ。俺たちを否定するな』って言われちゃいました」


こんなふうに言われるのは、多才な山ちゃんならではのことだろう。なにせ振り返れば、声優として朝番組のMCを担当するのは前代未聞のことだった。番組開始当時、36歳。すでに『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のギュネイ・ガス、『新世紀エヴァンゲリオン』の加持リョウジ、『攻殻機動隊』のトグサなどを演じ、名の知られた声優だった。さらにバズーカ山寺という名前で、ラジオ番組も持っていた。

「当時プロデューサーさんたちが、『子どもたちが楽しめるアニメもやっているし、ラジオDJでしゃべれるから』って理由で声を掛けてくれたんです。当然経験もないので自信がなかった。でも僕が断っても誰かが絶対やるだろうし、せっかく声を掛けてもらったんだから、ダメもとでやってやろうと。子どもたちに支えられてこれだけ続いちゃいましたけど、本当にやってよかった」

開始当初は試行錯誤。しかしきっとこれを読んでいる読者も、「おーはー!」の掛け声で1日を迎えた人も多いことだろう。番組開始当初から変わらぬテンション。周りは「いい感じだよ」と声を掛けてくれたものの…。

「自分としては不安で不安で。録画を見てもどう映っているのかわからなくて。戸田恵子さんに相談して、あれこれアドバイスをいただいていたんです。そこで『どうでした?』って聞いたら、『10年くらいやっているように見えた』って。じゃあこのままでいいやと思ったのを、いまだによく覚えていますね」

「このままでいいや」で19年の長きにわたってやるとは、およそ想定していなかった。何ごとも挑戦してみないと、道は開けないということがわかる。

「もともと、声でどんな仕事ができるのか、声優としてできる仕事は、全部やりたいと考えていました。誰と比べるわけではなく、一流でいたいという思いもあった。俳優もバラエティ番組も、モノマネも出てみたかった。でも『チャンスがない』と、自信がないことの言い訳していた時期もあったんですね。声優としてはチャンスに恵まれていましたが、『そこでいいや』と思い始めていた時期でもありました。でも『おはスタ』に向き合って、そうしたら三谷(幸喜)さんに声を掛けてもらってドラマにも出るようになって、いろいろ広がっていったんです」

『おはスタ』をきっかけに、他ジャンルの仕事に声を掛けてもらうことが増えたのだという。そう、何もかも振り返れば『おはスタ』ありき。

「僕らのような仕事って、声を掛けてもらうしかないんですよね。自分で売り込むこともなかなかできないし。だから、今やっている仕事がプレゼンやアピールに繋がるんです。それをどこかで誰かが見ていて、次に繋がるというのがすべて」

そして最近は“攻め”の姿勢も加わった。たとえば朗読劇へ積極的に参加したり、演劇ユニット「ラフィングライブ」を立ち上げたり。

「そういうことをやっている人に『すごいねー。いつかは俺も』って言っていたんですけど、自分で始めないと自分を磨けないと思って。そうすれば、もう少し上で自分のやりたいことができるじゃないですか。おかげさまでこの仕事には定年がないので、いつまででもやれる(笑)」

今年で55歳。もしかしたら、今年は山ちゃんにとってさらなる転機の年になるかもしれない。

「『おはスタ』卒業しましたからね。これまでは『あれもやりたいけど早朝の帯を生でやっていたから無理』って言い訳にしていたんですよ。実際、無理だった。こないだ個人タクシーの運転手さんと話していたら、『大変なんですよ。自分で決めなきゃいけないのは』って言ってて。今日も明日も休んじゃおっかな…で、全然仕事しないこともできる。『おはスタ』終えてちょっと自堕落な生活を送ってる自分がそれかなって思ったり。おかげさまでまだまだチャレンジできる仕事なので、ここで頑張らないと。だって言い訳はもうきかないですからね」

吉州正行=取材・文/林 和也=撮影

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