あの時の話、聞かせてください!

第5回 直訳ロッカーの“王様”に会った!

2009.04.08 WED

あの時の話、聞かせてください!


多くのテレビ出演、ラジオ出演などの経験からか、しゃべりは芸人並みに達者。ちなみに、銭湯応援ミュージシャンとして、東京入浴会会長も務める

ロックの神のお導きで…王様、宴会芸がまさかの大ブレイク!



往年のハードロックバンド、ディープ・パープルの名曲「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を「湖上の煙」とそのまんま直訳! その格好は、なぜか王様!? 95年に発売したディープパープルの直訳メドレー集『深紫伝説』が30万枚を超えるヒットとなり、日本レコード大賞企画賞まで受賞した伝説の直訳ロッカー、王様。その風貌や軽妙なじゃべりから、芸人と思っていた方もいるかもしれないが、れっきとしたミュージシャンである。下積み時代も長かった。

「王様になるには様々な経験を積まねばならんだろうということで、大学を卒業した後は、サラリーマンをやっておりました。学生時代からバンド活動はしていたんですが、その会社はなかなか粋なところでして。入社の時にライブハウスを借りてくれて、ライブをやらせてくれたんです。これを最後にバンド活動とはグッバイだと(笑)。周到に幕を下ろされたんですね。それで、お芝居とかコンサートを企画する部署に配属されて、1年半ほど働かせていただいてたんですが、営業職へ転勤という辞令が出たときに、これは『バンドはどうしたのじゃ?』というロックの神の啓示なんじゃないかと、なぜか思い込みまして。即辞表を出してしまいました(笑)。そこからは、職を転々としながら、バンド活動も復活させて、大きく社会のレールを脱線することになるんですねえ」

89年、王様は音楽仲間に誘われ、とあるバンドのギタリストとしてメジャーデビューを果たす。最初の音楽業界への一歩だったが、音楽性の違いといういかにもな理由により、これまた1年半で脱退。

「東大生や早大生が多かったんで、高学歴バンドデビューなんていわれてました。王様だけ上智なんですけど。どうも王様に染みついた王道ブルースギターが、ポップ志向のバンドと合わなくなってきたんですね。で、やっぱりソロでロックの道を行くと決めて、髪をぶわーっとのばしまして。ヒゲもぐわーっとのばしまして。その時のルックスを見た友人に『お前、トランプの王様みたいだな』といわれたことをきっかけに王様を名のるようになったんです。ここでキーマンが登場するんですが、サラリーマン時代にサンプラザ中野さんと出会いまして。それから仲良くさせてもらってたんですが、93年ごろに彼が『モグラネグラ』というテレビ番組で週1回司会をするから、アシスタントとして王様のカッコをして出てくれって言うんですよ。あわてて、デパートのパーティーグッズ売り場に王様ルックを買いに走りました(笑)。そのころからですね。ビートルズとかを適当に日本語に訳して歌うようになったのは。ええ、当時は宴会芸です」
王様、若かりしころのスナップショット。『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』出演時には、王様のために「誰やねん!?」というコーナーまで作られた
ここで、ようやく王様スタイルと直訳ロックの原型ができあがる。そして、運命の95年! 女性ボーカリスト、近藤名奈さんのツアーギタリストとしてライブに参加していた王様は、打ち上げの席で例の宴会芸を披露する。

「まあ、盛り上げ役ということで、ビールのケースをステージにして(笑)。機材もないんで、バックバンドの人たちに口ベース、口ドラムをやってもらって、ビートルズとかディープ・パープルの直訳ロックを披露させてもらったところ! 最初は酔った勢いかなと思ったんですが、ひとりのディレクターが近づいてきて『俺はロックが好きだ。お笑いも好きだ。明日、デモテープ持ってきてくんねえか』という運びになりまして。そのスカウトから7カ月で『深紫伝説』でソロデビューが決まったんですねえ。世の中わからないもんです」

世の中、本当にわからない。3万枚売れれば御の字、と思っていたそのデビュー盤は30万枚を売り上げ、レッド・ツェッペリンの直訳カバー『鉛の飛行船伝説』、ローリング・ストーンズの直訳カバー『転石伝説』など、立て続けに直訳ロックアルバムを発表。直訳ロッカーとして脚光を浴びることになる。しかし、王様の生活はいたって質素だった。

「王様デビュー後も、脱サラしてずっと住んでいた4畳半、共同トイレ、風呂ナシの2万6000円のアパートに2年はいましたね。『笑っていいとも!』とか『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』に出演しても、帰ってくるのは4畳半(笑)。思わず同じアパートに3部屋も借りちゃって。応接間、機材部屋、寝室にわけて、リッチな気分を味わいました。しかし、当然ずっと売れ続けるはずもなく。98年くらいからですかね。お金を管理してくれてたプロダクションから、『王様くん、もう振り込むお金がなくなってしまった』って。『え~っ!』みたいな(笑)。もう、結婚もしちゃったのに! しかも16歳も年下の女のコと(笑)」

夢のような生活は長くは続かなかった。王様は齢38歳になっていた。
私生活では、王子と王女がかわいくてしかたがない様子。王子は、『Wiiであそぶ ピクミン』に激ハマり中。王女は『フレッシュプリキュア!』のファンだとか

ミュージシャンとしての誇り…王様、ライブハウスへ帰還する



95年に『深紫伝説』でデビューした直訳ロッカー王様。96年には合計6枚ものアルバムを送り出し、マニア筋での評判は良かったが、セールスはリリースごとに落ちこんでいった。設立した自身の会社「オフィス王様」への振り込みも98年には途絶えつつあった。

「まあ、幸いなことにあまり贅沢もしてなかったもので。貯金を切り崩して生活してたんですが、オフィス王様を管理してくれていた提携プロダクションもなくなっちゃって(笑)。経理から確定申告まで自分でやらなくちゃいけないという状況になりました。そこで、へえ~、こういう流れでお金が振り込まれていたんだ~って初めて知ったりして(笑)。で、雑誌の連載とかラジオのレギュラーを細々とやりながら生活してたんですが、子どもまで産まれて、さてどうしたものかと。そんな時、たまに飲んでたサラリーマン時代の先輩に、『初心に返れよ、王様。やっぱりライブをやるのがミュージシャンじゃないか』とポツリと言われまして。そりゃそうだと思い立って、知り合いの小さなバーから、それこそ20~30人くらいの前でライブを始めたんですよ。一人でエレキギターとCDと王様の衣装を持って(笑)。99年くらいからかな。自分でスケジュール組んで、全国をまわって。奈良県だけですね、まだ行ってないのは。全国制覇まで、あと1県(笑)。ありがたいのは、王道ロックが好きなおやじたちってライブハウスをやってる方も多くて、歓迎してくれるんですよ。王道ロック好きの結束は固いです。人の温かさに触れてですね、やっと庶民の心がわかる王様になってきたかな~と」

「廃盤になるのも早い!」と王様は笑うが、1~2年に一度くらいのペースでCDのリリースは続けている。しかし、このCDを出すのも直訳ロックは一苦労なのだ。
2009年2月15日、秋葉原グッドマンで演奏中の王様。中学1年生から本格的に始めたというギターは、相当な腕前
「80年代のへヴィ・メタル、ハードロックの直訳集を出そうと『鋼鉄伝説~金の巻~』というのを企画したんですけど、著作権の問題がものすごく厳しい。80年代は、二つ返事でNGなんですよ(笑)。AC/DCさんなんかだと、自分たちの曲は誰にもカバーさせないとか。英語のカバーはいいけど、訳すとダメとか。どういう日本語に訳したのか、訳した日本語をまた英語に訳し直して教えてくれって言われて結局ダメとか(泣)。シンクロ権といって、カバーした曲にどういう映像をのせるかも許可が必要なんですよ。結局、全然ダメで『鋼鉄伝説~金の巻~』は60~70年代の曲ばかりになっちゃったんですけど、オマケでヴァン・ヘイレンを弾いてるDVDをつけたら、シンクロ権の問題ですぐ回収(笑)。今年2月に、オマケのDVDを抜いた『帰って来た鋼鉄伝説~金の巻~』として再発しましたけど、これが最新CDになりますね。今、続編の『鋼鉄伝説~銀の巻~』というのを準備してるんですけど、去年の暮れに10曲申請して3曲しかまだ許可が下りてない! これはもう年内に間に合うかわからないなあ。直訳ロックくらい許してほしいと一人で叫んでいるんですけど、誰にも伝わらないですねえ(笑)」

直訳ロックにはこのような困難がつきまとうため、王様は新たな道も模索している。

「なんだかどこかで聞いたことがあるような気がするんだけど、じつは微妙に違うという、いかがわしいオリジナル曲というのを作ってます(笑)。『クリソツ伝説』と銘打って、何かに似た曲ばかりを集めたCDを作ったんです。たとえば、『千の風になって』になんとな~く似ている『万の土になった』とかですね。このプロモーション・ビデオは、王様のロイヤルファミリー総出演です(笑)。あとは、クラプトンの『ワンダフル・トゥナイト』に似た『わんこそば食べない?』とか。さりげなく印税をかせごうと。二人の子どもたち、10歳の王子さまと4歳の王女さまがおりますから、まだまだ頑張らないといけません。もちろん直訳ロックも続けていこうと思ってます。ぜひ、生の王様を観に来てほしいですねえ。『王様ってギターうまいじゃん』と言われたいなと。これでも熟年ギターヒーローと呼ばれたいという野望はあるんです!」

還暦までは王様を続けたいと、ホットな思いを語ってくれた王様。
こんな60歳がいたら素敵じゃないか!
続けることこそロック、とローリング・ストーンズは教えてくれた。
彼らは還暦を越えて、なお、活動を続けている。
王様は現在、49歳。まもなく知命(50歳のこと)を迎える。 繰り返しになりますが、王様のサウンドへのこだわりはかなりのものがあります。

王様の格好をしているからといって、色物ロッカーと断じるのは、ちと早計。曲を聴き込んでみれば、王様がモノホンのロッカーであることが理解できるはず。

そして、純粋に人柄がいいんですよね。だからこそ、周囲の方々も王様を続けさせてくれるのでしょう。王様よ、永遠なれ!

この企画は、毎回インタビューの感想やご意見を受けつけています。気楽にお便りくださいませ。さて次回は、90年代の日本のロックシーンに多大な影響を与えたHi-STANDARDの難波章浩さんが登場します。ファンは必見です!

ではでは、また!

■王様プロフィール

1960年7月7日生まれ。血液型O型。7歳年上の兄王様の影響で幼少時からリアルタイムでビートルズなどのロックを聴き始める。サラリーマン生活を経て、CDショップ店員などをしながら音楽活動を続け、95年9月、王様としてCD『深紫伝説』でデビュー。直訳ロックというスタイルを確立する。その後も直訳曲の発表のほか、オリジナル曲、CMソングの提供、テレビ出演、ライブ活動など多方面で活躍。

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