「すべてはサレンダー」

三上博史

2009.07.16 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 text ATSUNORI TAKEDA 稲田 平=写真 photography PEY INADA 赤間…
舞台からドラマへ。いかにチューンするか

「動機とか、ちょっと短絡的かなと思うところもあって。そのあたりは少し変えてもらって、厚みを持たせてもらったんです。お話の骨組みと展開は面白いですからね。読んでもらって面白かったなら、安心しました(笑)」

スタイリングやヘアを担当するスタッフたちと談笑しつつ、彼はインタビュールームに現れた。取材用に着替えたシャツの襟を引っ張って「こういうの、必要だよね、大人としては」なんて、とてもリラックスしていた。けれど質問への姿勢はきわめて真摯である。

「連続ドラマだと比較的キャッチーに作られているので、大味な演技がわかりやすくて面白いと思うんです。でもこういう2時間ピッチリ、広告も入らず映画のように観てもらう作品なら、計算してサトル(微細)に演じながら流れを作っていくほうがいいので。大人の役になればなるほど、演じるうえでのさじ加減でどんどん伝わり方が変わります。その辺を丁寧に演じたつもりです。今回の場合は、短絡的な展開を避けた方がいいんじゃないかっていうお話をして変えてもらいました」

これは三上博史の役に対する姿勢の根っこにある部分。だが、詳しくはのちほど。で、今年の3月、4月は『三文オペラ』という舞台に立っていた。長髪で白塗り、パンキッシュなメイクを施した主人公、窃盗団のボス。劇中歌の訳詞を手がけ、「エグくて美しい言葉」のクリエーションを行った。

「舞台はホント、趣味の世界です(笑)。もちろん俳優としてプロフェッショナルで参加します。でも、肉体的にも精神的にもいろんな意味で苦しい。好きじゃないと、入れ込まないと乗り切れないものなんですね。“仕事でやる”という意識では、ムリです。限られた時間の中でできるだけのことをやろうと思っていつも取り組んでます」

入れ込んだ分、フラットに戻るには期間を要する。ところがインターバルは1週間。気合いで乗り切るしかなかった。それと意識的なチューニング。

パンクでサイケな歴史劇の舞台から、現代劇の大人っぽいサスペンスドラマに戻ってきた自分が、どうしたかをきわめて丁寧に語ってくれる。真摯だというのは、こういう部分だ。

「普段はいまみたいな滑舌でしゃべります。でも舞台は、 “こうやって~! こんなふうに~!”(声を張る。朗々と)しゃべんなきゃいけない(笑)。これを崩しながらも、ちゃんと聞き取れる声でやるわけです。“くぉ~んなきゃんじでぇ~”(ひどく力を抜いてダラダラと)しゃべる役者さんもいますが…これをやっちゃいけないと僕は思ってるので。舞台調を捨てつつリアリティも出す、そのきわきわを目指して」 

撮影中、音声部に顔を出し、自らのセリフの聞こえ方をチェックしたり。照明部に映り方を相談しに行ったり。そんな苦労があった、という話ではない。そうしている、というだけ。他の俳優のことは知らない。

「僕は自分が不安だから、聞きにいくだけなんですよ」

マイナスだと判断しても結果は「わからない」

三上博史は、高校時代、寺山修司監督の映画『草迷宮』でデビューした。寺山は、天井桟敷での実験的な演劇を中心に、詩人や評論家としても活躍した才人だ。三上自身は映画にこだわって活動していたが、寺山の芸術的な薫陶を深く受けており、最初から役者としての生き方にこだわりを持っていた。

「映画でもドラマでも、“人となりを演じる”ということを心底マジメにやりたかったんです。あのころは、そういうのをぶっ飛ばしてましたからねえ(笑)。キャッチーであることや、出演者のスター性を前面に押し出した仕事はことごとく苦手でした。でも一方で、名実共にバランスの取れた役者であることも必要だと思っていて。そればかりではダメだし、かといって名前がなければ演じ甲斐のある役が来る可能性も低くなるわけです。20代はそんなことばかりを考えていました」

奇しくもこの日の取材前、彼は陣内孝則と浅野ゆう子とともに、フジテレビのトレンディドラマDVD化の記者発表に出席していた。そう、まさしくあのころ、と、それである。

名をなしつつ、実力を身につけつつ。もちろん“トレンディドラマ”としてすべてをひとくくりにはできないが、“三上博史のトレンディドラマ時代”はそんなふうに過ぎていった。

「不純な感じがするかもしれませんが、連続ドラマのお話をいただいたら、それがどの局なのか、月曜9時なのか水曜10時なのか、木曜10時なのか、スポンサーはキユーピーマヨネーズなのか東芝なのか1社提供なのかそうでないのか…監督・演者・スタッフの名前、全部台本に書いてあるんです。そこで、演技のさじ加減を決めていくわけですよね。まるでアルケミスト(=錬金術師)です。そういう環境のなかでどんな調合の仕方をしたら金が生まれるかということを考えてきました」

自分の方向性はしっかりと見えていた。やりたくない仕事を排除したわけではないが「目指すところが遠ざかるような道は絶対選ばなかった」と言う…ちょっとした例外を除いては。

それはとても意外な一作。当時、三上博史はその映画に出ることを頑なに拒んだ。が、世界観を変えられた。目からウロコが落ちたという意味ではなく、世界の不思議さを知らされた。タイトルは『私をスキーに連れてって』。

「僕の住んでいた小さな四畳半のアパートに“台本を投げる壁”があったんです(笑)。もらった台本読んじゃそこにバーンと投げ、“こんなもん!”と思ってたんですが、当時のマネージャーがこの作品に関してだけ“一生のお願いだからやって”って。彼女の真意がわからなくて、投げた台本拾って読み直してみてもわからなくて…でも、“当たる”って、そういうことなんですよね。男の僕には分析できなかったけれど、彼女には直感が働いたようなんです。僕は正直、“そんなのいいよ、投げといたって。次のチャンスがあるよ”って思ってたんだけど、これがどうなるかわからない…」

映画は大ヒット。続々とオファーが舞い込み、俳優として一本立ちすることになる。ここから、先の“トレンディドラマ時代”が始まったのだ。何より大きかったのは「自分だけではわからないことがある」ことの実感。台本を読み、アルケミスト的感覚を働かせながらも、どこかに「わからない」という気持ちを抱いて作品を選ぶ。

「そうですね、わけわかんない選び方だと思います(笑)。今日も久々に陣内さんに“三上はいい仕事ばっかしていいよな”って冗談で言われたんですけど、考え抜いてやってないって(笑)。それほどのチョイスの幅はない。いま、民放で連続ドラマの主役ができなくなってきてます。みんなお父さん役に回ってるなか、僕はそれをやらずに来て。どうしよう、もうやめようかなって思ったりすることもあって」

この文章の前半で、三上博史の演劇への傾倒ぶりに触れた。ここにその一端が、おそらくある。役柄的にも道徳的にも年齢的にも、舞台はTVに比べてはるかに自由だ。あらゆるものを演じることができる。でも何が起こるかやっぱりわからないのだ。たとえば、昨年WOWOWが初めて手がけた連続ドラマ『パンドラ』。ガンの特効薬の開発を巡る、恐ろしく骨太でハードな大人のドラマだった。三上博史は主役に起用された。

「わかってはいてもどうしても頭で考えてしまう。直感がいつも“ホントの自分”とつながっていて、それが正解を導き出してくれたらいいのに。だって現実にはとんでもないことが起きるわけですから…WOWOWが連続ドラマ作ったり。その流れで今年も、いい作品に出られたりね(笑)。既成の状態でものを判断したり、プランニングしても1年先には何が起きるかわかんないんですよ。基準にしてる前提がひっくり返っちゃうこともいっぱいあるんだから。心配しても望んでもしょうがないって感じかな。すべてはサレンダー(笑)」

それは身を委ねる、という意味。

「ならば何が起こったって大丈夫。見えない未来に対してはお手上げでいくのが一番ではないかと。過信。自分を過信すること…よし大丈夫って(笑)。大丈夫! それで今オレ、しあわせですもん」

7月23日東京生まれ。高校時代に、オーディションに合格、寺山修司監督の『草迷宮』で映画デビュー。TVドラマには『無邪気な関係』で初出演。87年の映画『私をスキーに連れてって』の大ヒットを受け、翌年にフジテレビのドラマ『君の瞳をタイホする!』で人気を博す。また野島伸司の連続ドラマ脚本家デビュー作『君が嘘をついた』にも主演。トレンディイメージの仲での『この世の果て』の暗くすさんだキャラクターや『あなただけ見えない』での三重人格者など、チャレンジングな役柄をこなす。舞台では04年(05年再演)の、性転換に失敗したロックスターを演じた『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』をはじめ、06年には蜷川幸雄演出の『あわれ彼女は娼婦』に出演。高評価を得ている。

■編集後記

「プロデューサーがいつも愛情を持って僕のことを考えてくれた。“三上博史で次、何をやりたいか”ということをいろいろ提案されて。そこからまったく違う才能を持ったプロデューサーに出会って“前は青春恋愛ドラマだったし、今度はむちゃくちゃ弾けたロックスターのコメディをやろう”とかって。さらに別のプロデューサーにつながり“三重人格で攻撃的なドラマを月9でどうだ”みたいにね」。あのころのドラマがあっていまがあるのだ。

武田篤典(steam)=文
text ATSUNORI TAKEDA
稲田 平=写真
photography PEY INADA
赤間賢次郎(アラビア)=ヘア
hair KENJIRO AKAMA
久保田直美(アラビア)=メイク
make-up NAOMI KUBOTA
直井政信(サンサンナナ)=スタイリング
styling MASANOBU NAOI

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