途方もなく天文学的な宇宙の不思議 第4回

宇宙が生まれる前には、“無”が“あった”!?

2011.09.14 WED


何もないように見える真空状態でも、ミクロな粒子が無数に生まれては消えていく…という話から僕が連想したのは、国語の教科書で読んだ『方丈記』。「淀みに浮ぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて…」と、流れる川の泡と人の世を結びつけた無常観は、ミクロな世界にも通じるものだった? 写真提供/PIXTA
現代の宇宙物理学では、この宇宙は約137億年前に極小の粒として誕生し、膨張して今の形になったというのが定説になっている。宇宙全体が“生まれた”ってことは、それ以前には物質どころか、時間も空間もなかったってことだ。でも、“無”から“有”が生まれるなんてことを認めてしまったら、それこそ物理の法則なんて成り立たなくなってしまうんじゃないか。佐藤勝彦さん、科学はこれをどう説明するんですか?

「まず、“無”という状態を定義する必要がありますね。頭のなかの概念としては何も存在しない“無”というものが考えられますが、現実世界のミクロな物質は極めてあいまいでいい加減に振る舞う不確かなもの。物理学のなかで、もっとも小さな素粒子を扱う量子論では、哲学的な意味での“完全な無”や“完全なゼロ”という状態は存在しないんです」

えーっと、“無”が存在しないってことは、“ない”ことはありえないってことで…つまり、絶対に何かは“ある”ってことになる。じゃあ、量子論的にいうと、宇宙が生まれる前には何があったんでしょう?

「量子論には、限りなくゼロに近いくらいエネルギーが低い状態を指す“真空”という言葉があります。この状態では、ミクロの粒子と反粒子(対になる粒子とほぼ同じ性質を持つが、プラス・マイナスの電気的性質だけが逆の粒子)が無数に生まれては、ペアになって消えていく。つまり、“真空”といっても空っぽなわけではなく、絶えず有と無の間を行き来する“揺らぎ”の状態にあるんです。宇宙誕生以前には、エネルギーだけではなく時間と空間までもが限りなくゼロに近い状態でしたから、そこには時空自体が生成と消滅を繰り返す“量子的な揺らぎ”があったんですね」

完全な無ではなく、かといって有でもなく、その間で揺らいでいる状態…なんともあいまいで捉えどころがないように感じるが、この「不確定性」こそがミクロな世界の特徴なのだ。そして、こうした量子論的な“無”から宇宙が生まれることは、科学的にも説明ができるらしい。

「1983年にビレンキンという物理学者が、量子力学を土台にした無からの宇宙創成論を発表しました。エネルギーが揺らいでいるミクロの世界では、粒子が本来越えられないはずの壁を通り抜ける“トンネル効果”という現象が起こりますが、ビレンキンはこの現象を使って、論理的に無から宇宙が生まれることを説明したんです」

量子力学的な詳しい話は理解できなかったが、僕にもわかったのは、人類がいつのまにか、神様の助けを借りず(つまり超越した存在を持ち出さず)、科学の言葉でこの宇宙の誕生を語れるようになっているってことだ。つい400年くらい前まで天上が神話の世界だったことを考えると、これってかなりすごいことなんじゃないかしら。
(宇野浩志)

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