途方もなく天文学的な宇宙の不思議 第8回

ニュートリノが光より速いとなぜ大騒ぎされるのか?

2011.10.12 WED


ちなみに、過去にはいけないが、浦島太郎のようなタイムトリップなら理論上は可能。移動する速度が速いほど時間はゆっくり進むので、光速に近いスピードで進むロケットに乗って1年後に帰ってきたら、地球時間では100年経っていた…なんてことがありえるのだ 写真提供/PIXTA
先日、名古屋大学などの国際研究チームが「ニュートリノが光より速く飛んだ」という実験結果を発表したのをご存じだろうか。

このニュースに対して、一部の慎重な科学者たちは「ありえない」「観測方法に間違いがあるのでは?」と結果を疑い、ある程度の科学的知識がある人たちは「現代科学の根幹が揺らぐ!」「タイムマシンが可能になる!」と大興奮していた。どちらにしても、科学的知識がある人にとっては信じられないほどの大ニュースだったわけだが、いったい何が衝撃的だったのか。驚くほどの知識を持ち合わせない僕のような人のため、宇宙物理学者の佐藤勝彦さんに解説してもらおう。

「この実験結果が注目されたのは、光速より速いものは存在しないとするアインシュタインの特殊相対性理論と矛盾するように見えるからです。特殊相対性理論はたったふたつの原理で成り立っています。そのうちのひとつが、“真空状態での光の速さは一定であること(光速度不変の原理)”。そしてもうひとつが、“すべての慣性系で、基本的な物理法則が同じように適用されること(特殊相対性原理)”。このふたつは相対性理論の骨子であり、現代物理学の基礎でもあるんです」

僕なりに意訳すると、特殊相対性理論がいわんとしているのは、“光の速度だけが絶対であり、その光の速度が変わって見えるなら、それは時間や距離(空間)が伸び縮みしているのだ!”ということである。たとえば、時速200kmで進む新幹線のなかを、時速5kmで人が走れば、車両の外からはその人が時速205kmで進んでいるように見えるはずだ。けれど、光速に近いスピードで進むロケットのなかをどれだけ速く走っても、外から見ると光速以上にはなりえない。ではどうなるかというと、そのロケットのなかでは“時間の進み方が遅くなる”のだ。

「特殊相対性理論の方程式では、物体の速度が光速に近づくほど時間はゆっくり進むようになり、光速になると時間は止まります。もしも物体が光速を超えて移動できるとすれば、時間が逆に進んだり、質量が虚数になってしまったりするため、アインシュタインは光よりも速い物質はありえないと言ったんです」

1905年に発表された特殊相対性理論は、100年以上にわたって様々な角度から検証され、観測によって裏付けられてきた。今の人類の宇宙観は、この原理のうえに築き上げられているといっても過言ではない。仮にニュートリノが光速を超えるという実験結果が正しいとすると、今の物理理論を覆す大発見ということになるのだ。もっとも、実験結果自体が間違いだったというオチは十分ありうるので、大騒ぎするにはまだ早いのかもしれないけれど。
(宇野浩志)

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