症状から“疾患の確率”を分析・提示

2020年に全国展開…「AIドクター」全自動診療の可能性

2016.08.16 TUE


ロボットによる予診を行う「ホワイト・ジャック」のデモンストレーション。写真右は、今回お話を聞いた石川鎮清教授
人工知能がヒトの命を救った――先日、そんなセンセーショナルなニュースが報じられた。専門医でも原因を特定できなかった60代女性がん患者の病名を人工知能が見抜き、治療法を変えるよう医師に助言。結果、適切な処置がなされ、女性は一命をとりとめたという。

国内初とみられる快挙を実現したのは、東京大学医科学研究所。IBMのコンピューターシステム「ワトソン」に2000万件の医学論文を学習させ、がんの診断を行う臨床研究を続けてきた。医師が時間をかけて行う診断も、“ドクター・ワトソン”にかかれば、ものの10分。しかも、患者の遺伝子情報と医学論文の膨大な照合の中から、より確率の高い病名を導き出すことができるという。

●症状の入力で病名を予測「ホワイト・ジャック」プロジェクト


一方、がん以外の疾患についても、AIを使って自動診断を試みる動きがある。自治医科大学が研究を進める「ホワイト・ジャック」プロジェクトだ。「倦怠感」「頭痛」「関節の痛み」といった症状を端末に入力すると、人工知能「ホワイト・ジャック」が過去の診察結果などと併せて情報を分析。考えられる病名を全て挙げ、それぞれの確率も提示する。

プロジェクトを主導する石川鎮清教授は、その意義をこう語る。

「複数の病気の候補を提示することで、医師の見落としを防ぐことができます。いかに優秀な医師でも、全ての領域の疾患に慣れているわけではない。特に注意を払うべきは、確率は低いけれども重大な疾患の可能性です。大きな医療機関であれば別の医師の意見を求めることもできますが、地方の小さな診療所だと1人の医師の診断が全て。ホワイト・ジャックがあれば、患者さんにとってもセカンドオピニオン(※)にかかるのと同じ安心感が得られるのではないでしょうか」

※自分の病状や治療方針などについて、別の医師の意見を求めること

●4年後には全国展開…医者の仕事はどう変わる?


「ホワイト・ジャック」は、今年から運用試験がスタート。まずは自治医科大学の診療室で使用し、早期の実用化を目指している。

「2020年までに全国の病院へ展開していきたいと考えています。ホワイト・ジャックに蓄積された診察データを複数の病院で共有するシステムも開発しており、たとえば『特定の地域に多い病気』の傾向なども分析できるようになるかもしれません。また、最終的には個々の生活情報などとも紐づけて病気を未然に防ぐアドバイスをしたり、ウェアラブル端末を組み合わせ、持病を抱える高齢者の見守りなどを行ったり。そんな使い方に発展していく可能性もありますね」

なお、現時点では病名の候補を提示するにとどまっているが、いずれは適切な診療方針をホワイト・ジャックが推奨することも見据えている。

だが、そうなると医師の仕事の多くはAIに代替されるのではないか。軽度な病気の診察や薬の処方などはAIが行い、人間の医師の職が脅かされる可能性も考えられる。

「私はそうは思いません。人工知能はあくまで医師のサポート役。どんなに精度が上がっても、最終的な判断は人間の医師に委ねられるでしょう。なぜなら、人工知能は診断ミスの責任をとることはできませんから」

このあたりは、自動運転カーにまつわる「事故の責任は誰が負うべきか」という議論にも通じる。ただ、医療は自らの命に関わるだけに、より繊細な問題だ。「いかにテクノロジーが進んでも、生死を左右しかねない判断をコンピューターだけに任せていいのか。患者さんの心理的な不安は、そう簡単にぬぐえるものではないでしょう」と石川氏。“AIドクター”の実現には、技術以外にも大きな壁があるようだ。

(榎並紀行/やじろべえ)

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