宇宙のナゾを解明するシリーズ

第1回 人間の冷凍保存、始めました

2009.10.06 TUE

宇宙のナゾを解明するシリーズ


写真はアルコ―延命財団の遺体保存用タンク。レッドソックスで活躍したテッド・ウィリアムズ選手の遺体もタンクに保存されている。ちなみにひとつのタンクには4人分の遺体が! Alcor Life Extension Foundation

マイナス196℃で遺体を冷凍!オトクな「脳だけコース」もあります



人間を冷凍保存して、後に蘇生させるコールドスリープ。SFみたいな話だけど、将来、遠く離れた星を目指す時代が来れば、この技術に頼ることになるかもしれません。でも、人間を冷凍したり解凍したりなんて、本当にできるのかしらん。

調べてみると、すでにアメリカでは、遺体を半永久的に冷凍保存して、将来テクノロジーが進化した時に蘇生を約束する、「クライオニクス」なるサービスがあるみたい。

アメリカ、アリゾナ州にある「アルコー延命財団」には、将来の蘇生を夢見る88人分の遺体が冷凍保存されている(2009年8月31日現在)。ここのシステムは会員制で、会員が死亡したら24時間以内にアルコー延命財団に輸送。体中の血液を冷凍保護剤と入れ替えて、液体窒素で細胞をマイナス196℃でガラス化(!)し、スチールタンクで保存するんだとか。費用は全身を保存する場合15万ドル、頭部だけなら8万ドル。ちなみに現在、冷凍した人体を解凍して蘇生させる技術は、ない。そこんとこは未来の技術でよろしくね、ということになっているのがミソ。

えーと、まず、細胞のガラス化っていったい? シマリスが冬眠するメカニズムを解明した、玉川大学学術研究所の近藤宣昭先生に話を聞いてみました。

「水を凍らせると結晶になって体積が増えますよね。細胞の中は水溶液で満たされていますから、水分が凍って体積が増えると細胞が壊れちゃうんです。ただし、冷凍保護剤に置き換えると、結晶が成長せずに体積が増えないから、細胞を壊さずに凍らせることができる。これを、ガラス化現象と呼ぶんです」

なるほど。じゃあガラス化でカチンコチンにしとけば、人体も冷凍したり解凍したりが自由自在ってワケですね!

「たんぱく質レベルでみれば、マイナス196℃になっても問題ありません。卵子や精子といった単細胞の場合はすでに実用化されています。ただし、細胞が集まった組織や臓器となると話は別。仮に、ひとつの臓器の数%の細胞が生き延びたとしても、解凍後、正常には機能しないでしょう。ましてや、人間をまるまる冷凍保存するなんて。私は冷凍保存された人間が蘇生するのは不可能だと思いますよ」

う~ん、コールドスリープで外宇宙へ旅立つ日が来るのはまだまだ先の話になりそう。

ちなみに日本の理化学研究所では、16年間冷凍保存されていたマウスの遺体からクローンを生み出すことに成功している。冷凍保存がダメなら、せめてクローンに夢を託していざ、アンドロメダへ!理化学研究所の若山照彦先生に話を聞いてみました。マウスでできたんだから、人だってチョイチョイっとできちゃうんでしょ?

「そんなわけないでしょう。たとえ猿のクローンが成功したとしても、人間のクローンが成功するわけではありません。人間のクローンをつくるなら、人間で実験する必要があり、倫理的な問題もからんできます。第一、リスクが高すぎる。実はすべてのクローンで、なにかしら異常が見つかっていて、厳密にいえばこれまで正常な状態で生まれたクローンの数はゼロなんです。異常といっても、なんらかのたんぱく質が体内で作られているとか、生きていくうえで問題のないものもありますが、一方では腸が飛び出したまま生まれてきたり、太りやすくなったりと、重大な問題もたくさん見つかっています。人間のクローンをつくった場合も、なにか異常が現れるはずです」

腸飛び出してうわぁ。

やはり人間を冷凍保存して復活させたり、クローンをつくったりするのは、とんでもなく難しそう。タンクの中で凍っている人たちが蘇生する日は来るんでしょうか?
冬眠ホルモンをクスリのように処方すれば、人間は宇宙でも快適に生きていけるかも? いつかは宇宙の外に出てもって…ムリか! イラスト/鈴木麻子

「人工冬眠」が実現すれば寿命200歳の“究極の体”になる?



宇宙開発が進んだ遠い未来。数百年かかるような遠く離れた星を目指すとすれば、宇宙飛行士の健康維持や食事の問題、寿命の限界など、解決すべき問題は山積みです。となると、人間を冷凍保存して、後に蘇生させる「コールドスリープ」の技術が役に立つのかもしれません。 しかし、今のところ、細胞レベルでの冷凍保存はできるけど、蘇生の方法は確立されていないみたい。うーん、なんとか他に方法はないものかしらん。

そこで、世界で初めてシマリスの冬眠に必要な物質を特定・抽出することに成功し、人工的な冬眠状態を作り出す研究をしている玉川大学学術研究所の近藤宣昭先生に話を聞いてきました。そもそも人工冬眠ってどういうこと?

「冬眠とは、体温を下げ、運動や食べることをやめて、代謝を低くすることで、食料が少ない冬を乗り越える状態。体温が低くなっても凍死しないということは、それだけ冬眠中は低い体温に耐えられるよう、体を調整する能力が高まっていることになります。理由はまだわかっていませんが、冬眠中の動物は致死量の放射線にさらされても平気で、ウイルスやガンへの抵抗力も極端に強くなるんです。これを人間に応用しようというのが人工冬眠なんです」

つまり、極端に病気に強い体になって、宇宙放射線にさらされる宇宙空間でも安心ってこと!? 冬眠スゲー! 人工冬眠の研究ってどこまで進んでるの?

「これまで行われてきた人工冬眠の研究には、根本的な間違いがありました。『冬眠=低体温』という発想で、体温が下がるとどんな変化が起こるかを調べてきたからです。実は、冬眠で体温が下がるのは結果でしかなく、原因ではありません。シマリスの場合、毎年秋ごろになると『冬眠ホルモン』という物質が活発化し、冬眠できる体に変化します。そうなって初めて、低体温でも凍死せずに眠ることができるんです。つまり、冬眠するには先に冬眠できる体になる必要があるんです。このメカニズムを解明しているうちに、眠らない冬眠があることが分かりました」

えーと眠らない冬眠ということは、つまり冬のあいだも起きてるってことですね。
それ普通でしょ!

「そうじゃなくて、シマリスを暖かい部屋でずっと飼育していると、冬になっても体温を下げて眠る(一般的な冬眠)ことがなかったんです。そのシマリスは体温も37℃で、普通に活動することもできました。それでも体は冬眠している状態と同じように変化していて、強い体になっていた。つまり、冬眠は必ずしも、体温を下げて眠る必要はないんです」

まさかの新事実! 冬眠の呼び名を改めないといけませんな。えーと眠を取って冬とか!? ダメか!

「これまで冬眠中に体が強くなる原因は、体温を下げて眠ることで、代謝を落としたからだと思われてきました。しかし体温を下げて眠るのは、冬場は食べ物が少ないので、体温を下げることで代謝を下げて、食べる量を減らすためだということがわかりました。冬眠できる体になったシマリスは、暖かい部屋で飼育したものも含めて、すべてが抵抗力の強い体になっていたんです。同じげっ歯目で、体の大きさも同じぐらいで、冬眠をしないラットの寿命は3年程度なのに対し、シマリスの寿命は11年以上。冬眠することよって、4倍近く長生きするんです」

ん? 冬眠中に必ずしも眠る必要がないなら、動物は一年中冬眠状態で過ごせばいいじゃないですか。健康で長生きできるし、冬眠サイコーでしょ。

「冬眠状態の体で活動しているシマリスは、多少動きがおとなしくなります。これは推測ですが、少し頭がぼ~っとしている状態かもしれません。また、夏場に運動することは体を活発化させる意味もあるので、必ずしも年中冬眠している状態がベストとはいえないんです」

なるほど、バランスをとった方が効果的ってことね。ところで、その冬眠ホルモンを使った人工冬眠を人間に適用することができれば。

「究極の健康体になるかもしれません。病気に対する抵抗力が極端に強くなるから、インフルエンザなどにもかからず、ガンに対する免疫力もあがると思います。その体で宇宙に行けば、筋肉が萎縮しないし、骨粗鬆症にもならない、宇宙放射線にも強くなる可能性があります。もしかしたら、寿命も200歳以上になるかもしれませんね」

この冬眠研究、まだまだこれからの分野みたいだけど、研究が進めば、宇宙旅行の実現化を大きく前進させるきっかけにもなりそう。

いつかそんな日が来るまで、コールドスリープしときますか! 違うか! さて、いざ取材を進めてみると、
人間の冷凍保存や人体のクローンには、懐疑的な意見ばかり。
今回はあえて触れませんでしたが、倫理的な問題も無視できません。

一方、人工冬眠はとてつもなく前向きな話が聞けました。
テクノロジーというものは、宇宙に進出する物理的な手段を生むだけでなく、
人間自体を進化させる可能性があるのかもしれません。

これからも不思議すぎる宇宙のナゾに体当たりでぶつかります!
気になることや調査してほしいことがあったら、
いつでもお便りプリーズ!

宇宙のナゾを解明するシリーズの記事一覧はこちら

取材協力・関連リンク

関連キーワード

注目記事ピックアップ

編集部ピックアップPR

ブレイクフォト