別名シロクマだけど“白”じゃなかった!

ホッキョクグマ、その毛の秘密

2015.02.27 FRI


上野動物園のホッキョクグマの写真。よく見ると顔の毛の密生度が低い部分は地肌が見えており、確かにその色は黒い 写真提供:恩賜上野動物園
暖かい春が待ち遠しいこの時期。しかし、なかにはそう思っていなそうな生き物も…。それはホッキョクグマ。寒風吹きすさぶ冬の上野動物園に出かけてみたのですが、夏とは違い楽しそうにはしゃいでいました。

彼らが寒さをものともしない理由は白い毛にあり、その構造をヒントにした最新断熱線維もあるぐらい良くできた仕組みになっている…。そんな話を耳にしたこともあるのですが、上野動物園の井内岳志さん。ホッキョクグマの毛って、そんなにすごいんですか?

「確かに、ホッキョクグマの毛は非常に優れた断熱性を持ちます。毛の1本1本が中空の構造になっているのが最大の特徴で、空気は熱を伝えにくいため、これが体温の放出を防ぐことに役立っているんです。また、光の反射により白い毛に見えてはいますが、実際は色素が無く透明であることも特徴ですね。肌が黒いことから、太陽光線で体を温めやすくなっているのでしょう。さらに『毛が先端で受けた光を皮膚まで届ける、光ファイバーのように働いている…。』という説もありますが、この真偽は明らかになっていません」

ホッキョクグマの毛でセーターを編んだらさぞや暖かいのんでしょうね。

「寒い地域の動物には、密生した柔らかい毛を持つものも多く、カシミヤヤギの毛でできたセーターなどは確かに有名ですね。でもホッキョクグマの毛は毛糸にするには硬くて短く、より合わせる際に必要なうねりもありません。おそらく、毛糸を作ること自体が難しいと思いますよ。そもそも、ホッキョクグマが寒さに強いのは毛の構造もさることながら、厚い脂肪層が体温を逃がさないという理由が大きいんです」

ちなみに、日本の寒さ程度を耐えるには脂肪層はあまり必要ないそうだ。そのため、上野動物園では季節を問わず、エサには脂肪分があまり多くない馬肉や鶏の頭を使っている。

ところで、ホッキョクグマが一番寒いところに生息するクマと考えて間違いないのでしょうか?

「同じ極地である南極は内陸部にあり地球上でもっとも寒い地域ですが、それにくらべて海にある北極はそんなに寒くはないんです。海水の温度は、陸のように下がりませんし、北極は暖流の影響もあるためです。マイナス70度にもなるシベリアにもヒグマがいますから、そっちの方が寒い地域に棲んでいることになります。もっとも、ホッキョクグマは冬眠せずに活動しつづけるのに対し、シベリアのヒグマは冬眠してしまいますが」

イメージと違い、一番寒いところにすむクマではなかったホッキョクグマ。しかし、北極は生き物にとって過酷な場所であることには違いない。

「ホッキョクグマの体は、北極という特殊な条件の土地で生きるために適した構造になっています。まず、頭が他のクマにくらべて小さく、流線型のフォルムになっていること。これは、長い距離を泳ぐために役立っています。また、足の肉球の間に多くの毛が生えているのも特徴です。毛の向きが一定でないことがうまく作用するのでしょう。氷上でも滑りにくくなっているんですよ」

そんな機会はまずありませんが、ホッキョクグマを食べる際には肝臓を避けなくてはならないようです。

「北極には食糧となる生き物が少ないうえ、狩りの成功率があまり高くありません。そのため、ホッキョクグマは哺乳類のなかでも特に絶食に強い生き物になっています。断熱材としても働く脂肪も、貯蔵されたエネルギー源といえますね。さらに肝臓には、人間が食べると死ぬ危険があるほど高濃度のビタミンAが含まれています。実際に、初期の北極探検隊の死亡例もあるんです。ビタミンAは脂溶性のため、体内に貯蔵しておきやすいのでしょう。こういったことから4カ月ぐらいは何も食べなくても平気なんですよ」

なるほど。極寒の地で生き抜くための工夫が一杯つまった体をしているわけですから、夏の動物園でだらしない感じになっているのも仕方がないですね。

ちなみにホッキョクグマが日本で初めて展示されたのは上野動物園。当時はツキノワグマの白化個体が「シロクマ」として展示されていたので、「ホッキョクグマ」という和名になったという経緯があるんですって。
(のび@びた)

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