甘い餡子にしっかり効いた、塩と職人の技

63年もの“天然”たい焼きを食す

2015.11.12 THU


たい焼き甘いかしょっぱいか。塩味効いた、わかばのたい焼き。尻尾の部分には透かしで屋号が入っている
四ツ谷駅を降りて、大通りを一本隔てた路地を歩けば、香ばしくも甘い香りが漂ってくる。匂いに誘われるまましばらく進むと見えてくるのが、「東京たい焼き御三家」の一角を担うたい焼き店「わかば」だ。

このわかばは昭和28年(1953年)に駄菓子屋とたい焼きの店として始まった。たい焼き好きは、型に複数の「たい型」がついた鉄板で焼く大量生産のたい焼きを「養殖もの」と呼ぶが、こちらは一対の型を挟み込んでひとつずつ焼き上げる「天然もの」のたい焼き。手間はかかるが、火の回りなどの違いから焼き上がりには大きな差が出るという。

作業を見る限り、「型に皮の素材を流し込む」「餡を載せる」という、この2工程が無造作に行われているようにしか見えないのに、頭から尻尾の先まで餡子が皮ギリギリまで行き渡っている。合わせ目からハミ出そうと、鱗を破って餡子が見えてしまおうと、単に「餡子がぎっしり」で良しとすれば、要はあふれさせてしまえばいいので難しくはないはず。これも職人のなせる技なのだろう。

では、観察はこれくらいにして、焼き上がったところをさっそくいただいてみるとしようか。

皮は薄皮にもかかわらず、パリパリ系ではなくふっくらとした食感。ぎっしりと詰まった餡子は、甘すぎずさっぱりしていて、塩味がほかではあまりみられないほどに効いているのが印象的。餡子の材料、小豆そのものの味がよくわかるなあ。

そういやこのたい焼き、味はもちろん、外見も鱗の輪郭がぼけたりせず、非常に美しい印象を受ける。そして、たい焼きというと「型の合わせ目からはみ出た部分の皮がパリパリになったのが好き」といった人も多いと思うが、いわゆるこのバリの部分がわかばのたい焼きにはないのだ。

「お客さんにもよく言われるんです。あのパリパリの部分を付けてくださいとか、それだけを譲ってくださいと。でも、2代目のおかみさん、おばあちゃんがこう話してくれたんです。『女の人が外に出るときは化粧をして着飾るのと同じ。たい焼きもキレイにして送りだしてあげなきゃ』って」(店長の伊藤さん)

ひとつひとつ心を込めて焼き上げられた、わかばのたい焼きは最後にハサミをつかってバリの部分が丁寧に取り除かれる。そうして非常に様子のいい鯛が出来上がるのだ。

四ツ谷駅からすぐ近くには、迎賓館や外濠公園もあり。紅葉を眺めながら歴史あるこんなたい焼きを食べるのもまた、おつなもんですな。
(宇都宮雅之)

■東京近郊お持ち帰りスポット第4回

  • 現代的な見た目に対して、3代目の親戚にあたる店長は伝統を受け継ぐ気概に満ちている
  • これぞ“天然もの”の証。一匹ずつ丁寧に焼き上げるための「焼き型」がこれ
  • 熱気のこもる作業場では職人が黙々とたい焼きを焼き上げてゆく
  • 夕暮れ時、店舗はなんともいえない趣のある佇まいを見せる

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