殻を破るなら旅に出ろ! のホント

第3回 “世界一周”って、どうなのよ?

2009.08.28 FRI

殻を破るなら旅に出ろ! のホント


長期の有給休暇を得て、世界一周の自転車旅に旅立った坂本さん。写真は「一番ハードなところを最初に回ってしまおう」と訪れたアフリカ大陸、セネガルにて

4年3カ月の有給休暇で世界一周の自転車旅行って…



有給休暇付与日数が平均14.9日というこのニッポンで、4年3カ月もの有給休暇を取得。世界一周の自転車旅行を経験した“伝説のサラリーマン”坂本達さん。ある意味で奇跡とも呼べそうなこの旅を実現したきっかけとは、そもそもなんだったんだろう?


「学生時代から、旅も自転車も好きだったんですが、『自転車で世界一周したい!』と具体的に思い始めたのは、就職してからですね。入社当時、同じ会社に女子柔道五輪銀メダリストの田辺陽子さんをはじめ、世界で活躍するスポーツ選手たちが何人も所属していたんですよ。彼女たちの姿を見て『あんなふうに夢を叶えながら食べていけたらいいなぁ』と思ったのが、そもそもの出発点ですね」

入社1年目の坂本さんは世界一周という野望に向け、ひそかに行動を開始。年2回提出義務のある業務レポートに『自分の夢』欄を作り、『自転車で世界一周したい!』と書いて提出した。が、一社員の個人的な夢が認められるわけもなく、会社からのレスポンスは一切なし。それでも坂本さんはもちろん諦めなかった。

「とにかく夢の実現に向けて今、自分にできることをと、自転車のレースに出てトレーニングを積み、ラジオで英語とフランス語を勉強し、酒もタバコも一切やらずに貯金をし、図書館に通って世界一周のイメージを膨らましていました」

毎日の仕事をしながら、隙あらば会社に『自分の夢』をアピール。一方で、貯金やトレーニング、スポンサー集めに奔走する日々。そんな地道な努力を続けた坂本さんがチャンスをたぐり寄せたのは、入社4年目のことだった。当時10社以上のスポンサー獲得にこぎ着け、「これで会社を辞めても世界一周の予算は確保できる。会社を辞めてでも行きます!」という気持ちで提出した6回目の業務レポートが社長の目にとまったのだ。

「レポートの『自分の夢』欄に添えたスポンサーリストを見た社長が、『ここまで本気だったら応援したる。辞めなくていいし、給料も出す』って言ってくれたんです。あの時は、ホントに訳がわからなくなるぐらいうれしかったですね」

1995年9月。こうして坂本さんは念願の世界一周に旅立った。4年3カ月に及ぶ旅で彼を待ち受けていたのは、様々な人々との出会いと、日本では考えられないような苛酷な環境だった。アフリカではマラリアと赤痢を併発し、南米では高山病で生命の危機にも瀕した。帰国後に出版された坂本さんの著書『やった。』(三起商行刊)には、約5万5000kmに及ぶ冒険の様子が鮮明に綴られているわけだが・・・。

舗装のないアフリカの悪路、気温50℃を超える灼熱の大地、標高5000mを超える高所の自転車行・・・、読めば読むほど、ス、すさまじいっす。しかし、これだけの旅を経験すれば、やっぱり、男子としては相当な自信が芽生えるのでは?

「いえいえ。むしろ、世界一周の旅では、自分の無力さをとことん痛感させられました。出発するまでは、やる気さえあれば世界一周はできる!と思い上がっていたんですが、そんなことはあるはずがなくて…。マラリアしかり、高山病しかり、村に泊めてもらうことしかり。現地の人々や会社のみんなの助けがなければ、絶対に世界一周はできませんでした。不思議なもので、自分の力だけでできると思っている時ほど、旅ってうまく進まないんですよね。逆に自分の無力さを受け入れた時に、目の前の現実に対して前向きになれたし、周囲の人々が助けてくれることが多かった。肩の力が抜けている時の方が、結果として物事が良い方向へ向かう気がします」

世界一周の旅を終え、無事日本に戻った坂本さん。旅で感じた“無力さを受け入れて、前向きになる”ことの大切さは、現在の生活や仕事でも変わらないという。
旅を始めて2年弱。1997年にはアフリカからアジアへ渡った坂本さん。写真は、トルコで出会ったクルド族の子どもたちとの一枚
「実は、旅に出る前は“仕事の鬼”といわれていたくらいで、自分が頑張れば結果はついてくると思っていたんです。でも考えてみれば、会社がなければ仕事自体がないわけだし、自分の前にも後にも、業務のフォローをしてくれる人がいる。仕事ひとつとってみても、ひとりじゃ何もできないんですよ。その点では、旅も仕事も生活も、本質的には同じだと思います」

強くなるのではなく、自らの無力さを受け入れる。苛酷な世界一周の旅を経験した坂本さんが語る言葉には、修羅場をくぐり抜けてきた男の、重みのようなものがヒシヒシと感じられました・・・。
世界のチャリダーが憧れるカラコルム・ハイウェイで記念撮影する坂本さん。ここ以外にもチベットや南米のパタゴニアなど、ハードで美しい自然環境ゆえに、チャリダーをひきつけるルートはいくつもあるという

伝説のサラリーマンが語る自転車旅=“チャリダー”の魅力とは



4年3カ月もの有給休暇を得て、自転車で世界を一周した坂本達〈さかもと たつ〉さん。ちなみに、自転車を利用して旅をする人のことを“チャリダー”と呼ぶと聞いたことがあるのですが、いわゆるバックパッカーとチャリダーの旅にはどんな違いがあるのでしょうか?

「より能動的になれるのがチャリダーの魅力でしょうか。というのも、いわゆるバックパッカーの旅って、何時間もバスを待って、さらにバスに何時間も揺られて…と、それはそれで旅の魅力のひとつなのですが、わりと受動的な時間が長い気がしますね。その点、自転車の旅は、進むスピードは遅くても、ペダルをこいで前に進むという行動自体が自分を能動的にしてくれると思うんです。バスに揺られる10時間は長いけれど、ペダルをこぐ10時間はあっという間。よく『チャリダーは大変そう』といわれるけど、精神的にはすごくポジティブで楽なんですよ」

でも、ひとりで延々ペダルをこぐ日々って、ものすごく孤独な作業ですよね…。正直、寂しくなったりしないもの?

「自転車をこいでいる時は、充実感もあるし、疲労のせいか、“雲”や“風“、”サボテン“と会話できたりする状態で(笑)。あまり孤独は感じないんですよ。逆に、自転車を降りて町にいる時の方が孤独を感じることが多かったですね。」

く、雲と会話っすか…。ち、ちなみに、海外未経験のボクとしては、いきなり世界一周ってのは少々腰がひけてしまうんですが…。たとえばもう少し気軽にチャレンジできる2週間くらいの旅先とか…。
パキスタンと中国の国境を結ぶカラコルム・ハイウェイにて。坂本さんオススメルートの起点となるギルギットへは、パキスタンの首都イスラマバードから夜行バスや飛行機が出ている
「それなら、パキスタンのカラコルム・ハイウェイがオススメですよ。カラコルム・ハイウェイは、世界一高所を走る舗装道路で、自転車乗りの憧れのルート。標高約1500mのギルギットという高原の村から標高約4600mのクンジュラブ峠へ向かう道は、僕にとっても旅のハイライトのひとつでした。周囲に7000m~8000m峰が連なる圧倒的な景色はもちろん、朝から晩まで登りっぱなしなので、苛酷な分、日常の垢がどんどん流れ落ちて、ピュアになるような感覚が味わえるはずですよ」
〈※編集部註:カラコルム・ハイウェイを含むパキスタン北部には、2009年7月現在外務省の渡航情報(危険情報)が発出されています。〉

ピュアかぁ。なんだか大変そうだけど、ちょっと行ってみたいかも!

ちなみに、今更な質問で恐縮ですが・・・ やっぱり行っといた方がいいんですよね? 海外って。

「環境を変えることは、単純に物の見方を変えるきっかけとしてもいいと思いますね。日本の価値観だけで物を考えていると、どうしても小さくまとまってしまう。世界には日本と違う生き方や時間の流れが確実に存在しています。それを肌で感じることは、確実に視野を広げてくれるし、日本での生活に行き詰まった時には、その経験が助けになる。海外に少しでも興味があるのなら、間違いなく一度は世界を見ておいた方がいいですよ。絶対に人生の役に立ちますから」

押忍!
とりあえずボクも、初海外への第一歩を踏み出して見たいと思います! 4年3カ月の有給休暇を取得し、世界を旅する。
サラリーマンなら誰もがうらやむ、夢のような話ですが
坂本さんがその夢をつかんだのはラッキーでもなんでもなく、
目標に向かって積み重ねた貯金やトレーニング、スポンサー集めといった
地道な努力のたまものだったんですね。

坂本さんは現在、人事部採用担当官としての業務のかたわら
各地で精力的に講演活動を行い、夢の大切さを伝えることで社会に貢献しています。
また、著書『やった。』続編の『ほった。』などの印税すべてを使って
命の恩人が住むというギニアの村に井戸を掘ったり
診療所を建てたりしていますが、
そのあたりの男気も、さすがに“伝説のサラリーマン”です。

“旅で殻は破れるのか”が本連載のテーマですが、
坂本さんは、まぎれもなく旅で殻を破った先輩のひとり。
カッコいいっす!

夢の実現に向けて地道な一歩を歩み続ける坂本さんのように
ボクも初海外への第一歩を踏み出さなくちゃ!
とはいえ、まずは彼女にせがまれている世界遺産デート旅行に向けて、
エクスペディアの360°ビューでホテル選びを進めたいと思います!

本連載では、今後も様々なジャンルの旅の達人を訪ね、
毎回異なる視点から、旅の魅力を探っていきます!
みなさんからの投稿もお待ちしてますので、
よろしくお願いいたしま~す。

取材協力・関連リンク

関連キーワード

ブレイクフォト