よくわかる統計マジック

第10回 日本の治安は本当に悪化しているのか?

2010.05.18 TUE

よくわかる統計マジック


1996年くらいから、刑法犯認知件数が増加するに従って検挙率が低下する(逆もまたしかり)、という傾向が顕著に表れています。ある意味、警察が被害届をガンガン受理してより多くの事件を解決しようとすればするほど、検挙率は上がりにくくなる、ともいえます 図版デザイン/坂井大輔

犯罪検挙率は警察の捜査方針次第で上下する



警察庁の犯罪統計によると、2009年の日本の犯罪検挙率は32.0%でした。検挙率とは、刑法犯認知件数(警察が被害届を受理するなどして認知した犯罪の数)に対する検挙件数(警察が容疑者を特定して事件を解決した数)の割合です。

ここ30年間における刑法犯全体の検挙率の推移を見ると、80年代は60%前後だったのが、90年代に差し掛かるあたりで急落し、01年には2割を切って戦後最低を記録しています。その後じわじわと上げてきていますが、やはり80年代と比較すると低水準に見えます。これをもって、しばしば「日本の安全神話は崩壊した!」みたいにいわれたりします。でも、この検挙率だけで治安の良し悪しは判断できません。

まず、1987年以降、検挙率が大幅に低下した要因は、警察庁の捜査方針の転換にあります。具体的には、86年に警察は従来の「検挙率維持」から「凶悪事件に力を入れる」方針に切り替えました。つまり殺人や強盗、放火などの捜査に多くの人員を割いたため、刑法犯全体の8割近くを占める窃盗などの軽微な犯罪の捜査が手薄になってしまったんですね。また、特に窃盗犯は余罪がある場合が多く、犯人は捕まえたものの人手不足ゆえに余罪が追及できない=検挙件数の上積みにつながらないという指摘もあります。
一方で取り締まりを強化した凶悪犯の検挙率は、98年までは80~90%でわりと安定しています。ところが、99年ごろからその凶悪犯の検挙率までも落ち込みはじめ、刑法犯全体の検挙率も再び急な下降線を描いています。これには、検挙率を計算する際の分母=刑法犯認知件数が激増したことが影響しています。同時期に警察は「桶川ストーカー殺人事件」などにおける捜査の不備が露見して方々から批判を浴び、その反省から以前よりも被害届の受け入れを拡充しました。しかし、たくさん受理したはいいけれど、捜査する側の人数には限りがありますから、処理能力が追いつかなかったわけです。

それでも、凶悪犯の代表格ともいえる「殺人」の検挙数に限ってみれば、戦後から現在に至るまで一貫して95%前後という高水準をキープしています。この点においては、警察の意地、というか捜査の優先順位がうかがえます。このように、検挙率は警察の捜査方針によっても変動します。見かけ上の検挙率が下がったからといって、必ずしも治安が悪くなっているとは限りません。 この連載で取り上げてほしいテーマや、気になる統計データがあれば、右下の投稿ボタンから投稿ください。

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