乙武洋匡の「自問多答」

[対談]乙武洋匡×安田洋祐(3)

2013.12.20 FRI

乙武洋匡の「自問多答」


安田洋祐「経済学で人の行動パターンが説明できる」



乙武: ミクロ経済学というのは、聞けば聞くほど人間の心理と深くかかわっていますよね。経済学の分野のなかでは、最近よく「行動経済学」というのも耳にしますが、これは別物ですか? 最近、書店などでも関連書を多く見かけますが、これまでの経済学とは具体的に何が異なるのでしょう?

安田: 行動経済学は、古典的な経済学では説明のつかない行動パターンを分析するために、経済学と心理学を結びつけた新しい学問です。わかりやすく解説するために、例題を出しましょう。いますぐもらえる9000円と、1週間後にもらえる1万円。乙武さんだったらどちらを選びますか?

乙武: 僕だったら、1週間後に1万円をもらうかな。でも、いますぐもらえる9000円を選ぶ人も多いでしょうね。

安田: では次に、1年後にもらえる9000円と、1年と1週間後にもらえる1万円を比べてみてください。今度はいかがですか?

乙武: うん、今度はなおさら、1年と1週間後にもらえる1万円を選びますね。

安田: これ、実は正解がある問題ではないのですが、いろんなところで聞いてみると面白くて、最初の質問では「いますぐ9000円」と答えた人でも、1年後のこととなると「1万円」と答えが変わる人がけっこう多いんです。この行動パターンの変化を、古典的な経済学では説明しにくいんです。

乙武: それはどういうことでしょう?

安田: そもそも経済学では、同じ金額であれば、いますぐ手に入るお金の方が、将来手に入るお金よりも価値が高いというふうに考えます。ですから、将来のお金の価値は、少し割り引いて考えなければならないんですね。

乙武: つまり、いますぐもらえるなら9000円でいい、という心理自体は説明できるわけですね。

安田: そうです。ふたつの質問で答えが変わった人は、いますぐもらえるなら9000円でよくても、1年待つのも1年と1週間待つのも大差ないから、それだったら1週間だけ余計に待って1万円もらおう、と考えたわけでしょう。でも、その考え方だと、1年後に僕が9000円をもって現れて、「あなたは1週間後に1万円を受け取るんだから、今日この9000円は要らないんですよね?」と聞いたら、「いや、いまもらえるなら9000円でいい」と答えるはずですよね。ここに、古典的な経済学では説明できない矛盾がある。

乙武: あれ、たしかに。これは興味深い!

安田: 将来のお金をどのくらい割り引くか、という割合は割引率と呼ばれています。古典的な経済学では、この割引率は常に一定のものととらえていましたが、現在の行動経済学ではある程度フレキシブルに変わるものとされています。そのため、この矛盾をはらんだ行動パターンも説明することができるわけです。

乙武: なるほど。経済学の進化によって、より複雑な消費行動や損得勘定も、心理学的な要素を取り入れることによって分析できるようになってきた、と。これも、経済学というのが僕らの生活と密接にかかわっているからこそですよね。

(構成:友清 哲)


【今回の対談相手】
安田洋祐さん
1980年 東京都生まれ。経済学者。東京大学経済学部卒業後、プリンストン大学経済学部でM.A.およびPh.D.を取得。主な著書に『学校選択制のデザイン』『経済学で出る数学』(共著)ほか

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