[対談]乙武洋匡×安藤哲也「父として、社会を考える」(1)

子育てに税金を投入することの是非

2015.12.04 FRI

格好いいパパに!オトコの子育て道場 > 乙武洋匡の「自問多答」


(撮影/後藤 渉)

[対談]乙武洋匡×安藤哲也「父として、社会を考える」(1)



日本のひとり親家庭の貧困率は、先進国のなかでワースト1となる54.6%。ひとり親家庭等の生活の安定と自立をサポートするための児童扶養手当は、第一子には親の所得に応じて最高月額4万2000円が支給されるが、2人目は所得にかかわらずプラス5000円、3人目以降はプラス3000円しか支給されない。

この手当の増額を目指して署名活動を行ったのが、「ひとり親を救え! プロジェクト」だ。「子どもを5000円で育てられますか?」と問いかけたこの活動は、ネット上でも賛否が分かれた。同プロジェクトに賛同人として名前を連ねる作家の乙武洋匡氏と、ファザーリング・ジャパンやタイガーマスク基金などのNPO代表理事を務める安藤哲也氏が、改めて同活動について意見を交わし合った――。

乙武洋匡: 安藤さんの活動については以前からいろんな方を通じてお聞きしていたんですが、10月に開かれた「ひとり親を救え! プロジェクト」共同記者会見の場で、賛同者として同席させていただいたのが初対面でした。このプロジェクトには賛否両論、大きな反響がありましたが、私は思っていた以上に反論が多く寄せられたことにびっくりしました。賛同者の署名がどれくらい集まるかは別にして、主旨自体に反対されるとは考えていなかったんです。

安藤哲也: 僕はわりと予想通りの展開でしたね。以前、ファザーリング・ジャパンで父子家庭支援のためのロビー活動をやっていたときも、ネットを見ると「勝手に離婚したシングルファーザーに、なんで税金を使うんだ」というような声は多かった。死別のひとり親はかわいそうだよねってなるんですけど、離別の方に対しては風当たりがきついんです。

乙武: 今、安藤さんがおっしゃったような声は本当に多かったんですけれど、私は“勝手に離婚した親のために税金を投入すること”の是非を議論するのは的外れな気がしています。だって、この給付金は、離婚して子育てしている“親への”手当ではなく、あくまで“子供たちへの”手当ですから。

安藤: ええ。だから「児童扶養手当」という名前がついているんですよね。

乙武: そこからもう一歩話を進めると「手当が出ても、それを子供のためではなく、パチンコに使うような親がいるから」という別の反論が出てくる。これ、「不正受給する一部の人がいるから、生活保護は厳しくしろ」という論理とまったく同じなんです。でもね、子供は自分が育つ環境を選べないわけですから、生まれついた境遇によって差が出てしまうのは絶対に避けなければならない。そうした観点から、私はこのプロジェクトに賛同したんです。

安藤: 僕は「タイガーマスク基金」というNPOでも児童養護施設の子供たちを見ていますけど、子供にとって不運なことに、親が養育できないというケースがある。できないっていうのはやる気の問題ではなく、経済的に、あるいは精神的に追い詰められてしまったりDVがあったり、いろんな事情があるわけで、こうした家庭に生まれついたことは子供からすれば“不可抗力”。なので国としては、親が養育できない子供は社会がちゃんと育てていきましょうという「社会的養護」の理念や制度があるわけです。

乙武: なるほど。私が二十歳くらいの頃、母から「子供を親の所有物であるかのように育ててしまう人が多いけれども、私は基本的に社会からの預かり物だと思っている」と言われたことがありました。「いつか社会人として巣立っていくまで育てることを担当させてもらっているだけで、そこに自分なりの色は出せるにしても、基本的には社会にお返しするものだと思っている」というんですね。それを聞いてから、私はなんとなく社会全体が子供を育てていくという観点を持てたように思います。

安藤: 素敵な考え方のお母さんですね。やっぱり手当を支給する側もされる側も、そういう観点を持たないとただのバラマキになっちゃうんですよ。僕はこういうときに性悪説を出してもしょうがないと思っています。手当を子供のために使わない人がごく一部にはいるかもしれないけれど、その一部がいるから本当に必要としている人にまで支給しなくていいわけではありませんから。

乙武: それに、子育てを社会のものとして考えると、社会にとっての利得も見えてきます。これだけ少子高齢化が叫ばれているなか、今は働き盛りの人たちだってゆくゆくは年を取り、社会保障を受ける側になるわけです。そうなったときに下の世代が多いに越したことはない。子供たちがきちんと自立して、仕事をして、税金を納められるようになることは、社会のためでもあるわけです。つまり、「勝手に子供を作ったくせに」じゃなくて、「社会を支えていく人がまたひとりこの世に誕生してくれた」。そうした可能性を秘めた子供たちを社会全体でどう育てていけばいいだろうという視点が必要だと思うんですよね。

【今回の対談相手】
安藤哲也さん
1962年生まれ。出版社、書店経営、IT企業など9回の転職を経て、2006年にNPO法人ファザーリング・ジャパンを設立。「育児と仕事を両立し、笑って人生を楽しめる父親を増やす」ことを理念として年間200回の講演や企業セミナーを行うほか、厚生労働省や内閣府の委員を歴任。2012年には社会的養護の拡充と児童虐待・DVの根絶を目的とするNPO法人タイガーマスク基金を立ち上げ、代表理事に就任した。二男一女の父親。

(構成:宇野浩志)

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