情報社会と法律のビミョーな関係

第4回 初音ミクと学ぶネット著作権入門編

2009.02.12 THU

情報社会と法律のビミョーな関係


初音ミクを使って洋楽をニコニコ動画などにアップする場合。シンクロ権の処理は日本のJASRACではできない。「でも真っ黒の画面に曲だけアップするなら大丈夫ですよ」(鎌田氏)。でもねぇ、やっぱりミクちゃんの姿あってこそのソフトだから…ちょっと残念なのである。

「初音ミク」にヒット曲を歌わせてネットにアップしてもいいの?



いまさらながらに驚いた。ネットアイドル「初音ミク」のことである。

「初音ミクって音楽作製ソフトなのに、固有の声とキャラクターを持っている」くらいの認識はあったのだが、その盛り上がりっぷりの認識は薄かった。

どこで盛り上がっているかって? 「ニコニコ動画」などの動画投稿サイトである。

「初音ミク」とは、楽器メーカーのヤマハ株式会社の持つ特殊な音声合成技術を使って、北海道札幌市の「クリプトン・フューチャー・メディア」が製作した音楽作製ソフトである。音楽と歌詞を入力すると初音ミクが歌ってくれるという趣向だ。

ベースになるミクの声は人気声優の藤田咲さんが担当。さらによりリアリティを持たせるため、女性キャラクターを設定し「バーチャルアイドル初音ミク」が誕生したというわけ。

2007年8月の発売当初から、同ソフトを使って作られた楽曲が動画投稿サイトに続々と投稿され、またたく間に知名度が上がった。もともと音楽の専門家向けのつもりだったが、一般ユーザーの購入が増え、1000本売れればヒットという同分野では異例の約4万本を売り上げている。

ニコニコ動画などには、とりあえず使ってみた初心者レベルからプロ並の作品まで、本当にいろんな「初音ミク」がアップロードされている。曲も自作のオリジナルから、最新のヒット曲や定番のアニメソングまであって、一日中聞き続けても尽きないくらい。

でもちょっと待てよ。オリジナル曲ならわかるが、既存曲には歌詞には著作権があるはず。誰もが見ることができる動画投稿サイトに勝手にアップしたらダメなような気がするんだけど。その辺の事情をネット・エンターテインメント関係の法律に詳しい弁護士の鎌田真理雄さんに話を聞いてみた。

「動画投稿サイトのニコニコ動画であればエンドユーザーが著作権のことを考える必要は原則としてありません。自分で作ったオリジナル曲ならそもそも著作権は本人にあるから問題ないし、既存の曲でも日本の楽曲に限っていえば、初音ミクに歌わせてアップすることができるんですよ。ただし例外もありますけど」

ニコニコ動画であれば、というのはどういうことですか?

「ニコニコ動画の場合、運営するニワンゴが著作権管理事業者である社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)やイーライセンスと包括契約を結んでいます。包括契約というのは、予め包括的に楽曲の使用許諾をして、アップされた楽曲の数や再生数に関わらず、ニコニコ動画を通じて発生した売上全体の一部を管理事業者に支払うというもの。つまり、ニコ動側がユーザーのかわりに著作権を払っているという形ですね。ただ、ジャパン・ライツ・クリアランスとはまだ契約を締結できていないようなので、そこは注意です。今後は他の動画投稿サイトも包括契約の方向に進むと思います」

あ、それ、テレビ局とかラジオ局もやってるやつだ。

「そうそう、テレビやラジオは著作物である楽曲を日々の放送の中で大量に使うから、一つひとつについて許諾を取り付けるのは事実上不可能でした。そこで出てきたのが包括契約なんですね。新規参入を阻害しやすいので公取から問題があると指摘されているようですが。あ、もちろん、そのテレビやラジオを録画・録音したものをニコ動にアップするのはダメですよ。番組の著作権・隣接権というのはまた別の話ですからね。初音ミクはいわば楽器ソフトですから、それを使って演奏したものであればOKということです」

そうか、どおりで大量の初音ミク作品が投稿されているわけだ。あれを観ていると自分でも挑戦してみたくなるんですよね。どうせなら目立ちたいから洋楽なんかを素材に使うのはどうだろう?

「なんでもかんでもOKというわけではありませんよ。洋楽を何かの映像と合わせる場合はJASRACとの包括契約だけでは処理できないんですよ。海外ではシンクロ権というものがありまして、音楽と映像のマッチングについて著作権者のコントロールが認められるのですが、それについてJASRACは管理していないんです」

えー、そうなんだ。ちょっとがっかり。

これまでインターネットの世界ではかなり好き勝手に、個人がいろんなコンテンツをアップしまくってきたのだけど、このままじゃマズイよねという認識が高まっている。こっそりと少人数で楽しんでいたうちはいいけれど、今はおもしろいモノはネットであっという間に広まる時代。おもしろいモノをみんなで堂々と楽しめるようになったのは、何はともあれうれしいことだ。
ストリートから始めて実力と人気をつけていき、晴れてメジャーデビューした。そんなアーティストは多い。でもネットのおかげで、部屋から一歩も出なくても不特定多数の人に作品を視聴してもらうチャンスができた。これからはネットがストリートと並ぶ新たなステージの一つになっていくのだろう。

初音ミクがきっかけに!?声そのものが権利ってどういうこと?



発売以来、動画投稿サイトへの投稿などがエンジンとなって、音楽ソフトとしては異例の売り上げを記録している「初音ミク」。彼女は音楽だけではなく、フィギュアやマンガ、ゲームソフトの分野でも大活躍だ。はてはSFのファン賞「星雲賞」を受賞するなど、ネット上の社会現象にまで発展している。

そんな中、08年の2月、インディーズレーベルで活躍していたバンドabsorb(アブソーブ)がミクをフィユーチャー。彼女を「卒業を間近に控えた女子高校生」に見立てて、オリジナル曲「桜ノ雨」を作成したのだ。

再開を誓い合う乙女心をミクちゃんが切なく歌い上げる。これがニコニコ動画で紹介されると卒業シーズンというタイミングも手伝って、ネットユーザーたちの琴線をじゃかじゃかかき鳴らすことになった。これに日本クラウンが着目し、absorbを「桜ノ雨」でメジャーデビューさせることを決定したのだ。

ヒットすればメジャーデビューの可能性もあるわけだ。ということはニコ動でたくさん見てもらえばいいってことね。だったら思いっきり刺激的にして、初音ミクをSMの女王様とかにして卑猥な歌を歌わせて。

「それを公開するのは、ちょっとまずいかもですね。オリジナルだからって何でもOKというわけではありません。例えば、ユーザーの作った曲がはなはだしくインモラルな場合や、声優さんの名誉・声望を侵害する場合、クリプトン・フューチャーはソフトウェアライセンスにもとづいて公開を禁止することができます。それに加えて初音ミクの声を担当している声優の藤田咲さんの権利も無視できませんよ」(弁護士の鎌田真理雄さん)

えー? 「声」自体に何か権利があるんですか? それってどういうこと?

「人の肖像にプライバシー権やパブリシティ権が認められているように、声にも同様の権利が認められると思います。日本ではまだ、実演ではない声そのものの権利について法的に争われたという話は聞きませんが、アメリカでは声のパブリシティ権が認められた裁判例もありますし、日本でも今後出てこないとは限りません。肖像権というものを考えた場合。容姿だけが問題になりそうですが、そうではありません。有名人の名前を表記するだけでも立派に宣伝効果があったり、商品価値が上がったりします。たとえば、真っ白いTシャツに『イチロー』とプリントするだけで、商品に消費者を引きつける訴求力をある程度持たせることが可能ですよね。であれば、当然、同じように声にもパブリシティ権やプライバシー権が認められると思います」(鎌田氏)

じゃぁ、例えば将来、どんな人間の声でも自由にサンプリングして唄わせることができるソフトが登場したとして、それで勝手に他人の声を使ったらマズイってこと?

「初音ミクのソフトが別人の声を使えるかどうかは別として、もしそのようなソフトが今後出てきたとしましょう。その場合あなたが誰かの声を使ってものすごくインモラルな曲を作ったり、何か事件を起こしてその犯行声明に使われたりした場合、声の主がやめてくださいと言えなきゃまずいですよね」(鎌田氏)

うん、なるほど、そうですね。

「また有名人でなくとも、誰かの声を勝手に使ってその声の主の人格を傷つけたような場合はプライバシー権が問題になってくるでしょうね。アイコラとパラレルに考えれば、その内容によっては声の主を被害者とする名誉毀損も成立するかもしれませんね」(鎌田氏)

技術の進歩でこれまでできなかったことが次々と可能になって、法律もどんどん変わってきている。正直、ダイナミックでおもしろい時代に生まれてよかったなぁと思う。 ネット上でこんなにも活躍している「初音ミク」だが、
彼女はあくまでも楽器なのである。

楽器で演奏したものはオリジナルなら著作権は自分。
既存の曲を演奏すれば、著作権はその曲を作った人。

簡単である。

ただ、他人の作った曲でも、別のアーティストが歌えば
そのアーティストに実演家の権利が生じる。

だから将来、初音ミクのようなバーチャルアイドルが
もっともっと進歩して、人工知能によって人格を持ったりしたら
初音ミクに実演家としての権利が認められる日がきたりして。

そういう世の中って、面白そうでちょっと怖そうで

ファンタジーの世界が
どんどん現実のものになっている今日この頃。
初音ミクにだって人権が認められる日がくるかも

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