アレをコレで代用してみたら・・・

第12回 自然の草花で絵の具は作れるのか

2009.08.26 WED

アレをコレで代用してみたら・・・


草や葉っぱ、花から炭まで、野山をかけずり回って集めた様々な絵の具候補。乳鉢にいれてすりつぶして、水やのりを合わせた時点の見た目はなかなかよかったのですが、実際に描いてみると悲しい結末が…。写真をクリックすれば確認できます。

草や葉っぱの絵の具で絵を描いてみた



自然にはいろんな色があふれています。その自然で採集したものを使って多彩な絵の具を作り、絵を描けないものでしょうか。さっそく野や山をかけずり回り、草や花、土、さらにはたき火あとの炭などの素材を集めてきました。しかし、空や海を描くのに必要な青の材料になりそうなものは手に入らず。さらに、数日探し回ったために、最初に集めた草花の一部が腐り、茶色くなってしまうアクシデントも。

夏休みの宿題が終わらない子どものように泣きたくなりましたが、なんとかそろったもので絵の具作りです。カッコ内の色ができることを期待して、チャレンジしたのは以下の9種類。

草の葉(緑)、紫の草(紫)、枯れた木の葉(黄土色)、苔(モスグリーン)、赤い花(赤)、炭(黒)、白い種(白)、土(茶色)、黄色い花(黄色)

これらを細かくすりつぶしてできた粉やエキスに水とのりを合わせて、絵の具のようなドロっとした状態にします。どれもちょっと水っぽくなったりしましたが、できあがったものは見た目には色とりどり。あとは紙に描くだけです。
手作り絵の具を使った作品。タイトルは「夏の思い出」のつもりですが、青や濃い緑などの色が作れず、夏らしさがまったくありません。また、紙ににじんでしまう難点もあり、市販の絵の具ならごまかせるかもしれない、画力・絵心のなさもにじみ出る結果に。恥ずかしい…。
そして、期待をこめて筆につけて描いてみたところ、薄い。色を塗るというよりも、色がにじむといった感じで、とにかく色が薄い。もっとも濃い色がついた炭による黒のほかは、土の茶色、黄色い花によるオレンジがかった黄色、草の葉を使った緑、紫の草による緑がかった紫などがなんとか色が紙についたというレベル。ほかのものは実際に塗ると色がほとんどつきませんでした。草花で作るのは無理があったのでしょうか。画材メーカー・バニーコルアート セールスマーケティング部の車 洋二さんに伺ってみました。

「絵の具の色は顔料がもとになり、顔料は基本的には細かすぎない粒子のあるものです。草花を絞ったり、すりつぶしたりして抽出したものは粒子が細かすぎて、顔料ではなく染料に近いものなので、絵の具にするのは難しいですね。顔料なら紙に色が付着しますが、染料は染み込むだけです。また、退色しやすい難点もあります」

ぬはー。それで草花は薄い色しか描けず、炭の色が濃かったのは、ある程度の大きさがある粒子だったからなんですね

「過去に、アカネの根っこから抽出した紅色を化学的に処理し、顔料にしてそれを絵の具にしたものはありましたが、これは染料を加工して顔料にする技術を使ったものです。手作りするなら、きれいな石や貝殻を砕いて使った方がいいのではないでしょうか。植物はなかなか難しいと思いますよ」

夏らしい鮮やかで濃い色を出すのは、そういう色をしているとはいえ、草花では難しいようです。無念です。
バニーコルアートが販売している絵の具ブランド「リキテックス」。世界最初の水性アクリル絵の具で、1955年にアメリカで開発された。写真はレギュラータイプの「伝統色 12色セット」。全108色のなかから、各色相の代表的な色が選ばれている。

昔の絵の具はどうやってできていた?



同じ赤や青でもいろんな種類があり、たくさんの色が販売されている絵の具。画材メーカー・バニーコルアート セールスマーケティング部の車 洋二さんによると、その色のもとになるのは顔料で、油絵の具ならリンシードオイル、日本画の岩絵の具ならニカワ、水彩絵の具ならアラビアガムといった、色を紙に定着させるバインダーと呼ばれるものを顔料に合わせて絵の具にしているのだとか。

では、絵の具の色のもとになる顔料には、もともとどのようなものが材料として使われていたんでしょうか。

「昔は自然のもの、土や鉱石が主に使われていました。たとえば土は茶色系統の色に使われ、焼いたりすることで色みを変え、同じ茶色でもいくつかの階調の絵の具を作っていました。鮮やかな色の鉱石は、細かく砕くことで顔料にしていました」

なるほど。これら天然の原料は、今は使われていないんでしょうか。

「今は化学的に合成された顔料が多く使われています。たとえば顔料に使われる土の主成分である酸化鉄を化学的に合成することで、土で作っていた色と同じような色を作っています。土だと不純物があるため、色にばらつきが出てしまうんです。他の色も同じで、日本画で用いられているカキの殻を砕いた胡粉による白色のように、今でも自然のものが使われているものはありますが、材料の価格や量の問題もあり、主流は化学的に合成された顔料になっています」

へえ。いろんな色が化学的に作り出されてるんですね。ところで、化学的に合成する技術がなかった昔は作れなかった色などもあったのでしょうか。

「青は貴重な色でした。ウルトラマリンという色に使われていたラピスラズリという鉱石は、装飾品、宝石でもあったほど貴重なものだったんです。日本画では、群青(ぐんじょう)と呼ばれている色です。今もウルトラマリンはありますが、それは合成してラピスラズリに似た成分を作ったもので、成分的には同じでも色は多少違うと思います」

また、顔料が大きく変わったのが産業革命のころだそう。

「産業革命のころに、コバルトや水銀など重金属の化合物を使った無機顔料の絵の具が増えました。しかし、毒性があるため、今ではそれに代わって石油から作っている有機顔料が多くなっています。有機顔料はこれまでの顔料より鮮やかなのが特徴です」

様々な工夫もあって、顔料は天然のものから化学合成のもの、さらに、化学合成でも安全なものに変わってきたんですね。また、絵の具の大敵は光だそうで、耐光性があるかどうかが問題になってくるそうです。

「ドラクロワという19世紀フランスの有名な画家は、その時代に流行ったビチウムという茶褐色系の色を多く用いていました。当時の石油化学の最先端で作られたコールタールを精製したのがビチウムで、当時の最先端の色としてもてはやされていたんです。しかし、耐光性がありませんでした。そのため、年月を経ると溶けてしまうなどして、絵画のビチウムを使った部分が崩れてしまったんです」

もちろん、今では紫外線を当てるなどして、しっかりと耐光性のチェックが行われているそうです。時代とともに移り変わってきた絵の具の顔料。これからも進化が続きそうですね。 自然の草花や葉っぱで絵の具を作っても、
かなり色の薄いものになってしまいました。
ただ、炭だけはしっかりした
黒色になりました。
また、市販されている絵の具は
歴史とともに顔料が移り変わるなかで、
様々な優れた代用品が登場しているようです。

さて、絵の具に負けじと様々な
代用品を探し続けたこの連載は今回でおしまいです。
いや、絵の具には負けたような気もしますが、
みなさん、とにかく、
今までどうもありがとうございました!

関連キーワード

注目記事ピックアップ

編集部ピックアップPR

ブレイクフォト