ビジネスパーソンインタビュー
木下勝寿著『ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング』より
「“35歳女性、丸の内勤務”では共感が減る」のはなぜか? “ペルソナ設定”の大いなる誤解
新R25編集部
「現在の『自称Webマーケター』の多くは『ただのデジタルオペレーター』だ」
そう言うのは、資本金1万円で創業した「北の達人コーポレーション」を東証プライム上場企業にまで育てあげた木下勝寿さん。
木下さんが結果を出せたのは、2つの方法を組み合わせた独自のWebマーケティングで、適切なターゲットに効率的にアプローチできたからなのだとか。
① ファンダメンタルズマーケティング
人間の感情をベースにしたコミュニケーションの設計方法
② テクニカルマーケティング
デジタルデータを駆使して利益を1円単位で計算しながら運用していく方法
その方法が惜しみなく書かれた新著『ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング』から、ペルソナ設計の誤解について一部抜粋してご紹介します。
この記事はこんな人におすすめ!(読了目安:5分
)
・結果を出したい「Webマーケター」
・見られる広告コンテンツを作りたい「Webクリエイター」
・狙ったターゲットに刺したい「ペルソナ設計者」
かつてのテレビCMでは「ターゲット」を絞れなかった
商品やサービスを利用してもらうには、『「誰に」「何を」「どう」伝えるか』が大切である。
その役割をはたすのが広告であるが、元々Webが普及する前、この3つの機能を果たす役割はすべて街頭のポスターや新聞広告、そしてテレビCMの中で「どう伝えるか」に集約されていた。
しかし、容易に想像できるように、「誰に」を「最近シミに悩み始めた人」とした場合でも、テレビなどの媒体では年齢、性別、嗜好程度しかターゲットを絞れない。
ターゲットにピンポイントでアプローチできないので、多くの人に広告を見せて、広告クリエイティブで「シミに悩むあなたへ」とセグメントしていた。
ところがWebメディアは、旧メディアに比べて、セグメント機能が遥かに高度になった。
特に検索連動型広告(リスティング広告)は「シミ」と検索した人に広告を出すとか、配信広告(ディスプレイ広告)は「シミ関係のサイトを見た人」に広告を出すなどかなりピンポイントなターゲティングができるようになった。
つまり、今までクリエイティブだけで行っていた「誰に」の部分をWebメディアやWeb広告の出稿設定画面によって、さらに精度高く限定してターゲティングすることができるようになったのである。
だからこそ、ますますあなたが商品やサービスを考えるときに、その商品やサービスのユーザーをしっかりと思い描くことが重要だ。
ペルソナ設定の誤解
広告のターゲット像を理解しやすくするためによく行う手法に「ペルソナ設定」がある。
ペルソナ設定とは、自社商品やサービスのターゲットについて、年齢や性別などの各種項目について詳細に設定した人物像のことである。
特に、1人の架空の人物を想定し、年齢や性別、家族構成、どこに住んでいるかなどのプロフィールを詳細に設定することをいう。
このペルソナ設定の使い方を間違うと、自分で自分の首を締める結果になる場合があるが、度々この間違ったペルソナ設定を度々目撃する。
例えば、ある商品のターゲットのペルソナ設定で、1人の人物像をこのようにこまごま決めたとしよう。
ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング【Aさん】
・女性
・35歳
・既婚
・丸の内勤務
・埼玉県郊外の一戸建て
・夫は38歳
・子どもは小学2年生の女児1人
・3年前からヨガにハマっている
・半年ほど前から目尻の小じわが気になり始めている
このペルソナに向けて、「しわ対策化粧品」のマーケティング戦略を練るとどうなるか?
ターゲットが狭くなりすぎて、反応数が極端に減るのである。
しわに悩む人は多種多様だ。
年齢は30代〜80代で働いていたり無職だったり、都会に住んでいたり、地方に住んでいたり、子どもがいたり、いなかったり、子どもがいてももう独立して巣立っていたり…と様々な人がいるだろう。
「しわ対策化粧品」の顧客の多くは、上記のペルソナと共通する要素はごく一部しかなく、唯一共通するのは「しわに悩んでいること」だけだ。
全部合致する人なんてほとんどいないし、たとえいても、その人たちだけでマーケットは成り立たない。
「しわに悩んでいること」以外の条件が増えれば増えるほどペルソナに共感する人が減るのである。
プロダクト(商品)のペルソナはUSP(その商品特有の強み)やベネフィット(利益)を起点に、最大公約数的に設定すべきであり、この場合は「しわに悩んでいる」を起点に考えなければならないのである。
ペルソナ設計のやり方
考え方の順番としてはまず、ターゲットユーザーがユーザーニーズの9段階分類のどこにいるかについて考えることから始める。
ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティングユーザーニーズの9段階分類
① 対策の必要性に気づいていない
② 対策の必要性に気づいてはいるが「悩みや痛みは一時的なもの」だと思っている
③ 対策の必要性を自覚しているし、悩みや痛みは一時的ではないと思っているが、何も手を打っていない(探してもいない)
④ 対策を色々検討し始めている
⑤ 対策を色々検討してかなり詳しい状態
⑥ 対策の手を打ち始めた(何らかの商品を買った)
⑦ 既にお気に入りの対策のための商品があり、満足している
⑧ お気に入りの商品はあるが、「他にもっと良いものはないか」と思っている
⑨ 色々使ったが結局満足するものはなかった
それに加えて例えば
「同窓会や同年代の人との出会いをきっかけにエイジングを意識し始め、しわに悩んでいる」
「最近、使っていた美容液が切れて、新しいものを探している」
といったような多少の状況を付随させる。
少なくとも「しわ対策化粧品」のペルソナ設定において、子どもが何人いようが、ヨガをやっていようが、どこに住んでいようがこの場合は関係ない。
プロダクトのUSPやベネフィットと無関係な細かいペルソナ設定は、顧客への共感性を失わせ、自社製品のマーケットを縮小させる。
「メディア」と「プロダクト」におけるペルソナの違い
ここで、私たちマーケッターが勘違いしてはならないのは、上記のようなペルソナ設定は「プロダクト用」ではなく、「メディア用」だということだ。
一般に、メディアは多様な人に向けて、複数種類のコンテンツを提供する。
例えば、あるメディアがそのメディアの読者のペルソナとして先ほどと同じ【Aさん】というペルソナ設定をしたとしよう。
このペルソナを使って、ニュースメディアで特集記事を組む場合「歳の差3歳夫婦特集」を組めば(このペルソナは夫38歳・妻35歳なので年の差3歳をペルソナとしており、そのペルソナを対象とした記事になる)、たとえ埼玉県在住でなくても子どもがいなくても専業主婦でも、該当者は喜んで読んでくれるだろう。
また、別特集で「地元民でも知らない埼玉の隠れた名店」を組めば、埼玉在住の人なら未婚だろうが既婚だろうが、読者ターゲットに入ってくるだろう。
つまり、メディアにおいては上記ペルソナ条件の「1つでも」当てはまれば顧客ターゲットになり得、「ペルソナの条件が多ければ多いほどターゲットが広がる」のである。
一方、プロダクトにおいては上記ペルソナの条件を「全て」満たさなければ顧客ターゲットになり得ないのである。
なぜならプロダクトにおいては、「ペルソナは条件が多ければ多いほどターゲットは狭くなる」からだ。
マーケティングというのは一般的には主に広告代理店的な立場の人によって体系化されることが多いが、広告代理店は「メディア」と「プロダクト」の両方に関わっている。
だからこそ、「プロダクト」側のマーケッターは、そのマーケティング理論が「メディア」側の理論なのか、「プロダクト」側の理論なのかを、混同せずにしっかり理解して活用することが大切である。
究極のWebマーケティングノウハウを知れる濃厚な一冊
同書は「こんなに詳細に教えてもらってよいのだろうか…?」と思うほど、再現性の高い具体的なマーケティングノウハウが詰まった一冊。
広告やメディアに関わっているWebマーケターなら誰でも、何かしらの気づきを得て視座が高くなったり、課題が解決したりするはずです。
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