ビジネスパーソンインタビュー
伊藤穰一著『テクノロジーが予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる』より
アメリカで銀行口座を持たない若者が急増中。web3時代、世界の“お金観”はこう変わる
新R25編集部
web3、メタバース、NFT…
そろそろ耳慣れてきたこれらの最先端テクノロジーですが、結局のところ、私たちの生活や働き方にどのような変革をもたらすのでしょうか…?
元MITメディアラボ所長・伊藤穰一(いとう・じょういち)さんの新著『テクノロジーが予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる』(SB新書)によると、経済・働き方・文化・教育など、あらゆることが激変する未来が待っているのだそう。
すべてが大転換する前に“心の準備”として読んでおきたい同書より、「web3で、世界の未来はどう変わるのか」について一部抜粋してお届けします。
この記事はこんな人におすすめ(読了目安:5分)
・web3、メタバース、NFTの概念を整理したい
・最新テクノロジーで“今”起きていることを知りたい
・“未来”に起こりうる、経済や通貨の動向を知りたい
web3で非中央集権的な経済圏「クリプトエコノミー」が実現する
web3(「ブロックチェーン」をインフラとする、非中央集権的なウェブの世界)では、「クリプトエコノミー」という新しい経済圏が形成されています。
この経済圏では、円やドルといった法定通貨(フィアット)ではない暗号資産(クリプト=仮想通貨やトークン)が流通しています。
近年、何かと話題のNFT(代替できない価値を持つトークン)も、クリプトエコノミーで流通するトークンの一種です。
法定通貨の世界、これを「フィアットエコノミー」と呼びますが、そこでは経済や政治は国による管理とトップダウンの決定、企業などの組織運営は経営者による管理とトップダウンの決定と、あらゆることが中央集権的です。
そんなフィアットエコノミーとは別に、多くのプロジェクトが中央集権的な管理者の存在なしに、個人や組織、資産が分散的・自律的に動き回っている経済圏が、クリプトエコノミーなのです。
「BANKLESS(銀行なし)」で生きるアメリカの若者たち
web3で形成されているクリプトエコノミーは、いまや既存のフィアットエコノミーに対するアンチテーゼ、社会的ムーブメントとして存在感を増しつつあります。
その現れの1つといえるのが、「BANKLESS(銀行なし)」を掲げるアメリカの若者たちです。
僕自身、いまもし10代であったら、このライフスタイルをやってみたいと思います。
およそ10代半ばの彼ら・彼女らは、クリプトエコノミーで稼いだ仮想通貨を仮想通貨ATMで現金に替えて、ランチを買ったりしている。
稼ぎはクリプトエコノミーで得ており、フィアットエコノミーでの経済活動は消費だけ。
したがって現金を預けておく銀行は必要ない、それが「BANKLESS」であるーー
というムーブメントです。
彼ら・彼女らは多くの場合、実家暮らしのようなので、自分で払わなくてはいけない生活費はそう多くはないのでしょうが、ともあれ、このようにクリプトエコノミーでの稼ぎだけで生活している人々が現に誕生しているのです。
なかにはNFTでたくさんクリプトを稼いでいて、「私はもう一生、銀行口座を開くつもりがない」と豪語している若者もいます。
クリプトエコノミーがさらに拡大し、そこでの稼ぎだけで生活しようとする人が増えれば、それだけ仮想通貨ATMが増えたり、決済そのものを仮想通貨で行えるお店が多くなったりと、社会のほうがクリプトエコノミーに適応する方向へ変わっていくでしょう。
僕も、NFTアーティストとご飯を食べに行ったときなど、割り勘の分をイーサ(ブロックチェーン・プラットフォーム「イーサリアム」で使用される仮想通貨の名称)にして相手のウォレットに送ったりしています。
日本には、まだあまり仮想通貨ATMがないので仮想通貨の使い勝手は悪いのですが、おそらく、状況が変化するのは時間の問題だと思います。
いまはまだ想像がつかないかもしれませんが、これは、いってみれば食事のデリバリーが電話注文からウェブ注文・ウェブ決済に移り変わったのと同じです。
たとえば、初めてUberEatsで注文・決済したときの「ものすごく簡単!」という驚きが、やがて消え去り、当たり前になっていく。
仮想通貨ATMも仮想通貨決済も、そんな感じで世の中に浸透していくのだと思います。
さらに長い目で見れば、イーサが世界最大の通貨になる日が来るかもしれません。
世界最大の暗号通貨、ではなく、ドルや円なども含めた世界最大の通貨です。
フィアットエコノミーには国家という縛りがあるため、どの主要通貨も世界人口の過半数を越えて使われてはいません。
一方、クリプトエコノミーは、国家と関係ないグローバルな経済圏です。
もし世界人口の過半数がクリプトエコノミーで経済活動を行うようになったら、そこで流通しているクリプトは、おのずと世界最大の通貨になるということです。
現時点では、まだまだ法整備やインフラが追いついていない国が大半です。
ただ、クリプトエコノミーへの人口流入は、世界各地で確実に進んでいます。
潜在的ユーザーまで含めたら、すでに相当な割合になっているはずです。
そのうえで先の世界を想像してみると、決して突飛なアイデアではなく、世界中で当たり前のようにしてイーサに代表される暗号通貨が使われている未来も、十分ありうると思えてくるのです。
これから世界に起こる、大きなパラダイムシフト
では、来たるweb3時代に、結局のところ、世界はどうなっていくのでしょうか。
ガバナンスはトップダウン型からボトムアップ型へ、消費は、大企業主導の大量生産・大量消費型から、より細分化されたリレーション型へ、という具合に、社会のあらゆるところで「Decentralized=分散化(非中央集権化)」が起こっていく可能性は高いでしょう。
そのなかで、web3で生まれたさまざまな仕組みが、環境問題をはじめとする社会問題の是正に役立てられていくことも、大いに考えられます。
web3世代は、経済一辺倒の資本主義的な価値観から離反して、新しい文化を生み出そうとしている。
組織に属さずDAO(分散型自律組織)で自分の能力やスキルを発揮したり、NFTでお金に換算できない価値を大切にしたり、といったことです。
感覚としては、既存のシステムや価値観に嫌気が差し、ドロップアウトしてコミューンで暮らすというような、1960〜70年代のヒッピー文化に似た雰囲気を感じます。
ヒッピー文化は、長引くベトナム戦争に対する厭戦ムードから生まれたムーブメントでした。
web3が、それと文化的にどこか似た雰囲気を漂わせているのは、いまなお悪化し続ける環境問題や経済格差、それに加えてコロナ禍と、改めてさまざまな問題が噴出している世の中で、特に若者を覆うムードが似ているからなのかもしれません。
web1.0やweb2.0は「インターネット、おもしろいよね」「SNS、イケてるよね」というような気軽なノリでしたが、web3には、社会変革につながるような強い文化的なエネルギーを感じます。
ただし、実際にどうなっていくのかは、人々が何を求めるかによって決まります。
場合によっては、まったく新しい中央集権的な存在が台頭してくるかもしれません。
要は、すべては「可能性」の域を出ないのです。
なぜなら、テクノロジーはツールであり、そのツールを使ってどんな社会をつくっていくのかというゴールは、僕たちが決めることだからです。
よりフェアで平等で持続可能な社会をつくるというゴール設定のもと、テクノロジーを使うのならば、そのとおり、社会はよりフェアで平等で持続可能になり、よりよい世界が訪れるでしょう。
僕個人の所感をいわせてもらえば、Z世代と呼ばれる若い人たちは、それほど物欲も強くなく、環境問題などの社会問題に敏感に見えます。
その点で高度経済成長期やバブル期の空気を吸ってきた世代とはかなり感覚が違います。
そう考えると、世代交代が進むにつれて、テクノロジーを活用してフェアで平等で持続可能な社会へと向かうべく、大きなパラダイムシフトが起こっていく可能性が高いというのが僕の予測です。
読んで備える“破壊的ゲームチェンジ”
インターネットが誕生し、世の中に普及してから約20年。
「『インターネットがない時代があったなんて信じられない』『スマホを使いこなせない人は困る』というほどの劇的な変化が、いま、新たに起ころうとしている」と伊藤さんはいいます。
同書は、最新テクノロジーに詳しくなくても「概念」や「全体像」、「何が起こりうるのか」を整理するのに役立ちます。
誰もが不可避な“破壊的ゲームチェンジ”に、読んで備えましょう。
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