ビジネスパーソンインタビュー
伊藤潤一著『東大金融研究会のお金超講義』より
「『日本に美容師が何人いるのか』を推測してみよ」東大金融研究会が最初に東大生たちに送る教え
新R25編集部
東大金融研究会という団体を知っていますか?
発足から2年で約1000名が参加しており、東大新入生の20人に1人が入るほどの人気と注目を集めている団体です。
創設者は、外資系ヘッジファンドで20年以上活躍した超一流の投資のプロ・伊藤潤一さん。
伊藤さんが東大金融研究会で実際に教えている、お金を元にした思考法・考え方の本質を伝授する書籍『東大金融研究会のお金超講義』が発売されています。
今回は同書より、伊藤さんが最初に東大生たちに伝える大事な教えをお届け。伊藤さんが言う、知識を身につけるよりも大事なこととは何なのでしょうか?
投資よりも大切な「自分の頭で考える習慣」
東大金融研究会では、私が学生に向けて行っている講義があります。
そこで伝えている内容のうち、まず最も重要なのは「自分の頭で考える習慣をつける」ことです。
自分の頭で考えることができないと、他人の意見に振り回されてしまいます。
「この株を買えば儲かる」
「いまは株価が高すぎるから、まだ投資しないほうがいい」
「若いうちはお金を増やすより、自己投資をするべきだ」
といった誰かの声や一般論に依存していては、いざそれが間違っていると気づいたときに、自分自身で問題を解決できません。
外から入ってくる情報に頼ってばかりでは、物事をとらえる解像度は低いままになり、「何をどう修正すればいいか」を自力で導き出せません。
これでは、お金と向き合い、人生を切り拓いていくことは不可能です。
「お金の教養」とは表面的な知識ではなく、お金に関する物事について自分の頭で考え抜き、自ら定義することではじめて身につくものなのです。
では、どうすれば「自分の頭で考える習慣」をつけることができるのでしょうか。
Google検索をする前にやるべきこと
お題は何でもよいのですが、たとえば「日本に美容師が何人いるのか」を推測してみましょう。
調べればわかることですが、自分の頭でロジカルに考えて導き出してみてください。
私がまず考えたのは、美容師の平均的な収入です。
もちろん高い人も低い人もいると思いますが、月収30万円程度ではないかと考えました。
一方、美容室の顧客の平均単価は、だいたい5000円くらいでしょうか。
これだけで計算すると、1カ月に1人が担当する顧客は「30万円÷5000円=60人」ということになりますが、60人だけだと自分の給料分しか稼げません。
実際には美容室にはアシスタントや受付担当のスタッフもいますから、だいたい自分の給料の3倍程度は稼ぐ必要があるでしょう。
つまり月180人を担当する必要があるということです。
では、美容室に行く人はどれくらいかというと、日本の人口が1億2000万人、そのうち赤ちゃんなど美容室に行かない人を差し引くとして、ざっと1億人が月に一度くらい美容室に行くと考えられます。
「1億人÷180人」を計算すると、だいたい美容師の数は55万5000人と推測できます。
ちなみに、Googleで「美容師の数」と検索して上位に出てきた記事によれば、全国の美容師の数は「53万3814人」だそうです。
なお、これは結果が合っているかどうかが重要なのではありません。
最初から「どうせわからない」と諦めたりGoogleで検索して調べたりするのではなく、自分でロジックを考えることが大切です。
そして、結果が違っていたら「自分のロジックのどこが間違っていたか」を考える訓練を積むことで推測する力が高まります。
ロジカルに推測する力がつくと、たとえば「ニトリは国内であと何店舗出店できるのか」といったことも自分の頭で考えて何らかの答えを導き出せるようになります。
そして「ニトリがこれ以上出店できないとすれば、ニトリの戦略は今後どうなるのか?」と思考を巡らせられるようにもなるでしょう。
ニトリについて推測すれば、島忠を傘下に収めたのは、それまでニトリが扱っていなかったジャンルの日用品などをそろえた小規模店舗も展開することで、1店舗あたりの商圏を小さくできるからでしょう。
家具ばかり扱っていれば同じ人が頻繁に店舗に来ることは期待できませんが、日用品を扱うことで来店頻度アップを狙えます。
たとえば文房具を買いに来た人が「この寝具はよさそうだからこれも買っておこう」と思うかもしれません。
ロジカルな推測力は投資対象を選ぶときに役立つのはもちろん、社会人にとって仕事や人生のあらゆる場面で使える武器になります。
東大金融研究会のメンバーにこうした問いを投げると、最初はなかなか対応できない人が多いのですが、訓練すれば誰でもできるようになるものです。
偏差値や地頭は関係ありません。
必要なのは、与えられた情報を鵜呑みにせず、常に自らの頭を捻るという心構えです。
ぜひ、「自分の頭で考える習慣」を身につけてください。
しんどすぎる偏差値競争を抜け出すには
あなたも一度は偏差値の正規分布の図を見たことがあるのではないかと思います。
真ん中が「平均点」で、偏差値でいえば50ということになります。
偏差値60以上だとだいたい上位16%、偏差値70以上だと上位2%ということです。
学校の成績であれ、スポーツのプレーであれ、とにかくより右側に向かって走り続けることが推奨されているわけです。
しかしこのゲームはかなり辛いものだと言えます。
というのも、正規分布というのはゼロになることはなく、無限大まであるのです。
このゲームに参加している以上、どこまで行っても永遠に右側に向かって走り続けなくてはならないわけです。
ゲームに終わりはありません。
エンドレスなのです。
「これはさすがにしんどい」と思いませんか?
ですからあなたには、ぜひ発想を変えてほしいと思います。
右に向かって進もうとするのではなく、上に突き抜けることを考えてみてください。
それは言い換えれば「とんがる」ということ。
偏差値40でも偏差値60でも、とんがることは誰でもできます。
体系化され、ルールが決まった競争の中で争うのではなく、いかにそのルールから逸脱して、人と違ったことをやるか、いかにとんがるかを考えてほしいのです。
超長期で利益を残す会社は何をやっているのか
私は、利益とは「人と違ったことをやった対価」だと思っています。
現実の世界ではありえませんが、仮に完全競争下の世界があったとすると、そこで人と同じことをやり続けて得られる利益は、長期的にはゼロに収斂するはずなのです。
ですから正しく言えば、「超長期で利益が残る会社はどんな会社か」という問いの答えが「ほかの会社と違うことをやる会社」だということになります。
つまり会社経営においてはもちろん、中長期の投資家にとっても、「この会社はほかとどこが違うのか」「この会社はどこがほかと比べてよいのか」「なぜほかの会社ではなくこの会社が存在するのか」を追求するのが大事なのです。
ファナックという会社をご存じでしょうか。
かつて富士通の計算制御部から子会社として独立した会社で、その会社を工作機械の数値制御装置や産業用ロボットのトップメーカーへと導いたのが創業者の故・稲葉清右衛門さんです。
当時、工作機械の制御には数値制御のほか、人間による操作や機械的な仕掛けによる制御方式がありました。
そしてその時代の市場規模は後者のほうがずっと大きかったのです。
しかしそこで稲葉さんは、あえて市場が小さい数値制御の世界を選びました。
ファナックのほかにプレーヤーがほとんどいないような状況から挑戦し、数値制御装置で世界シェアトップをとる企業となったことで、同社は長期にわたり驚異的に高い利益率をほこることになったのです。
ファナックの例は、「何をとるか」の重要性を考えるヒントになるでしょう。
たとえばサッカーをやっている人であれば、誰もが「一流のサッカー選手になりたい」と思うかもしれません。
しかし、もし自分が一流になれないのであれば、コーチの道を選ぶのもよい選択肢かもしれません。
ちなみに、ドイツではトップチームでのプレイヤー経験がなくとも、若くしてコーチになる人がたくさんいます。
そういうシステムが機能しているのです。
ピアノなどもそうです。
ピアノの演奏家として身を立てるのは並大抵のことではありません。
ただ、もし演奏家になれなくても、たとえば「自分は耳の良さでは負けない」と思うならピアノの調律師になってもいいかもしれません。
ちなみに電子部品メーカーのローム創業者の故・佐藤研一郎さんは、現在のNHK交響楽団のバイオリニストだった父親を持ち、幼少期からピアニストを目指していました。
しかし学生時代にピアノコンテストで準優勝に終わったことをきっかけにピアニストの道を歩むことをやめ、その後、創業したロームを何千億円もの利益を生む企業に育て上げたのです。
まさに「正規分布の争い」から突き抜けたケースだと思います。
「サッカーをやるなら一流選手に」「ピアノをやるなら演奏家に」といった目標を持つのはもちろん悪いことではありません。
しかし本来「何を目指したいのか」は人によって異なるものであり、道は1つではないはずです。
誰もが似たような価値観を持つようになって「適材適所」になっていないのはもったいないことです。
頭のいい人が実践している、お金と人生の戦略
同書で特に強調されているのは、自分の頭で本質的に考えること。
そして、その力は人生で大事な人間関係、時間、お金、仕事などに一生役立つものになると伊藤さんは説きます。
講義の中で伊藤さんが指導している内容は、実際に東大金融研究会のメンバーに実践してほしいと思っていることであり、ビジネスパーソンにとっても重要なお金と人生の戦略になっています。
ぜひ手にとってみてはいかがでしょうか?
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