ビジネスパーソンインタビュー
小巻亜矢、髙木健一共著『Kawaii経営戦略』より
サンリオピューロランド館長が語る「ハローキティ」や「しまじろう」がマーケティングに活きるワケ
新R25編集部
企業や自治体、イベントで、なぜキャラクターを展開しているか知っていますか?
一般的にはただの話題化施策と捉えられがちですが、じつは経営戦略やマーケティングに直結するキャラクタービジネスというものが存在しているんです。
そんなキャラクターの奥深い意図を教えてくれるのが、サンリオピューロランドの館長である小巻亜矢さんと、髙木健一さんの著書『Kawaii経営戦略』です。
同書ではキャラクターの“カワイイ”を論理的に紐解いており「“カワイイ”は幸福と非常に結びつきの深いキーコンセプトであり、幸福であることが世界的に重要なアジェンダになっている現在、持続的なビジネスに有効である」と著者たちは話しています。
本記事では、サンリオやベネッセなどの大企業でどのように“カワイイ”がビジネスに応用されているのか、具体的な事例をまとめました。
“カワイイ”という定性的で掴みづらい概念が、ビジネスとどうつながるのかを教えてくれています。
世界的“カワイイ”の伝道師ハローキティを生んだ、サンリオの事例
世界のKawaiiのアイコン的存在であるハローキティがレディ・ガガ、アヴリル・ラヴィーン、ケイティ・ペリーといった世界のセレブリティに愛好されており世界的な人気を獲得しているなど、130の国と地域にキャラクタービジネスを展開しているサンリオは、世界的な日本語である「Kawaii」を典型的に体現する企業だ。
同社はなぜKawaiiを切り口として世界的なビジネスを築き上げることができたのか。
その秘訣は、「パーパスを実現する多様なKawaii」「Kawaii世界観を多面的に伝える場」「DNAに埋め込まれたKawaii」の3つのポイントがあると考えられる。
多様な“カワイイ”キャラの個性やストーリーを伝える
1点目の、「パーパスを実現する多様なKawaii」を表現の点では、サンリオは1960年の創業以来、「みんななかよく」の企業理念に基づき、心を贈り、心を伝えるビジネスを目指してきている。
その理念に込めた創業者の思いは深い。
戦争体験を通して、二度とそのようなことが起きないためには、人と人を繋ぐちょっとした「Kawaii」ものがあれば、なかよくコミュニケーションが取りやすくなるのではないか、という理由から、モノが溢れてきた高度成長期に、Kawaiiという付加価値を付けた。
1970年代に入り、自社のデザイナーによるキャラクターの開発が始まり、理念を象徴し、かつ、同社の事業展開の要となるハローキティをはじめとして、マイメロディ、リトルツインスターズ、ポムポムプリン、シナモロール、ぐでたまといったキャラクターが次々と生まれ、今や450を超えたキャラクターたちが、バラエティに富んだKawaiiを体現している。
同社のキャラクター展開で重要視している点は、個々のキャラクター展開を丁寧に行い、キャラクターの個性やストーリー、メッセージ性をしっかりとファンの間に根付かせていく点にある。
例えば、ハローキティは1976年のデビューから50年近く経過しているが、常にアップデートしていくことでキャラクターとしての幅を広げている。
ハローキティは世界で認知されるKawaiiの伝道師、また、日本発の代表的なキャラクターとしての価値を伝えることができる存在であり、国連と協力して「持続可能な開発目標(SDGs)」についての理解を深める活動に取り組んだり、また、2025年に大阪で開催される日本国際博覧会(大阪・関西万博)を招致する際に特使を務めたほか、グローバルイベント、自治体、金融機関など多様な団体のアイコンを務めている。
他方、マイメロディはファン一人ひとりの心に寄り添う存在であり、マイメロディのツイッターアカウントでは哲学的な言葉がつぶやかれていて、ファンはその言葉を精神的な支柱にしている。
このような個性豊かなキャラクターに対して、個々のファンは「推し」となる愛好するキャラクターを持っている。
そのファンの「推し活」を表現する場が、1986年から毎年行っている「サンリオキャラクター大賞」である。
個性豊かな人気キャラクターが豊富にいるため、ハローキティだけでなく、シナモロール、ポムポムプリン、マイメロディ、クロミといった人気キャラクターたちがそれぞれ強い存在感を発揮しており、キャラクターの層の厚さが垣間見える。
幸福な世界観を体現する、ピューロランドや社内の幸福度
サンリオがKawaiiビジネスを実現しているポイントの2点目である「Kawaii世界観を多面的に伝える場」として、サンリオピューロランドはそのシンボリスティックな役割を担う。
「みんななかよく」の世界観を手触り感をもって体現する場がピューロランドである。
その思いから、一時は低迷期に直面し、過剰投資と言われながらも、銀行や世間の批判に耐えながらピューロランドを手放さず持ち続け、共著者の小巻亜矢による『来場者倍のV字回復!サンリオピューロランドの人づくり』(ダイヤモンド社)にある通り、V字回復を実現させてサンリオにおける重要なビジネスの柱および世界観を体現する場として今に至るのだ。
一方、幅広い異色のコラボによる世界観の拡張も特徴的だ。
国内外の多くの人気キャラクターにおいては、第三者の使用について遵守すべきデザインアイデンティティやキャラクターが持つ世界観を厳しく規定するケースが多いが、ハローキティの場合は使用者やファンのニーズに合わせてオリジナルのデザインを柔軟に変化させており、不二家のペコちゃん、エルビス・プレスリー、ONEPIECE、ザ・シンプソンズなど、ハローキティが持つ世界観とは全く異なる相手ともコラボレーションを展開してきた。
そのようなコラボの考えとして、公式YouTubeチャンネル『HELLO KITTY CHANNEL』にて、ハローキティ自身が「〝選ばない〞っていうか、むしろ全部〝選んでる〞。キティがやりたいって思ったことを全部やった結果が今。〝やりたいことは全部やる〞っていうのがキティらしさ、自分らしさだと思ってる」と述べている。
「みんななかよく」に通じるように、多様かつインクルーシブな世界観を形成しているのである。
最後の3つ目の、サンリオがKawaiiをビジネスに組み込むポイントは「DNAに埋め込まれたKawaii」である。
サンリオにとって「Kawaii」はアイデンティティの一部であるばかりでなく、そこで働く従業員(サンリオエンターテイメント従業員)のKawaii感応度が全国よりも高いこと、および、同時期の全国幸福度調査での平均幸福度よりも従業員の幸福度が高いことが、サンリオエンターテイメントとPwCコンサルティングで行った「従業員Kawaii実態・幸福度調査」により明らかになっている。
カンガルー便×サンリオのコラボで異業種にも“カワイイ”効果
路線トラックで業界最大手であり、カンガルー便で知られる西濃運輸は、従業員1万2758名を擁し、8467名のトラックドライバーを抱える企業である。
一見、Kawaiiとの関係が想像しにくい業態だが、Kawaiiを通じて「パーパスの実現」を志向している示唆深い事例である。
西濃運輸はその経営理念として、「会社を発展させ、社員を幸福にする」と掲げており、トラックドライバーをはじめとする従業員の幸福にコミットしている。
同社はその経営理念を実現させるために、「ハローキティ」とのコラボレーションを行ったのである。
意外なように感じるが、ハローキティおよびサンリオのコンセプト・パーパスと、西濃運輸の使命やパーパスとの共通点は多い。
特に、ハローキティのコンセプトは「ボーダレス・他者理解」「親善、友好の象徴」「普遍的な思いやりの体現者」「社会貢献」であり、西濃運輸の掲げる「輸送立国」「すべての人に笑顔と幸せをお届けする」に通じている。
それに加え西濃運輸の戦略として、物流業界の今後の課題である「人口減少による労働力不足」と「グリーン化」に対応すべく、O.P.P.(オープン・パブリック・プラットフォーム)を志向しており、それがサンリオの「みんななかよく」の理念とも一致している。
物流業界のブランディングは難しい部分があるが、西濃運輸はハローキティの「発信力」「認知度」「好感度」を活用して、西濃運輸の社名および社内外への当該取り組みの認知を上げるとともに、新商品の拡販、採用、定着に繋げて「売上増、コスト減、利益増」といった実利にも結び付けることを狙っている。
コラボレーションの一例として、お客様に「ありがとう」を一番多くいただいたドライバーに「キティちゃん&カンガルーステッカー」を贈呈し、路線乗務社員(長距離ドライバー)にエコドライブ賞として「ハローキティステッカー」を贈呈してそれぞれのトラックに貼るといった社内外向けの取り組みと、ライナーコンテナにハローキティのイラストを施しツイッターで目撃情報を募集する、といった社外向けの取り組みを行った。
その結果、承認欲求が満たされる仕組みの可視化や、ハローキティシールを貼ることで人から見られる意識が高まるということを通じて、西濃運輸に起因する事故件数が65%減少し、ドライバーの安全意識が向上したという効果が出ている。
本事例で興味深いことは、「輸送立国」「すべての人に笑顔と幸せをお届けする」という会社全体としての理念やパーパスを、Kawaiiを体現する具体的な存在(ハローキティ)が橋渡しすることでイメージを具現化し、社内外のブランディングおよび事故件数減や従業員一人ひとりの安全意識向上という具体的な成果に繋げている点である。
Kawaiiは「身近な感情」であるからこそ、大上段のパーパスと、日々の具体的な取り組みをブリッジできるのである。
ベネッセは、一緒に頑張る“カワイイ”キャラで体験の難易度を突破する
Kawaiiの力をビジネスに活用する上での着眼点として、「とっつきにくいことをKawaiiを介在させることで身近なものにすることで、やってみようと思わせることができうる」という点がある。
本項ではその例として、ベネッセコーポレーションの事例を取り上げる。
ベネッセコーポレーションは、進研ゼミ、こどもちゃれんじの国内会員数が合計で272万人(2021年4月)を誇る通信教育最大手企業であり、その社名であるBenesseが、ラテン語の造語で「よく生きる」を意味する通り、「幸せ、ウェルビーイング」をDNAの根幹に持つ企業である。
ベネッセ創業者の福武哲彦氏は「日本中に〝壁のない学校〞をつくりたい」、つまり日本全国どこにいる子どもたちにも、等しく質の高い教育を届けたいとの思いから通信教育事業を開始し、教育を大衆化させた。
教育、勉強は「やったほうが良いのはわかっているがとっつきにくいもの」の典型的なテーマであり、ここにベネッセは「しまじろう」を代表とするKawaiiキャラクターを介在させることで教育を身近なものにした。
それは日本だけに留まらず、しまじろうがキャラクターを務めるこどもちゃれんじは、アジアでも展開しており、121万人の海外会員を擁する。
「しまじろう」は1988年の誕生から年以上経った現在でも多くの子どもたちに愛されており、Kawaiiことで子どもにとってとっつきやすい存在であるだけでなく、「子どもと一緒に成長していくバディ(友達)」であることが、子どもにとってのしまじろうの役割だという。
しまじろうが子どもたちにとって先生役でもなければただの愛でる対象としてのキャラクターでもないところが、Kawaiiを介在させて幼児教育を行うという文脈で重要なポイントだ。
なぜなら、勉強を行う上ではバディの存在があることで子どもが「やってみよう」と思うことができ、保護者からすると「ほら、しまじろうも頑張っているよ」と声掛けできるからである。
それだけでなく、「しまじろう」の世界には、主人公で男の子のしまじろうのほかに、女の子の「みみりん」、男の子の「とりっぴい」等の多彩なキャラクターが存在し、また、テレビやコンサートなどでストーリー、世界観を伝えている。
つまり、子どもにとってはこれらのキャラクターと遊んでいる感覚で勉強に取り組むことができるわけだ。
このようにKawaiiキャラクターおよび世界観を介在させることで、教育のような顧客にとっては頑張らなければならないタイプのビジネスに親和性がある。
同様に、教育だけでなくダイエット、禁煙、禁酒等の「消費者にとって、やったほうがいいのはわかっているが頑張らなければならない」タイプのビジネスについても、この考え方が適用できると思われる。
“カワイイ”をビジネスに役立てるためのヒント
Kawaii経営戦略 幸福学×心理学×脳科学で市場を創造する
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同書は、本記事でまとめているサンリオの事例をはじめとして多くの事例や、経営やマーケティング戦略に“カワイイ”を活かすときの具体的な方法が述べられています。
それらは、小巻亜矢さんがサンリオおよびサンリオエンターテイメントでの長年の経験から体感している内容であり、納得度と実用性の高いものになっています。
これを機に、“カワイイ”をビジネスにどうつなげていくのかを理解して、マーケティングの武器にしてみてはいかがでしょうか?
ビジネスパーソンインタビュー
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