ビジネスパーソンインタビュー

「こんな自伝、映画にはならないけど…」劇団ひとりが求める、“青春”と“人生”のバランス

白黒はっきりつけなくてもいいんじゃない?

「こんな自伝、映画にはならないけど…」劇団ひとりが求める、“青春”と“人生”のバランス

新R25編集部

2022/09/11

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『新R25』5周年フリーペーパーの巻頭特集インタビューを、Webにてお届けしています! フリーペーパーの詳細は
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フリーペーパーの復刊が決まったとき、巻頭を飾るのはこの方しかいないと思いました。

じつはフリーペーパー『R25』の創刊を記念したテレビCMや電車の中吊り広告に“R25世代の代表”として出演していたのが、当時27歳だった劇団ひとりさんだったんです。

昨年には『浅草キッド』の映画化を成し遂げ、「ずっとやりたかった目標が叶った」というひとりさん。

そんな人生の大きな山場を越えた今、「これからの5年をどうしていきたいですか?」と聞いたところ…芸人・劇団ひとりではなく、いちビジネスパーソン・劇団ひとりの人生観が見えてきました。

〈聞き手=福田啄也(新R25編集部)〉

【劇団ひとり(げきだん・ひとり)】1993年、太田プロダクションからデビュー。2000年より劇団ひとりとして活動開始。『ゴッドタン』を始めとする数々のレギュラー番組に出演するかたわら、小説家・映画監督としても活動。監督・脚本を務めた映画『浅草キッド』は大きな反響を呼んだ

福田

今回、どうしても劇団ひとりさんにご出演いただきたく、かなりの熱量を込めたオファーメールを送らせていただきました。

ひとりさんは、2004年の『R25』の創刊時のCMキャラクターを務めていましたが、当時のことは覚えていらっしゃいますか?

ひとりさん

覚えてます!

たしか、幕張で撮影したんじゃなかったかなぁ…当時、“泣き芸”でテレビに呼ばれるようになって、そのCMでも滝に打たれながら泣いてたと思います。

福田

滝に…今思うとすごいCMですね…

覚えている方、いらっしゃいますか?

楽しいだけだと虚しい。『浅草キッド』は“青春”だった

福田

この取材にあたって、劇団ひとりさんの「これまでの5年」をこちらで調べてきたのですが、一番大きいトピックスは『浅草キッド』だったと思います。

ひとりさん

そうですね。ちょうど5年前に脚本が完成したんですけど、どの配給会社にも制作を断られてて。

それをネットフリックスが拾ってくれたのが2019年。そこから撮影〜編集〜公開と怒涛の5年間だったと思います。

福田

かなりの長期プロジェクトですよね。勝手ながら、ひとりさんの人生の集大成のような作品だな…と思ってました。

ひとりさん

達成感はありました。ああいう感動は、長期間のプロジェクトだからこそ味わえるものなんじゃないかな、と。

でもじつは、『浅草キッド』の撮影を終えたあたりで新しい小説を書きはじめていたんですよ。

福田

そうなんですか!?

「やりきった! もう休もう!」となりそうなのに…

ひとりさん

大きな目標がなくなってしまうのが怖いんでしょうね、きっと

ドラマの撮影をやってても、半分を過ぎると「次は何をやろうかな」って頭になるんです。「お別れが見えてきたから次の新しい人を見つけなきゃ」と。

前の彼女と新しい彼女をちょっとダブらせるズルい男、みたいな感じですね(笑)。

ひとりさん

その一方で、最近はテレビの仕事のほうは、恐怖心がなくなっているなと思っていて。

昔は、テレビに出ることに対してもっともがき苦しんでいたんですよね。失敗したら、頭を抱えて2週間くらい落ち込んだりもしてたし。

でも、今はあんまり苦しまなくなってきたんですよ。

だから「このままだともう終わっちゃうな」という感覚がある。

福田

終わっちゃうな、というのは?

ひとりさん

青春が終わっちゃう、という感覚です。

ひとりさん

青春って年齢とは関係なく、苦しんで悩んで、それでも挑みつづけている状態のことだと思うんです。

このままテレビの仕事だけを続けていたら、それがなくなってしまうんじゃないかという恐怖があるんですよ。

会社で定年を迎えて燃え尽きてしまう…みたいな感覚なのかな。

福田

苦しまない働き方=ストレスなく仕事ができる、という側面もあると思いますが…

ひとりさんは苦しんでも挑みつづけるほうがいい、と。

ひとりさん

僕はそうですね。ただ楽しいだけだと、虚しくなってしまう

まわりを見ていて「この人はノーストレスで仕事をしているな」と感じることもあるんです。

その人が幸せならいいんだろうけど、はたから見ていて僕は「この人の青春は終わったんだな」って思っちゃう。

福田

なるほど…

ひとりさん

僕はまだ終わりたくないんですよ。隠居したくない。

この先どうなるかわからないような緊張感を持って生きていきたいんです。

「刺激が欲しい」ってことなんでしょうね。冒険家の人が、何歳になっても飽きずにいろいろな山に登りつづけるのと同じなんじゃないかな。

(ビート)たけしさんも、ずっと青春をしていると思うんですよ

ひとつのことを貫くのはかっこいい。でも、バランスをとる生き方が一番賢い

福田

今後も青春を求めていく…となると、ひとりさんの「これからの5年」はどうなっていくと思いますか?

ひとりさん

テレビの仕事より、ものづくりの仕事の比重を大きくしていきたいですね。

今はテレビとものづくりの仕事の割合が9対1だけど、それが逆になってもいいくらい。

映画やドラマはまだやれていないことがたくさんあるから、そっちにもっと時間を使っていきたいと思っています。

福田

おお…かなり大きなキャリアチェンジになりそうですね…!

ひとりさん

正直昔と比べると体力がなくなってきたから、どっちも100%はできないな、と思っているんですよ。

この5年で子どもが3人になっちゃって、家族との時間もちゃんと過ごしたいですから。

福田

なるほど。

ただ、「青春を続ける」と「家族」の両立って矛盾しているように思うのですが…

ひとりさん

そこはバランスですよね。

家族を優先したいから仕事をやめるとか、家庭をかえりみずに仕事をするとかあるけど、明確にどちらか一方を取らなくてもいいと思うんですよ。

福田

たしかに…

ひとりさん

過去の偉人とか有名な社長さんとかの話で「あのときの決断が人生を変えた」みたいなのって多いじゃないですか。

悩んでいるときは、明確に白黒はっきりつけたくなるし、右か左かきっちり分けて「英断したぞ」って気持ちになりたくなるのはわかります。

でも、僕個人としては「世の中、白黒はっきりつけなくてもいいことの方が多いんじゃない?」と思っていて。

バランスよく“ぼかしぼかし”でいいんじゃないかな。

福田

マルチに活躍されているひとりさんらしいな…

ちなみに、テレビの仕事とものづくり、どちらかひとつに絞ろうと思ったことはないんですか?

ひとりさん

考えたことはあります。映画『青天の霹靂』は僕の初めての監督作品だったんですけど、その現場が本当に面白くて。

そのとき「本腰入れてつくり手に回っちゃおうかな」って思ったんです。そうすれば、今ある時間をすべて映画につぎ込めるなって。

で、興行収入の結果を見てから判断しようと思ってたら……

福田

どうだったんですか?

ひとりさん

可もなく不可もない結果だったんですよねえ。そこで「もう少し様子を見ようかな…」で、今に至る(笑)。

今となっては、あのとき変にジタバタ動かなくてよかったなって思います。

福田

僕も複数の仕事に関わることが多いので、すごく共感できるのですが…逆にひとつのことを貫く生き方がかっこよく見えることがありませんか?

ひとりさん

わかりますよ。

ホテルのビュッフェでいうなら、僕は好きなものばかりをちょっとずつ皿に乗せるタイプなんでしょうけど、ストイックに山盛りのカレーしか食べない人のほうが、かっこよく見えますよね

みなさんはどっちタイプですか?

ひとりさん

でも、今はその感覚はないかな。

昔は家に帰らずバリバリ仕事をしている人を尊敬してたけど、実際自分が大人になって家庭を持ったら、全然かっこいいとは思わなくなりました。

福田

バランスを取れている人のほうがかっこいいと。

ひとりさん

家族も大事にして、人付き合いもして…っていう普通の人生って、はたから見たら全然面白くもなんともないんだろうけど、結局それが一番賢いのかなって思うんですよね

人生のおいしいところをちゃんと味わっていて。僕はそういう生き方がいいんですよ。

まぁ、そういう人の自伝は読みたいとも思わないし、きっと映画にもならないでしょうけど(笑)。

僕は仕事もちゃんとしたいし、家庭も趣味も諦めたくない

そんなひとりさんの言葉を聞いて、「シゴトも、人生も、もっと楽しもう。」という新R25のブランドスローガンを思い出しました。

仕事も家庭もバランス良くとれているひとりさんこそ、僕ら新R25が追いかけるべき背中なのかも。

ただ、ひとりさんが今なおテレビや映画の世界で最前線にいられているのは、ちゃんと仕事で“青春”を追い求めているからこそ。

まずは、“仕事の青春”を探すことから始めてみようと思います。

〈取材・編集=福田啄也(@fkd1111)/執筆=エディット/撮影=オカダマコト〉

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劇団ひとりד近未来”

劇団ひとりさんが『浅草キッド』の制作中から書きはじめていたのが、8月24日に発売された小説『浅草ルンタッタ』。

前作『青天の霹靂』から12年ぶりの書き下ろしになりますが、今回の舞台もまた浅草を選んでいます。

小説のもとになったのは、明治から大正にかけて存在した「浅草オペラ」。じつは10年以上前に一度小説化を試みたそうですが…浅草オペラを小説で表現するのは「荷が重い」と思い、遠ざけていたんだとか。

これまで「映画にするために小説を書いてきた」と話されていた劇団ひとりさん。今作もメガホンを握ることを視野に入れてつくったそうです。その目標は5年以内。劇団ひとりさんの次なる“青春”は、もう始まっています。

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