市川祐子著『ESG投資で激変! 2030年 会社員の未来』より
ESGは“新しい会社のルール”。気候変動対策は、なぜ私たちの経済に直結するのか
新R25編集部
様々なメディアに取り上げられ、いまや誰もが知っていて当たり前となっているSDGs。
では、ESGはどうでしょう。
聞いたことはあるけど詳しくは知らないという方が多いのではないでしょうか。
今回は、上場・未上場の複数企業の社外役員を務めている市川祐子さんの著書『ESG投資で激変! 2030年 会社員の未来』から、ESGについて紹介。
新しい社会のルールであるESGについて知らないと、置いて行かれるかもしれません。
この記事はこんな人におすすめ(読了目安:5分)
・ESGを知らない人
・ESG投資に興味がある人
・10年後も生き抜きたいビジネスパーソン
ESGとSDGsの違い
ESGに似たような文脈で、SDGsという言葉もよくテレビや新聞で見かけますね。
ESGとSDGs、違いがよく分からないという方、いらっしゃいませんか?
SDGsは、国連で定められた、持続可能でより良い社会をかなえるための世界共通の目標です。
取り組む人は、私たち全員です。
先進国も、途上国も、地方自治体も、企業も、個人も「責任」があります。
そしてお金を重視する投資家も、お金を重視しないNPO(非営利団体)もです。
扱う問題は平和や貧困・格差問題などから経済、地球環境まで幅広く、政府間レベルでのリーダーシップが必要なものも多くあります。
ESGは、企業が担い手です。
企業価値を持続的に高めるため、そして企業市民として「責任」を果たすための指針となります。
ESGを指針にした長期的な経営を、ESG経営ともいいます。
投資家にとっては「責任ある投資」を行う上で、企業を評価する手段です。
「責任」の中には国連や国に課せられた/約束した責任も含まれます。
ESGを評価手段に用いた投資が、ESG投資です。
ESGの考え方においては、企業が永続的に発展し、企業価値を高めるためには、株主・ステークホルダーとの共存共栄を目指すことになります。
おのずと事業との関連性の高いものに取り組むことになります。
ESG投資をするのはコスト削減のため
E(Environment 環境)・S(Social 社会)・G(Governance ガバナンス╱企業統治)の頭文字を取ってESG。
このESGに企業が取り組むことを、なぜ投資家が求めるのか。
ESGの具体的な項目としては、それぞれこんなものがあります。
ESG投資で激変! 2030年 会社員の未来E:気候変動対策、生物多様性、水などの自然資源・エネルギー問題など
S:顧客対応、従業員との関係、取引先との関係、人権、地域社会への貢献など
G:株主・投資家との関係、取締役会、コンプライアンス、リスク管理など
売上や利益だけでなく、E・S・Gに配慮した投資は、欧米の株式市場で起こった波で、今、日本に押し寄せています。
ESG経営は、「新しい会社のルール」になっています。
世界で最大の資産を運用している、ブラックロックという米国の運用会社(機関投資家)があります。
日本企業の株も世界で一番多く保有しています。
そこのCEO(最高経営責任者)のラリー・フィンクさんは、『気候リスクは、投資リスク』と言っています。
ブラックロックが運用しているお金は1000兆円以上あります。
日本のGDP(国内総生産)より断然多いです。
お金のほとんどは、ごくふつうの一般の人々から預かっている資産で、老後に受け取る年金や保険金の積立金など、将来のための資産を殖やす仕事をしています。
運用しているのは公的年金だけでなく、企業の年金もあれば、個人が積み立てている投資資産もあります。
米国だけでなく世界中からお金を預かっていて、もちろん日本の公的年金基金のお金も入っています。
かなり先の未来まで、他人のお金を殖やすことに責任を持っているのです。
例えば、今年産まれた赤ちゃんが80歳になるのは22世紀です。
若い世代が、年を重ねてお金が必要になったときの備えに責任を持つので、何十年、いや年単位で考えて、投資方針を決めるということです。
それから、もうひとつ重要なのは、運用しているお金が1000兆円もあると、世界中の上場企業数のうちかなりの割合、日本では半分くらいには投資することになってしまいます。
投資の基本には、投資先を分散してリスクを回避するというのがあります。
でも、ブラックロックのように巨大になると、世界経済全体の影響を避けるのは無理なのです。
気候変動対策を何もしない場合に将来予想される世界の経済損失と、今から対策する場合の世界のコスト総額と、どっちがブラックロックとその顧客である私たちにとって損失が小さいかということです。
答えはもちろん、今から対策するコストの方が小さい、です。
このまま何もせず温暖化が進めば、水害や猛暑で直接的な被害が起こるばかりか、食糧危機や、未知の感染症発生の恐れもあります。
生産性の低下まで含めれば経済損失はGDPの5〜20%とも見積もられます。
それに対して、気候変動対策にかかるコストはGDPの1%程度と見積もられています。
結局、ESGは経済的な価値に関係があることなのです。
ESGは全人類が知らなければならない
投資家の話が出てきましたが、「投資には興味ないし、株はやったことない」「お金儲けなんてどうでもいい」そんな考えの人もいそうですね。
いいえ、聞いてください。
ESG投資は、「投資なんか興味ない」「お金もうけはどうでもいい」という人ほど知ってほしいことなのです!
理由はふたつあります。
ひとつは、全ての人に関係していることだからです。
先ほどブラックロックという運用会社(機関投資家)を紹介しました。
運用会社の仕事についてCEOのラリー・フィンクさんは投資先の企業のCEO宛ての手紙でこんな風に書いています。
「ブラックロックが運用する資金の大半は、個人や年金受給者の退職後の生活を支えるためのものです。例えば教師、消防士、医師、その他社会を支える皆様のご資金であり、私共自身のものではありません。お客様が弊社を信頼し、弊社を通じて投資されていることを踏まえ、投資先企業に対し、弊社はお客様を代弁する大きな責任を負っています」
どんな仕組みなのか、ひもといてみましょう。
例として公的年金を挙げましょう。
皆さんは20歳になると国民年金に加入します。
月々一定の年金保険料を払っていますね。
それらの公的年金の一部分は、ブラックロックのような運用会社を通じて株に投資されているのです。
あなたも間接的には株の投資家なのです。
「資産運用」は、富裕層だけがするものだと思っていませんでしたか?
ふつうの市民の1万円、2万円のお金が積み立てられて集まった結果、日本の公的年金基金であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用資産は約200兆円にもなります。
その資産を、百年単位で、着実に殖やすのが、プロの投資家の仕事です。
あなたのお金を責任を持って預かり、あなたのために長期で殖やそうとしているのです。
お金は、お金以上の価値になる
もうひとつの理由は、お金は、お金で測れないような価値を生むことがあるからです。
お金に興味がないという方は、「世の中の役に立つこと」「誰かを幸せにすること」にやりがいを見出しているからと言うでしょう。
だから「お金は二の次」になっているかもしれません。
それはそのままでよいのです。
あなたが働くのではないのです。
投資によって、お金があなたの代わりに働いてくれます。
ESG投資でお金の使われる先にも、企業があり、そこで働く人たちがいます。
その人たちが、社会の課題を解決し、誰かの幸せの役に立つように、そして誰かを犠牲にすることなくお金を稼いでくれます。
それが回り回ってあなたの将来のお金となって戻ってくることを目指しているのです。
もちろん、大事なお金が減るのは困ります。
ですから、プロの投資家は、長い期間を見据えてビジネスとESGが両立するような会社を選んで投資し、運用してくれます。
短期で結果を出そうというのではないのです。
20歳で年金保険料を払い始めて、年金として受け取るのが65歳からとしましょう。
まず社会をより良くするビジネスで利益を上げる会社を選び、投資します。
そして45年間、ときどき投資対象を入れ替えながら、積み立てし、最低限、物価上昇に少し上乗せした程度に(できればもっと)お金が殖えて、65歳から年金として受け取る。
目指しているのは、そんな仕組みです。
ESG投資とは、社会的な価値も創出しながら株価も上がる会社に、私たちの大切なお金を預ける、ひとりひとりの人生に関係あるお話なのです。
10年後を生き抜くために必要な一冊
スマートフォンの普及、電子マネーによるキャッシュレス化、新型コロナウイルス、ロシア・ウクライナ戦争。
ここ10年で世界は大きく変化しました。
では、10年後はどうでしょうか。
私たちには想像できないような発展や出来事が待ち受けていることでしょう。
まだ見ぬ未来への備えは今から始めなければ間に合いません。
同書にて10年後を生き抜く準備を始めてみてはいかがでしょう。
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