ビジネスパーソンインタビュー
市川祐子著『ESG投資で激変! 2030年 会社員の未来』より
東大卒業生の就職先1位は「楽天」。“ファーストキャリア”を重視する若者のキャリア観
新R25編集部
「働き方が変わってきている」
そう話すのは、上場・未上場の複数企業の社外役員を務めている市川祐子さん。
確かに、TVでは転職についてのCMが多く放送されたり、スタートアップという言葉をよく耳にしたりするようになりました。
働き方が変わりつつあるように感じます。
今回は、市川さんの著書『ESG投資で激変! 2030年 会社員の未来』より、若者で主流になりつつある働き方について紹介。
より良い働き方をするためには、多様な働き方について知っておかなければならなさそうです。
この記事はこんな人におすすめ(読了目安:5分)
・就職先を迷っている就活生
・転職を考えている方
・未来の働き方に興味がある人
今どき東大生の就職先No1はメガバンクでも官庁でもない
大学の後輩の25歳のAさんが相談に来ました。
「今の会社で働いてもう3年目なので、そろそろ辞めようかと思うんですが」とのこと。
次のキャリアを考えたいと言っています。
大学を卒業して大企業に勤め、3年で辞める人は3割いるそうです。
こんな相談が日本のあっちこっちでなされていることになります。
最近は、優秀な社員から辞めていくという噂もよく聞きます。
私の周りでは、大企業を辞めてスタートアップに転職する人が増えました。
東大生の人気の就職先は、官庁やメガバンクではなくなりつつあります。
東京大学新聞によれば、2020年度の学部卒業生の就職先の1位は楽天グループ(以下、楽天)でした(楽天出身の私もびっくり)。
「東大金融研究会」というサークルで、株式市場についてオンラインで話をする機会がありました。
冒頭に希望の就職先を聞いたところ、投資家と起業家が人気で、メガバンクは非常に少なく、官僚はゼロでした。
金融を研究するサークルに所属する東大生は、安定より「働きがい」で就職先を選んでいるようです。
実は「働き方」や「働きがい」が重視されるようになったことも、ESG投資と大いに関係があるのですよ。
ESGのS(社会)には、従業員、取引先、顧客、地域社会など、株主以外のステークホルダーとの関係が含まれます。
とりわけ、今、「人」、特に人的投資に注目が集まっています。
なぜ今スタートアップが人気なのか
「働き方改革」が進んだこともあり、多くの日本企業で長時間労働が見直されるようになりました。
この改革の目的は、残業時間を減らして従業員の健康を守る一方で、これまでと同等かそれ以上の成果を出し、生産性を上げようというものです。
すなわち、出勤から定時退社までめちゃくちゃ集中して働いて成果を上げよ、というのが政府のお題です。
ところが、生産性は変わらず、労働時間(拘束時間?)だけが減り、なんとなく「ゆるい」感じになっている企業が実は多いようなんです。
これだけでも経営者から見たら問題ですが、実はもっと大きな問題が出てきました。
「ゆるい」会社では「成長が実感できない」「難しい仕事に挑戦する機会がない」などと不満を覚え、退職する若い社員が増えているようなんです。
「3年で3割辞める」社員の中に、優秀な人材が増えているのです。
そのような社員の受け皿に、スタートアップが名乗りを上げています。
スタートアップが、給料のほとんど出ない、手弁当で働く中小企業だった時代は終わりつつあります。
今や、上場企業と遜色のない報酬水準で、経験者を積極的に採用しています。
私が社外監査役をしているユアマイスターというスタートアップでこんなことがありました。
社員数は数十人規模です。
社員の会社に対する意識調査についての結果を見る機会がありました。
「ユアマイスターに入社(転職)してよかったこと」という質問の回答の中に、「ここでは思いっ切り働けること」という趣旨のものが複数あったのです。
残業ができるという意味ではありません。
私には意外に思えるほど、どの部署でも残業規制の意識はかなり高いです(完璧ではないですが、監査役として注視しています)。
労働時間の問題ではないのです。
ユアマイスターは、「モノを大切にする文化」を広めるため、ハウスクリーニングやリペアなどをECで展開する会社ですが、社長の星野貴之さんは「仲間と共にレベルの高い仕事を行い、本気で楽しみながら成長する」ことを社員に意識させています。
「目標に全力で取り組む」「本気で成長する」ことが、前の職場(主に大企業)では白けて受け止められたが、スタートアップのユアマイスターでは、当たり前のことである。
それがうれしい、というのが意識調査の回答でした。
労働を苦役と捉え、会社の仕事をただやり過ごしているような意識の若い人は、それほど多くはないようです。
「仕事を通じて社会に貢献している」実感が欲しい、若い人たちのそういうシンプルな欲求を感じます。
投資家からも人気なスタートアップ
株式市場において、ESG投資の対象は、長らく大企業に限られるものでした。
また、投資家が求めるESG情報の詳しい開示も、中小企業には負担となっていたこともあるでしょう。
しかし、今、ESG投資において脚光を浴び始めているのはスタートアップ、いわゆるベンチャー企業です。
では、なぜ今か?
まず、社会課題を解決するための事業で起業する人が増えてきたこと。
若者に多いですが、若い世代とは限りません。
お金のために働くのではなく、「何のために働くのか」を考え抜いた結果、自分の人生で違和感や不条理を感じた社会課題をなんとかしようとする人が増えてきました。
障がい者雇用を増やしたい、女性の働く環境を改善したい、身近な環境問題を解決したい。
そんな思いで起業する人が増えました。
そして、大企業にはないスピード感で経営できること。
これは、投資家にとっては、投資対効果が違います。
経営スピードが速いスタートアップへの投資が効果を上げれば、社会の課題解決も早くなるということです。
投資家にとっては(当たれば)投資の回収が早く、大きくできることになります。
ESG特化型のベンチャーキャピタルファンドのエムパワー・パートナーズ・ファンドでゼネラル・パートナーを務める関美和さんは、スタートアップに投資する方が、上場企業に投資するよりもリターンが大きくなると話しています。
それはファンドに資金を提供してくれた人たちに「大きく返す」ことができるので、自身のモットーとする「たまたま受けた幸運を大きく返す」ことにつながっていると話しています。
投資家にとっては、大企業よりスタートアップに投資した方が、投資妙味があるかもしれません。
もちろん、その分当たりハズレが大きいので、投資家の好みにもよります。
しかし、もしも余裕のあるお金で投資するのなら、世の中を「早く」良くすることに使いたいと思う人が増えていると感じます。
終身雇用を望ましいと答える学生はたったの3割弱
終身雇用を前提として就職する学生は減少しています。
2021年のマイナビの調査によれば、「ひとつの企業でキャリアを築く」のが望ましいと考える20代は男性で27%、女性で29%だそうです。
若者と話していると、「ファーストキャリア」という言葉がよく出てきます。
若手にも仕事を任せてくれる成長企業に最初に就職し(ファーストキャリア)、その次にスタートアップに転職し、それらの経験を経て起業する、という絵を描いている人も少なくないのです。
冒頭で紹介した東大金融研究会では、起業に有利といわれているから、最初に外資系金融やコンサルティング会社で働きたいという学生が多くいました。
楽天が東大生に人気が高いのも、20代の成長環境が充実していると捉えられているからのようです。
もちろん、皆がスタートアップや起業に向いているわけではありません。
ある30歳前後の男性は、「自分はスタートアップに向いていなかった」として、1年足らずで古巣の大手企業に戻ることに決めました。
「『出戻り』を快く受け入れてくれる会社でよかった」と話してくれました。
投資家や社会が人的投資や「ビジネスと人権」を重視し、企業がそれを実行していくには、人材市場に一定の流動性があることが前提になります。
働く人ひとりひとりが、自分に合った「働きやすさ」と「働きがい」の両方を意識して職場を選び取れるようになれば、日本の経済ももっと元気になることでしょう。
10年後を生き抜くために必要な一冊
スマートフォンの普及、電子マネーによるキャッシュレス化、新型コロナウイルス、ロシア・ウクライナ戦争。
ここ10年で世界は大きく変化しました。
では、10年後はどうでしょうか。
私たちには想像できないような発展や出来事が待ち受けていることでしょう。
まだ見ぬ未来への備えは今から始めなければ間に合いません。
同書にて10年後を生き抜く準備を始めてみてはいかがでしょう。
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