本明秀文著『SHOELIFE(シューライフ)「400億円」のスニーカーショップを作った男』より
「不景気こそ一人勝ちのチャンス」アトモスがコロナ禍を乗り越え、400億円企業へと成長した理由
新R25編集部
2021年10月31日、アトモスを運営するテクストトレーディングカンパニーが約400億円で売却されました。
そんなアトモスは、手取り14万8千円のサラリーマンであった本明秀文さんが、脱サラして始めた会社が原点となっています。
脱サラした本明さんが、いかにして400億円企業を育て上げたのでしょうか。
今回は、同者の著書『SHOE LIFE(シューライフ) 「400億円」のスニーカーショップを作った男』より、成功者の裏側を一部抜粋。
氷河期を何度も乗り越えたからこそ、説得力のある内容でした。
この記事はこんな人におすすめ(読了目安:5分)
・アトモスについて知りたい人
・スニーカーマニアの方
・成功したい経営者
歴史を知らなければ話にならない
基本的にブラックカルチャーと結び付きが強いスニーカーは、治安の悪いエリアほど、価格も安く珍しいものが残っている。
だけど、車の窓ガラスを割られて、荷物を全部盗られるなんてこともあり得るし、最悪、命の危険だって伴う。
アメリカでレンタカーを借りたら、車内が見えないように、まず窓ガラスを黒いビニールで覆うのは鉄則だった。
バイヤーだとわかると買い付けのための大金を持っていると勘付かれるから、服装も至極シンプル。
チャンピオンのスウェットかTシャツにリーバイスの「502」、そして「エアフォース1」を履くだけ。
他の日本人バイヤーとは違い、オシャレとは程遠い格好だった。
電話帳と睨めっこしながら、そこに書いてあるスニーカーショップをしらみつぶしに回った。
電話してもまず、僕たちが「“古いスニーカー”に興味がある」なんて理解してくれない。
店の人にとっては価値のないものだし、そもそもスニーカーの在庫があるなんて恥ずかしくて言いたくないから、「What’s!?」と気分を害されて、電話を切られるのがオチだ。
だから一軒一軒回って、「地下の倉庫を見せてくれ」と交渉するしかない。
そして歴史を知らなければ、バイヤーは務まらない。
例えば、ペンシルベニア州のピッツバーグは鉄鋼の街として栄えたけど、1970年になると鉄鋼業が衰退に転じ、工場が相次いで閉鎖された。
そういった栄枯盛衰を経た街には、古い店が多く、掘り出し物が必ずと言っていいほど見つかった。
何軒もスニーカーショップを回っていると、セールスレップ(営業代理人)と出会う機会も多かった。
アメリカは広すぎて、メーカーの営業マンだけだとカバーしきれない。
だから当時は、各地の個人事業主のセールスマンがメーカーと契約し、卸先に対して営業や販売を行っていたのだ。
わざわざ卸先用のカタログを用意しているところも少なく、彼らは1セットずつ現物のサンプルを持って営業している。
サンプルは自腹でメーカーから買っていて、そのシーズンの営業が終わったら役目を終える。
だから、メーカーは禁じているけど、隠れて売りに出すやつが多かった。
それを手に入れるためには、彼らにまず、信用されることが大切だ。
こちらから話しかける場合もあれば、日本人の並行輸入業者だと分かると「サンプルを持っているんだけど、買ってくれないか?」と、あちらから交渉してくる場合もあった。
最初はしばらく、お互いに身構えて様子をうかがっているけど、「コーヒーでも飲もう」とダンキンドーナツへ行き、だんだん打ち解けてくると本音での会話が始まるのだ。
「このモデルが欲しいんだけど、持っている?」「売ってやってもいいけど、代わりにこっちのモデルのサンプルも買ってくれ」
そんな塩梅で、人脈を作っては、どこにもないスニーカーを手に入れていた。
サンプルのサイズは27㎝しかなく、数も限られているけど、ドロップする(製品化に至らない)こともあるので、そういったモデルが市場に流れると、“幻のサンプル”として値段も高くなっていった。
しかも、世の中にないものはいくら高くてもすぐに売れてしまう。
だから本当に希少なスニーカーは、自分用に売らずにとっておくこともあった。
特にナイキの「バンダルシュプリーム」と「ブレーザー」が、僕のお気に入りだった。
不景気こそ絶好のチャンス
ブームには波がある。
僕は26年のスニーカーの商売で、スニーカーマーケットが極端に落ち込む氷河期を3度経験した。
1度目は「エアマックス95」のブームが終わった1998年ごろ、2度目はモードファッションが席巻した2005年ごろ、3度目は東日本大震災後の2011~2012年ごろ。
ちなみに、不景気のときに決まって「エアフォース1」のオールホワイトが売れるのは、一足あれば、どんな服装にも合わせられる、定番的なものを消費者が求めるからだ。
僕たちもシンプルな白と黒のスニーカーを多めにフューチャーオーダーしたりして、耐え凌いだ。
景気が良いときもあれば、悪いときもある。
かつて、埼玉・上尾のスニーカーショップ、ホウエイのおっちゃんが教えてくれた「景気が悪くなったとしても知識と情報さえあれば、それはむしろ一人勝ちするチャンスなんだ」という言葉を思い出しながら、景気が良くても悪くても、コスト管理を徹底して、売り上げ以外のところでも利益を生み出そうと努力してきた。
そして、売り上げが上がらない中でも別注などでコツコツと「価値」を作り、それを積み上げてきたことが、2010年代半ばごろから「文化」としてお客さんやメーカーから評価され始めたのだ。
良いときは、多くの同業者が参入する。
2010年代後半には、海外からナイキのトップアカウントを持つ有力スニーカーショップが次々と上陸し、1996年以来のスニーカー戦国時代が到来した。
彼らは豊富な資金力を活かし、数億円単位の内装費をかけてラグジュアリーブランドのように豪華絢爛な店舗を構えている。
資金力と高級感で勝負する彼らに対し、僕たちの武器は徹底したコスト管理と培ってきた文化にある。
僕たちはスニーカーではなく、「文化を売る」ことに活路を見出そうとしていた。
どちらがいいかは最終的にお客さんが決めることだけど、自信はあった。
コロナ禍であっても、過去にない成長を生み出す
スニーカーブームに乗り、「文化を売る」スタイルを確立し始めた結果、会社の売り上げは2020年に、200億円に迫ろうとしていた。
そんな折、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2020年4月、最初の緊急事態宣言が発令された。
街から人が消え、店は休業要請に従い、原宿の街もまるでゴーストタウンと化した。
スニーカーは本物の貨幣と同様、作りすぎればデフレのように価値が下がる。
僕たちも体験したことのないこの事態に、焦りを感じていた。
ただし、僕たちの商売は店舗が開いていてなんぼだ。
売れても売れなくても、路面店は1日も休まず開け続けた。
アトモスのオンラインショップには100万人の会員がいたから、緊急事態宣言中、すぐに目玉商品などの店舗の在庫をEC(イーコマース)に移動して、ECの売り上げを全体の60%ぐらいまで伸ばした。
店舗とECのディストリビューション(在庫の配分)をよりECに寄せれば、ECの売り上げ構成比は90%ぐらいまでは上げられただろう。
だけど、これまでも話したように、アトモスの強みは、顔の見えるお客さんに文化を売っている店舗にある。
ECに偏重しすぎれば僕たちの強みは活かせない。
あくまでもお店の存在価値をなくさないように、自分たちのお客さんの顔が見えなくならないように気を付けた。
だから、小さい店は閉め、店舗ごとのコンセプトを細かく変えて、他店との「違い」を重要視した。
コロナ禍では僕たちが、スニーカー氷河期に商売をしていたことが活きた。
店舗を精査し、コスト管理を徹底した。平時には気付けなかった「無駄なもの」がコロナ禍であぶり出された。
出かける機会が減ったのだから、スニーカーブームも終わりを迎えるかとも思ったが、コロナ禍の金融緩和で、世の中のお金の量がさらに増えて、リセール市場はさらに活気付いていった。
僕たちはコロナ禍の影響を受けた最初の年度、2020年8月期にこそ、売上高170億円で前年微減だった。
だけど、コロナ禍2年目には少しずつ売り方が分かってきた。
結果的に2021年8月期は、売上高209億円と前年比12~13%増で伸長した。
1年で40億円近くも売り上げが伸びたのは、テクストトレーディングカンパニー史上、初めてだった。
コロナ禍でインターネットは「当たり前」になり、もうインターネットの利便性で差をつけにくくなった。
どんな会社もECサイトに力を入れたから、買いやすさは標準装備だし、新しい機能を入れたところで、大して売り上げは変わらない。
売り上げを伸ばすには他とは違うことをするしかない。
だから、原点である店舗とお客さんに立ち返って、自分たちにしか売れないもの、自分たちにしかできないことをやる。
世の中がデジタルに向かえば向かうほど、フィジカルの強さで差が開く時代になっている。
400億円企業の成功の軌跡
「atmos(アトモス)」創業社長による初の著書である同書。
サラリーマン時代にフリーマーケットで販売していたことに始まり、「チャプター」の開業、テクストトレーディングカンパニーの設立、「アトモス」の開業など様々なことを成し遂げてきた本明さん。
その成功の軌跡を知ることができます。
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