日本マクドナルド著『日本マクドナルド 「挑戦と変革」の経営』より
マクドナルドが回顧する“停滞”の兆候と原因。「2013年からの数年間、『何か』が間違っていた」
新R25編集部
2014年から2015年にかけて、日本マクドナルドで起こった出来事をみなさんは覚えていますか?
テレビでも連日取り上げられていた、「中国産鶏肉の品質問題」「商品への異物混入問題」です。
日本マクドナルド株式会社は、著書『日本マクドナルド 「挑戦と変革」の経営 “スマイル”と共に歩んだ50年』において、当時「品質に対するお客様の信頼は失墜した」と振り返ります。
しかし、コロナ禍においても全店舗売上高、営業利益ともに過去最高を更新するなど、現在では見事に復活を遂げています。
今回は同書より、過去に世間を騒がせた出来事の原因や復活への道のりを抜粋してお届け。
あの出来事の背景にはいくつもの前兆が存在していたそうです…。
この記事はこんな人におすすめ(読了目安:5分)
・復活の道のりを知りたい人
・日本マクドナルドの経営に興味がある人
・問題に直面して解決に悩むビジネスパーソン
マクドナルドが世間を騒がせたあの問題
東日本大震災から約3年。
異変を感じながらも、従来どおりに事業を進めているさなか、ある問題が起きてしまいました。
2014年7月、中国国営の新華社通信が、上海福喜食品有限公司が保存期限の切れた鶏肉を出荷していたと報道したのです。
テレビで報道されたニュース映像は衝撃的でした(のちに日本には輸出されていなかったことが確認されました)。
この報道を受けて、該当工場との取引があった日本マクドナルドはその工場で生産された「チキンマックナゲット」の販売を即座に中止しました。
食品の品質と安全を確保するためならできることは何でもやろう。
そんな想いでさまざまなアクションを起こしたのですが、その矢先に今度は異物混入問題が発生します。
2015年1月、マクドナルドのチキンマックナゲットなどに異物が混入していたという報道が相次いだのです。
二つのできごとが立て続けに起きたことで、マクドナルドの品質に対するお客様の信頼は失墜しました。
当然、業績は大幅にダウンしました。
異物混入の報道があった翌日の売上はマイナス40%、その週末はさらに下落し、マイナス50%。
2015年1月期の売上は前年のマイナス40%に落ち込みました。
最終的に2014、2015年の2年間で売上が一気に1300億円も減少したのです。
これほど短期間に売上が低下したことは、過去に例がありません。
マクドナルドは本当に大丈夫なのか、そう思えるほどのダメージを受け、オーナーオペレーターや従業員の士気も著しく低下していきました。
成長の停滞には“兆候”と“原因”が必ず存在する
企業の成長の停滞はある日突然、降って湧いたように起こるわけではありません。
お客様からの信頼を失っていく過程には必ず前兆があり、そこにはいくつかの原因があります。
しかも、いくつもの事象が重なっていることが往々にしてあります。
現実として大きく売上が下がってからでないと、原因に気づきにくいということもよくあるのです。
このときのマクドナルドがそうでした。
2010年まで右肩上がりに推移してきた全店売上高が、東日本大震災が発生した2011年には8年ぶりに対前年を下回りました。
そして2012、2013年も連続して前年を割り込みました。
業績はいつも右肩上がりとはいきません。
成長に踊り場はつきものです。
だからこそ重要なのは、停滞を見過ごさず、その要因をよく確かめることです。
しかし、そのときは売上の水準も高く、私たちはなぜ停滞したのか、その背景や要因を明確に把握できていませんでした。
実はこの頃、売上だけではなく、顧客満足度のスコアも落ちていました。
満足度がじりじりと下がってきている。
この事態を重く受け止め、その理由をさらに精査していれば、早い段階で解決策を打ち出せていたかもしれません。
しかし、企業として成功体験の真っ只中にあったため、原因の発見は困難な状況でした。
「何か」が間違っていた数年間
この時期の典型的なアクションは、カウンターメニューの廃止でした。
カウンターのメニュー表を見ながらのご注文では時間がかかってしまうこともあり、後ろに並ぶお客様にストレスなく注文していただけるようにという考えから、2012年10月にカウンターメニューメニューを廃止し、代わりに注文前に確認いただけるようにメニュー全体を表示した大判のポスターを店内に掲示しました。
しかし、カウンターメニューの廃止には、お客様から「わかりづらい」という戸惑いの声が圧倒的でした。
このチャレンジへの理解は進まず、メディアによる厳しい報道が続きました。
結果的にはお客様にご迷惑をおかけして、クルーたちに大変つらい思いをさせてしまいました。
「何か」が間違っていたのです。
また、2013年1月に日本マクドナルド独自の取り組みとして実施した「ENJOY!60秒サービス」キャンペーンもお客様に不快な思いをさせてしまいました。
お会計が終了してから商品の受け渡しまでを60秒以内に行えなければ、ハンバーガーなどの無料券を差し上げる、という4週間限定のキャンペーンでしたが、お客様からの批判が殺到しました。
お客様にとっては商品券がもらえるのですから、60秒を超えたほうがお得といえばお得です。
しかし、そのような反響は少なく、再びお叱りをいただくことになりました。
お客様のご不満は日に日に増加していったのです。
もちろん、店舗スタッフはこのキャンペーンを成功させようと一生懸命頑張ってくれました。
しかし、お客様にはマクドナルドブランドに対する不信感が生まれました。
このキャンペーンでも、「何か」がさらに悪い方向に向かっていったのです。
改善に向けて復活した「スマイル0円」
改善に向けた行動のなかで、お客様の声、オーナーオペレーターの声、店舗スタッフの声、食の安全サミットや食品安全専門会議を通して聞こえてきた外部の方の声。
たくさんの声に日々耳を傾けていくと、これからの成長を促す本質が見えてきました。
それは、お客様の声に寄り添った戦略、店舗と人への投資、時代に合った組織と人材の配置でした。
この視点に基づき、2015年にビジネスリカバリープランを作成し、そして実行のプロジェクトチームを立ち上げました。
プロジェクト名は「525」。
スタートした大安の5月25日にちなんだネーミングですが、別の意味も掛け合わせています。
「525」だから「GOニコニコ」。
最悪の危機に直面しながらも笑顔を絶やさないために明るいジョークをメンバーでいい合いながら、全員で決めたプロジェクト名です。
私たちは、お客様にさまざまな変化を感じていただけるよう、全社一丸となって新たな一歩を踏み出そうと決意しました。
「どんなときであっても、お客様を最高の笑顔でおもてなしする」というマクドナルドの社員・クルー全員の思いを象徴する「スマイル0円」を完全復活させたのです。
これまで一部のメニュー表ではデザインの都合により記載を省略していましたが、改めてすべてのメニューに「スマイル0円」をはっきりと掲出することで、お客様を笑顔でお迎えするというマクドナルドの姿勢をお伝えしました。
このときから日本マクドナルドは再生に向けて歩み始め、皆がリカバリーに向けて自由な発想で意見を交わすようになりました。
約4カ月をかけてお客様視点で徹底的に議論を重ね、練り上げたビジネスリカバリープランは4つのアクションで構成されています。
日本マクドナルド 「挑戦と変革」の経営 “スマイル”と共に歩んだ50年1 よりお客様にフォーカスしたアクション
2 店舗投資の加速
3 地域に特化したビジネスモデル
4 コストと資源効率の改善
良い変化は恐れずに、期待に応えていく
2014、2015年のできごとは、最近では最も大きなビジネスの転換点でしたが、マクドナルドはこれまでも多くのビジネスの停滞と成功を経ています。
大切なことは、企業として変わるべきもの、変わってはいけないものを、お客様の声から発見し、常にチャレンジ精神、謙虚な心を大切にすることだと考えます。
世間から失敗とみなされたアクションであっても、失敗することを前提に行ったものは一切ありません。
どこに成功のカギがあるのか、最初から正解にたどりつくことは容易ではありません。
しかし、企業として目指す想いがどこにあるかは、お客様が一番ご存じではないかと思います。
これからもチャレンジを恐れず、あきらめたり、妥協したりすることなく、常に良い変化をしながら、お客様のご期待を超えていきたい、そしてリカバリープランを成功に導いてくれた全国2,900店のクルーの皆さんが楽しんで働き、充実して成長できる環境をつくっていきたいと考えています。
スマイルとともに歩んだ50年に密着した一冊
現在は全国に約2,900店舗を運営している日本マクドナルド株式会社。
「おいしさと笑顔を地域の皆様にお届けすること」を存在意義に掲げているほど、“笑顔”を大切にされています。
同書では日本マクドナルド初の公式ビジネス書として、笑顔にこだわり続ける意味やその裏側にあった危機についても赤裸々に公開。
トップであり続ける日本マクドナルドの成長への道のりを覗いてみてはいかがでしょうか。
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