

「この世に絶対必要なコンテンツや商品はない」
佐渡島庸平が社会人1年目に見つけた「ヒットの共通点」。ドラゴン桜をヒットさせた経験から語る
新R25編集部
『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』などの担当編集者として知られる佐渡島庸平さん。
ご自身がヒットメーカーであるのみならず、チームを率いてヒットを生み出したり、さまざまなエンタメの成功を追求する方として知られています。
そんな佐渡島さんに、「エンタメヒットの鉄則」を取材。
「そんなに簡単にできるものじゃない」とクギを刺されつつ、佐渡島さんが“入社1年目で見つけた”というある法則についてのお話から、論がスタートします。
〈聞き手=村岡紗綾(新R25編集部)〉

村岡
今日は佐渡島さんに、「ヒットの共通項」って存在するのかなってお聞きしたくて。

佐渡島さん
「ヒットをどうやってつくれるか?」っていうことを一言で言えたら、僕はもっとヒットをつくってるよね(笑)。
「ヒット」って、そんな簡単にできるわけじゃない。
基本的に、世の中に「このコンテンツがないとダメ」「この商品がないとダメ」っていうものはないと思うんだよ。

村岡
うーん、そうですよね…

佐渡島さん
ただ、「ヒットしているものにはこういう共通点がある」っていうのは、会社員の1年目に見つけたことがあって…
早すぎる。なんですか!?

佐渡島さん
それは、僕がやってるマンガやコンテンツに限らない。何か新商品を出すとするよね。関わる人はみんな「ヒットしたらいいね」とは思っているの。
それぞれの仕事として「私はデザインやる」「私は宣伝のコピーを考える」と。
ただ、その結果にコミットするところまで考えている人がどれだけいるか。もし失敗したら「ああ、俺が悪かった…」って思う人が何人いるのか?

村岡
「本気の人」が何人いるのか…っていうことですね。

佐渡島さん
そう。今の世の中、みんな満たされているんだよ。
だから、新しい車が出ようが、お茶が発売されようが、絶対的に必要なものなんてない。
そんななかで多くの人が求めるものをつくるって、「諦められない人がいるかどうか」ってことが一番重要なんだよね。

村岡
その“本気”を踏まえて、佐渡島さんがこれまでどうヒットをつくってきたら、具体の事例もお聞きしたいです。

佐渡島さん
“内容”をよくしてヒット作にすることと、“流通”をよくしてヒットにする。
基本はその二軸だと思う。内容と売り方。

佐渡島さん
『ドラゴン桜』を例にすると…
僕、中学時代は家庭の都合で南アフリカにいたの。

村岡
そうなんですか!

佐渡島さん
当時インターネットもあんまり普及してなくて、日本の状況も全然わからない。
一応日本の通信教育みたいなやつはやってたんだけど、教材も、郵便の往復で1カ月かかっちゃう。全然やる気がわかないわけ。
勉強するものと言ったら、その教材と教科書しかない。毎日学校が終わるとサッカーしたりバスケしたりしてて。
これで日本に戻ったら、自分はどんだけ落ちこぼれになるんだろうってずーっと不安だったの。

村岡
意外すぎます。

佐渡島さん
でも、シンプルに教科書を復習しているような勉強法が実はすごいよかったみたいで。
日本で受験したら、灘高校に入れたのよ。
で、灘高校にいると、東大受験の情報ってたくさん入ってくるんだけど、“そんな情報に全然触れられない地方の学生はいっぱいいるだろうな”と思ったの。

村岡
私です(笑)。宮崎県の高校に通ってて…

佐渡島さん
でしょ? 僕も、勉強に関する情報がちゃんとあったら、もっと安心できてたなって思って。
それで、『ドラゴン桜』は親すらも自分を信じてくれない、1人でも頑張る受験生のためにつくろうって覚悟を決めたの。
覚悟が決まったから、表紙に「東大合格請負漫画」って書くようにした。
「“中3のときの僕”を救うマンガにするんだって心を決めたんだよね」これが“本気”か…
「流通の施策を打ち続ける」佐渡島さんがいかに“流通”でヒットをつくったか

佐渡島さん
それは大きな「中身」の話で、ここからは「流通」の話なんだけど。
じつは当時の三田さんってヒット作がまだなくて、作品が書店で平積みにしてもらえなかったのよ。
それで、営業部の部長に「僕はこれをヒット作にしたいんだ」と頼み込んで、書店まわりに連れてってもらったの。東京のいろんな書店に行って…

村岡
お願いしたら大きく扱ってもらえるんですか…?

佐渡島さん
そんなことないよね。
…講談社には「指導社員」っていう制度があって、新人の僕を指導してくれた社員は『バガボンド』担当だったから、僕もいっしょにその仕事をやらせてもらってたの。
でも、今みたいに説明しない限りは、外部には新入社員だってわからないじゃない。
佐渡島さんは新入社員の年に『ドラゴン桜』を立ち上げられています。すごすぎるよ…

佐渡島さん
だから、「僕、バガボンドの担当編集です。しかも東大卒です」と(笑)。
「東大に合格するためのマンガを、超本気で新しく立ち上げてるんで、平積みしてくれませんか」って。

村岡
すごい人が来たみたいに…(笑)

佐渡島さん
街中で書店を見るたびに「モーニング編集部の者ですけど~」って入っていってた。
三田さんに原画を色紙に描いてもらったりもして。さすがに色紙を飾ったらその下は平積みにしなきゃいけないから(笑)。
で、ただ置いてもらえたのはいいんだけど、ここから問題があって。

村岡
はい。

佐渡島さん
「マンガだから、本当の受験のノウハウが書いてあるわけじゃない」と思われちゃってたんだよね。
『東京大学物語』(江川達也作。90年代にヒットした名作ラブコメ)みたいにとらえられているというか(笑)。

村岡
中身が正しく伝わってなかったんですね。

佐渡島さん
それで、偶然なんだけど友人のお父さんが京大で教えていたことを思い出して…すぐ電話して、コミックスの帯に「京大教授推薦!」って書かせてもらった。
母校の灘にも電話して、「灘高校教師推薦!」って。
なりふり構わない佐渡島さん。“本気”だから

佐渡島さん
権威を高めて「受験勉強に役立つ」って思ってもらうことが、流通でヒットさせるポイントだと思ってたんだけど、それでも信じてもらえなくて…

村岡
まだすごい高い壁が…

佐渡島さん
次は、「参考書コーナー」に置いてもらうのはどうかと考えたんだよね。
でも、頼んでも、いろんな事情があるみたいで全然置いてくれないわけ。

村岡
なんでですか?

佐渡島さん
聞いてみたら、本ってISBN(出版物に割り振られる番号、コード)で管理されてるから、それがマンガで登録されてると、書店内のどこで売れようが「マンガコーナーの売上」になるんだって。
参考書コーナーで売れてもマンガの売上になってしまうから、参考書の責任者の人たちは、損するだけなんだよ。
で、なんとか参考書コーナーとマンガコーナーの人が仲がいい書店を見つけて「1カ月だけやってくれ」と頼み込んだの。
「そこでも火がついて、その事例をほかの書店さんにも伝えていった」

佐渡島さん
あとは…僕、東大のゼミの教授から、「OBに堀江っていうやつがいる」っていう話を聞いてたのね。
当時、Livedoor Blogで堀江(貴文)さんが言うことがすごく注目されるようになってて…
OB名簿を調べたら、堀江さんのアドレスが書いてあった。で、メール送るだけならタダじゃん。

村岡
送ったんですね。

佐渡島さん
「こういうマンガをやってて、紹介してもらうとかできないでしょうか」と。
でも、忙しい人だから果たして返ってくるもんかなあ?と思ってたら…
ホント、体感的には5分もかからず返ってきて。「OK、じゃあ秘書と日程調整」みたいな。

村岡
おお…!

佐渡島さん
ブログで書いてくれて、それではじめてドカッと売れた。そこからドラマ化の話にもつながった。

村岡
そうなんですね…!

佐渡島さん
でも、途中のどれをやらなくてもダメだったと思う。すべてを積み重ねてきて、ドラマ化があったから最終的に大きく伸びた。
書店まわりとか、帯をどうするとかも、やっぱり1人で覚悟して踊り続けるしかない。

佐渡島さん
それで、当たってくると人が巻き込まれてくれるんだよね。
インタビューの続きは…「新R25メンバーシップ」にて!
『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』『ゼロ』を手がけた編集者、佐渡島庸平さん。ベストセラーを生み出した実体験から「ヒットの法則」に迫りつつ、プロジェクトを成功へ導くためのチームリーダーの心得や、ヒットメーカーとして大事にしたい習慣について語っていただきました。
〈文=天野俊吉(@amanop)〉

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