ビジネスパーソンインタビュー
「日本の物件売買で当たり前の手段になる」
「新築より中古物件がメジャーになる」のはなぜ…?日本初“ホームステージング事業”の伸び代とは
新R25編集部
社会には、まだまだ僕たちが知らない事業があります。
なかには「これってビジネスとして成立するの…?」と疑問に思うものも。
今回、お話を伺った「ホームステージング」もそのひとつです。
不動産売却のための空間演出をおこなう事業なのですが…「需要がとてもピンポイントだな…」というのが率直な感想です。
しかし、そんなニッチに感じる業界が今急成長中なんだとか(本当に?)。
新R25では、「ホームステージング」を生業とするサマンサ・ホームステージングに、その理由を直接聞いてきました。
〈聞き手=福田啄也(新R25編集部)〉
お話を伺ったのは、サマンサ・ホームステージング 社長室室長補佐の南アスカさんです
「ホームステージング」ってそもそも何ですか?
福田
率直に言うと…「ホームステージング」という事業をまったく知りませんでした。
南さん
そうだと思います(笑)。
わかりやすく言うと不動産物件の空間演出をすることで、物件の魅力を最大限に引き出し、売却期間の短縮に貢献する、販売支援サービスです。
たとえばこちらをご覧ください。
こちらがビフォーで…
ホームステージングすることでこちらの仕上がりに
福田
生活感のある部屋が、めちゃくちゃキレイに片付けられてますね…!
部屋全体にあったごちゃごちゃしたものがなくなったので、自然と部屋の奥にも目線がいくようになりました。
この写真なら、部屋の全体感がわかる気がします。
南さん
これはマンションに居住中のお客さまが、私たちのサービスをご活用いただいた事例です。
住みながら売却される物件を、スタッフ2名で片付け、お部屋にある本やグラスなどで飾り付けしました。
福田
なるほど…その方はどうしてホームステージングを?
南さん
持ち家に住んでいる方は、引っ越す前に今住んでいる物件が売れていないと住宅ローンの組み換えが難しいんですよね。
だから「住み替えをしたいタイミングで、ちゃんと物件が売れるようにしたい」という依頼でした。
福田
そうか…買った家から引っ越すときって、そんな流れなんですね…
一昨年、背伸びをしてマンションを買った福田。売るときのことをまったく考えていませんでした
福田
実際にホームステージングをしたことで、売買に変化はあったのでしょうか?
南さん
物件を売りに出してから、実際に売れるまでの販売期間を大きく短縮することができます。
日本ホームステージング協会発行の「ホームステージング白書」によりますと、たとえばマンションであれば、ホームステージングを実施したところ、平均販売日数が88日から37日にまで短縮した、というデータもあります。
戸建であれば、210日から42日と、約5分の1まで短縮できたという調査結果になっています。
ホームステージング白書2017(一般社団法人日本ホームステージング協会発行)
「居住中」のほかに、「空き家」に家財をいれて、そこでの暮らしをイメージさせて購買意欲を促すホームステージングもあるそうです
福田
販売に大きく影響している…!
これってどんなビジネスモデルになっているんでしょう?
南さん
ご依頼主様は、ほとんどが不動産仲介会社様です。
オーナー様が物件を売却するときは、不動産仲介会社に依頼するのが一般的ですが、その際「仲介手数料」を支払う必要があります。
※不動産仲介手数料…不動産取引を宅地建物取引業者へ委託した場合に支払う手数料のこと。「営業活動」や「各種手続きの代行」の報酬となる。400万円超の物件であれば、「取引物件価格(税抜)×3%+6万円+消費税」というのが、売主もしくは買主から受領できる仲介手数料の法廷上限となっています
南さん
この「仲介手数料」では、主に不動産情報サイトに広告を出したり、新聞折り込み広告を手配したりする営業活動の費用になっています。
この一部から、「ホームステージング」費用をいただいているんです。
福田
つまり、自分の家を売るときに「ホームステージングをしてほしい」と思ったとしても、仲介業者に追加で費用を支払う必要はないと。
南さん
そうです。不動産仲介会社ごとに適用条件を定めているようですが、もともとお支払いしている「仲介手数料」内で賄っていらっしゃいます。
ただ、「仲介手数料」の使い方は仲介会社次第なので、もし「ホームステージングをしたい」と思っているオーナーの方がいらっしゃいましたら、仲介会社に事前に依頼をしておいたほうがいいと思います。
ネットの情報だけで物件を売買することが当たり前に。「ホームステージング」需要が伸びた背景
福田
「ホームステージング」事業について大まかにはわかってきたのですが、実際のところどれだけニーズがあるのか?という点を伺いたくて。
ここ最近はどうなんですか?
南さん
3年前までは月100〜200件ぐらいだったのですが、ここ最近では月800〜1000件ほどご相談いただいてますね。
めっちゃ伸びてるじゃん…なぜそんなに?
南さん
これまで、不動産を購入するときは、まず不動産仲介会社に相談しにいき、物件を何件も何件も見てから契約に進むのが普通でした。
福田
超高額なお買い物ですからね。
南さん
ただ、外出することが難しくなったコロナ禍に入ってからは、急速にオンライン上で内見が進むようになって。
ネット上の情報で物件の良し悪しを判断して、内見する物件をある程度しぼってから購入する方が増えてきたんです。
そうなったとき、同じような物件が並んでいたとしても、片方の物件のほうが写真の数が豊富だったり、魅力的な写真があったほうが内見に行きたくなりますよね?
そんなネットを活用して物件を売買する風潮が、大きな追い風になりました。
福田
なるほど…
南さん
また、コロナ禍によって、住み替え需要が増えたことも大きいですね。
在宅勤務が急速に普及したことで、仕事部屋がほしい、もっと広い部屋に住み替えたいというお客さまがたくさんいらっしゃいます。
これまでの住み替えといえば、転職や出産といったライフイベントがメインだったんですが、最近では地方移住の風潮もあいまって、住み替える機会が多くなっています。
「市場をつくるために競合を増やす」日本初の企業としての取り組み
福田
そんな業界があったとは…全然知りませんでした。
南さん
日本で事業として成立したのは2012年から。私たちサマンサ・ホームステージングが日本初の企業として立ち上がりました。
なるほど、あなた方がパイオニアでしたか…
南さん
創業者は、もともと運送会社の事務員だったんです。
そのときにご年配の方から「引っ越すときの荷造りが大変だから代わりにやってほしい」というご相談をたくさん受けていて。
「こんなに悩んでいる人が多いんだったら、これを事業にできないか」と思い、自ら引っ越しお手伝いの事業会社を立ち上げたんです。
福田
事務員から起業…めちゃくちゃすごいな…
南さん
最初は引っ越しをするお客さまの荷造りの手伝いから始まり、そのうち家の片付けも受け持つようになって。
そのときに「キレイに片付けた状態の写真を撮ったら、その物件は今より高く売れるんじゃないか?」と思いついたそうです。
そして調べてみると、アメリカでは1970年代からすでに「ホームステージング」という事業があったらしく、それを日本でも始めることにしたそうです。
福田
僕もそんなサクセスをしてみたいんですが…
日本では1社もない状態から、市場をつくるのって難しいのでは?
南さん
そうですね。そのためには、“同業者が増えていく”ことも、業界にとっていいことだと思っています。
福田
えっ、パイオニアなのに、競合他社が出てきてもいいと?
南さん
大きな売り買いにまつわるものなので、競合がどんどん生まれて市場が拡大していくことで、お客様にもポジティブにご利用いただける状態になると考えています。
「ホームステージング」というものを文化として定着させるため、創業者である杉之原(冨士子)さんは「ホームステージング協会」という一般社団法人の設立にも携わりました。
杉之原さんはその後当社を退任し、今では協会の代表理事として活躍されています。
当社は、今は協会の運営には関与していませんが、こちらの協会では、新規事業者が参入しやすいよう「ホームステージング」のガイドラインを整備してくれたり、事例コンテストを開催したりしています。
また、先ほどお話したような、ホームステージングに関わるデータなどをまとめた「ホームステージング白書(業界調査)」も毎年出しています。
一般社団法人日本ホームステージング協会
日本ホームステージング協会は、日本で初めてのホームステージングの認定資格講座「ホームステージャー2級・1級」を開講しています。日本の不動産・
こちらがホームステージング協会。現在は60社以上の企業が参加し、認定資格試験を実施しています。
南さん
現在もホームステージング協会に参画している企業数は増えつづけていますし…
しかも、日本では今後、新築の物件は建ちにくくなり、中古物件の売買がますますさかんになると考えているんです。
福田
えっ、そうなんですか…!?
それはなぜ?
南さん
背景に、日本の人口減少と都市部への集中。限られた人口が都市部に集中していくと、新築の建物をつくるスペースは限られていきます。
また、物件をつくる建材も、このままだと価格が高騰していく見通しです。
福田
なるほど、いろんな資材が高騰してるって聞きますもんね…!
南さん
その通りです。そうなると、中古物件のニーズがますます高まり、物件の売買件数が増えていく。
そんな未来で「ホームステージング」という言葉を知らない人はいない、という段階まで成長させるのが私たちの今後の展望です。
「これからの日本は中古物件の売買が加速する」
このお話を聞くまで、正直「ホームステージング」という事業に、そこまで伸び代があるとは思ってもいませんでした…(反省)。
日本にはなかった「ホームステージング」の市場拡大のために、全国展開するサマンサ・ホームステージング。
いずれは誰もが知るような企業になる日が来るかもしれない…そんな未来を予感させる取材でした。
〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/編集=天野俊吉(@amanop)/写真=長谷英史(@hasehidephoto)〉
ビジネスパーソンインタビュー
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