ビジネスパーソンインタビュー

武井壮「有名になってチヤホヤされたら選手の競技力が落ちる?いや、そうじゃない」

世界記録も誰も見ていなければ1円の価値もない

武井壮「有名になってチヤホヤされたら選手の競技力が落ちる?いや、そうじゃない」

新R25編集部

2017/10/20

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武井壮プロデュースのスポーツエンターテイメント番組「HAOOO(覇王)5!」が10月22日(日)夜8時から、AbemaTVで放送される。

武井はどんな想いでこの番組を企画するに至ったのか。放送を目前に控えた某日、殺人的に忙しいスケジュールの合間をぬって、自身が考える「スポーツ界とアスリートのあるべき姿」について熱く語ってもらった。本インタビューでは、その想いを余すところなくお届けする。

野球は毎試合結果が違うが、陸上だとほぼ同じ。まずはこの「ゲーム性の違い」を認識すべき

ーー日本のスポーツがエンターテイメントとして成立するために、何が必要だと思いますか?

厳しい話なのですが、エンターテイメントとして多くの人にスポーツを見てもらえるかどうかは、競技による特性がかなり大きく影響していると思っています。やはり興行になりやすい競技と、そうでない競技がある。そこが第1のハードルなんです。

たとえば野球は、毎試合投手やスタメンが変わって、年間140試合以上やって全試合結果が違うから楽しめる。トップ選手が打ちとられても、普段打てない選手が打っても、エースが打たれても抑えても盛り上がる。

こんな風に何があっても楽しめる偶然性・ゲーム性の高い競技は、毎日試合をしても見たいと思ってもらえる可能性が高いから、興行になりやすい。当然、そういったスポーツはメディアも扱いやすいですよね。だからこそ、メディア企業がチームを持っている。サッカーも同じくです。

かたや陸上の試合を年間140試合やったらどうなるかというと、ほとんどすべての試合で勝つ選手が一緒という状況になってしまう。しかも、毎日試合をしていたらトレーニングができないから記録も落ちてくる。

オリンピックの100m走が盛り上がるのは、あくまで4年に1度しかない世界一を決めるレースだから。もしオリンピックの決勝の翌日にもう1試合、また次の日にもう1試合…と1週間連続でレースをしたら、きっともうみんな興味がなくなってしまう。

こんな風にスポーツを“観せる”いうことに関しては、競技によってどうしても差が出てしまう。だから運営側も選手側も、まずはそのゲーム性の違いのハードルがあるということを認識しないといけない

自分が参加している競技にどういう社会的価値があって、どういう集客の可能性があるか。そういったニーズを正しく把握すべきだと思います。

ニーズを見極める目は、競技への愛情で濁る。「まずは見て」だけじゃ状況は変わらない

そういったニーズを見極める目がどうしても“濁って”しまう原因は、関わっている競技に対する愛情であったり、自分たちの競技を“ひいき目”で見てしまうこと。「まずは見に来てください。そうすれば絶対に魅力がわかるはずです」と訴えるだけでは、もう一生状況は変わらない。

戦後からずっとスポーツの振興がされてきて70年以上も経って今があり、必要とされている競技はすでに多くの人に見られています。現在の状況は、そのニーズが如実に表れている結果じゃないかと思います。

こういう現実があると、運営側に広報を任せっきりにして「何もしてくれない」とか「もっとPRしてくれればいいのに」と不満を漏らしたくなってしまう選手もいるかもしれません。だけど、もうそういう時代じゃない。運営が集客できないのなら、選手1人が5000人呼べばいい。単純にそういうことだと思っています。

YouTuberの動画1本が何百万人、何千万人にも見られて、億単位のお金を稼ぐような時代になっているのに、日本のトップアスリートがそれに負けてどうするんだと。もっと観てもらう努力をしようよ。僕はそう訴えていきたいですね。

編集部撮影

陸上は1番会場を満席にしやすいはず。でも、9秒台が出た直後の試合でもスタンドはガラガラ

でも陸上競技なんかは、本当は1番会場を満席にしやすい競技なんですよ。なぜなら、大会に参加する競技者の数が圧倒的に多いから。

たとえば日本選手権だと、十種やマラソンも含めれば男女合わせて全部で40種目もある。それぞれの種目で平均30人ほどが出場しているので、40種目×30人。つまり約1200人の選手が参加しているわけです。

日本のトップ選手が1000人以上も出場していて、収容人数5万人の会場が半分も埋まらないってどういうことなのかと。年に1度しかない国内最高の試合に、選手1人でたった20人も呼べていないんです。しかも客席はほぼ関係者。毎日試合をする野球は、先発の18人で数万人の観客を呼べるのに。

でも世界に目を向けると、陸上は超メジャースポーツです。特にオリンピックの決勝は、野球よりもサッカーよりも盛り上がるメインイベント。たった8人が走るだけなのに、10万人の会場が埋まる。つまり陸上は1人のトップ選手が1万人以上を呼べる可能性がある競技なのに、日本ではそれが全くできていない。

ロイター/アフロ

先日、国体の決勝を見に愛媛に行ってきました。桐生(祥秀)選手が9秒台を出した直後の大会で、彼がリレーに出場するという状況なのに、メインスタンド以外はガラガラなんですよ。こんなことあっていいのか、と危機感を覚えました。

桐生選手が9秒98を出し、それを追って山縣選手が10秒00を出した。さらに10秒0台で走るサニブラウン選手、多田(修平)選手、ケンブリッジ(飛鳥)選手、飯塚(翔太)選手…世界で戦える選手が何人もいる。今みたいな絶好のチャンスは日本の陸上界にそうそうない。

その状況でこの集客ですから。選手が厳しい現状を自覚しなければ、20年経っても50年経っても、競技場にお客さんが入る数は変わらないと思います。

「チヤホヤされたら競技力が落ちる」じゃなくて、もっと選手の“宝物”を広めるべき

ーーなぜ日本のスポーツ界はそういう状況に陥ってしまっているのでしょうか?

根本的な原因は、「スポーツに集中することが最も重要で、それによって選手の価値も上がるはずだ」という考えが蔓延していることだと思います。

たとえば、新記録を出したりして選手に注目が集まると、メディアから取材がたくさん来ますよね。すると選手の周りにいる関係者が「選手の邪魔になるのでやめてください」とか、「有名になってチヤホヤされたら競技力が落ちる」とかでそれを遮ってしまったりする。

いや、そうじゃないと。選手が努力して、注目を集められるほどの“宝物”が生まれたとしたら、周りの人間はそれをより多くの人に見たいと思ってもらえるようなPRをしなきゃいけないんですよ。

編集部撮影

これは極端な例ですけど、仮に(ウサイン)ボルトの世界記録を超える9秒57で100mを走れる選手が日本にいたとします。でも誰も観客のいない体育館の中で友だちにタイムを計ってもらって世界記録を更新しても、ぶっちゃけ1円の価値もないじゃないですか。2人で「俺たち世界記録を出しました!やりました!」と叫んでも、それは何の価値も生んでいないと思うんです。

プロ野球が多くの人に見られているのも、テレビや新聞といったメディアを持っている企業や、大きな資本をもつ大企業がチームのオーナーになって、野球というスポーツ、そして自社が抱える選手の魅力を世の中に広く知らしめたからで、はじめはレベルが世界一だったからじゃない。そして、選手はメディアに取り上げられているからこそ知名度が高まり、社会的な価値が生まれて、プレーを楽しみにしてもらえる存在になっている。

選手が高給を手にして夢のある業界になることで、優秀な人材が集まり、恵まれた環境が手に入り、さらにレベルが上がっていく。それがスポーツが発展する理想形だということを念頭に置くべきだと思っています。

プロなら「競技だけに集中したい」は大間違い。最も重要なのは、見ている人の数だから

「僕は競技だけ集中してやりたいんで」と取材を嫌う選手もいるけれど、だとしたらプロとして稼ぎたいと叫ぶのは大間違い。

お金をもらって、スポーツを生業とするならば絶対に欠かせないのは、見ている人の数だから。例えば、どこかの企業の社長が「あの選手は素晴らしいね。PR効果がありそうだから、ウチからスポンサーしよう」と5000万円払ったとします。にもかかわらず、取材が殺到したときに「気が散って練習できないのでやめてください」と断ってしまったら、スポンサーは何のためにお金を払ったのかわからない。

スポンサーはあくまで広告主。彼らが払ってくれるお金は、ただのお小遣いというわけでも、自分が出した記録に対する賞金でもなんでもなくて、「選手自身の名前をより広めて、企業を世の中にアピールしてくれるだろう」という期待の込もったお金なんですよ。

しかし今のマイナースポーツ界では、選手がその金額以上のメリットを提供することができていない。スポンサーがたくさん生まれているのは嬉しいことだけれど、「数千万円出すほどの価値がなかったな」と思われて、いつか“スポンサー離れ”が起きてしまうと感じています。

選手もビジネスマンとして、自らの“商品”を売り込むべき。それが1番うまいアスリートは僕

アスリートが多くの人に見てもらうための行動ができていないのは、どうしたらスポーツが社会的価値・経済的価値を生めるのかを、選手たちが学んでいないことの象徴だと思います。

会社員であれば、自社の商品やサービスを幅広く知らしめて、売り上げを増やすことがすべての社員の目標なわけじゃないですか。スポーツ選手になって、記録を伸ばすことだけに集中したいから見てもらうために努力しないなんて、会社に入ったのに「商品のクオリティを上げたいから営業やってるヒマはありません」と言っているのと一緒。

だからスポーツ選手も1人のビジネスマンとして、自らが持っている競技力であったり出場する試合を、売り込むべき“商品”としてより多くの人に見てもらおうと行動するべき。そうすれば、世界でメダルが獲れなくてもプロ野球選手と同じぐらいの収入が手に入る可能性だってある。

そういう発信がうまいアスリート? そうですね…やっぱり1番は僕だと思います(笑)。でも、本当に。どこにも所属せずに1人でそれをビジネスとして成功させていて、発信できる場を作れる立場にいるのは、今は僕だけだと思うので。あ、あとは松岡修造さんも素晴らしいですよね。

競技力だけ見れば、日本一にしかなれなかった自分は世界のトップを目指している選手には実績では敵わないですけど、それだけが勝負じゃないということをスポーツ界に提示したくて芸能界に来ました。これからどんどん「スポーツをエンターテイメントにする力No.1」の武井壮を倒しに来るようなアスリートと戦いたいですね!

編集部撮影

『HAOOO5!』は身体能力の“宝箱”。各スポーツの垣根を越えて注目が集まるフィールドにしたい

僕は、“観客が感動できる価値”はすでにトップ選手の身体のなかに詰まっていると思うんです。ただ、それぞれの競技だけを応援したり、ひとつのスポーツだけ見ているとそれが本当に魅力的なのかがわかりにくい

だから、「この選手はこんな能力がすごいんですよ!」と言いながらいろんなスポーツ選手の素晴らしい能力をまとめて見られる“宝箱”があったら素敵だなと思って。

それが今回企画した『HAOOO5!』という番組です。この番組では僕が考えた5つのオリジナル種目を通じて、選手は自分のストロングポイントを視聴者へ見せつけることができます。

提供画像

“誰が勝つのかわからない”という不確実性を持ったエンターテイメントとして、この『HAOOO5!』がそれぞれのスポーツのファンという垣根を飛び越えて、多くの人の注目が集まるフィールドになればいいなと思ってます。

そして僕は、ただの勝ち負けではなく、選手たちが10年・20年かけて培ってきた能力が素晴らしくて、大きな価値があるものなんだということをなんとかして世の中に提示したい。

そこから新しく選手に興味を持ってもらって、チケットを買ってでも競技を観に行く人の数を増やせたら嬉しいですね。そして2020年の東京オリンピック以降も、全てのスポーツの全ての会場が満席になるような文化を生み出せれば最高です!

〈取材・文=渡辺将基&葛上洋平(新R25編集部)/撮影=長谷英史〉

「HAOOO5!」の放送は10月22日(日)夜8時から。3時間のスポーツ特番をお見逃しなく!

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