原作ではバルセロナを野原家が訪れていた!

カタルーニャ独立運動の象徴が『クレヨンしんちゃん』!? その意外なつながりとは…

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スペインからの独立の是非を問う住民投票が今年10月1日に行われ、注目の集まっているカタルーニャ自治州。カタルーニャ州の議会が一方的な「独立宣言」を可決した一方、スペイン政府は、憲法に基づいてカタルーニャ州の自治権を停止することを決定。

双方が決定的に対立するなか、実はこのカタルーニャ独立運動のシンボル的存在として、日本のアニメキャラクターである「クレヨンしんちゃん」が使われていると話題になっている。

いったいなぜ日本から遠く離れたカタルーニャの地で、独立運動とは何の関係もないように思えるアニメキャラクターがシンボルとなっているのか? 現代スペインにまつわる著書もある、京都外国語大学准教授・牛島万先生に聞いてみたゾ。

同作はスペイン全土で放送! 原作では、野原家がカタルーニャ州のバルセロナを訪れるシーンも

カタルーニャ州は、スペインの地中海側の一部地域。古くから栄え、「カタルーニャ君主国」という国も成立していたが、15世紀にスペイン王国に統一された。独自の文化や言語を持っていて、この地方だけで独立しようという動きが2010年ごろから高まっている。
『クレヨンしんちゃん」はスペイン全土で放送されている作品らしいが、カタルーニャという特定の地域のシンボルとして使われているのはなぜなのだろう?

「スペインでは主人公の下品な言動などが理由で検閲が入ったため、『クレヨンしんちゃん』が受け入れられるまでに時間がかかりました。しかし、営利主義が優先されたカタルーニャでは検閲などはほとんど行われず、放送開始がスペインのほかの地域より早かった。その結果、子どもだけでなく大人まで熱狂的なファンが生まれたのです」

カタルーニャでは早くから同シリーズが人気に。作者の故臼井儀人先生はカタルーニャの州都バルセロナに招待され、原作マンガの中には野原家がバルセロナを訪れる話もある。何の繋がりもないように思えたが、両者にはかなり密接な関係があるようだ。
原作49巻には「情熱のスペイン旅行編」が収録されているゾ

クレヨンしんちゃんを「カタルーニャ語」に吹き替え放送したことで、失われつつあった言語をを若者たちに広めた!

しかし、いくら現地で親しまれているキャラクターだからといって、民族的な独立運動のシンボルにまで抜擢されるものだろうか? 同作には何か“独立”に関わるキーワードも含まれているに違いない。

「カタルーニャ人の言語であるカタルーニャ語を第一語としている住民は、実は地域のなかでも31.6%だけなんです。それ以外はカスティーリャ語=スペイン語を話しています。つまり、カタルーニャ語は中央政府に組み込まれていくなかでの“失われつつある言語”だった。そんな状況下で、同アニメはカタルーニャ語で吹き替え放送をしてテレビや映画で大成功を収めた。クレヨンしんちゃん』は、カタルーニャ人のアイデンティティの拠り所であるカタルーニャ語の普及・復活に貢献したといえるでしょう」

日本でも、標準語に対してたとえば「関西弁」や「東北弁」が地方のアイデンティティを確立させることがある。カタルーニャ語の復活に貢献したことで、独立のシンボルに使用されているというのは納得がいく話だ。

運動は失敗に終わることを覚悟してる!? ヤケクソ気味の「いたずら心」がしんのすけにピッタリ

ただ、現地語に翻訳されている人気アニメなら、ほかにもありそう。「カタルーニャ自治州旗の赤と黄色の配色がしんちゃんのカラーに合致しているから」という推測もあるが…?

「色が同じということより、私は“しんちゃんが旗を持っている”ということが重要だと考えます。実はこの独立運動は、リーダーたちも本当に実現するとは思っていないフシがあります。現にカタルーニャにおいても、住民投票の投票率はわずか4割程度。現地のなかでも温度差があるんですね。このプロジェクトが未完で終わることを含めて、すべてを覚悟しているヤケクソ気味な『遊び心』や『夢』といった雰囲気が、いたずらっ子のしんのすけにピッタリなのだと思います。正直、日本のメディアで話題になっているほど、『クレヨンしんちゃん』は絶対的なシンボルとは扱われていません。あくまで『失敗しそうな独立運動を彩る遊び心』によるものだといえるでしょう」
カタルーニャの独立運動は“未遂”に終わりそうだが、警察による暴力的な弾圧は「政権側の汚点」となる可能性が出てきている。国際社会から批判されたり、野党からの政府批判の材料とされる可能性もあるという。

しかし、なじみ深い「しんちゃん」にそんな思惑が込められていたとは…。自分とは無関係だと思ってた独立運動にも、ちょっと興味が湧いてきたかも?

〈取材・文=オルカ〉