デビュー後はまさかの8カ月引きこもり…

旅によって自分を変えたナオト・インティライミが「すぐ旅に出ろ」とは言わない理由

  • 芸能・エンタメ
  • 2017.11.21
  • by 新R25編集部

ナオト・インティライミといえば旅!…という認識は、たぶんおおむね正解。大学2年生のときに単身渡米し、NYのアポロシアターで歌うという快挙を成し遂げる。その頃からレーベルに所属していたため、大学生にしてプロの音楽家でもあった。

「ダンスバトルでMCのマイクを奪って即興で歌うっていう。今考えると面白い青年でしたね(笑)」

そのとき得られた高揚感と大舞台に対するインパクトから、「世界で活動したい」という思いが生まれる。しかし大学を卒業し、まさにこれからという矢先に、所属レーベルがなくなる事態に見舞われる。インタビューの本題は、ここからだ。

デビュー後はまさかの引きこもり。「くすぶってるくらいなら…」と思い立ち、世界一周の旅で元気を取り戻す

「最初のデビューでは鳴かず飛ばずで、さらに事務所も潰れて。『絶対売れる』と友人、家族に大口を叩いて実家を出たのに、実際にはテレビにも出られないしCDも売れない…。こんな状況が恥ずかしくて、人にも会えないし電話にも出られなくなって、8カ月間は亀戸の団地に引きこもってましたね

曲を書こうにも何も浮かばないし、貯金もどんどん減っていく。現在の元気なナオトさんのイメージからはほど遠い状態だったのだ!

「普段ポジティブだと、そういうとき本当に弱いんです。落ち込んでいるところを人に見せたくないし…」

でも、引きこもってばかりもいられない。世界を目指すなら、準備をしないといけないから。

「当時、貯金は208万円あったんですが、海外なら宿を選べば1年半の滞在費は17万円で済むことを知ったんです。それなら家賃や食費のかかる日本でくすぶっている理由はないじゃないですか」

そして2003年8月から「世界一周の旅」へ出る。まず最初に訪れたのは香港。旅は楽しい。人目を避けて暮らしていたのが嘘のように、本来の元気を取り戻した。そこからは次々と世界を回る。シリア、レバノンといった中東から、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ、そして最後はジパングと周遊…ん、ジパング

能や狂言を見て驚き。世界の音楽を巡る旅で、もっとも衝撃を受けた国は「日本」だった

「自分が生まれ育った日本を旅の最後の場所にしたいと思ったんですが、約1カ月間日本語を使わないで、外国人のように旅したんです。『あの人日本人っぽいよね』という女子高生の会話に笑いをこらえながら(笑)」

そう、マルコ・ポーロのように「自分の知らない国」という意味で、ジパングと表現したのだ。そして世界の音楽を巡る旅の最後で、彼はもっとも衝撃を受けた出来事があった。

「能や狂言を見ていたら、並んで座っている2人が『いよぉーっ…ポン』と鼓(つづみ)のタイミングが合うことに目玉が飛び出るほど驚きました。欧米のようにリズムではなく、呼吸で合わせている日本人は世界一気配りの人種だって思いましたね

およそ1年半に及ぶ世界一周の旅から戻ったころには、25歳になっていた。その後、プロとして再始動し、2010年にメジャーデビュー。南米のリズムを取り入れた楽曲と、底抜けに明るいキャラクターが話題を呼び、「タカラモノ〜この声がなくなるまで〜」「今のキミを忘れない」はそれぞれ100万ダウンロードのヒットを飾る。

そしてナオトさんは今年、世界一周から13年ぶりの長旅に出た。

リスキーな“半年の旅”を決断した理由は、自分と音楽との順番を正しく戻すため

そのアフリカとヨーロッパを巡る半年の旅は、映画『旅歌ダイアリー2』にしっかり収められている。

「旅に行くのは、めちゃくちゃリスキーだったんです。こんなに回転サイクルの早い音楽業界で、半年くらい休むなんて、僕ごときがやるなんて危険が大きい。何度か話し合いがおこなわれました」

なぜ順風満帆ともいえる今、旅に出たのか。ナオトさんは「どうしてもいま行く必要があった」という。

「音楽を楽しんでいたのが、いつのまにか音楽に追われていたことに気がついて。順番を正しく戻したいと思ったんですよね」

自身の音楽の原点に立ち戻りたいという思いから、忘れ去られるリスクを背負って旅に出たのだ。それでも悲壮感なんてかけらもなく、渡航先での様子はパワフルそのもの。現地の人と一瞬で打ち解けてセッションをしたり、カーニバルに飛び込んでみたり。カーボヴェルデ共和国では、地元の国民的ミュージシャンに直談判で共演。こんな日本人はまずいないくらいのテンションだ。

そして、フル充電の状態で今ここにいる。

「もう放電、漏電です(笑)。今すぐアルバム10枚出せるくらいで、アイデアが渋滞中です。だから楽曲提供とかプロデュースも盛んにやりたいですよね」

人の一番のエネルギーは悔しさ。まず立ち止まり、“大いに悶々としてから”旅をしよう

くすぶったら旅に出て、疑問を感じたら旅に出る。ナオトさんの人生の傍らには常に「旅」があった。それでも「若者よ、旅に出よう!」と安易にはすすめない。なぜか?

「すぐ旅に出るというよりは、まず立ち止まって、大いに悶々とした方がいい。そんな順風満帆にいっても痛みがわからない人になるので。人の一番のエネルギーって、『なにくそ』という悔しさだと思う。立ち止まるって違和感を感じることだから、自分と向き合い、事実を受け止め、受け入れることから始めて、検証して何をすべきか考えたらいいんじゃないかな。それを経験した上でなら、やっぱり旅はオススメ。短時間でこんなにたくさんの出会いがあることは他にないし、変化を求めるならすごくいい機会になると思いますよ」

〈取材・文=吉州正行/撮影=林 和也〉

【ナオト・インティライミ】
8月15日三重県生まれ、千葉県育ち。「インティ ライミ」とは南米インカの言葉で『太陽の祭り』を意味する。世界一周ののち、自らのソロ活動の他、コーラス&ギターとして Mr.Childrenツアーサポートメンバーに抜擢され、知名度を上げていく。2010年にメジャーデビュー。12年リリースの3rdアルバム「風歌キャラバン」は自身初となるオリコン・ウィークリーチャート1位を獲得し、同年にはNHK紅白歌合戦に初出場を果たす。映画『旅歌ダイアリー2』は、アフリカ大陸14カ国のほかヨーロッパを巡る旅に密着したドキュメンタリーで、前編は11月23日(木・祝)、後編は1月5日(金)、TOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー。