「ライザップ」や「LA旅行」まで登場…

「返礼品がもらえておトク!」でイイの? ふるさと納税に苦しむ自治体の現状を知ろう

お金
節税テクとして紹介されることも多い「ふるさと納税」だが、最近その制度をめぐり、「都市部の自治体の不満が高まっている」というニュースをよく目にする…。いったいどのような問題が起こっているの?

自治体へ寄付をすると、実質2000円で豪華な返礼品がもらえる! 地方への納税を推進する制度

元気な地方をイメージした公式サイトだが…(※画像は総務省「ふるさと納税ポータルサイト」のスクリーンショット)
2008年に始まったふるさと納税はひとことで言うと、ボクらが払う住民税の1割程度を、育ててくれた出身地やいつか移住してみたい街など、“現在は住んでいない地域”の自治体にも寄付できるというものだ。

寄付をすると、自治体から金額に応じた返礼品を受け取ることができ、かつ寄付金額から2000円を引いた金額が住民税と所得税から控除される(差し引かれる)。ちょっとややこしいが、要は実質2000円の負担で豪華な返礼品がもらえるというお得な制度なのだ!
出典Youtube
地方から都市へ人材が流出しているなか、大都市圏にのみ税金が集中し、生まれ育った故郷や守られるべき地域の経済が縮小していくそんな状況を改善すべく始まった制度である。

そんなふるさと納税は順調に寄付金額を増やしており、2008年度は全国あわせて約73億円だったが、2016年度は約2844億円に! 4年連続で過去最高を更新中だ。

LA旅行、750万円分の土地…加熱し続ける返礼品合戦。還元率130%の返礼品まで登場

返礼品に「ライザップ」…?(画像は「ふるなび」のスクリーンショット)
ちなみに、2016年度に最も多くの寄付を集めたのは宮崎県都城市で、約73億円。2年連続の首位となっている要因は、宮崎牛や焼酎などの魅力的な「返礼品」だ。

返礼品の人気が税収に直結するとなれば、自治体はあの手この手で返礼品に注目させようとする。そんな「返礼品合戦」が加熱した結果、最近では思わぬ方向に…。

2017年現在の状況を見てみると、長野県・伊那市は「ライザップ」の健康増進プログラムを、大阪府・貝塚市はロサンゼルスへの海外旅行を返礼品としている。もはや地域と関係ないのでは?と思うが、たとえば大阪・貝塚市の場合は、ロサンゼルス近郊のカルバーシティ市が姉妹都市とのこと…。
2014年には、日本三景の天橋立で知られる京都府宮津市が1000万円以上の寄付者に「750万円相当、200平方メートルの宅地」を返礼すると発表し、総務省からストップをかけられたというケースもあった。

ついには、寄付金に対する還元率が「130%」と計算されている豪華な返礼品まで登場! 赤字になってでも自治体のPRになればという考えらしいが、こういった返礼品合戦の“チキンレース化”を加熱させてしまいかねない状況を見かねた総務省は2017年4月、この比率を3割以下に下げるよう全国の自治体に要請。しかし、法的な効力はないため、いまだ対応していない自治体も多い。

ふるさと納税をすると、住んでいる自治体の税金は減る。横浜市の「流出額」は55億円に…

世田谷区も「ふるさと納税」を募っているが、地方のアピールには勝てない…?
ふるさと納税本来の目的である“納税の分散”は進んでいるが、都市部の税収減は深刻だ。

これは、都市部に住んでいる人のなかで地方にふるさと納税をする人が増えることで、住んでいる自治体への住民税が「控除」される(納めるべき住民税が減る)ことで起きている。

2016年度のふるさと納税による寄付金受け入れ額と、他自治体への納税が増えたことによる控除額(減額分の住民税)をくらべた結果、「流出額」が最も大きかったのは神奈川県横浜市で約55億円。3位の東京都世田谷区(約30億円)は「学校1校の改築費にあたる税収を失った」とコメント。ふるさと納税を行う際は、自分が住んでいる地域の税収が減ることを理解しておかなければならないのだ。

「救われるべき自治体に納税されれば構わない」チキンレースから降りる自治体も

このような状況を踏まえ、ごく少数ながらチキンレースから“降りる”決断をするケースも出てきている。埼玉県所沢市は2017年4月から返礼品を廃止。市長は「他の自治体から(税収を)奪う必要はなく、救われるべき弱小自治体にふるさと納税されれば、それで構わない」と話した。
出典Youtube
「ふるさと納税に込められた思いに立ち返り、返礼品の終わりなき競争から降りる決断をしました」という所沢市。あわせて動画も公開している
ボクらも、個人としては還元率の高い返礼品を狙って寄付をした方が得であることは間違いないが、それが本当に正しい納税の姿勢なのか? 一度考えてみるフェーズに来ているのかもしれない。

〈取材・文=黄孟志(かくしごと)〉