ボクらの働きかたにも影響するの?

通称「残業代ゼロ制度」の“賛成派”に新社会人ライターがツッコんできました

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政府が国会に提出しようとして、野党からの反発を受けている「働き方改革関連法案」。そのなかの「高度プロフェッショナル制度」は、“残業代ゼロ制度”と批判を集めている。

そもそもどういう制度? 当てはまるのは誰?

高度プロフェッショナル制度とは、一部の労働者を「労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規制から外す」制度。要は残業代なく働くようになるということだ。

今のところ、法案で対象とされているのは、「高度の専門的知識を必要とする業務に就き、年収が平均の3倍以上(1075万円以上)」の人々らしい(管理職はそもそも残業規制の対象外なので、新たに該当する人は全従業員の1%未満だそう)。

あわせて「裁量労働制適用の拡大」も議論されていた(こちらにも反論が大きく、政府はいったん断念…)が、普通に考えたら、労働者の残業代が支払われなくなるなんてヒドイ話。だけどこれらの法律に対し政府は「残業をしないように業務をコントロールするから、結果的に長時間労働が減る」と言っている。ええ~?

ということで、大学で「働き方」について学んでいた新社会人ライターの私・森かおるが、この制度の賛成派としてラジオの討論などにも参加している、日本経営システム研究所の代表取締役である中村壽伸さんにいろいろ聞いてきました!

残業制限がないと、長時間働かされるんじゃないの?

森

「高度プロフェッショナル制度」は、どんな考えによる制度なんですか?
中村さん

中村さん

働いた時間によって給料を払うのではなく、その成果に対して給料を払おう」という考えが根底にあります。

この場合、時間や職務に対する賃金ではなく、成果に対する報酬が支払われる。当てはまる職業は、金融商品の開発、コンサルタント、研究開発などです。
森

そういった職業の人たちは、なぜ「成果に対して給料を払う」という考えが適用されるんですか?
中村さん

中村さん

たとえば、独立したプロの陶芸家がつくった作品を買うとして、「つくるのに何時間かかったからいくらで買おう」とは考えないですよね。

あくまでその作品自体の評価で値がつきます
。よりよい作品をつくるために、本人もその働き方に納得しているはずです。
森

ん? でも、陶芸家は誰かに雇われてるわけじゃないですよね
中村さん

中村さん

そうですね。なので「高度プロフェッショナル制度」は、高度な頭脳労働者を雇うときに、すぐれた陶芸家に支払うような高給を渡しつつ、正社員という安定した立場を与え、労働時間や場所にとらわれずに高い生産性を発揮してもらおう…という考え方なんです。
森

なるほど…そこについては分かった気がします。

ただし、残業時間が制限されないとなると、シンプルに「長時間働かされるんじゃないか?」という疑問が残るんですけど。
中村さん

中村さん

法案では「健康措置を講じること」もマストとされてますし、過労死を招くような働き方にはならないと考えています。

制度の対象となるのは、とても優秀で引く手あまたな人材。彼らは転職や独立がいつでも可能な状況ですから、不本意な契約内容であればその会社を辞めてしまうはずですよ。
森

うーん…。転職や独立って簡単なことじゃないし、家庭のことやいろんな状況によってできないこともありますよね?
中村さん

中村さん

会社がブラックなら、労働基準監督署に情報を提供するという手段もあります。必ず会社に問い合わせたり、調査してくれたり、何らかの行動を起こしてくれるはずです。
森

まあ、労基に行けと言われたらそれまでですが…
中村さん

中村さん

企業側も優秀な人材を失いたくないはずですから、制度を悪用して劣悪な契約内容を提示することはないと思います。

自分の判断で進められる高給な仕事は、残業代が認められないことも

中村さん

中村さん

というか、そもそも高度な専門職だったり、高給を取っていたりする人は、残業代が認められないケースが多いんですよ。

過去に、金融機関で証券取引を担当していた人が、未払いの残業代を払うよう会社相手に訴訟を起こしたことがありました。しかし判決は会社側の勝利で、残業代は支払われませんでした。

給料が月に180万円という高額だったこと、本人の判断で進められる業務に従事していたことが、この判決に至った理由だと思われます。要は「好きに残業できてしまう」ということ。
森

そんな判決があったのか…。まあ月に180万円ももらえてればいいのかもしれないけど。
中村さん

中村さん

現在でも、「管理職」はそうですよね。高度プロフェッショナル制の対象は、年収1075万円を超える人。これは部長職で最も年収の高い年齢層の平均額です。

業務に関して上司から細かく手順を指示されることがないという点でも共通していますし、高度プロフェッショナル人材も、「労働時間」の概念から外そうというのも自然な流れでしょう。

最初は「高収入の人だけ」でも、どんどん対象が拡大されてしまうんじゃ?

森

それだけのお金をもらえていればいいのかもしれませんが、「法律ができてしまえば、適用年収が引き下げられたり、対象職種が拡大されたりする」と危惧してる人もいるみたいです。そんなことにはならないんでしょうか?
中村さん

中村さん

現在日本は働き手が減ってきているので、良い労働条件を与えられない企業には人材が集まりません。また、この制度を実際に使うには労働者本人の同意が必要なのです。

高度プロフェッショナル人材として働くことに合意したくなければしなくていいので、高収入のチャンスだと思う人だけが参加すればいいのです。
森

そんなに自由に選べるものなんでしょうか? 会社から言われたら断れなそうですけど…
中村さん

中村さん

そういった会社はそもそもがブラックなのです。高度プロフェッショナル制度が悪いわけではありません
というわけで、私としては「法律が悪用され、結局多くの労働者が残業代をもらえずに働かされる」という危険性を感じていたのですが、中村さんの答えとしては「そんな会社には人が集まらない」というものでした。皆さん、納得できましたか?

企業が正しく導入してくれれば、日本の生産性を向上させる可能性がある制度だけに、きちんと運用されるのかをチェックするのが何より重要なんだろうなあ…と思います。

〈取材・文=森かおる/編集=天野俊吉(新R25編集部)〉