ビジネスパーソンインタビュー

「会社」を信頼してはいけない。サイボウズ社長が学生の悩みや疑問に答えてきた

「覚悟を持って、えいや!で選びましょう」

「会社」を信頼してはいけない。サイボウズ社長が学生の悩みや疑問に答えてきた

新R25編集部

2018/04/24

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記事提供:サイボウズ式

「大企業に入れば安心」という時代じゃないらしいけど、それなら、いい会社ってどこにあるのだろう? そもそも就職前の学生が、信頼できる企業を見極められるの?

3月9日にサイボウズ東京オフィスで開かれたサイボウズ式Meetup#6。今回は「サイボウズ社長・青野が学生の『就職』や『働くこと』に対する悩みや疑問に答えます」というテーマで、学生限定のミートアップを開催しました。

大切なのは「自分の判断基準」を持つこと

明石悠佳

今日は事前に学生のみなさんからいただいている質問に青野が回答していきます。さっそく、最初の質問からいきましょう。

会社を選択する際に大切にすべきことは何だと思いますか? また、信頼できる会社とはどのような会社でしょうか?

青野慶久

それは人によって違うと思います。知っておかなければいけないのは、大切にすべきことは一人ひとり違うということです。

「友達がこんな基準で選んでいるから自分も」と真似しても、自分に当てはまるとは限らない。むしろ自分にとって大切なものを失う可能性がある。

青野慶久(あおの・よしひさ)。サイボウズ代表取締役社長。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し、離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得している。著書に『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)など。

青野

ですから、まずは自分の判断基準を持ちましょう。ちなみにサイボウズでは、それがない学生は容赦なく落ちてしまいます。その人が本当に欲しいと思っているものが見えない環境に来ても、何も得られませんから。

「私は働くことで、こういうものが欲しいんです」と、自分の願望や目標をはっきりさせる。企業でその欲しいものが得られるかどうかが大事ですよね。

明石

リアルタイムでTwitterから質問を受け付けているのですが、こちらでは「自分の判断基準はどうやって見つけたらいいの?」という疑問がいくつかつぶやかれていますね。

青野

20代で自分の判断基準をしっかり持つのは難しいですよね。それでも、自分なりに仮説をたててチャレンジしてほしい。

具体的な話をすると、『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版 ストレングス・ファインダー2.0』という書籍があります。

青野

この本のテストを受けて、自分の強みを知ってみるのは良いですね。自分が他人と違うということを認識でき、自分はどんな人なのかなと判断する材料になります

その上で、自分は今までどのような基準で、何を選んできたかを振り返ってみる。よかったと思える選択とかね。

ただ、人は経験によってどんどん変わっていくものです。もちろん僕もそう。だから「自分の判断基準」は、就活の時だけではなく、これからもずっと探し続けていかなければならないことでもあるんですよ。

「会社」を信頼してはいけない。信頼するなら「人」を

明石

「信頼できる会社とはどのような会社か?」という質問についてはいかがでしょう。

青野

これはもうね、「あなたは会社を信頼するんですか?」と突っ込みたいですよ。

「サイボウズ」を信頼するといっても、サイボウズという会社には実体がないですよね。だから、その意味では会社は存在しないんです。信頼するとしたら、経営者だったりメンバーだったり、人ですよね。

そういうことを伝えたくて、最近本を出版しました。『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』というこちらの本です(笑)。

「今後求められる人材(新卒)ってどんな人?」

明石

続いて、次の質問です。

今後求められてくる人材(新卒)はどういった人でしょうか? 青野さんは、どのような学生を採用したいと考えていますか?

青野

これは企業によって変わりますよね。グローバル展開をしていきたい企業は海外に強い人材、といったように。

青野

サイボウズの場合は超シンプル。僕が絶対に譲れないと思っているのは「理念に共感しているかどうか」。サイボウズの理念である「チームワークあふれる社会を創る」に共感できていない人が、この会社の環境を楽しめるわけがない。

チームが集まる。組織ができる。そこには何か理由があるはず。その理由に即してない人が入ると、お互いに不幸になってしまいますから。

答えはない。えいや!で選ぶ。自分で選ぶ。

明石

次は、なかなか難しい質問です(笑)。

社会が多様化する中で、「選択肢」も多様化していると思います。確実に「正解」と言えるようなものはなく、個人が各々で「正解」を決めていくことができるようになりました。どのようにして「これが正しい選択だ」と決めていけばよいのでしょうか?

青野

多様な選択肢の中から「正しい選択」をする方法ですか…これは難しいですね。

まず結論からいうと、正しいかどうかは、選んだ後もわかりません。人生一度しかないので、「A社よりB社に入っておけばよかった」というのは比較しようがないんですよね。

なので、自分の選択が正しかったかどうかは未来永劫わかりません。もうね…「えいや!」ですよ。

青野

正解はわからないけど、幸せになるためには主体的に選ぶこと。

「誰かが言っていたから」という基準で選んでいる限り、いつまでも自分で責任をとらずに他人のせいばかりにしてしまいますから。

でも、自分で選んで、「責任はすべて自分がとるぞ」「失敗したら転職すればいいんだ」という覚悟ができると、何を選んでも後悔することはありません。

青野

みなさん、部活とかもそうだったでしょ。その選択がよかったかどうかは、本当のところわからないんです。あとからなんとでも言える。

自分は一人だけ。他人に正解は教えてもらえません。えいや!で選ぶんです。その覚悟を持てるかどうか。これが人生の楽しみ方です。

「仕事ってそんなに大変なんですか?」

明石

続いての質問はこちら。シンプルです。

仕事ってそんなに大変なんですか?

青野

この質問はすごいな(笑)。むしろ社員のみんなに聞いてみたいんだけど。明石さん、どう?

明石

うーん、「大変」というのが何を指しているのかにもよると思いますが、ネガティブな意味で使っているのだとしたら、大変ではないかな。「楽しい」に近いです。

青野

明石さん、楽しんでいるもんね。楽しさがあふれてる(笑)。

これ、実際に質問した人にどういう意味の「大変」なのか、聞いてみたいな。

学生

その質問をしたのは僕です。この間、高校を卒業したばかりで、今年から大学生なんですけど。

青野

おお! 若いね!

学生

高校に電車で通学していたときに、帰りの車内で疲れたように眠っている社会人が多いなと感じていて。

優先席で睡眠をとっている社会人、その前に立つ年配の方…みたいな光景を見て、「そんなに大変なのかな」と。そんなに周りを見ることができなくなるほど疲れちゃう仕事ってどうなの?と思って質問しました。

青野

なるほど。それは残念な光景だ。周りも嫌になっちゃいますもんね。

ただ、日本って働きすぎってよく言いますけど、人によって疲労度は変わってきます。できれば、自分の限界を知りながらマネジメントしたいところです。

青野

日本はメンバーシップ型(※)という雇用契約の形をとっている企業が多いので、会社から「異動しなさい」「転勤しなさい」と言われたときに断る権利がないんだよね。

できればこの雇用制度をアップデートしたいんだけど、残念ながらいま国会ではそのことについて議論がされていない。

自分で働く時間や場所を選ぶ権限、断る権限、それを持たせるような法改正が今後必要かな、と思っています。

(※)メンバーシップ型雇用:年功序列や終身雇用を前提にした、職務や勤務地、労働時間を限定しない雇用の形。

イケてる代表とイケてない代表、どうやって見分ける?

明石

Twitterでつぶやかれていた質問もご紹介しますね。

青野

まず、自分でイケてるかイケてないかの判断基準は持っておきたいですね。たとえば僕がひとつの基準にしているのは、志の高さです。その人が何のために活動しているのか。

もうね、大企業の経営者とか、意外とイケていない人が多いんです。「改革だ!」なんて偉そうに本を書いていても、年功序列ひとつ変えられない人が、ちょっとビジネスモデル変えたくらいだったりしますから。

明石

代表と直接会えない学生さんが判断する場合は、どうしたらいいでしょう。

青野

言っていることとやっていることが合っているか、つまり言動一致を確かめるという点では、代表が企業の広報やSNSなどを通じて何を発言しているのかをチェックしてみるのはいいですね。

発信を積極的に行わない代表者はもったいないですよね。せっかく話を聞いてもらえる立場なのに。発信をしていないとなると、言動一致しているかどうか、確かめるのはなかなか難しいと思います。

大人になっても夢を追い続けるには「持ち替える力」が大事

青野

会場で直接、青野に質問してみたい人はいますか?

学生

大人になっても夢を追い続けるような人に憧れます。でも、それって難しいような気がしていて。

青野さんはやりたいことが明確で突き進んでいるように見えますが、どうすれば大人になっても夢を追いかけることができますか

青野

深いですね。まず、そもそも僕は何度も夢破れているんですよ。だって、最初はプログラマーとして活躍をしたいと思っていましたから。

小さい頃からコンピューターが好きで、大人になったら技術者として自分の納得がいくまで追求したかった。でも、才能がなかったですね。大学でサイボウズ株式会社の共同創業者である畑さんと出会って、直感で「絶対勝てない」と思った。

青野

そのあとも就活をして研究職に就きたいと思ったけど、それも思うようにいかなかった。サイボウズを立ち上げたときだって、すぐにGoogleやMicrosoftのようになりたかったけど、なかなかうまくいかない。いま、一歩一歩這いつくばるようにして進んでいる感じ。

そういった経験でひとつ言えるのは、夢っていうのは状況に応じて変わっていくということです。いつかは諦めなければいけないときがくるかもしれない。

そのときに必要なのは「夢を持ち替える」力。リセットして入れ替え、次の夢に向けて頑張ろうと思える力です。

そうすれば大人になっても夢を追い続けることはできるかもしれません。夢はね、変えてもいいんですよ。

明石

最後に、青野さんから学生のみなさんに向けて一言、お願いします。

青野

就職について、いろいろ言ってくる人がいるとは思うんですが、基本無視で大丈夫です! 20世紀の考え方が、ずっと通用するわけではありませんから。自分の軸をどうするかは、自分で考えなければいけません。

いろんな人の話を聞いてみてもいいけど、最終的な答えは自分の中にしかない。そんな感じで、もうちょっと人生を楽しんでみればいいんじゃないかな、と思いました。

〈執筆=園田菜々/編集=松尾奈々絵(ノオト)/撮影=栃久保誠〉

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