ふしぎだけど本質的な「お金と人生」の話

「毎日人に会って生きていれば、お金なんていらない」ホームレス小谷インタビュー(後編)

お金
記事提供:FROGGY

家なし、定職なし、現金なし。それなのに毎日人と会って、大好きな鮨を食べ、結婚までしちゃった、ホームレス小谷さん

「50円」という小さなお金を媒介にたくさんの人と出会い、プライスレスな思い出をつくり、気づいたらごはんも洋服もある。

ふしぎだけど本質的な、小谷さんの「お金と人生」についての話を聞こう。

おごった人に「ありがとう」と言われ

――ホームレスになり、50円で「何でも屋」を始めて約4年。最初は草刈りや悩み相談を受けていたのが、どんどんグレードが上がってますよね。最近は、海外に行くことも多いとか。

小谷:いまは毎月のように、海外に行ってます。最初の依頼は「韓国で天気見て来て」って言われて行った(笑)。それからいろんなのが来るようになって、「ビジネスクラスの乗り心地を確かめてほしい」とか。

実際に乗ってみたらテンション上がって、隣の人に話かけたら、ばり嫌な顔されました。こういうゴキブリみたいなやつが入って来んためのビジネスクラスなのに、どうやって突破して来たんや! って、心の声が聞こえましたね(笑)。

――ビジネスクラスの感想は、なんて返したんですか。

小谷:「ばり広かった」。

――乗せてもらって、それだけ(笑)。

小谷:はい。あまり僕に期待しないでほしいです。
――でも結果的には、依頼者は50円どころか、結構な額を小谷さんに払っているわけですよね。鮨や飲み代もそうだし、ビジネスクラスの往復チケットに至っては、何十万という支出です。小谷さんは50円で頼まれた仕事をやって、相手はそれ以上のことを返してくれる。これって、どういうことなんでしょう。

小谷:なんかそれ、いい関係っすね! そういうの好きっす! って、あれ? 何を聞かれたんでしたっけ(笑)。

――(質問しなおす)最初は、小谷さんが依頼者のために50円で仕事を「やってあげる」関係なのに、結果的には相手が小谷さんのためにいろいろ「やってくれる」わけですよね。

もん:相手とは上下関係じゃないんです。年齢とか肩書とか仕事とか、小谷はまったく興味ないですから。出会って一緒に過ごして、楽しい思い出ができたら、それだけでいい。

小学校の友達とか、そうじゃないですか。「いいとこあるな」「おもしろいな」ってお互いに思って、また会ったときに「おー!」って盛り上がれる。そういう感じで付き合っているんだと思います。

小谷:一度、ごはんを食べた後に相手から「ごちそうさま」って言われて、爆笑したことがありました。その人がお金を出したのに、「ごちそうさま」って

――相手と一緒に遊んでる感じなんですね。「食べさせてもらう」という上下関係、貸し借りじゃない。小谷さんの人間関係のつくり方って、タテじゃなくて徹底して「ヨコの関係」な気がします。子どものころからそうですか。

小谷:部活してなかったし就職もしなかったんで、上下関係を経験したことがないですね。そういう意味では、友達のつくり方は小学校時代と変わってません
――ああ、それがタテの関係をつくりがちな日本社会に染まらなかった理由ですね。

もん:相手の思いやりに支えられているところも、大きいと思います。生きていくために最低限必要な衣食住を施すという、人としての思いやり。小谷は、出会った人たちからの恩に支えられて生きている

生活の基本は、「物々交換」

――小谷さんは、現金は持ち歩いていないんですか。

小谷:持ってません。現金が手元にあるのは、本やイベントのチケットを売ったときくらい。ふだん持っているのは、移動のためのSuicaだけ。それもチャージがなくなったら、一緒にいる人に入れてもらう。大体、誰かと一緒にいるので、現金がなくてもいいんです

――そしてお腹がすいたら、鮨をチャージすればいいわけですね(笑)。失礼ながら、高級な店に行くときに、ドレスコードに引っかかったりしないんですか。

小谷:洋服は全部友達が作ってくれてるんです。その中に、真っ赤なダブルのスーツがある。ええ店に行くときは、その友達のうちに行って着替えさせてもろて、ばりっとスーツで決めて行きます。どこぞのえらい人に見えるけど、実際はただのホームレス(笑)。

――現金を持たないというより、いらない。すべてを人との関係の中で補っている。

小谷:お金の前に、人間がいますから。もともと人間の生活って、物々交換で成り立ってたんすよね。僕は毎日人に会って、物々交換をして生きてるんで。原始的というか、こっちが本来の姿かも。
――東京って家賃がすごく高いし、みんなオシャレだから洋服代も必要だし、空気を吸うだけでお金がかかる気がします。私なんて、そのために必死になって働いてるんですけど…。大変だとか困ったとか、たまにはガマンしないで言っていいのかなって思いました。

小谷:いま鮨を食べたい! と言うのは、大事ですよ(笑)。場所がどこでも、関係ない。自分が思うことを伝えて相手とシェアしちゃえばいいんです。この前、ベトナムに行ったときにおばちゃんが自転車の荷台に果物を積んで運んでいて、何だろうと思って話してたら、果物をくれました。

人間のやることって、どこでも同じです。そんなに気を遣いすぎずに、地球を家にしてもうて、全員で割り勘しちゃえばいいんですよ。

――たしかに、1人でごはんを食べるより、みんなで食べるほうが安上がりですね。

小谷:なーんも、不安なことはないですよ。みんなで一緒に過ごすほうが楽しいし、サイコーな思い出ができる。人生、楽しいほうがいいじゃないですか。

会う人みんなと家族になる

――もんちゃんは小谷さんと遠距離婚ですよね。

もん:はい。最近は小谷が「小谷家族」というファンクラブを始めてくれて、会う機会が増えました。こっちは月額500円で、ちょっと高いです。
小谷:クラウドファンディングでも交通費をカンパしてもらって、「小谷家族」として活動してます。

――それは、何をする会なんですか。

もん:会った人みんな、家族になるんです。その人たちがいる場所に私たちが出掛けて行って、みんなでごはんを食べて「家族会議」を開きます。

そうやってコミュニケーションをとって、仲良くなって助け合っているうちに、気づいたら私たちがいなくても、参加者同士がイベントを企画したり、ごはんを食べたりしていて。本当に家族みたいになっちゃった

小谷:別に、誰が主役ってわけじゃない。僕がいなくてもみんなが盛り上がってくれるのが、一番いいです。

――家族と一緒で、中心があるようでない。小谷さんがカリスマみたいにみんなの中心になってたら、うまくいかないですね。拡張家族というか、ヨコの関係、いやむしろ、小谷さんがみんなの子分みたいな。

小谷:全員の子分! それ、ええですね。使わせてもらいます。

もん:子分っていうより、アバターかな。育成ゲームが流行ってるじゃないですか。課金して育てアバターの服を着せ替えたり、いろんな場所に行かせて経験値を増やしたり。

もしかして、小谷にお金を払う人って、みんながプレイヤーとして小谷を動かすことで、自分の経験値が増えたり、見える世界が変わっていったり、そういう育成ゲームみたいな楽しみ方をしてるのかも

小谷:たしかになあ。代わりにどっかに行かして、アバターが死んでもプレイヤーに害はない。安心して、どこでも行かせられますね(笑)!

――アバター、わかりやすいたとえですね。小谷さんのお話を聞いていると、元気が出ます。自分が考え過ぎなだけで、もっと気楽に生きてもいいのかなって。

小谷:考えすぎな人がいても、ええんです。いろんな人がいてええ。僕はなーんも気にしません

もん:こけても笑ってるもんね。「あ、こけてもうた!」って。
――そんな小谷さんが、「これだけは気にしちゃう」ってことはありますか。

小谷:そうですね。鮨…。今日は鮨食えてないなってときは、どうしても気になりますね…。

――やっぱり鮨ですか(笑)。

小谷:しかも、回ってるやつはダメなんです。僕、三半規管がめちゃくちゃ弱くて、回ってる鮨は医者に止められてて…。

――はい、ありがとうございました(笑)。みんなが小谷さんみたいな生き方をすることはもちろんできませんが、でもそのエッセンスを真似することは、できそうです。助け合うこと、一緒に楽しむこと。経済活動も、本来はそのためにあるはずですよね。表面的なお金の有無にまどわされてる自分を、反省しました。

小谷:めっちゃ、うまくまとめてるやん! 僕、すごいええ話したみたいやな。

もん:私たちは基本、のらりくらり生きているので…。でもその中で、いろんな人とつながって家族が増えていくのは、お金にかえられない楽しさですね

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