ビジネスパーソンインタビュー
「人生棒に振って、開き直れ!」
「私は弱者のカリスマ」アイドルをクビになったレスラー・伊藤麻希の究極ポジティブ論
新R25編集部
大人になると、「ポジティブに生きよう」ということがさかんに言われます。でも、そんな簡単にポジティブになんてなれないですよね?
そんな人に知ってほしいのが、伊藤麻希さん。
福岡のアイドルグループLinQ(リンク)を“クビ”になり、プロレスラーに転身したという「クビドルレスラー」。もちろんめちゃくちゃ弱いんですが、持ち前の不思議なポジティブさで、プロレスファンを中心に熱狂的に支持されつつあるらしい。
まだ知らなかったというあなた、コレを機に彼女の「圧倒的なポジティブさ」に触れてみてください!
〈聞き手=天野俊吉(新R25編集部)〉
アイドル時代は「クッソみたいにネガティブ」だった
【伊藤麻希(いとう・まき)】2011年、アイドルグループ「LinQ」のメンバーとして芸能界入り。2017年に“クビ”というかたちで「LinQ」を卒業し、プロレスラーとして活動する。ニックネームは「闘うクビドル」
伊藤さん
私に「ポジティブ論」を聞くなんて、いい人選ですね。
天野
先日、プロレス敗戦後のインタビューで「最後に俳句いいですか。“いつまでも 負けと思うな 伊藤麻希”」といきなり俳句を詠みだしたという話を聞いて、「なんだこのコは…!?」と思いました。
よく負けたあとにあんな言葉がパッと出てきますね。
伊藤さん
自分でも不思議なんですよ。
私はアイドルをクビになってるんで、一度死んだ感覚というか。それで「人生棒に振ってやろう」と思ってムチャクチャやってるときにそういう面白いことが言えるんですよ。「負けるかよ!」って感じでポジティブさが覚醒するんです。
以前はクッソみたいにネガティブだったんですけど。
天野
「LinQ」で活動してたときのことですかね? なんで「クッソネガティブ」だったんですか。
伊藤さん
アイドルなのに、そもそもファンがいなかったんで。
握手会やって、私の列に1日でどれぐらい並ぶと思います?1人か2人ですよ!
天野
それはキツイ…
ただ、アイドルにも思い入れが深かったようですね。ブログをチェックしたら、当時は結構“アイドル論”を書かれてますね。「全力でやれ」といった内容の。
伊藤さん
なんかそういうこと言ってた気がする(笑)。とにかく、彼氏つくって辞めるアイドルが嫌いだったんですよ。
自分は人気も出ず、男にも恵まれず…だったんで、汗もかかずにチヤホヤされてるアイドルにムカついてました。
まあ、これは今思えば完全な「嫉妬」ですね。「アイドル論」なんて大層なもんじゃないわ。
顔を崩せば崩すほどウケる。リングに上がって世界が変わった
伊藤さん
そんな伊藤が、2013年に初めてリングに上がったんですね(編註:当時はまだLinQ所属のアイドルとして、プロレスに参加)。
そうしたら、今までされたことがなかった「伊藤コール」が起きて、「生き甲斐」を感じてしまったんですよ!
天野
自分が受け入れてもらえる場所に出会えた、みたいな感じだったんでしょうか。
伊藤さん
その通りなんです! 逆にアイドルの活動に「あの感覚がない!」って思うようになっちゃった。
本当はやりたいこと(プロレス)があるのに、できない。自分を殺してるような感覚だったんですよ。「この道でアイドルとしてずっと生きていかないといけないんだ」って1人で絶望してました。
天野
もうプロレスの魅力に取り付かれてたんですね。
でも、アイドルとプロレスって、「共通点がある」って言われることも多いじゃないですか。
伊藤さん
うーん、似てるんだけどちがってて、プロレスは顔を崩せば崩すほどウケるんですよ。プロレスマニアに(笑)。
でも、アイドルはなんだかんだ顔を崩しちゃいけないんですよね。結局カワイイほうがウケるんです。
私は感情込めて、「顔なんてキープしないで歌を伝えたい」とか思ってたんですけど、ファンはそれを求めてないっていう。
天野
なるほど。でも“全力さ”が人気のアイドルもいると思いますが…
伊藤さん
いや、ももクロとかはどんだけ崩してもカワイイじゃないですか! スターダストですから!
私の“崩す”と比べちゃダメなやつでしょ!
天野
す、すみません…
「死にたくなったら伊藤を見ろ」泥沼人生を送ってきた弱者のカリスマ
天野
そこから、どうやってプロレスラーとして人気を獲得したんですか?
伊藤さん
たぶん、バッと注目されたのは、リング上でこう言ったときです。
「死にたくなったら伊藤の試合を見ろ!!」って。
天野
名言。
…でもなんでそんなことを?
伊藤さん
そのとき夏で、「夏休みが終わるときに自殺する学生が多い」って聞いたんです。
私、人身事故で電車が止まるといつも「大変なことじゃないか!」って思ってて。東京の人って慣れてるじゃないですか?
私は「声をかけてあげられなかったのか…」って落ち込んじゃうんです。
天野
優しいですね…
伊藤さん
プロレスを観にきてくれる人のなかにも、「死にたい」みたいに思ってる人もいるんじゃないか?とかいろいろ考えてしまって。それでリングでとっさにそんなことを言ったんです。
自分は弱者のカリスマ、「泥沼界のカリスマ」だって思ってますから。
天野
そういうキャッチフレーズなんですか?
伊藤さん
あっいや、今初めて言ったんですけど。
友達はいない、アイドルもクビになる、リング上でレスラーとキスして炎上する(2018年1月、男色ディーノに「リップロック」する)、っていう泥沼のような人生を歩んできたんで。
とにかくその発言以降、「勇気をもらった」みたいな人がすごく増えましたね。
天野
なるほど~。そう言ってくれるお客さんが増えたら、たしかに「生き甲斐」を感じられそうですね。
伊藤さん
アイドル時代も、「見に来ているお客さんのために頑張れ!」とかよく言われてたんですけど、「いやお客さんいないから!」って思ってたんですよ。何のために頑張るんだよ!って。
でも今は、ものすごいボコボコに負けてるのにファンがいてくれて、それを見ると、「ダサい姿見せられねえな」って思います。
「お客さんのために」の意味がようやくわかりましたね。
アイドル時代は「ネガティブなことを言えば注目されると思ってた」
天野
泥沼界のカリスマとしては、普段どんなことを心がけてるんですか?
伊藤さん
「弱音はダメ、ゼッタイ」。
弱音を吐いた瞬間“一般人”になっちゃうから。
人に勇気を与えなきゃいけないのに愚痴とか弱音とか吐いてたら、「結局お前も一般人じゃないか!」ってなる。
天野
でも、伊藤さんはボコボコに負けてますよね…
伊藤さん
違うんですよ!弱いのもヘタなのもある意味仕方ないんです。だってどんだけ頑張っても弱いんだから!
でもそこで弱音吐いたらホントにダサいヤツじゃないですか!そこまでダサくなりたくないんですよ!
伊藤さん
アイドルのときは、「愚痴を言えば注目される」と思ってたんですよ。「ネガティブキャラ」みたいな。
でも、プロレスを始めてメンタルが変わって気付いたんですけど、人はやっぱりポジティブなモノにしか寄って来ませんね!人は夢を求めてます。
天野
でも、「アイドルがネガティブなことを言うとオモロイ」みたいな風潮ってありませんか?
伊藤さん
あると思いますよ。でもそれって、ギャップで面白いだけで、いっつも言ってたらただのネガティブ野郎なんで。
日ごろ頑張ってる人がポロッとマイナスなこと言うのは面白いかもしれないですけど。ただ私はもう、それでも言わないですね。
「いいから筋トレしろ! できない理由ばっか言うやつは一生ネガティブでいろ!」
天野
読者のためにも、そんなにガラリとポジティブになれる方法を教えてほしいです。何かありますか?
伊藤さん
単純に、運動がいいってのはありますよ。メンタルが弱くて悩んでる人は、何も言わずに筋トレだけしろって思うんですよ。絶対強くなれるから。
変な水晶とかパワーストーンとか買うぐらいなら筋トレしろよって。
天野
でも、「本当に元気がなかったら運動なんてできない」的な声もあるじゃないですか。
(大声で)「いやいやいやいや!」
伊藤さん
そうやって「時間がない」とか「お金がない」とか、理由ばっか言ってるヤツは一生ネガティブでいろ!!って思いますよ。
「もうお前にポジティブになる資格はない!面白くない人生を送ってろ! クソ!」って。
天野
(クソって言った…)
そういえば伊藤さんはトレーニングしてるところをSNSとかに書かないって聞いたんですが、それホントですか?
伊藤さん
ああ、それは書いたことないですね。ダサいから。
練習とか頑張るのって、これはキレイごとですけど「当たり前」っていうか。
自分で「頑張ってます!」ってやたら言う人って「それぐらいの器なんだな」と思ってさめてしまうんですよ。「お前まだ一般人だな」って思っちゃう。
天野
一般人…
伊藤さん
どんだけ弱くても、一番になりたいって常日頃思ってるんで、ちょっとした努力で安心してたくないんです。
天野
起業家の人がよくそういうことを言いますよね。「目線を高く持つ」みたいな。
伊藤さん
実際起業にも興味があって、いろんな本を読んでるんですけど、漢字があんまり読めないんで…
でも、もしそういう仕事することになったとしても、プロレスは続けたいんです。
天野
それはなぜでしょうか? やっぱりプロレス愛が?
伊藤さん
初心を忘れたくないのが大きいかもしれません。「ずっとハングリーでいたい」っていう…
Stay hungry…
天野
(ナチュラルにジョブズと同じ名言を言っている…!)
「リアルタイムでは苦しいけど、3年後に楽しい」そんな“楽しい”を届けたい
天野
先日出演された『ゴッドタン』で、キスのことをツッコまれて「知らない。人生棒に振ってるから」って言ってたじゃないですか。
つい爆笑してしまったんですが、これってどういう意味なんですか?
伊藤さん
なんかネガティブみたいに聞こえるかもしれないですけど、ホントは究極のポジティブ発言なんですよ。
「守りに入るな! 攻めろ! 開き直れ!」って言いたいんですよ。
天野
やっぱりすごい言葉が強い…
伊藤さんのそういう発言は、「誰に届けたい」みたいなモチベーションがあるんですか?
伊藤さん
「もっと楽しく生きたいと思ってる人全員」に伝えたいです。
楽しいっていうのは、「ワーイ楽しい~」っていう軽いのじゃなくて、3年後ぐらいに「あっ楽しかった」ってなるやつです。リアルタイムでは苦しいやつです。
自分もアイドルをクビになったり、リング上でキスしたり、「やらかした~」って思ってますよ。親に見られたくないですよ。
でも結局開き直って人と違ったことをしたおかげで、ただの一般人じゃなくなって、後から思えば「最高に楽しかった」ってなるはずなんです。
天野
そういった先の夢などがあれば教えていただければ…
伊藤さん
私は、夢なんてもう叶ってると思ってます。
天野
え?
伊藤さん
ずっと自分は「憧れられる存在」になりたかったんです。だからもう夢が叶いましたね。
あとはお金持ちになるだけ! そしたら私の人生は全部クリアーです。クリアーまであとちょっとなんですよね。
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=飯本貴子(@tako_i)〉
お知らせ
プロレス初勝利、伊藤リスペクト軍団としてCDデビュー、男色ディーノ選手との一騎打ち、豆腐プロレスに喧嘩を売るも無視、ベルト挑戦と、この一年間破天荒な戦いを繰り広げ、プロレス界に万里の長城を築き上げた伊藤さん。
7月22日はそんな彼女の23歳の誕生日!ということで、アイドルらしく生誕イベントを行います。ゲストは、彼女の良き理解者でもあるプロインタビュアーの吉田豪さん。
きっとリング上とは違った彼女の素顔が見れるはず。死にたくなったら伊藤さんのトークを聞きに行こう!
伊藤麻希生誕トークイベント「 仁義なき伊藤会 」 – LOFT PROJECT SCHEDULE
日時:7月22日(日)18:30開場&19:00開演/会場:阿佐ヶ谷ロフトA/前売:2500円、当日:3000円(税込・要1オーダー500円以上)※前売は伊藤選手手売り、もしくはリンク先のe+前売/出演:伊藤麻希、ゲスト:吉田豪
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