“教祖力”で会社組織を束ねられる!?
ヘンなルールで結束力を高めろ! 宗教マニアが語る「ちょっとあぶないマネジメントの極意」
新R25編集部
どんな職場も大なり小なり、課題を抱えていることでしょう。一緒に働く仲間のモチベーションが低かったり、雰囲気がどんよりしていたり…。リーダーは、なかなか解決できず悩みが尽きないのではないでしょうか。
チームマネジメントのためになるノウハウを知りたいけど誰に話を聞こう…と考えていたところ、ひらめいてしまいました。
そう、教祖です。
宗教の信者を率いる“教祖力”を学べば、会社のチームマネジメントもうまくいくのではないか。
そんな仮説のもと、誰でも教祖になれるノウハウが詰まった『完全教祖マニュアル』(筑摩書房)を執筆した架神恭介さんと辰巳一世さんに、話を聞いてきました!
〈聞き手:ライター・篠原舞〉
ライター・篠原
今日はマネジメントに悩むリーダー職の人を救済していただこうと思って、お話を伺いに来ました。
架神さん
会社員の経験がないからよく分からないんですが、リーダーはそもそもどんな悩みを抱えているんですか?
ライター・篠原
「ビジョンが浸透してない」「チーム一丸となって目標達成に向かえない」「メンバーの主体性が低い」「信頼関係がなかなか築けない」などですね。
架神さん
だいたいわかりました。宗教の手法で解決策を考えてみましょう。
ステップ1:壮大な理念を設定しよう。「基本に返ろう!」もひとつの手段
架神さん
まずは「チームの理念」を設定することが大事です。そこへの共感がないとチーム一丸となって何かを成し遂げることはできません。
ライター・篠原
ポイントはありますか?
辰巳さん
できるだけ壮大なのがいいですね。「世界平和」や「人々の心を豊かにする」とか。誰が見ても「それって大事だよね」って思えるものだと、個人のビジョンとも結びつきやすいです。
ライター・篠原
たしかに。理念の範囲が広いほど「私は無関係」とは言えなくなりますもんね。
架神さん
すでにある企業理念を使うのもいいんじゃないかな。
その会社に入社したということは、理念にも共感している人が多いはずなので「うちの企業理念を思い出そう!」と。
宗教では「原理主義」と呼ばれるものです。「基本に返ろうぜ!」と主張することで共感を集めて、元の組織とは別の一派ができるのはよくあることですね。
架神恭介(かがみ・きょうすけ)さん
ステップ2:幸福の再定義をして、“負け組”を“勝ち組”に
ライター・篠原
チームメンバーが共感する理念をつくったら、次にすべきことは何ですか?
架神さん
幸福の再定義をしましょう。
ライター・篠原
なんだか難しい話になりそうですね…
辰巳さん
そうでもないですよ。会社員の多くの人は相対的にしか幸せを感じられていないはずです。「大学の同期より給料をもらってるから幸せ」とか。
でも、そうやって比較をしているうちは幸せにはなれません。
ライター・篠原
上を見たらキリが無いですもんね。
架神さん
いま幸せではない人は、いまある価値基準に沿って不幸なわけです。そこで、既存のものから外れた新しい価値基準を設けましょう。
ライター・篠原
どういうことですか?
辰巳さん
たとえば仏教には、世俗との関わりを絶つ「出家」という行為があります。会社員的な視点から見れば、まったく生産性がなく家族すら捨てるわけですから、ある意味不幸と言えるかもしれません。
しかし、彼らにとってそういった基準は関係ありません。信じる教義に従って精神的エリートを目指しているので、会社員としての批判は的外れということになります。
架神さん
それを会社のチームに応用してみましょう。
「はたして収入が増えることが幸せなのだろうか? それよりもビジョンに向かって邁進しているほうが、やりがいが感じられて幸せじゃないか? 俺たちのチームは世界をより良くしている。そう、俺たちで世界を変えるんだ!」
…というような演説でメンバーの士気を上げます。
ライター・篠原
演説…
辰巳さん
そうやって、これまで“負け組”だった人たちを新しい基準で“勝ち組”に変えてしまうのです。
ただし、演説はあくまで一過性の盛り上がり。本当に「幸福の基準」を浸透させていかなければなりません。
「ちょっとヘン」だと思われる、独自のルールを設定しよう
ライター・篠原
しかし、チームメンバーは会社員として当たり前の日常を送っているわけですよね…。「新しい価値観を浸透させる」なんてできるんですかね?
架神さん
多くの宗教では、価値観は日常的な習慣から生まれているんです。儀式や戒律など、独自のルールを設定するのがオススメです。
ライター・篠原
戒律…?
辰巳さん
宗教で守らないといけない規則のことですね。たとえば朝礼で理念を唱和しなければならない、みたいな。
朝礼での唱和を続けると「働くことが世のため人のためになるんだ」「それが自分の幸せなんだ」ということが刷り込まれていきます。
ライター・篠原
すでにいろんな会社でも近いことをやっていますね。
辰巳さん
あとは独自の暦を設定すると良いかもしれません。ほかの社員にとっては平凡な1日も、そのチームにとっては特別な1日になって帰属意識が高まるような。
ゾロアスター教では「オレたちが正しいタイミングで正しい儀式をやっているから世界は保たれてるんだ」と考えているほど、暦は大切なものとされているんです。
ライター・篠原
オリジナルの暦をつくるのはさすがに「ヘンなやつらだ」と思われてしまいそうですが…
架神さん
それが大事なんですよ! 実はまわりから「ちょっとヘンかも」と思われることによるメリットがあります。
ライター・篠原
えっ、そうなんですか?
架神さん
外の人から“変わったもの”として捉えられることで、チームの結束を強めることにつながるんですよ。
イスラム教が日中に飲食を絶つ「ラマダーン」も、日本人からすると「え?」と思うじゃないですか。
一方でそれを実践しているイスラム教の信者によると、ラマダーンをしている瞬間に「自分たちは特別な組織にいるんだ」という一体感を感じているそうです。
だから会社のチームでも「ちょっとヘンだな」と思われるルールづくりを目指しましょう。
ライター・篠原
理屈はわかりましたが、せめてもう少し、会社組織で実践できそうなものはありませんか?
辰巳さん
みんなで会社に泊まって仕事をする「会社キャンプ」など、一体感が持てるイベントはどうでしょう。
ライター・篠原
んー、それはギリギリ楽しいかも?
辰巳さん
さらに月・火・水・木・金・土・日の7つの曜日を独自のものに変えましょう。
会社キャンプの日・ボランティアの日・飲み会の日・断食の日・徹夜の日といったように変更することで、休日出勤などのツラい概念から完全に救われることになりますね。
一週間を7日にこだわらず、一週間を13日とかにすると、普通の暦を使う人たちとはまったく生活サイクルが合わなくなるのでベターです。
辰巳一世(たつみ・いっせい)さん
架神さん
そうしてしつこく理念を唱和し、独自の暦に従いながら仕事をすることで、業績はメキメキ上がるでしょう。
ライター・篠原
なるほ…いや、そうなんでしょうか…?
辰巳さん
給料をチームのために使わせたり、寄付させたりするのもいいですね。
人は、自分が犠牲を払った分だけ価値を感じようとするので、チームへの帰属意識が高まります。
ステップ3:語り合う場を設けて、下がったモチベーションを高めよう
ライター・篠原
ただ、メンバーのモチベーションが途中で下がってしまうこともありそうですが…
架神さん
そういうときはみんなで集まって、いまの仕事がいかに幸せか語り合う機会を定期的に設けたほうがいいですね。
浄土真宗の「講」や神道の「直会」、キリスト教の「日曜礼拝」など、それぞれの価値観を信者と共有するために、多くの宗教が定期的な集会を設けています。
辰巳さん
そこの場で、モチベーションが下がっている人に「あなたは幸せから遠ざかっている状態だ」ということを自覚させるんです。
架神さん
そして集会では、モチベーションの高い人が「仕事に邁進することが幸せだ」と訴えることで、モチベーションが下がっている人に不幸せな状態であることを認めさせ、懺悔させ、間違いを立て直すと。
ライター・篠原
(これ、大丈夫かな…?)
ステップ4:外圧に対抗することで、結束を強めよう
ライター・篠原
ここまでくると、人事部から問題視されるチームになりそうです。まだ続きがあるのでしょうか…?
架神さん
人事からの「休日出勤は困ります!」という意見に対して「休日…? 今日は会社キャンプの日なんですが」と言ったり、残業が多すぎるという注意に「残業…? 徹夜の日なのでずっと会社にいるだけですよ?」と返したりしていると、価値基準のズレから、責められることになるでしょう。
辰巳さん
でもそういった外圧を受けることで、「俺たちは会社の理念にしたがって行動することで利益を上げている。俺たちが正しいのに、なんで他部署のヤツらにごちゃごちゃ言われなきゃならないんだ!」とチーム内の結束力が高まってくる。
ライター・篠原
「恋は障害が多いほど燃える」的なことでしょうか…
辰巳さん
そうです。これが教義に盛り込まれていることもあります。
たとえば日本の宗教のひとつ、日蓮宗を見てみると、経典である「法華経」には「末法の世に法華経を広めると必ず難に遭う」と書かれています。
よって迫害をされても「ちゃんと法華経を実践しているから迫害を受けてるということだ。やったぜ」とポジティブに捉えられたことでしょう。
架神さん
ここでリーダーがすべきは、仕事が妨害されることを防ぐために資料をデスクに積み上げてバリケードをつくり、パーテーションで目隠しをし、外部からメンバーを守ること。
外部情報が遮断されることでメンバーはますます働くことに没頭するので、たとえ同僚が(自主規制)しても(自主規制)とは認めないでしょう! そして労基署や警察が踏み込んできたら、全員でじ…
ライター・篠原
あ…ありがとうございました! もう大丈夫です!
悩めるビジネスマンを救うために、宗教のマネジメント手法を学びに行ったはずが、教祖力を発揮しすぎると少々過激なチームが誕生してしまうことが判明しました。宗教のノウハウを会社組織に転用するときは十分注意しましょう。
教祖力の一端に触れ、興味を持ったあなた。ぜひ『完全教祖マニュアル』を熟読して、教祖力を会得してみてください。くれぐれも、活かすのは会社以外で!
〈取材・文=篠原舞(@maichi6s)/取材・撮影・編集=葛上洋平(@s1greg0k0t1)〉
取材協力/参照資料
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