ビジネスパーソンインタビュー
経験がなくても、熱意で人を動かす男のリーダー論
熱意はこう伝えて、信頼を得よ。数多のチームを率いる西野亮廣流「リーダーの作法」
新R25編集部
「ディズニーを倒す」と宣言し、肩書きにとらわれず新世代のエンターテイメント追求しつづけている西野亮廣さん。
数多くのプロジェクトを同時に走らせる多動ぶりには驚かされるばかりですが、忘れてはいけないのは、そのウラにある「チーム」の存在。
いったい西野さんはどうやってチームをつくり、どのようにメンバーを率いているのか。リーダーとして意識している立ちふるまいについて、本人に話を聞きました。
〈聞き手=渡辺将基(新R25編集長)〉
西野さんは今、いくつのチームを動かしてる?
渡辺
西野さんって、今いくつのチームを動かしてるんでしょうか? まずはオンラインサロン。
渡辺
クラウドファンディングをつくる?
西野さん
吉本と組んで、クラウドファンディングのサービス自体をつくっちゃおうというプロジェクトですね。
渡辺
そんなこともしようとしてるんですか。
…しかし、すごいチームの数ですね。毎回どうやって人を集めるんですか?
西野さん
「ディズニーを倒す」って宣言したあたりから、人が集まりやすくなったんですよ。
ここを目指します!って旗を1回ドンって立てたら、「おもしろそうだからちょっと混ぜてよ」みたいな人が増えて、オンラインサロンにエンジニアさんが入ってきたりだとか。
渡辺
絵本を無料公開したのもそのあたりですよね。
西野さん
そうですね。『レターポット』をつくるときはエンジニアさんが必要だったんですけど、オンラインサロンの中からおもしろいと思う人を引っ張っちゃいました。
今やってるクラウドファンディングもそうです。
渡辺
でもWebサービスをつくろうと思ったら、ディレクターからデザイナー、フロントエンジニア、サーバーサイドエンジニアまでいろいろな人たちが必要じゃないですか。
そういうスキルを持った人たちをすべて揃えてマネジメントしていくのは大変じゃないですか?
西野さん
僕がサービスをつくるときって、ホントに中途半端な状態でリリースしてるんですよ。30点ぐらいでもいいから世の中に出しちゃって、ユーザーの反応を見て直していこうっていう方針です。
「完成させたものを出す」っていう前提でチームを組んじゃうと役割をバキバキに決めないといけないけど、中途半端でもとりあえず出しちゃおうっていう集団なんで、役割もフワッとしてていいんですよね。
渡辺
なるほど、そういう感じでプロジェクトが進んでるんですね。
すべての活動をオンラインサロンに落とし込むように設計
渡辺
新しいチームを組成するうえでもオンラインサロンの存在が大きいということですが、西野さんのサロンに入っているのはどういう人たちなんでしょうか?
西野さん
経営者とかフリーランスの人が多いです。
渡辺
そうなんですか。メンバーは今何人くらいでしたっけ?
西野さん
8000人ぐらいですね。この4カ月で倍になりました。
渡辺
8000人!? 有料コミュニティなのにとんでもない人数ですね…。年内で1万人に届きそうな勢い。
西野さん
オンラインサロンの人数って、絵本を無料公開したり、リベンジ成人式をやったりすると、その都度一気に増えるんですよ。
渡辺
「この人おもしろそうだな」と思って人が集まってくるんですね。
西野さん
ですね。僕、自分のすべての活動を最終的にはオンラインサロンに落とし込むように設計してて。
たとえば、本を出して印税をもらってもあまりおもしろくないじゃないですか。だったらその印税をおもしろいことに使ってしまって、興味を持ってくれた人がオンラインサロンに入ってくれたほうが(ビジネス的には)強い。
渡辺
そのほうが将来の資産になるってことですね。
西野さん
そうです。本を出すにしても美術館をつくるにしても、すべてオンラインサロンに流れるように設計して、あとから回収するという戦略です。
オンラインサロンに集まる人たちは何を求めている?
渡辺
サロンに人を集める際に、他にも何か意識してることはありますか?
西野さん
報酬は絶対にわかりやすく伝えますね。
渡辺
西野さんは、オンラインサロンに入るメリットは何だと考えてますか?
西野さん
僕のサロンには自分でビジネスをやってる人とか、発信側に立ってる人が多いんですよ。
そういう人たちはいろんな場面で集客しなきゃいけないんで、コミュニティが欲しいんですよね。
だからみんな、横のつながりをつくることにお金を払ってるんだと思います。
渡辺
西野さんのサロンで自分が活用できるネットワークを手に入れるってことですよね。
そうやって利用してもらって構わないと?
西野さん
もちろんです。
渡辺
それは自分で何かをやりたい人たちにとっては明確なメリットになりますね。
西野さん
あともうひとつは、エンタメのあり方が変わってきてると思ってて。
それは「完成したものを楽しむだけじゃなくて、みんなで完成させよう。完成するまでをおもしろがりましょう」っていうことなんですけど。
西野さん
そうやって「これからは“つくること”が一番のエンターテイメントだ」って打ち出したら、これまでは完全にお客さんだったけど、ちょっと自分も発信側に回りたい、でも両足を突っ込むほど勇気はないっていう人たちが集まってきたんですよね。
渡辺
傍目から見てても、そういう人たちがサロンを通じて楽しんでいることを発信して、そのまわりの人がまた興味を持つ…みたいな流れができている気がします。
多数決が嫌いなのに、なぜまわりに意見を求める?
渡辺
実際に西野さんがチームのなかで、リーダーとしてどういう立ちふるまいをしているのかにも興味があります。
自分もメディアを運営しているからわかるんですけど、合議制とか多数決じゃ良いモノづくりってできないじゃないですか。
西野さんも嫌いですよね?
西野さん
はい。多数決は一番おもしろくない答えを出してくるんで、絶対やらないようにしてますね。
渡辺
でも西野さんって、サロンでみんなに意見を求めることも多いじゃないですか。あれはなぜやってるんですか?
西野さん
球を投げて、みんなの反応を見たいんですよね。
西野さん
全員がいいっていうものはみんなの想定内でおさまっているものなんだなと思って、ボツにします。やっぱり何割かは批判が入ってこないと。
渡辺
割れるアイデアのほうがいいと。
西野さん
割れるアイデアじゃないと話題にならないし、うまくいかないんで。
それを確かめるために聞いてますね。
渡辺
なるほど。みんなの意見を取り入れたいというより、議論が生まれるかどうかをテストしている感じなんですね。
西野さん
そうですね。だから一旦全員に意見は聞きつつ、基本的には無視してます(笑)。
スタッフ全員に反対された『えんとつ町のプペル』の朝令暮改
渡辺
あと、リーダーとしてあれこれ考えてると、「やっぱりこうしたほうがいいな」みたいに思い直すこともあると思うんですけど、一度決めたことをひっくり返すこともありますか?
西野さん
あー、結構ありますね、僕。
渡辺
たとえばどんなことでしょうか?
西野さん
それこそ『えんとつ町のプペル』でもあったんですけど、あの絵本は分業制でつくったので、関わる全員がどこにどんな建物があるかを把握してなきゃいけないんですよ。だから、まずは町の地図からつくっていくんです。
町を全部設計してしまってから、1ページ目はカメラをこの方向から狙いましょう、2ページ目はこっちから…みたいに描いていくんですけど。
渡辺
へー! そんなふうにつくっていくんですね。初めて知りました。おもしろい。
西野さん
その地図を描くのに1年以上かかるんですけど、スタートして1年近く経ったときに、日本でハロウィンがすごい盛り上がったんですよ。
それまでは上滑りしてたイベントだったのに、渋谷に100万人ぐらい人が集まって、急に市民権を得た感じになって。
渡辺
一気に盛り上がったタイミングがありましたよね。
西野さん
ただ、日本のハロウィンって、まだ日本ならではのアイコンがないじゃないですか。
渡辺
言われてみれば。
西野さん
じゃあジャパニーズハロウィンのイメージって何だろう?と考えてみたときに、結論“コスプレ”と“ゴミ”だなと。
で、たまたまそのときに描いていた『えんとつ町のプペル』の主人公がゴミ人間で、舞台はハロウィンみたいな町だったんで、「あれ、これジャパニーズハロウィンのアイコン狙えるな」と思って。
渡辺
なるほど。たしかに『えんとつ町のプペル』はハロウィンのイメージが強いですね。
西野さん
ただ問題だったのは、そのときに1年ぐらいかけてつくっていた町がヨーロッパっぽかったんです。
だからそこからスタッフさん全員集めて、「ジャパニーズハロウィンのアイコンを狙いたいから、もうちょっと和風にして、ここは日本だって言い切れる町にしませんか」って提案したんですよ。
渡辺
やっぱり、そのときはザワつきましたか?
西野さん
相当ザワつきました。スタッフ全員反対でしたから。
むちゃくちゃ怒られましたし、嫌われましたね。
渡辺
それをどうおさめたんですか?
西野さん
もうゴリ押しです。「いったん全部白紙にします」って言って。
でも、もちろんその瞬間だけ見たら損失だけど、ジャパニーズハロウィンのアイコンを取れたら余裕で回収できるじゃないですか。
だから絶対やったほうがいい!って何度も伝えましたね。職人の方ってあんまりそういうビジネス的な見方をしないんですけど。
渡辺
わかります。
西野さん
それでもキレてる人がいたら飲みに行って。最後はもうお酒です(笑)。
渡辺
最後は理屈じゃないと(笑)。
西野さん
ですね。あれが一番ひっくり返したことかなぁ。すごい時間とお金がパーになりましたから。
最も効果的な熱意の伝え方は「自分が背負ってるリスクを見せること」
渡辺
でも結局、最後は熱意で引っ張るしかないですよね、リーダーは。
西野さん
熱意しかないです。ただ僕、熱意を伝えるのは得意ですね。
渡辺
すごい得意そうなイメージあります(笑)。
西野さん
今『えんとつ町のプペル』を映画にするプロジェクトをやってるんですけど、『STUDIO 4℃』っていう日本のトップクリエイティブ集団と一緒に仕事してるんです。
ここに僕みたいなド素人が急に入ってきて、総監督みたいな感じで動くわけじゃないですか。もうめちゃくちゃ足元見られるし、「お前はなんぼのもんや」というところからのスタートですよ。
渡辺
そういうとき、どうやって信頼を得るんですか?
西野さん
自分が一番リスクを背負ってるというのを、明確に見せます。こっちは命かけてますよっていうのを。
西野さん
僕、思いっきり借金するとかもよくやるんですけど、そうやって数字を見せると「コイツ覚悟決まってるな」って思ってもらえるので。
渡辺
すごい。簡単にマネできないけど、それは効果ありそうです。
西野さん
でも、「自分が一番リスクを背負ってるのを可視化する」っていうのは手っ取り早いですよ。
会社だって「社長が一番損してる」みたいに思われてるほうが、やっぱりいい会社になるじゃないですか。
渡辺
「この人は甘い汁を吸おうとしているわけじゃないんだ」という印象は社員の信頼につながりますね。
大事な設計はひとりでやる。ただ、このやり方には寿命がある
渡辺
チームでものづくりをしているときに、リーダーとして「ここはすごいこだわる」みたいなポイントはありますか?
西野さん
僕は絵本を分業で制作してますけど、核となる設計図は絶対にひとりでつくるんですよ。部屋にこもって。
渡辺
さっき言っていたマップのことですかね?
西野さん
マップもそうですし、ストーリーもですね。そこは一切相談せずに、自分だけでつくります。
渡辺
Webサービスをつくるときも一緒ですか?
西野さん
そうですね、最初の設計は自分だけでやります。
渡辺
なるほど…西野さんってホントにプロデューサー気質なんですね。
西野さん
でもこのやり方は寿命があって、長くは続かないと思ってるんですよね。
僕は次にそこを変えないといけなくて。
渡辺
どういうことですか?
西野さん
仮に今の僕につくる能力があったとしても、その能力は絶対に老いるじゃないですか。
なんだかんだどんなアーティストさんでも作家さんでも、僕はやっぱり30〜40代のときつくった作品のほうが好きなんですよ。
70〜80代の大先生になってからつくった作品も深みがあるのかもしれないですけど、個人的にはやっぱり昔の作品のほうが好きで。
西野さん
だから僕も、そろそろ自分でつくることは引退して、能力がある若い人たちが集まってくるようにしておかないと、どこかでバテるなと。
渡辺
もうそんな先のことを考えてるんですね。
西野さん
具体例を挙げると、たぶん小室哲哉さんは天才すぎて、自分の才能に寄りかかってしまった気がします。
若いときはいいんですけど、アイデアも体力も絶対に老いが来るんで、そういう人はつくれなくなったときすべての活動が止まってしまう。
つくるのをやめます、というとファンの人はガッカリするんですけど、歴史が証明してると思うんですよ。「自分の才能に寄りかかった人は選手生命が絶たれる」っていうのは。
渡辺
そうかもしれません。
西野さん
だから、今のやり方は全然ダメだなと思いますね。これだとこの先、あまり長くない。
自分でつくるのは40代ぐらいで引退しないと。
西野亮廣は、才能が集まる「ハチ公」になる
渡辺
じゃあ西野さんは、これから自分はどうなるべきだと思ってるんですか?
西野さん
アイコンですね。ハチ公です。
渡辺
なるほど、いろんな才能の待ち合わせ場所になると。
西野さん
そういうことです。
渡辺
年を取るとお金出せるっていうのもありますよね。「お前ちょっとこれでやってみろ」と。それこそDMMの亀山会長みたいな感じで。
西野さん
亀山さんはおもしろいことをやってますよね。ああなったほうが年を重ねても、自分が楽しい現場にいられると思ってます。
渡辺
僕も自分でガリガリやっちゃうタイプなんで、ちょっと考えないといけないなぁと思いました。
西野さん
将来的には、「アイツ何にもしてないよね。でもアイツのところに集まってるクリエイターやオーディエンスはおもしろいよね」って言われるのが理想ですね。
渡辺
将来展望までお話を聞いて、西野さんがコミュニティに熱を上げている理由がわかりました。
これからの勝負も楽しみにしています!
〈取材・文=渡辺将基(mw19830720)/撮影=長谷英史〉
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