ビジネスパーソンインタビュー
現在は「コオロギ醤油」を試作中
「好きすぎて、食べちゃいたい」隠しつづけたコンプレックスを仕事にした“昆虫食伝道師”
新R25編集部
好きなことを仕事にする人生、誰もが一度は憧れたことがあるんじゃないかと思うんです。
“地球少年・昆虫食伝道師”を名乗り、SNSを中心に「おいしい昆虫」をアップしている、篠原祐太さんをご存じですか?
4歳のころから昆虫を愛し、愛するあまり食べつづけているという彼は、有名ラーメン店とのコラボレーションによる「コオロギラーメン」の販売を中心に、「昆虫食」にまつわる事業を展開しています。
まさに…好きなことで生きる人生。
しかし、ここに至るまでには、“昆虫食伝道師”というキャッチーな肩書きからは想像もつかない葛藤と覚悟が隠されていました。
〈聞き手:宮内麻希(新R25編集部)〉
宮内
よろしくお願いします! あっ、Tシャツが昆虫だ…!
【篠原・祐太(しのはら・ゆうた)】1994年、地球生まれ。慶應義塾大学卒。昆虫食伝道師。虫料理の創作・販売から、ケータリング販売、ワークショップ、講演、執筆と幅広く活動。中でも世界初のコオロギラーメンは大反響。狩 猟免許や森林ガイドも保持し「地球少年」として様々な情報を発信中。狩猟採集全般に精通
宮内
そもそもで恐縮なのですが、気になっていたことがあって…
そんなに昆虫が好きなのに、食べてちゃっていいんですか?
篠原さん
よく言われるんですけど、感覚的には好きすぎて食べちゃいたいという気持ちが強いんです。
好きなのでつかまえますし、家でもたくさん飼っていて、その延長に食べるという行為があるんです。好きな人と一緒にいると、エッチしたくなるような感覚に近いというか(笑)。
宮内
(昆虫と…エッチ…?)
わかるような気もしつつ、やっぱりわからないです。
1件のツイートから実現した、有名ラーメン店とのコラボ
宮内
先日Twitterでコオロギラーメンの告知を拝見しまして。私は昆虫を食べたことがないのですが、気になっちゃったんです。
篠原さん
コオロギラーメンの販売活動は、2015年に『すごい煮干しラーメン凪』さんとコラボさせてもらったことからはじまったんですよ。
宮内
凪、おいしいですよね~。篠原さんが売り込みに行かれたんですか?
篠原さん
いえ。元々、凪が好きでよく食べに行ってたんです。
その日も、お店を出た後に「おいしかった」って何気なくツイートしたんですよ。そしたら、凪の社長から「昆虫食の方ですよね?」とDMをもらって。
自己紹介がてら「いつか昆虫のラーメンをつくりたいと思っています」と送ったら、「やりましょう!」とお返事がきたんです。
宮内
すごいスピード感!
撮影:齋藤洋平
コオロギラーメン目当てに、凪の店前には長蛇の列が
篠原さん
実際に販売してみて手ごたえがあったので、今でもいろいろなラーメン屋さんとスープからコラボして、コオロギラーメンの販売を続けています。
いつか、ラーメン屋のメニューに「豚骨、鶏、煮干し、コオロギ」ってフラットに並べられるようになればなあと。
宮内
ナチュラルすぎません?(笑)
篠原さん
ほかにも、虫フレンチや虫スイーツなど、苦手な人でも食べやすいような、おいしさを追求した昆虫料理をつくっています。ほらほら。
宮内
えっ、ちょっ、心の準備が…
撮影:フクサコアヤコ
あれ、ちょっとおいしそうだぞ…?
篠原さん
最近だと、地方自治体から「ある虫が増えてしまって困ってるから何かに使ってくれ」という相談もあったり、ケータリングの依頼も多いですね。
宮内
イベントで昆虫食を提供するんですか?
篠原さん
「ランチ会があって、そこで昆虫食を食べてみたいからお願いします」とか、「宿泊イベントで虫料理を出して盛り上げてほしい」なんてこともあります。オフィスに届けたりもしますね。
両親にも、友達にも言えなかった。「昆虫を食べる」というコンプレックス
宮内
クマ財団(※)の動画を拝見して、篠原さんはずっと「昆虫を食べること」を隠しつづけていたと知りました。
※株式会社コロプラの代表取締役社長 馬場功淳氏が設立。クリエイターを目指す25歳以下の「学生」の活動支援・助成を行う目的で、返還義務を負わない「給付型奨学金」を支給する取り組み
篠原さん
4歳のころから昆虫を食べてるんですけど、大学に入るまでは友人はもちろん、家族にも打ち明けてなかったんです。
小学生のときとか、虫が出るとみんな騒ぐじゃないですか。本当は真っ先に捕まえに行きたくても、「触れるとか気持ち悪い」って言われるのが怖かったんですよね。当然、「食べてる」なんてもっと言えなくて。
宮内
でも、食べつづけたわけですもんね。
篠原さん
周りの友達よりも、昆虫のほうが大事な存在だったんですよ。どちらか選べと言われたら、他の人との関係を断って、迷わず昆虫を選んだと思います。
学校が終わると、森の中を駆け回って、虫をつかまえて食べ、川を泳ぐ。その瞬間、自分が一番“生きている”と感じることができたんです。
それが唯一、素のままの自分でいられる場所だったんですよ。
篠原さん
要するに、自分が一番大切で、生きがいとしていたものがコンプレックスだったんですよ。
だから普段はひたすら自分を偽って、みんなと仲良くなることに徹しました。本当はゲームのなかでポケモンなんか採ってないで、森で昆虫を採りたかったんですけどね(笑)。
好きなものを素直に発信したら、世界が広がった
宮内
ずっと隠していたところから、昆虫食の活動をはじめるに至ったきっかけはなんだったんでしょうか?
篠原さん
隠しつづけることに限界を感じて、大学1年生の時に、Fecebookでカミングアウトしたんです。
昆虫食関連の話題のリンクをシェアする形で、「虫って意外とおいしいんですよ。僕も虫が好きです」と投稿したことがきっかけでした。
宮内
そのあと、イケダハヤトさんのブログでも話題になっていましたね。
篠原さん
最初は、昆虫食を広めたいというよりも、純粋に“自分の個性を認めてもらいたい”という想いが大きかったんですよね。
そう思ってカミングアウトしてみると、意外と「食べてみたい!」という声も上がってきて。そこから、興味を持ってくれた方々を集めて自分で採った昆虫を振る舞うようになり、今に繋がっている感じです。
宮内
実際に昆虫を目の前にして、みんな食べてくれるものなんですか?
篠原さん
昆虫って意外と食べやすいんですよ。くわえてめずらしいということもあり、みんな楽しんでくれて。それが本当にうれしかったですね。
「そうか、自分が好きなものを素直に発信しただけで、こんなに世界が広がるのか」と。
ずいぶんと長い時間をかけて、ようやく自分に正直に生きられるようになった感覚でした。
宮内
でも、「目立ちたいから言ってんだろ! 嘘だろ!」みたいな声もありそうですよね…
篠原さん
それは結構言われました。あと、昆虫や普段食べている動物の珍しい部位を使った鍋をネットに載せたら炎上しちゃったり。
こう思うと、紆余曲折ありましたね(笑)。
こちらが炎上したメニューです
篠原さん
ただ、話題になることで「興味あります︎!!」って食いついてくれる人も増えていくし、自分に興味を持って批判してくれること自体もありがたいことだなと思います。
いろんなタイプの人と話せることは、自分の生きがいのひとつですね。カミングアウトして初めて、人と話すことが好きになりました。
「もっと早く言えればラクだったのにな~」と振り返る篠原さん
未知の分野だったからこそ感じた、ビジネスチャンス
宮内
これまでは学生時代のお話ですが、篠原さんはいま昆虫食を「仕事」にされてるんですよね。
いくら好きでも、なかなかできない決断だったんじゃないかと思います。
篠原さん
大前提として、僕は昆虫だけが特別に好きというわけではなく、地球上のすべての生き物が大好きなんです。愛おしい。
もちろん、魚や肉も食べますし、山菜やキノコ、虫も採って食べます。それが、自分のなかでの日常なんですよね。そういう意味で “地球少年”という肩書きを名乗っています。
篠原さん
ただ、そのなかで昆虫を仕事にしようと思ったのは、自分が感じている魅力と、世間の人の印象が一番かけ離れていたのが「虫を食べる」という行為だったから。
だからこそ、これはチャンスなんじゃないかと。
宮内
たしかに、「おいしい肉!」は普通ですけど、「おいしい昆虫!」は迫力あります(笑)。価値観ひっくり返りますね。
篠原さん
そうそう。未知だからこそ、与えられる影響が大きいと思ったんです。一方で、ビジネスとして考えると、なかなか成り立たない。
理由は2つあって、1つがそもそもの需要が他の料理に比べて圧倒的に少ないということ。
もう1つが、現在食用とされてる虫って育ててる業者が少ないので、同じ量の黒毛和牛よりも高くて。
宮内
そうなんですか!? 黒毛和牛食べませんか、それ…
篠原さん
そうなりますよね? だから、今まで挑戦されなかった分野なんです。
進路を決めるときは悩むこともありました。ただ、人に隠してまで自分の個性を貫いてきたわけだし、結局やりたいことって昔から決まってたなと。自分が情熱を注ぎつづけられるものを仕事にしないのって、もったいないじゃないですか。
だから、“事業として継続していく仕組み“から自分でつくればなんとかなるかもと思い、就職活動をせずに卒業しました。
これからは、コオロギ醤油やブランドコオロギをつくりたい
宮内
実際に昆虫食だけでビジネスが成り立つんでしょうか?
篠原さん
正確に言うと、現在は昆虫食“だけ”というわけではないんですよ。
最初にお伝えしたような昆虫食のケータリングのほかに、昆虫にまつわるワークショップや講演、執筆活動も行いながら、全体で収益を上げています。どれも、SNSから依頼を受けることがほとんどですね。
ただ、昆虫食の部分だけでもビジネスとして成り立たせなければならないので、今後に向けた商品もいろいろと考えていて。
宮内
昆虫食にどんなバリエーションがあるのか未知なのですが、例えばどのようなものを…?
篠原さん
直近では、コオロギ醤油です。
大豆に含まれるタンパク質をコオロギで代用するイメージで、まだキレイなものではないのですが、試作品は完成しました。いい感じです。
宮内
醤油なら、昆虫食初心者でも挑戦しやすいかもしれません。
篠原さん
昆虫食ってそれだけでキャッチーなので、特別おいしくなくても話題になるんですよね。でも、それに対する葛藤もあって。
注目される理由は“モノがいい”というだけではないのに、そこに甘えてしまいそうになる自分がいるんですよ。
篠原さん
それじゃあ全然ダメ。
珍しいものを扱っているからこそ、おいしさとか、食材としての価値とか、王道な部分の魅力を高めていかなければ、ただのブームで終わってしまうんですよね。
宮内
知ってもらうだけではなく、浸透させていくことに意味があるんですね。
篠原さん
はい、昆虫食の持つ圧倒的な可能性を探求し、引き出すことが自分の使命なんじゃないかと。
篠原さん
だから、よりおいしく食べてもらえるよう、今後は原材料であるコオロギも自分で手がけていきたいんです。
今はさまざまな業者さんから仕入れてるんですけど、やっぱりコオロギの質によってラーメンの味も大きく左右されるんですよ。
宮内
コオロギの質で味が変わる?
篠原さん
どんなエサをあげて、どんな環境で育てるかによってかなり幅が出てしまうので、そこをこだわり抜いたブランドコオロギをつくりたいんです。
まずは、“昆虫だから”手にもとってもらうんじゃなくて、“おいしいから”手にとってもらえるように、昆虫食のクオリティの底上げを実現したい。
その先で、より多くの人に「昆虫が食べられること」を知ってもらえたらいいなと思っています。
初めてTwitterで篠原さんを見かけた時に、「本当に昆虫好きなのかな?」と少しでも疑ってしまった自分を反省した取材の帰り道。
ひとり一人が持つ個性は、活かすも殺すも、きっと自分次第。すこしの勇気を持って「さらけ出す」ことが、自分自身を大きく変えるきっかけになるのかもしれません。
〈取材・文=宮内麻希(@haribo1126)/撮影=福田啄也(@fkd1111)/サムネイル画像撮影=齋藤洋平〉
ビジネスパーソンインタビュー
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