ビジネスパーソンインタビュー
餃子を焼くためだけにオフィスを移転
「好きな人は多いのに詳しい人が少ない」月10万円を費やす餃子マニアが教える“焼き”の流儀
新R25編集部
「餃子好き?」と聞いたら「好き!」以外の返事を聞いたことがないほど、誰もが好きな餃子。しかし、「みんな餃子を好きと言いながら餃子のことをあまり知らない」と声をあげる男性がいます。
それが、しかけ株式会社代表取締役でありながら、餃子を偏愛するあまり「一般社団法人焼き餃子協会」を設立してしまった小野寺力(ちから)さん。
【小野寺力(おのでら・ちから)】Gyoza Jockey/しかけ株式会社 代表取締役/一般社団法人焼き餃子協会 代表理事。全国の逸品餃子を体験してもらう活動を行なっている。7月から9月まで全国の餃子を週替わりで提供する「餃子フェスTM」を浜松市に期間限定出店。「メッセンジャーの○○は大丈夫なのか?(毎日放送)」「ピートのふしぎなガレージ(TOKYO FM)」「よじごじDays(テレビ東京)」などに出演
ディスクジョッキー(DJ)にかけて自らをフライパンを回す餃子ジョッキー(GJ)と名乗る小野寺さんに、知っているようで知らない餃子の魅力について伺ってきました。
〈聞き手:ライター・早川大輝〉
「焼き餃子は日本独自の文化」餃子の幅広さに魅了された
ライター・早川
小野寺さんが餃子にハマったきっかけはなんだったんですか?
小野寺さん
もともと「餃子の王将」が大好きで、お店に行くたびFacebookに投稿してたんです。そしたらある日、友人から「宇都宮から餃子を持って帰るから食べよう」と声をかけてもらって。
小野寺さん
それが感動的だったんですよね。おいしさの優劣とかではなく、「餃子」ってひとくくりにいうけど、「こんなに違うのか!」と。
そこから全国各地の餃子をお取り寄せして、友人たちと食べ比べをするうちに完全にハマり、今では定期的に「ソーシャル餃子フェス(※)」というイベントを主催しています。
※一般社団法人焼き餃子協会主催の、全国からお取り寄せした逸品餃子を、みんなで焼いて食べまくるイベント
ライター・早川
「焼き餃子協会」とありますけど…小野寺さんは「焼き餃子」を愛好してるんですね。それはなぜなんですか?
小野寺さん
いい質問!(笑)
もともと中国で一般的なのは水餃子。焼き餃子は、日本独自の文化なんです。
諸説あるのですが、第2次世界大戦時、開拓のために満州に移住した日本人が現地であまった水餃子を焼いて食べたのがはじまり。
ライター・早川
食べ物をムダにせず、おいしくするための知恵だったと。
小野寺さん
そう。敗戦後に広まった餃子を日本人がどんどんカスタマイズして、今のように地域やお店によって個性のある焼き餃子ができ、愛されるようになったんです。
ライター・早川
いま僕たちが食べている焼き餃子は、日本で進化したものだったんですね。
小野寺さん
まさに。「焼き餃子」に限定したのは、この日本独自の文化を世界に広めていきたいと思ったからなんです。
研究費に月10万。仕事で稼ぎ、餃子につぎ込む
ライター・早川
小野寺さんってIT企業を経営されていますよね? イベントを定期開催してたら、本業とのバランスが難しくないですか?
小野寺さん
そうですね。どっちが本業かわからなくなってます。
正直、餃子関連のイベントは赤字ですし、本業で稼いだお金で餃子を広めてる状態です(笑)。しかも、「研究費」としても餃子につぎ込んでいるので…
焼くのに最適なフライパンや、調味料、実際に餃子屋さんに食べに行くとなると、毎月10万円くらいにはなってますかね。
…ってことは、年間100万以上だわ(笑)。
小野寺さん
実はオフィスも、いつでも餃子を焼けるようにキッチンのある今の場所に移転したんです。
ライター・早川
そこまで!? …もはや本業と逆転しちゃってませんか?
小野寺さん
合わせて家も近所に引っ越して、いまは自宅の冷凍庫からオフィスの冷凍庫まで、毎日餃子を運んでます。
ライター・早川
そんなに食べてて、正直飽きたりとかしないんですか?
小野寺さん
早川さん、お米食べてて飽きます? 飽きないですよね。
それと同じ。餃子は主食ですよ!
…すみませんでした
「餃子を嫌いな人はいないのに、詳しい人もいない」
ライター・早川
小野寺さんがそこまで餃子を広めることに突き動かされる理由って、一体なんでしょう?
小野寺さん
餃子を嫌いな人って、ほとんどいませんよね。でも一方で、「餃子好き」を公言していている人たちのほとんどが、実は餃子のことをあまり知らないんじゃないかなって思ったんです。
餃子と聞いて、思い浮かぶキーワードってなにがありますか?
ライター・早川
「宇都宮」、「浜松」、「王将」、うーん…
小野寺さん
僕はね、「餃子を好き」と言っておきながら、「あなたはそれをどれだけ知っていますか」ということを問いたいんですよ。
「北海道の餃子食べたことないんですか?」「鹿児島の餃子は?」「楽天通販で常に上位の『餃子王国』も?」って思っちゃうんですけど。
ライター・早川
北海道の名物餃子なんてあったんですね…
小野寺さん
これまで食べたなかで一番感動したのが、北海道「ぎょうざの宝永」の「宝永チーズ餃子」です。多分ね、世界で一番おいしいチーズ餃子。
北海道ってやっぱり良質なチーズとか小麦粉が多いので皮がもちもちでまろやかな味わいになるんですよね。
ライター・早川
へ~! チーズ餃子って邪道なイメージがあったので、通も認めるおいしさってことが意外です。
小野寺さん
鹿児島だったら、黒豚が有名なので「珊瑚亭」の「黒豚入りしそ餃子」は絶品ですね。
小野寺さん
こうやって地域ごとにはっきりと特徴が出るから、お取り寄せ餃子は面白いんです。
餃子には作り手たちの物語がある
ライター・早川
そのうち、小野寺さん自ら餃子を開発しそうな勢いですよね(笑)。
小野寺さん
それは絶対ないですね。常に、餃子をつくっている人たちへのリスペクトが第一にあるので、競合になってしまうのが嫌なんです。
あくまで、全国約700店舗のお取り寄せ餃子の宣伝を“させていただく”というスタンスなので。
小野寺さん
それに、餃子には作り手たちの物語があるんです。
ライター・早川
餃子に、物語ですか…?
小野寺さん
たとえば、さっき紹介した「珊瑚亭」はビッグファイブという会社が運営してるんです。この会社、元々は女手一つで5人の息子を育てていくために、餃子を販売しはじめたんですよ。
それをいまは息子が引き継いで、おふくろの餃子の味を何十年と守っているんです。
ライター・早川
それで社名が「ビッグファイブ!」
そういうストーリーを知ってから餃子を食べると、また味わいが変わりそうですね。
小野寺さん
お取り寄せ餃子の場合、そういう小話がHPに書いてあったりするので、ぜひ一度目を通してから食べてみてください。
でも、餃子を焼くのって面倒くさくない?
ライター・早川
お取り寄せ餃子って自分で焼かないといけないじゃないですか。ちょっと面倒くさいって思っちゃうんですが、それに関してはいかがですか?
小野寺さん
味の素冷凍食品の調査によると、餃子を焼いたことがある人は20%しかいないそうです。「こんな楽しいことをやったことないの!?」って、引いちゃうんですけど。
最高の焼き目でお皿に盛れたときの絶頂を何度も再現したくて、僕なんてもう焼き中毒ですよ。
ライター・早川
小野寺さんはイベントでもご自身で餃子を焼かれていますが、最初から焼くのが得意だったんですか?
小野寺さん
いや全然。成功と失敗のバラつきが多かったので、誰でもカンタンにおいしく餃子を焼ける方法を研究してきたんです。
3年の試行錯誤の末、ようやく確立させましたよ。
ライター・早川
ぜひその方法を新R25読者のためにご教授ください!
スーパーの餃子も絶品になる「焼き」の流儀
小野寺さん
みんな勘違いしてますけど、焼き餃子は、ただ焼けばいいわけじゃない。「茹でて、蒸して、最後に焼く」を守らないと失敗すんです。
この3要素をさえ押さえていれば、おいしくできますよ。
ライター・早川
それぞれをどう実現するかってことですね。
1. 火のついていないフライパンに油を多めに引く
小野寺さん
よく、油をケチる人がいるんですけど、それはダメです。たっぷりと、大さじ一杯より多いくらいがいいですね。
ライター・早川
ちなみに、油はなにを使ってるんですか?
小野寺さん
米油です。サラダ油って独特の香りがするじゃないですか。米油は香りがほとんどないので、餃子本来のうまみを際立たせてくれるんです。
2. 底にしっかり油がつくように餃子を並べる
ライター・早川
火にかける前に餃子を並べるんですね。
小野寺さん
パリパリの焼き目をつけるために大事なのは、餃子の底に油がちゃんとついていること。
フライパンに火をつけてから、餃子を並べてしまうと熱くなるので手で丁寧に油をつけられないんですよね。
3. お湯を餃子にかけ、フタを閉じて火をつける
フライパンはなるべく浅いものがおすすめとのこと
ライター・早川
あ、水じゃなくてお湯を入れるんですね! 量はどれくらいですか?
小野寺さん
水を沸騰させるまでの時間に餃子の皮の小麦粉が溶けちゃうんです。モチっとした食感のためには、お湯の方が良いですね。
お湯の量は、一般的なフライパンは24cmか25cmだと思うので、120ccを目安にしてください。あんまり入れすぎると皮がべろべろになってしまうので注意です。
ライター・早川
ここまでの工程でよくある失敗ってありますか?
小野寺さん
餃子をフライパンに詰め込みすぎることです。
パンパンにしてしまうと、お湯を沸騰させるフライパンの面積が少なくなって、いつまで経っても沸騰せず、皮がびちょびちょになってしまいます。
4. お湯がなくなるまで火にかける
小野寺さん
中の状況をチェックできるように、ガラス窓のフタを使うといいです。
ここで注意するのは、しっかりと蒸される前にフタを開けないこと。我慢です。
ライター・早川
フタを開けるタイミングの目安ってあるんですか?
小野寺さん
焼きの音が「パチパチパチ」となってるときは、水がだいぶ減ってるとき。そのあと、音がなくなるのですが、そうなると水もないということなので今度は焼きすぎてしまう。
パチパチ音がピークになる前に外します。
ライター・早川
初心者にはちょっと難しそう…
小野寺さん
そしたら、餃子の皮を見るといいですよ。
最初は真っ白なんですけど、茹で上がってくるとだんだん中身が透けて見えてくるので、そのタイミングで開けてください。
5. フタを開けて焼き目をつける
小野寺さん
泡が白くなっているのが分かると思います。お湯がよく跳ねるので気を付けてください。
6. 餃子の周りが茶色くなってきたら餃子をひっくり返す
小野寺さん
餃子の周りが茶色くなってきたら、フライパンにお皿を乗っけます。油が出るので、油を切ってからお皿ごとひっくり返すと完成です。
お皿はフライパンより少し小さいサイズのものだと、綺麗に餃子がひっくり返せますよ。
7. 完成!
ライター・早川
100%おいしいやつじゃないですか。
小野寺さん
どうぞ食べてみてください。
ライター・早川
うんまっ!
なんですかこれ、「あんがジューシー」で「皮がモチモチ」してて「焼き目パリパリ」。お店で食べる餃子よりおいしいかもしれない!
小野寺さん
ちなみに、普通にスーパーに売ってる冷凍餃子でも使えるので、ぜひ自宅でも試してみてください。
ライター・早川
正直、こんなに「焼き」で変わるとは思っていなかったのでびっくりしてます…
今日はいろいろ教えていただき、ありがとうございました!
自分は餃子が好きでそれなりに詳しい自信もあったのに、「好きって言いながらみんな餃子のことあまり知らないじゃないですか」という小野寺さんの言葉が心に刺さりました。
後日さっそく小野寺さん直伝の焼き方を試してみたところ、あまり焼いたことがない僕でも簡単に「ジューシー」で「モチモチ」で「パリパリ」な餃子を焼くことに成功しました。これ、本当にすごいですよ。
みなさんも、焼きを極めて最高の餃子ライフを!
最後にポイントをおさらい!
✓米油をたっぷり、ケチらず使う
✓火にかける前に餃子を並べる
✓餃子はたくさん並べすぎない
✓水ではなくお湯を入れる
小野寺さんおすすめの調味料はこちら!
〈取材・文=早川大輝(@dai_nuko)/編集=宮内麻希(@haribo1126)撮影=福田啄也(@fkd1111)〉
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