ビジネスパーソンインタビュー
「愛情空間」と「貨幣空間」を意識しよう
会社の人間関係はなぜしんどい? けんすうの助言「コミュニケーションを2つに分けよう」
新R25編集部
「朝起きて、会社に行きたくなくてベッドの中でグダグダしてしまう」「職場の飲み会に行きたくない」「上司と顔を合わせるのもイヤだ」。
いきなりネガティブですみません。これ全部、会社員として働いている友人たちの言葉です。“その気持ちわかる”と共感する人も多いのではないでしょうか。
我々はなぜ会社の人間関係に悩み、会社に行くのがイヤになってしまうのか…?
この難問に答えていただくべく取材したのは、起業家・けんすうさん。
学生時代から起業家として活躍し、新卒でリクルートに入社。現在も数多くのベンチャー起業への投資をおこなっている彼なら、「職場の人間関係とモチベーション」にまつわる難問への答えを出してくれるのでは!?
ということで…助けて! けんすうさ~ん!!
〈聞き手:天野俊吉(新R25編集部)〉
【けんすう】1981年生まれ。19才で学生コミュニティ「ミルクカフェ」を立ち上げ、大学在学中にネット企業の社長に就任。2006年、リクルートに入社。2009年に退職し、nanapi代表取締役に就任
「2種類あるコミュニケーションを、ごっちゃにするからしんどいんです」
天野
「ビジネスマンの悩みをなんでもマイルドに解決できる男」ことけんすうさん、今日は「会社に行くのがしんどい」という悩みを解決してほしいんですが…
けんすうさん
最近はそんな認知になってるんですか…
その話、最近すごい考えてて。結局、会社でのコミュニケーションが辛くなるのって、「貨幣空間のコミュニケーション」と「愛情空間のコミュニケーション」をごっちゃにしてるからだと思うんですよね。作家の橘玲さんの本で読んだ概念なんですが。
天野
いきなり全然わからない言葉できましたね。どういう意味ですか?
けんすうさん
「貨幣空間」というのは、仕事とか、かんたんにいえば報酬がお金で支払われる関係性です。逆に「愛情空間」とは恋人とか家族とか友人とか…「愛情」と呼ばれるもので関係性が維持されてるやつですね。
このふたつをごっちゃにしていると、人間の気持ちってツラくなりがちなんですよ。
会社であれば、「利益をあげるため」にやってるんだから、貨幣空間のコミュニケーションだけするべき。
天野
ほう。
けんすうさん
たとえばただ雑談するだけでも、貨幣空間のなかでやるなら「心理的安定が確保されてるほうがパフォーマンスが上がって、会社に利益が出る」という目的があるわけですよ。極論すれば、「雑談」がストレスで利益が下がるならしないほうがいい。
なのに、まるで「友だちとか家族とするかのように、会社でも楽しく雑談しなきゃいけない」って考えてる人が多いから、しんどくて当然なんですね。それは分けて考えないと。
天野
貨幣空間と愛情空間で人との付き合い方を分けろってことですね。
それって具体的にどのようにしたらいいんでしょうか?
けんすうさん
相手に嫌われても、仕事のアウトプットが高まっていればいいはずなので、それを目指すべきですよね。「嫌われても貨幣空間のことだから気にすることない」ぐらいのスタンスでいくとか。
ちなみに僕は、「すべての物事は摩擦がおきたほうが完成度が上がる」と思っているんですね。だから仕事でケンカとかするのはむしろポジティブです。
たとえば仕事でクッソむかつくやつに「ここ違くない?」とかケンカ腰で指摘されたら「いや、こうだからこうなんですよ」って反論するじゃないですか。それを続けたほうが、お互いの論理が洗練されていく。
天野
それ、仕事してて一番イラッとすることで、なるべく人とぶつからないように気をつけてるんですけど…でも相手とはぶつかったほうがいいと。
けんすうさん
お互い人としては嫌いでも、アウトプットが良くなるほうが正しいんです。
変な例ですけど、ネット上で反論してくるアンチは、ブロックするよりも「お前の言ってることはこうだから間違ってる」と論破したほうがいい。そのためにエビデンスを調べたりするから、勉強になるし。
ただ、貨幣空間でも愛情を求めてくる人がいるので、そういう人とうまくやる必要は出てきちゃいますよね。
そういうのはもう割り切って優しく接してあげるしかないのかな…
天野
「愛情」を求めて絡んでくる人…いる気がしますね…
けんすうさん
相手がどっちを求めているかを見極めて、ごっちゃにしてそうな人とはケンカしない。
絡まれても、優しく「そうだね、そうだね」って言ってあげるのがいいでしょうね。
「“そうだね、そうだね、ツラかったね”って」
「オレは報われてない!」 “愛情側の不満”を満たす「バブバブの時間」とは?
けんすうさん
あるIT企業では、「バブバブの時間」というのを意図的に設けているらしくて。
天野
バブバブ…
けんすうさん
たとえば会社にいると、「愛情側の不満」を言いたくなることってあるじゃないですか。
「自分は頑張ってるのに報われてない」とか「アイツばっかり褒められてる」とか。
天野
ありますね。ストレスたまってるとそういう考えになっちゃいがちです。
けんすうさん
経営会議みたいな全体の場で個別のそういう話をするべきではないですよね。でも当然、人間なので仕事においても愛情を求めたくなる時もある。
なので、「1on1」みたいな個別面談の時間をつくって、「実はしんどいんです」とかを存分に言っていいよ…としている。つまり「愛情側」に特化する時間をつくってるんですね。
会社側がそういうふうに意図して制度を設計してるといいですよね。
けんすうさんがオンラインサロンを分析!「もし僕がやるならカルト的に…」
天野
最近オンラインサロンがブームというじゃないですか。それも「愛情」「貨幣」といった承認が関係してるんでしょうか?
けんすうさん
あれも面白いなあと思っていて、けっこうな数の人が「仕事では承認されないけど、ここでは承認される」というのを求めて入ってるようなんですね。
100人ぐらいだったらそれが「愛情側」でも面倒みきれるんですけど、人数が増えると愛情側で承認するのって難しい。今後オンラインサロンがぶつかりそうな壁といえばそこでしょうか。
天野
なるほど…。じゃあ、もしけんすうさんがオンラインサロンをやるなら、どのようにやりますか?
けんすうさん
所属のためのオンラインサロンは僕はやらないと思いますが、もしやるとしたら、もっとドぎつくできそうだなーと思います。
たとえばカルトって、大学とかマンションでメンバーを勧誘してるじゃないですか。
あれって何のためにやってると思いますか?
天野
何のため…。それはやっぱり仲間を増やすためでは?
それか、仲間を勧誘して褒められることで承認欲求が満たされる…?
けんすうさん
どっちもハズレです。ああいう勧誘って、見るからに「アイツらあぶないな~」って思うじゃないですか。で、周りの人は「近づかないでおこう」ってなる。
周りとの関係を断ち切らせるためにやってるんですよ。人が近づかなくなれば、承認してもらえるのがカルトのなかだけになって、もう抜けられなくなる。
だから、本当は1人も勧誘できなくてもいいんですって。
こっわ、何この話…めっちゃ笑顔だし…
けんすうさん
って先週号の『モーニング』の漫画に書いてありました。
天野
モーニング。
けんすうさん
今はやってるオンラインサロンはそういうことをしないので、健全だなと思いますね。
みんな良心的だな~と思って見てます。
会社に行くのはなんのため? けんすうさんが語る「お金」と「幸せ」の哲学
天野
「会社がイヤじゃなくなる」ためには、コミュニケーションの仕方に自覚的になること…よくわかりました!
ちなみにですが、けんすうさんはいま、ベンチャー企業への投資をされてますよね。
投資ってめちゃくちゃ「貨幣空間」なイメージですけど、そんなときはどういうコミュニケーションを取ってるんですか?
けんすうさん
僕じつは、投資はビジネスとは思ってないんですよね。
これまでに結構な額を突っ込んでますけどまだリターンないんで。浪費なんです。
リターンゼロの顔
けんすうさん
そのお金で不動産投資でもしてればリターンもあると思うんですけど。
「僕、これが好きすぎて会社つくっちゃったんです!」みたいな人がいると断れなくて。そういう人が好きすぎるんで、友だちになりたいんです。
友だちとディズニーいくとき、このお金のリターンは…って考えないじゃないですか。それと同じです。
天野
めちゃくちゃ“愛情”でコミュニケーションしてるじゃないですか。
けんすうさん
今日、場所を借りているここ(「goodmorning building by anri」)だって、佐俣アンリっていう投資家が運営してて、家賃とか全部無料でベンチャー起業家に貸してるんですよ。「ベンチャーの人が集まってくるの超楽しい」って言って。
日の当たる気持ちいいオフィスです
けんすうさん
「カフェがあったほうがいいよね」って、カフェの運営費も支援してるんですよ。これ、めっちゃ豊かだな~と思います。
さっきの話でいえば、「愛情空間」だけに特化してるんですね。
「そういうときにお金をもらってもうれしくない」ってわかるじゃないですか?
天野
そうなんですか…? そんな気持ちになれるほどお金を持ってないのでわからないです…
けんすうさん
お金だけあっても、幸せにほとんど効かないと思います。
お金って幸福側に作用することに使えないんですね。
逆に、不幸を解決するとかコントロールすることには使えるんですけどね。
天野
えー、じゃあ僕らが会社の仕事をいくら頑張って稼いでも、幸せになれないってことでしょうか?
けんすうさん
いや、そうではないです。仕事にちゃんと没頭することで得られる幸せもある。
僕の友人の、(※自主規制)っていう超優秀なビジネスマンなんか、ほとんど働いてないのに年収ウン千万円あるらしいんですよ。お金があるから銀座のクラブでも超モテてるし。
それなのに、いつも不幸そうな顔をしてるんですね。
けんすうさん
彼を見ていると、「毎日会社に行って、8時間没頭する仕事があったほうが幸せなんだろうなあ…」と思ってしまいます。
貨幣空間で頑張った結果としてお金を得て、愛情も得る。そういうふうにしないと、結局人間は「しんどい」「ツラい」というところから抜け出せないんじゃないでしょうか。
皆さん、けんすうさんの「お金」と「仕事」の哲学は伝わりましたでしょうか。
後半はかなり大きな「幸福論」を語っていただきましたが、少なくとも「愛情と貨幣のためのコミュニケーションは別」ということは理解していただけたかと…。
新R25では、R25世代の等身大な悩みを解決していただく「助けて! けんすうさん」をシリーズ化していきたいと考えています。
本記事につづき、明日もけんすうさんのインタビュー記事を公開します! テーマは「優秀な若手の定義」について。乞うご期待!
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=中山駿(@nk_shun)〉
公式インスタ限定で「あしたの記事」をチラ見せしてます!
新R25のインスタグラムアカウントを開設しました。インスタ限定で「#あしたの予告」をしていますので、読者の皆さまはぜひフォローをお願いします!
ビジネスパーソンインタビュー
またスゴいことを始めた前澤さんに「スケールの大きい人になる方法」を聞いたら、重たい宿題を出されてしまいました
NEW
新R25編集部
【不満も希望もないから燃えられない…】“悟っちゃってる”Z世代の悩みに共感する箕輪厚介さんが「幸せになる3つの方法」を伝授してくれた
NEW
新R25編集部
「実家のお店がなくなるのは悲しい… 家業を継ぐか迷ってます」実家のスーパーを全国区にした大山皓生さんに相談したら、感動的なアドバイスをいただきました
新R25編集部
「俯瞰するって、むしろ大人ではない」“エンタメ鑑賞タスク化してる問題”に佐渡島庸平が一石
新R25編集部
社内にたった一人で“違和感”を口にできるか?「BPaaS」推進するkubell桐谷豪が語るコミットの本質
新R25編集部
【仕事なくなる?そんなにすごい?】“AIがずっとしっくりこない”悩みへのけんすうさんの回答が超ハラオチ
新R25編集部