ビジネスパーソンインタビュー
4色ペンを使い分ける、アナログとデジタルの併用…
「前田裕二流メモ術ってめんどくさくない?」とツッコんだら、そのウラにある壮大な想いを知った
新R25編集部
現在、日本でもっとも世間の注目を集める起業家の一人、と言っても過言ではないのが、「SHOWROOM」を立ち上げた前田裕二さん。会う人全員が口をそろえて「超努力をしている好青年」「あんないいヤツはいない」と絶賛する人柄も有名です。
そんな彼の躍進を支えているのが、「メモ」。オリジナルのメモ術を駆使して、圧倒的な成果につなげているのだとか…。
しかし、情報によれば「複数のメモ帳を使い分ける」「ペンで色分けする」など、フツーの人間からするとすごいめんどくさそう。
本当にそんなにメモを使っているのか? 「前日が著書の校了だったため、ほぼ寝てない」という前田さんを直撃してしまいました! 申し訳ございません!
〈聞き手:天野俊吉(新R25編集部)〉
【前田裕二(まえだ・ゆうじ)】1987年生まれ。2010年UBS証券に入社。2013年にDeNAに移り、ライブストリーミングサービス「SHOWROOM」を立ち上げる。2015年にはSHOWROOM株式会社を設立
本当にそんなにメモ取ってるの? あとから見返さなくない?
前田さん
なんでしょう? 今日だけはやめてほしかった…
いや、ウソです(笑)。
天野
寝不足のところすみませんが、前田さんが語っている「メモ術」にツッコませてください!
そもそも、本当にそんなにメモ取ってるんですか?
前田さん
取ってますよ!(笑)
見せましょうか?
手帳を見せてくる前田さん
前田さん
昨日の夜から今日のお昼までだから、半日でこれぐらいですね。
天野
(たしかにめっちゃ多いな…)
しかし、こんなに取っても意味あります?メモってあとから見返すこと、そんなにないじゃないですか。
前田さん
…それは、まず「メモには種類がある」ということを理解してもらえたらと思います。
天野
?
前田さん
メモといっても大きく2種類あるんです。ひとつは、単純に「備忘のためのメモ」。一般的にはこれですよね。
もうひとつは、「知的生産のためのメモ」。こっちの発想って、持っている人が少ないんです。
NewsPicks
前田さん
これは実際に僕が取ったメモなんですが、左ページに、仕事や生活をしてて自分が感じたことや「ファクト=事実」を書いておく。
そこから、その要素を抽出して学びを「抽象化」したものを右ページに書く。さらに一番右に、ほかの企画や仕事に「転用」できないかと考えたことを書くんです。
天野
ほう…
前田さん
仕事のミーティングで、みんな手帳やPCに何らかのメモを取ってますけど、だいたいが「備忘のメモ」ですよね。
でも、「生み出すため」に取るメモもあるんです。ミーティングに出る理由って「新しい発想を知的生産するため」じゃないですか。そう考えたら、この“右側”をアウトプットしないとあまり意味がないんです。
単に記録すればいいだけなら、今後は機械にやってもらったらいい。
前田さん
僕にとってメモは、アイデア創出のトリガーになる「宝の山」。
だから、1日に何回も見返すんですよ。
常にメモなんて取れるの?
天野
とはいえ、本当に常にメモを取ってるんでしょうか?
いつでもどこでも取れるわけじゃないですよね?
前田さん
いつでもどこでもですよ。
たとえば、映画館で映画を観てるときも、スマホにいろんなことをメモして、抽象化するようにしてます。
まわりの迷惑になっちゃうので、画面は真っ暗にして「ブラインドスワイプ」で入力します。見せましょうか?
おお…ダーッと20スクロールぐらいある
天野
映画を観ながら? どんなメモを取るんですか?
前田さん
自分が「面白い」って思うシーンがあったとして、そこから「人が面白いと感じる心の動きには、本質的には何が隠されているのか?」を抽象化して導き出すんです。
たとえば、『カメラを止めるな!』っていう映画がヒットしたじゃないですか。
天野
ああ! めっちゃ面白かったですね。
前田さん
あの映画を観てメモしたことは100個以上はあるんですけど、クリティカルなものは「落差と共感」でした。
前田さん
まず「落差」。『カメ止め』のストーリーって「途中まで虚構のゾンビ映画だと思ってたのに…」「この人こんなキャラだったのか」っていうところが面白かったじゃないですか。ネタバレになるのでこれ以上言いませんが…
そこから、「人の心が揺さぶられるときって“AなのにB”というギャップがあるな」と考えたんです。
たとえば「恋人に浮気されて悲しい」と思ってしまうのも、「浮気しない人だと思ってたのに」っていう落差があるからショックを受けるんだなと。映画を見ていてなんとなく気づいた観点が、発展してくるわけです。
天野
ふむふむ。
前田さん
「共感」が何かというと、『カメ止め』は制作費にたった300万円しかかけていない映画、ということで話題になりましたよね。ここをさらに深く考えるんです。
重要なのは、「お金かけなくても面白いものはつくれるんだ!」という、今みんなが言いたいことを『カメ止め』現象が代弁していた、という点です。「そうそう!」と人がまさに今言いたいことが言えるような現象を起こすと、一気に拡散性が上がる。
「やっぱりお金じゃない。アイデア勝負なんだね!」って皆言いたいじゃないですか。飲み屋で。
天野
言いましたし、SNSにも書きました。
前田さん
たぶん、実際はなんだかんだ言ってハリウッドの映画がめちゃくちゃ売れているわけで、お金かけたほうが面白いものつくれる可能性は高い気もするのですが、そこはあまり関係なくて、「共感できるかどうか」が拡散のポイントになっていると。
…とまあ、そういった感じで「面白かった」というファクトから抽象化をするんです。そして、「じゃあ、いま自分がやってる仕事に『落差』を入れ込めないかな?」と考えて転用していくわけです。
「4色のペンを使い分ける」なんてこと徹底できてるの?
前田さん
あとメモ術ということでいうと、「ペン」も非常に大事にしています。4色ペンを使うことが多いのですが、書く内容ごとに4色を使い分けています。
まず基本は黒ペンを使います。これは客観事実をメモするもの。次に青は「重要」。赤は、青に比べてもさらに重要、つまり「最重要」なメモを書く時に使う。緑は、あくまで自分固有の意見、つまり「主観」をメモする時ときに使う。
天野
完全にめんどくさい。
そんなこと本当に徹底できてるんですか?
よくテスト勉強のとき、やたら張り切って色ペン使ったりするヤツいたじゃないですか。そういう感じですぐやらなくなっちゃいそうですよ。
前田さん
たしかに「ペンを使い分ける」とかいうとめんどくさい感じしますけど、これは慣れで…
単にペンの色を変えるだけじゃなくて、自分がいま考えてることが「客観なのか、主観なのか」「重要なのか、そうでないのか」って意識するのを習慣化したんです。
思考のクセを多色ペンというフォーマットによって矯正できていれば、ペンの色を変えるのは自然なことになるんですよ。
天野
付け焼刃じゃないからできると…
前田さんは、いつぐらいからその習慣を続けてるんですか?
前田さん
習慣化するようになったのは、大学生くらい。加速したのは、新卒で証券会社に入社してからですね。
証券マンって、ひたすら営業の電話かけるんですけど、電話する前に要点をまとめるんですね。おすすめしたい株の銘柄も、その理由も、3つにまとめる。
天野
「電話営業のときに言うことを決めとけ」ってのは教わったことありますね。
前田さん
何が言いたいかというと、「フォーマットが知的生産を促す」っていうことなんです。
人間って空いてるマスがあると埋めたくなるから、3つって決まってれば「3つ考えよう」ってなるじゃないですか。
僕がメモのフォーマットにこだわってる理由はまさにそこなんです。
「アナログとデジタルを使い分ける」ってめんどくさくない?
天野
なるほど…。めげずにツッコみますが、アナログとデジタルのメモを使い分けるのってめんどくさくないですか?
ひとつのツールに集中したほうがいい気がするんですけど…
前田さん
そうですか?
僕、スマホの「FastEver」というメモアプリのほかに、アナログのメモ帳を3種類使い分けてます。
めっちゃある。タブレットもありました
天野
いや多すぎる…
先ほどのメインのメモのほかに、アナログのメモ帳では何をしてるんですか?
前田さん
まず、いわゆるスケジュール帳的な使い方をしてるものがあります。
この手帳は、一言でいうと「予習」のために使います。寝る前に次の日のミーティングの予定を確認して、そこで話されるであろう内容、あるいは、自分がこれだけは話したいという主張を事前に考えて、メモしておくんです。
たとえば今日入ってるミーティングなら、いまとある会社と一緒にアニメをつくろうとしてるんですけど、「今日は企画概要合意と、役割分担、そしてシナリオライターを誰にするか?」までは決めよう…ってメモしてますね。
あと、あえて話さないことも決めて、書いてます。
天野
前夜に予習しておく用ってことか…
前田さん
そう、ミーティング始まった瞬間って、「これ何の話するんだっけ」ってなりがちじゃないですか。準備さえしておけば、そのムダがなくなりますよ。
天野
その準備って…まさか毎晩やってるんですか?
前田さん
はい、毎晩やってます。
今日みたいに寝てないときもあるから「毎晩か毎朝」ですね(笑)。
前田さん
「ロルバーン」の小さいメモ帳は、走り書き用です。たとえば打ち合わせとか会食の最中に、「ちょっと概念説明していいですかね?」とか言って、図を描いたりするんです。
そうすると、やっぱり熱が伝わるんですよ。
天野
それは確かにありそうだな…
前田さん
熱を伝えられるっていうのは大きいですね。会食の場でメモを取ったり、図を描いたりしてると、相手に確実に気持ちが伝わるんですよ。「熱量がすばらしい!」とか言われることも多いです。
『モチベーション革命』(幻冬舎)という本の著者としても有名な尾原和啓さんとか、あとは秋元康さんにもそう言っていただいたのを覚えています。
天野
あ、わかった! そうやって気に入られるのを狙ってメモを取ってるようなところもあるんじゃないですか?
前田さん
それ、よく言われるんですけど、本当に違うんですよね。
「人にこう思われたいから」程度のモチベーションでは、365日メモしつづけるなんてできないです。自分のなかに何らか大きなパッションがあって、その発露としてメモをとっている。それだけですよ。
まずい。さすがにツッコみすぎてしまったか…
「メモの習慣」を続けられているのはなぜ?
天野
「パッション」とおっしゃいましたが、「メモ習慣」を続けられているのはなぜなんでしょうか? 継続するコツとかあるんでしょうか…
前田さん
ひとつは、やってるとやってないとじゃ、明確にパフォーマンスが違うからですね。
僕は、すべての打ち合わせや仕事において「相手の期待値を二段階超えよう」と意識している。そのために、メモの魔力に頼っているんです。
天野
すべての!
前田さん
でもそれは当然カンタンじゃない。人間だから眠かったり集中できなかったりすることもある。
そんなときでも「コンスタントに相手の期待値を超えていく」ための習慣が、メモなんです。
前田さん
あとは、「尽きない燃料」がベースにあるからです。
自分の人生は「自分のためではなく、誰かのために全力になる」、そして、そのある種「見返りを求めない愛情」によって人にパワーを与える、という軸で生きていくって決めている。
大学時代に本気で自己分析をしたことがあって、そこで得られた“深い腹オチ”が自分の奥底のところであるから、強い風が吹き付けてきても、ずっと同じモチベーションでいられると。
前田さん
これは、人生を振り返って自己内省、自己分析してみたものです。
自分は幼いころに両親をなくしている。だけど兄や学校の先生など、たくさんの人からの「無償の愛」をもらって生きてきたんですよ。
そこで受けた愛情の総量が大きかったから、今こうして逆境をプラスに転換して頑張れてる。だから今度は、自分が与える側に回る人生にしようと思ってるんです。
天野
「『自分は両親がいないから、十分な愛を受けていない』と思うのは違う」
「むしろ、補って余りある大きな無償の愛によって支えられてきた」
これは…感動的なメモだ…
前田さん
なんだか恥ずかしくなってきましたが(笑)。
人生を大きく左右する自己分析も、「抽象化」が鍵になっています。
たとえば就活や転職の面接で「今までつらかったことは何ですか?」って質問されて、「大学受験に失敗したこと」…で終わっちゃう人が多い。
前田さん
そこを抽象化することが大事なんです。
受験に失敗っていうのはファクトでしかなくて、努力が報われなかったことがつらかったのか? まわりの友だちは皆合格してるのに出遅れるのがつらかったのか? それとも親にお金で迷惑かけちゃうのがつらいのか?
そう考えたときに、「やっぱり親だな」となったとする。「じゃあ、親を喜ばせることを自分の軸にしよう」と考えるのが抽象化。そこから具体的に転用していけるじゃないですか。
天野
軸か…就活のときによく聞きましたが、いまはあんまり考えてないな…
前田さん
自分が面接官をやってても、優秀な人ってこれを勝手に言ってくれますよ。
聞かなくても、抽象と具体を往復しながら説得力ある議論を展開してくれる感じです。
「読者の人たちの最初の成功体験は僕がつくります」
天野
こんなメモ術を考案して継続している、前田さんのベースとなったものは何なんでしょう?
前田さん
おそらく、小学校のときに原体験があって。ノートをめちゃくちゃ真剣に書いたり、一生懸命まとめてたりしていたら、先生にすごい褒められたんですよ。吉野先生という人でした。
「前田君のノートすごいんだよ」って、先生がノートを持って学校中をまわるんです(笑)。
前田さん
いまになって思うんですけど、あれはたぶん先生の優しさだったんですね。
自分は親をなくしてて、学校に友だちも少なかった。ちょっと社会になじめない僕を励まそうとしてやってくれたんだろうなって思います。
天野
すごいいい話ですね…その先生の優しさがいまの前田さんをつくってるわけですよね。最初の成功体験があったから。
前田さん
そうかもしれないですね。だからこの記事を読んでマネしてくれようとする人がいたら、その人の「最初の成功体験」はぼくがつくってあげなきゃって思ってます。
前田さん
SNSで「前田さん、書きました!」って言われたら、「めっちゃいいじゃん!」って反応しにいこうと思います。
天野
おお! それ、殺到しちゃいますよ。
前田さん
うん、全部見ますよ、絶対に。
誰かにとっての“吉野先生”にぼくがなるって思ってますから。
天野
前田さん…!(好感度高い理由が完全にわかった…)
というわけで、無粋なツッコミばかりしてた自分が恥ずかしくなって取材終了です。
「メモを取ったり準備したりするの、めんどくさくない?」という疑問をぶつけたものの、前田さんにはそれを凌駕する「人生の軸」というモチベーションの源が確立されていたわけです。
読者の皆さんも、久しぶりに「自己分析」をしてみてはいかがでしょう? SNS上で前田さんに送れば見ていただけるとのことなので(大丈夫か…?)、メモに書き出してみてくださいね。
僕もこれから、「メモ」を駆使して、自分の軸を見つめなおしたいと思います!
手帳も買ってきました
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=中山駿(@nk_shun)〉
前田裕二流「メモ術」をマネしたくなった方は、こちらをチェック!
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