ビジネスパーソンインタビュー
家も財布も持たない先生…!?
家を手放したら、授業がアップデートされた。“ミニマリスト高校教師”の「捨てる哲学」
新R25編集部
シェアハウスやソーシャルアパートメントなど、暮らし方にも多様性が広がりつつある現代。そんななか、「家を持たない」という選択肢をした高校教師がいるようです。
今回お話を伺ったのは、1年かけて身のまわりのモノを減らし続け、ついには家まで手放してしまったというミニマリスト高校教師・よしかわさん。
現在はゲストハウスで生活をするよしかわさんは、新しい生き方によって学んだ“大切なこと”を生徒に伝えているようです。
〈聞き手:ライター・米永豪〉
【ミニマリスト高校教師よしかわ】1993年生まれ。普段は高校で英語教師として働きながら、2年ほど前からモノを持たないミニマリスト的な生活を始め、車やテレビ、500冊の蔵書、洗濯機、冷蔵庫など、少しずつモノを断捨離。4カ月前にはとうとう家まで手放すことに。現在は自身の経験を生かし、大学や企業での講演活動も行っている
家を手放したきっかけは?
米永
よしかわさんは、自宅を持たずにゲストハウスで生活をしながら、高校で英語を教えているんですよね。
いろいろとお聞きしたいのですが、まずは家を手放したきっかけを教えてください。
よしかわさん
もともと職場(学校)の近くで1人暮らしをしていたんですが、今年の8月にイスラエルに10日間ほど行って、日本に帰ってからさらに10日間くらい社会人インターンに参加して、ほかにも部活の行事に帯同したりしてたら、結局8月のうち5日間くらいしか家にいなかったんですよ。
たった5日間のために家賃払うの!?って思ったらもったいないなと感じてしまって。
それでアパートを解約して、ゲストハウスなどで生活する、いまのスタイルを決断しました。
米永
家がないことに不安はないんですか?
よしかわさん
何が不安なんですか? …貴重品とか?(笑)
何が…!?
米永
いや、帰る場所がないこととか…
よしかわさん
ゲストハウスのスタッフとは仲良しだし、知り合いの長期滞在者もいるので、寮みたいで楽しいですよ。
帰ってくると寮母さんと仲間がいて落ち着く。そういう感覚です。
家を持たないと、お金と時間が増える
米永
ゲストハウスでの暮らしは、具体的にいくらくらいでやっているんですか?
よしかわさん
1泊1500円なので、1カ月4万5000円です。
もちろん家賃や光熱費はないですし、出張中や旅行中は料金を払う必要がないので、かなり経済的ですよ。
※よしかわさんが現在生活をしているエリア(金沢駅周辺)のワンルームの家賃相場は月6~7万円ほどのようです
米永
え、安い…
よしかわさん
それに、家を持たないと、お金と時間が増えるんですよ。
米永
「時間が増える」とはどういうことでしょうか?
よしかわさん
そもそもモノを買わないので買い物する時間が必要なくなりますし、ゲストハウスなら掃除や洗い物もやってもらえるので、そのぶんを自分の時間に使えるんです。
教師という職業は時間に縛られがちなんですけど、この生活を始めてからは時間を作れるようになり、勉強会や異業種交流会などのイベントに参加するなど、積極的に外に出て活動できるようになりました。
米永
(なんか、かなりメリットが大きい気がしてきた…)
“物欲の塊”だった過去。なぜモノを手放せるようになったの?
服もほとんど持たなくなったとのことで、着替えは「ユニクロのスウェット上下」を数セットのみ
米永
いまは私物もかなり少ないそうですが、昔からモノを持たないタイプだったんですか?
よしかわさん
それが真逆で、昔は物欲の塊でした(笑)。
部屋中にスターウォーズのフィギュアを並べてましたし、本を集めるのも大好きで、出版社順、作家順、発行年度順にきれいに並べないと気が済まなかったんですよ。
スターウォーズのフィギュア集めるタイプの人がミニマリストになれるのか…
米永
めちゃくちゃコレクター気質じゃないですか…!
大切だったはずのコレクションを捨てることができたのはなぜでしょう?
よしかわさん
あるとき、これって本末転倒だなって気づいたんです。
本棚にずらっと並んだ本のタイトルをみても、内容が思い出せないものがほとんどだった。
本を集めること自体が目的になっちゃっていて、肝心な読書がおざなりになっていたんですよね。
米永
たしかに…ぼくの家にも、本棚に並べてるだけで読んですらない本が山ほどあります。
それでも、やっぱりお店でフィギュアを見たりしたら、欲しくなりません…?
よしかわさん
もう眺めるだけで満足できるようになりました。
これには考え方のコツがあって、結局コレクションって、買う時点で満足度のピークは来ている。
自分の部屋においてあるか、お店に置いてあるかの違いだけなんですよ。
よしかわさんはもはや財布も持たないとのことで、上着にそのままお金を入れてました
教師が家を手放した。周囲の反応は?
米永
今回、一番ツッコみたかったのは、よしかわさんが「教師」という立場にあることなんです。
ゲストハウスで生活することについて、学校側にはすんなり受け入れてもらえたのでしょうか?
よしかわさん
さすがに「家に住まない」というのがやっていいことなのか分からなかったので、ほかの先生方に相談しました。
「ゲストハウスでいろんな外国人と会話をして英語力を上げつつ、そこでのエピソードを生徒に話したいんです!」と説明したら、「もうそんな時代なんだね」と。
米永
意外とあっさりOKが出たんですね。教師という職業柄、そういう新しい生き方は認められづらいのではないかと思ってました。
よしかわさん
最初は驚かれましたけど、まわりの先生方も興味があるみたいで、いまでは職員室で「最近ゲストハウス生活、どうなの?」なんて聞かれることも多いですよ。
米永
批判されることとかはないんでしょうか?
よしかわさん
あまりないですが、最近地元の新聞やニュースに取り上げられたことがあって、表に出れば出るほど批判の数は増えるな…と感じています。
何度か「君みたいな生き方は好きじゃない!」と言われたことも。
米永
そうなんですか…
よしかわさん
でも、ほとんどの方が僕の新しいライフスタイルをポジティブに捉えてくださっていますし、指摘してくださった方々も、直接話すとすんなり受け入れてくれることが多いです。
よしかわさんの物腰の柔らかさも、まわりからの信頼につながっていると思います
家を手放したら授業がアップデートされた
米永
ミニマリスト生活を通じて、英語教師としての変化はありましたか?
よしかわさん
それが、かなり大きな収穫があったと思っていて。
ミニマリストにはモノを減らすだけじゃなくて、思考や行動からもムダを省くんです。
だから授業のなかでも「これって本当に必要なのかな?」って思ったことはどんどん減らしています。
米永
たとえばどんなことでしょうか?
よしかわさん
英語の授業の最初に「単語テスト」ってありませんでした?
あれって、先生がいなくてもできることですよね。
生徒全員と教師が顔を合わせてるのに、教師がプリント配ってやらせるだけって、もったいないじゃないですか。
よしかわさん
だからぼくの授業では、「学校でしかできないこと」を中心にやるようにしています。
具体的には、教師であるぼくと生徒が英語で会話するとか、生徒同士でグループを作って英会話するとか。コミュニケーションに重点を置いてます。それは学校に来ないとできないことですよね。
米永
単語テストより、生徒も楽しく参加できそうですね…!
ほかにはどんなことがありますか?
よしかわさん
ほかには、生徒の課題を回収して、1枚1枚にハンコをバンッ! バンッ!って押すのとか(笑)。
職員室でよくありがちな光景なんですけど、教師の引き出しにハンコが30個くらい入ってて、「今日はどれにしようかな~」とか悩んでる。
ぼくも新人のころはいっぱいハンコを持っていたんですけど、「ハンコを押しても生徒の成績は上がらない」ということに気づいて、やめました。
たしかにそうですよね…
よしかわさん
授業で配っていたプリントも、いまはデータで共有するようにしています。
先生同士の会議もちょっとずつペーパーレス化が進んで、iPadで進行するようになってますね。
米永
先生の世界も少しずつ変わってるんですね…
学校の先生って、校内で生活が完結しているので、失礼ですが“世間知らず”なんじゃないかと思っちゃってました。
よしかわさん
全体的にはそうなってしまっていると思います。
でも仕方ないところもあるんですよ。朝8時から16時まで授業があって、そこから19時まで部活の指導をして、部活が終わったら次の日の準備をして…なんてことをしてると、家に帰るのは22時くらいになってしまう。
さらに土日は部活の遠征にいったり、模擬試験の監督がはいったり、学校説明会の準備をしたりと、ぼくが新人のときには1年のうち1週間くらいしか休みがなかったですから。
米永
だからこそ、ミニマリスト生活を選んだと。
よしかわさん
そうですね。家を手放して、お金と時間を作ってどんどん外に出る。
それはいまの生活でないと無理だと思います。
「人生が楽しくない人は、不要なものを捨ててみたらいい」
よしかわさん
ぼくがいつも生徒に言ってるのは「人生は楽しんだもん勝ち」ということ。嫌々ながら勉強していたり、本当は部活を辞めたいのに続けてたりするような子がたくさんいるんですよね。
でもそれってすごい悲しいじゃないですか。「受験しなきゃ」「部活をやらなきゃ」みたいに縛られるんじゃなく、人生にはいろんな選択肢があることをもっと知ってほしい。
米永
よしかわさんのような先生がいたら、楽しい高校生活が送れそうです。
よしかわさん
結局、自分が本当に必要ないと思っていることを捨てられるかどうか、だと思うんですよね。
ぼくは家を手放してゲストハウス生活を始めたことで、それまでだったら知り合うはずのない人たちと出会うことができましたから。
いま人生が楽しくない人は、環境を変えるために、不要なものを捨ててみたらいいんじゃないかと思います。
よしかわさん現在の目標は「全国の先生が集まるオンラインコミュニティ」を作り、授業のアイデアをシェアしたり、先生同士で学びあえたりする場を作ることだそう。
家を手放すことで究極のフットワークを実現したよしかわさんなら、近い将来実現できる気がします。
〈取材・文=米永豪(@go_yonenaga)/編集=天野俊吉(@amanop)〉
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