ビジネスパーソンインタビュー
思ったよりだいぶガチヲタだった
「アイドルの年齢2倍の法則」とは? 田端信太郎がビジネス視点で語るアイドル論
新R25編集部
R25世代にとって、組織や仕事への悩みは尽きないもの…。
そこで、20年来のアイドルファンで、『新R25』でアイドルインタビューを担当してきたライター・小沢は考えました。「仕事におけるプロ意識やキャリア形成など、アイドルから学べることがたくさんあるはず!」と。
今回は、数々の企業で活躍してきたビジネスパーソン・田端信太郎さんに取材。SNS上でアイドルの魅力を語っている田端さんに、「アイドルから学ぶべき仕事論」を教えてもらいました。
〈聞き手:ライター・小沢あや〉
「コンサートも行ってるよ」意外なほどハロプロ沼にハマっていた田端さん
ライター・小沢
今日はね、田端さんにアイドルの話をしてもらおうと思っています。
【田端信太郎(たばた・しんたろう)】株式会社ZOZO コミュニケーションデザイン室本部長。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン『R25』を立ち上げ、創刊後は広告営業の責任者を務める。その後ライブドア、コンデナスト・デジタル、NHN JAPANを経て、2018年3月から現職
田端さん
いきなり前のめりだけど、急になんなの!?(笑)
ライター・小沢
グループに所属しながら、ソロとしての仕事もつかんで組織に還元する…まさに、アイドルこそが最強の「ブランド人」なのでは? と思いついたんです。
それで、最近ハロプロが気になっているという田端さんに語ってもらおう! と企画しました。
田端さん
なるほど、そういうわけね(笑)。ここ数年は、モーニング娘。の動画を掘っていたら完全にハマって、ついにコンサートも行くようになったよ。
モーニング娘。は、2017年の春ツアーでやった、冒頭からの27分ぶっ通しメドレーが最高だった。俺のなかでは、モーニング娘。’17が直近でのピークだね。
ライター・小沢
(思ったよりガチヲタだった!)アイドルだけど、アスリートですよね。気力も体力も半端ないです。
いろいろ語りたくなるんですが、田端さん、組織としていまのモーニング娘。’19の強みはどこにあると思いますか?
田端さん
モーニング娘。’19はさ、いま11人だけど、輝く個人技の代表である小田さくらと、全体のバランスを取るリーダーとしての譜久村聖、まずこの2人の存在がすごすぎるんだよ。
この「個人と組織のバランスをどう取るか?」って、チームマネジメントにおいて普遍のテーマだよね。
ライター・小沢
小田さくらさんと譜久村聖さんは、グループの歌を支えるふたりです。
田端さん
(スイッチが入ったように早口になって)ほんと、一人ひとりに個性がありながら、全体の調和のバランスがとれている。
今ちょうど11人だから、サッカーチームみたいなんだよね。
歌割りがパス回しだとすると、とりあえずこの小田と譜久村にボールを預けちゃえばなんとかなる! って強さがある。そんで、主軸の2人を支えるベテランのボランチが石田亜佑美だね。
さらに佐藤優樹はボール持っただけで「次は何をするんだろう?」と会場がわくファンタジスタ。もう、振り付けの合間にも、スキあらば、くるくる回ってさ、無駄にボールをまたぐフェイントをするように自由にパフォーマンスしてるよね。コレ以上ボール持ちすぎると全体の戦術がぶっ壊れるゾ!というギリギリまで自分をアピールしようという天才的な危うさが魅力。
最後に、センターフォワードの牧野真莉愛は、歌割りの最後にきて、おいしいところをワンタッチで、バーン! とゴールに蹴り込み、決めポーズしちゃう超優秀なFWなわけ。
ちなみに俺、牧野真莉愛推しね。
酒も入っています
ライター・小沢
…田端さん、読者が置いてけぼりですよ。サッカーじゃなくてビジネスにたとえてください!
田端さん
今回は読者なんて置いてけぼりでいいよ!(笑)
リーダーといえば俺、本を読んで対談させてもらった縁で、たかみな(元AKB48総監督・高橋みなみ)もすごいと思ったんだけどさ、アイドルグループで現役最強のリーダーは、譜久村聖だと思うね。知ってる? 「フクムラダッシュ」って。
DVDを再生しだし、「これこれ!」と大声を上げる人たち
ライター・小沢
編集部の人がポカーンとしてるけど、「フクムラダッシュ」はファンの間で語り継がれている伝説ですよね!
田端さん
卒業コンサートで、足をつった道重さゆみが動けなくなってステージ中央に取り残されたのを、出島に行ってた譜久村聖が花道をダッシュして、次のデュエットにつなげるの。
あの臨機応変さが、モーニング娘。のすごさを立証してるよね。
ライター・小沢
譜久村さんのとっさの判断はもちろん、道重さゆみさんが動けなくなったのに、迷いなく決められた演出どおり先陣を切った飯窪春菜さんの「イイクボスタート」を評価する声もあります。
田端さん
すごいよね。でもあれ、みんな頭ではあんまり考えてないと思うんだよね。あまりにスムーズだったし、「どうしよう?」的な迷いを一切感じさせないパーフェクトな機転の利かせ方だった。
俺も「ほかのメンバーは道重さゆみが足をつったことに、どのタイミングで気づいたんだろう?」って何度も映像観ているんだけど、いまだに全然わかんないんだよ。
ライター・小沢
インフルエンザで、コンサート当日に急な欠席者が出ても、立ち位置を埋められるモーニング娘。…組織の強さと層の厚さを感じますね。
アイドルとビジネスパーソンの共通点…「年齢2倍の法則」とは
ライター・小沢
(インタビュー開始から数十分が過ぎて)田端さん、このままだと本当にただのおたくトークになっちゃう! そろそろアイドルをビジネスにたとえてくださいよ!
そんなにわかりやすく「やべっ」って顔しないでください
田端さん
ビジネスの組織論っぽく語ると、俺は「アイドルの年齢2倍の法則」を推したいね。
ライター・小沢
と、いうと??
田端さん
俺が勝手に考えたんだけど、「アイドルの年齢は、2倍してビジネスマンと比較するとちょうどいい」っていう法則。そうすると、彼女らが置かれてる状況が想像しやすくなる。
アイドルたちって、研修生は11〜12歳くらいで加入してくる新人もいるでしょ? 年齢を2倍して、ビジネスパーソンに換算すると22歳から24歳、まだまだひよっこの新卒くんなわけ。
ライター・小沢
それでいうと、小田さくらさんや、佐藤優樹さんはまだ19歳。2倍すると38歳ですから、脂の乗ったまさにエースの世代…
田端さん
その通り!そのくらいの年代の子が中核メンバーになってチームを引っ張るのが、とても自然なことなんですよ。
ついこないだまでモーニング娘。の新メンバー募集のオーディション告知やってたけど、「小学校5年生から高校2年生まで」って書いてあるわけ。これを普通の求人広告風に言い換えると「22歳から35歳までの方」ってことで、じつに自然じゃないですか?
ちなみに、乃木坂46とか欅坂46とか坂道系のオーディションへの応募資格は「12歳から20歳まで」となってる。少し後ろにズレてる。それだけ、モーニング娘。は育成を重視しているということなんだろうね。
ライター・小沢
田端さんは今年で44歳だから、アイドル年齢でいうと22歳? 譜久村聖さんと同じ、リーダークラスなわけですね。
田端さん
そうそう。女性の年齢の話をすると燃えるかもしれないけどさ、アイドルとして活動していると、どうしても活動期限があるわけじゃないですか。
ライター・小沢
引き際はそれぞれが決めるとはいえ、25歳くらいで卒業する方が多いですね。
田端さん
アイドルも25歳になると、“グループ全体を束ねるリーダークラス”になれないならセカンドキャリアを考えないといけないよね。ビジネスパーソンで換算すると、50歳だから。
坂道系で言うなら俺の推し、乃木坂46の西野七瀬さんも、ちょうど25歳前で卒業するわけでね。いわばそれくらいの時期が「卒業」の適齢期なわけですよ。
サラリーマンも、実力をつけないまま年齢だけ重ねて、ずっと同じ組織にいるとヤバい。年齢に応じて「これくらい成果出さないと」みたいな何となくの期待の空気って、会社員でもあるじゃない?
ライター・小沢
そうですね。ハロプロのアイドルは、世代のバランスが取れつつ、いい意味で組織の新陳代謝が続いていると思います。
有名メンバーが卒業したときも、若手が育っているからなんとかなってきた。むしろ毎回パワーアップ、常にいまがベスト!みたいな。
田端さん
お! それで言うと、会社組織や政党政治とかでもよく「老・壮・青」っていうんだよね。
「経験のある老人と脂の乗った壮年、そして血気盛んな若い青年の3世代がバランスよく混ざった組織がベストだ」と。
もっとも機能する組織のかたちは、どのジャンルでも一緒なんだよね。
このあと、「組織においてオッサンがいかに重要か」という話が続いたのですが、テーマと外れるので全カットしております。ご了承ください
ビジネスマンは、アイドルの「折れないメンタリティ」に学ぶべき
ライター・小沢
田端さんがビジネス論を語るインタビューでは、よく「努力の過程じゃなく、アウトプットを出せ」とおっしゃっていますが…
田端さん
そう、過程より結果を見せてくれって思っちゃうタイプなの。
“鬼の田端”が顔をのぞかせる
ライター・小沢
それはアイドルでも同じ…?成長過程を見るのが好き、というファンも多いですが。
田端さん
プロ野球選手が素振りの回数アピールしないでしょ?試合で結果出してほしいわけ。
ライター・小沢
厳しいご意見。
田端さん
でも、ハロプロのレコーディング映像でびっくりしたの。「素振りをアピールしてる」なんてレベルじゃなく、メンタリティが並のビジネスパーソンの数倍強い。
たとえば“歌割り”が全然ない子も、レコーディングはフルコーラスでやりきるわけ。いいパートだけあとで使われるというかたちで、歌割りはレコーディングのあとに決まる。
小田さくらみたいに超歌える子がグループにいたら、普通は心折れちゃうじゃん。そこで「どうせ小田ちゃんでしょ」「どうせやっても無駄」ってすねないのがすごいよね。
ライター・小沢
サブリーダーの生田衣梨奈さんなんて、「後列上等!」宣言をしてましたもんね。
でも、ヒャダインさん(アイドルの楽曲も多く手がけるプロデューサー)は「生田さんは、他のアイドルグループだったら歌がうまい扱いの“歌唱メン”レベル。でも、小田さくらがいるグループだから…」と、彼女の歌を評価しています。
「食らいつく努力がすごい」とのこと。鬼じゃなかった
田端さん
あとは、現場に行くとよくわかるけど、声援の大きさで人気の違いってわかるじゃないですか。あれに毎回さらされるプレッシャーに耐えられるって、本当にすごいと思う。
ライター・小沢
超競争社会ですもんね。
田端さん
AKBグループの選抜総選挙とかもさ、あんなプレッシャーの環境で頑張ってきたら、あの子たちなんでもできちゃうと思うよ。
サラリーマン社会なんか、超ぬるいし、物足りなく感じちゃうんじゃないかな。
ライター・小沢
人気によって、立ち位置も変動しますしね。
田端さん
連続で欅坂46の“不動のセンター”を務めている平手友梨奈もすごすぎるよ。圧倒的。
あんなに特別扱いされるのは、プレッシャーもすごいと思う。
ライター・小沢
振り付けも、彼女が際立つ構成。かっこいいです。
田端さん
平手が休んだとき、『Mステ』でセンターに立った子(鈴本美愉)も半端ないよね。プレッシャーによく耐えてやりきった!って思う。
ライター・小沢
アイドル、本当にすごいですよ。実名顔出しで頑張っていて、さまざまな苦労がありながらもみんな笑顔ですから。
田端さん
デビューできる時点で、倍率1万倍くらいのスーパーサイヤ人ですよ。一般企業への就活なんて比にならない。
そこを勝ち抜いて、パフォーマンスで魅了してるわけだから、やっぱりすごいよね。
俺、グループアイドルは「女の甲子園」だと思ってるんだけど、そのうえに努力・友情・勝利みたいなジャンプ漫画の要素があるのがたまらないよね。
「鈴木愛理は、安室奈美恵の後継者になれる存在」
ライター・小沢
ちなみに、もしも田端さんがアイドルをプロデュースできるとしたら、今一番気になるアイドルは誰ですか?
田端さん
すごい質問だねそれ…
鈴木愛理(元℃-ute。現在はソロアーティスト、モデルとして活躍)はもっと売れるべきポテンシャルがあると思うんだよね! 俺は、それこそ安室奈美恵の後継者になれるくらいの素材だと思ってる。
音楽的には、中田ヤスタカとか、大沢伸一、tofubeatsあたりが、鈴木愛理をプロデュースするのを見てみたいですね。
ライター・小沢
ハロプロ在籍中から大人気で、卒業後も武道館埋めていますよね。女性ソロアーティストとしても、十分な人気だと思うんですが…?
田端さん
いやいや、武道館といわず、ドームツアーができると思うよ。ルックス、ダンス、歌の総合点でいうと、間違いなく鈴木愛理が現役アイドル界トップだと思う。なんでもっと売れないんだろう。
元NMB48の山本彩とかも、すごい鈴木愛理推しなんですよ。「アイドルとして完璧」「AKBにいなくてよかった!」と言ってる。
何事もそうだけど、同業者から認められるってのはホンモノですよ。
ライター・小沢
本人の才能はもちろん、努力を欠かさないのも鈴木愛理さんの魅力です。
田端さん
なんでもできすぎるのが、逆に唯一の弱みなのかな〜?
アイドルも営業もさ、隙とか欠点があったほうが売れるんだよ。イケメンが完璧な提案を理路整然とプレゼンしてきたら、発注したくならないでしょう? 「こいつ、しょうがないな〜」っていう親しみやすさと、魅力のスパイスが必須だと思う。
そこは、アイドルとビジネスの大きな共通点のひとつだろうね。
「すぐれた企業とアイドルグループには、受け継がれる風土がある」
ライター・小沢
多くの組織でマネージャーとして活躍してきた田端さんから見て、ビジネスの組織マネジメントと、アイドルグループで通じる部分はどこでしょうか?
田端さん
企業や組織って、メンバーは入れ替わるのに、ずっと変わらずに受け継がれている文化やDNAみたいなものがあるでしょ。
たとえば財閥系企業とかも、社員全員が入れ替わってるのに“らしさ”は変わらない。
これってすごいことなんだけど、いいアイドルグループにはそういった“DNA”があると思う。たとえばハロプロにも、そういう持続性があると思わない?
ライター・小沢
思います! 創業メンバーが全員いなくなっても、カルチャーが受け継がれている会社、みたいな。
田端さん
リクルートとかもそういう感じ(笑)。
あとは、「次期リーダーは誰かな」とか、人事読みするのが楽しいのも共通点といえば共通点だよね。ビジネスマンもよくやるじゃん、社内で次は誰が抜擢されるかとかさ(笑)。
近いうちに、小田さくらリーダーのモーニング娘。になりそう。それも楽しみだね。
ライター・小沢
楽しいですよね。最後に、田端さんがアイドルを追う理由は?
田端さん
「このメンバーの組み合わせでこの曲を見られるのは、これが最後なんじゃないか」っていうスリルがある。今追いかけなきゃいけない、刹那的なものなんだよね、アイドルは。
俺、とにかくモーニング娘。’17の春ツアーが好きなのよ。でも、もう工藤遥がいないのが寂しくてとくにそう思うね。
早いうちに卒業して女優やモデルになる子も多いけど、アイドルをやりきったら将来は何をやっても大丈夫だと思うよ。
このあとも、夜遅くまでアイドルトークは続きました…。田端さんが楽しんでくれてよかった
ということで、通常のビジネス論とはまったく違う切り口で、田端さんに教えを乞いました。一部の読者を置いてけぼりにした感は否めませんが…それでも「キャリア」「メンタリティ」「組織風土」などについて、たくさんの学びが得られたと思います!(多分)
ちなみに、「田端さんは、アイドルを何目線で見てるんですか?」ときいたところ、「『あんなに小さかった子がこんなに垢抜けて、色気と貫禄まで出ちゃって…』って、親戚のおっさんみたいな目線で見ちゃう(笑)。けどみんな、人として、プロとして尊敬してるよ」とのことでした。
アイドルをじっくり観たことがなかった人も、これをきっかけに“沼”に足を踏み入れてみては…?
〈取材・文=小沢あや(@hibicoto)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=中山駿(@nk_shun)〉
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