ビジネスパーソンインタビュー
「なんで男に生まれたんやろう」と思っていた。だけど…
はるな愛「LGBTというカテゴリを理解しようとするより、“その人のこと”を知ってほしい」
新R25編集部
物心ついたときから自分の性に違和感を抱き、高校生のときに男性から女性として生きることを決めた、タレントのはるな愛さん。現在では性への理解を深める活動を積極的におこなっています。
今回、そんなはるなさんに「LGBT」についてインタビューする機会をいただきました。
LGBTに関する日本の現状や、私たちはLGBTの人とどう接するべきかについて話を聞いているうちに、私はある勘違いをしていることに気がつきました…。
LGBTを理解するために、まず知っておくべき大切なことがあったんです。
〈聞き手:ライター・田中さやか〉
【はるな愛(はるな・あい)】1972年生まれ、大阪府出身。2007年松浦亜弥の口パクモノマネ「エアあやや」で大ブレイク。2009年「ミス・インターナショナル・クイーン」で優勝。TV出演だけではなく、LGBTのイベント登壇などもおこなっている
「LGBT」とは、セクシュアルマイノリティの総称。その割合は約9%
LGBTとは、セクシュアルマイノリティ(性的少数者)の総称です。
一般的には身体的な特徴で分けられる性別と自分の認識が一致しており、恋愛対象は異性であるとされていますが、その考え方に当てはまらない人たちのことをセクシュアルマイノリティと呼びます。
LGBTの「L」はレズビアン(女性同性愛者)、「G」はゲイ(男性同性愛者)、「B」はバイセクシュアル(両性愛者)、「T」はトランスジェンダー(性別違和)を指しています。
レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルは好意を抱く相手の性別を表した言葉なのに対し、トランスジェンダーは出生時の性別と自分の感じる性別が異なることを表した言葉です。
電通ダイバーシティ・ラボが2018年1月10日に公表した「LGBT調査2018結果報告」によると、言葉の浸透率は68.5%、そして自身をLGBTだと答えた人の割合は8.9%となっています(全国の20~59歳の個人6229人が対象)。
田中
オネエタレントの活躍や、有名人のカミングアウトなどでここ数年でLGBTという言葉が一気に広まったように感じます。
はるなさんから見て、日本のLGBTの現状はいかがですか?
はるな愛さん
数年前よりも「LGBTを理解しよう!」という動きは増えてきていますが、やはり海外と比べるとまだまだ閉鎖的ですね。
日本人は「一緒が当たり前」という風潮があるので、自分とは違う格好や考え方の人に対して、過敏に反応してしまいがちなんです。
田中
たしかにそうですね…では、海外ではどのように認識されてるのでしょうか?
はるな愛さん
場所にもよりますが、外国人のほうが個人の性に対してフラットであるように感じます。
タイでは男でも女でもない「第三の性」が国に認められているんですよ! また、アメリカやヨーロッパでは同性婚も多いです。
田中
国によって大きく違いますね…!
はるな愛さん
はい。今は世界各国がつながっているから、もっと日本でも多様性を受け入れられるようになるといいですね。
誰もが好きな人と当たり前のように一緒になれて、批判を受けることなく幸せになれるような社会になることを願って、私は活動を続けています。
無理にカミングアウトしなくていい。自分の生きやすさを第一に考えよう
田中
そもそもはるなさんがご自身の性に違和感を感じたのは、いつごろだったのでしょうか?
はるな愛さん
物心がついたときには違和感を感じていました。女の子のおもちゃがずっと好きで「自分は女の子だ!」と思いながら生活をしていたんです。
成長するにつれ、男性器も自然となくなるものだと思っていたんですよ!
田中
そんな小さいころから…!
今でこそLGBTという言葉ができて理解する人が増えていますが、はっきりとした言葉がない当時は、どんな気持ちだったんですか?
はるな愛さん
「この感情をどう表現したらいいの!?」と思っていましたね。
はるな愛さん
誰に相談したらいいのかわからなくてずっと悩んでいたし、もしまわりに知られたら「変態」と言われるんじゃないか…と思っていて。
だから、一番身近な親にも相談できなかったです。
田中
同じように苦しんでいた人は多そうですね…
それからカミングアウトできたのは、何かきっかけがあったんですか?
はるな愛さん
初めて話したのは高校一年生のとき。父に言いました。
当時、高校を休んで好きな人に会いに行っていたんですね。でも休んで会いに行っていることが父にバレてしまって。父を説得するには正直に打ち明けないといけない…と思って話しました。
田中
それで、お父様はどんな反応を…?
はるな愛さん
「女の子として生きていきたい」と言ったら、父は「うーん…」とぐっと堪えたあと、涙を流していました。
そのあとに「お前が“男”やったらとことんやれよ。絶対に、後悔の残る人生にするなよ」と言ったんです。
え!?
田中
「女として生きていきたい」と打ち明けたのに、「お前が男だったら」とおっしゃったんですか?
はるな愛さん
そうなんです(笑)。
やっぱり親にとって、私は息子でしかないんですよね。だからいきなり「今日から女の子です」と言われても、すぐに「わかった!」とはなりませんでした。
田中
カミングアウトしたらすべてが解決する、というわけではないんですね…
はるな愛さん
もちろんです。今となっては親と良好な関係になっていますが、もしかすると親子関係が大きく変わっていた可能性もあります。
田中
となると、まわりに言うかどうかはすごく悩んでしまいますね。
はるな愛さん
そう。何なら、無理にカミングアウトしなくてもいいと思っているんですよ。
もちろんカミングアウトをすることで生きやすくなるなら、打ち明けたほうがいい。
でも、言うことで誰もが幸せになれるとは限らないので、少しでも「言いたくないな」と感じるのなら、言わなくていい。自分の心が望むほうを選択してほしいです。
カミングアウトされたら、どんな反応をすればいい?
田中
じゃあもし逆の立場で、家族や友だちから「実は性別について悩んでいる」と言われた場合は、どんな反応をすればいいのでしょうか…?
はるな愛さん
素直にリアクションしていいですよ!
田中
え! いいんですか?
はるな愛さん
カミングアウトされたら、最初は驚くかもしれません。でも、相手に対して軽蔑する気持ちがなければ、素直に自分が疑問に思っていることを聞いてください。
田中
てっきり、あれこれ聞いてしまうのも失礼なのかな?と思ってました…
はるな愛さん
そのあたりは難しいんですけど、「失礼かな?」と配慮する、思いやりのような気持ちが偏見につながってしまうことがあるんですよね。
もちろん悩みをいじることは絶対にダメですけど、「そうだったの!?」「じゃあ恋人はどこで見つけているの?」など、素直に感じたことを普通に聞いてみるといいですよ。
はるな愛さん
あなたに打ち明けてくれた方は、きっとあなたのことを信頼しています。だから気を遣いすぎず、素直にリアクションをするのが1番いいと思います。
「LGBT」という言葉でマイノリティをくくるのは無理がある
はるな愛さん
正直…LGBTというテーマはすごく難しいんですよね。
こうやって取材をしていただいたり、みんな理解しようとしてくださるんですけど、実際は「どう受け止めたらいいの!? 」とわからない人がほとんどだと思います。
田中
おっしゃる通りです。私も理解していないなと痛感します…
はるな愛さん
そういう方に言っておきたいのは、そもそも「LGBT」という言葉の意味を理解することが本質ではないんですよ!
田中
え⁉ どういうことですか?
はるな愛さん
LGBTに当てはまらない人もいるからです。
今はLGBT“Q”というように、言葉が増えてきてます。「Q」が追加されたのは、LGBTのどれにも当てはまらない人がいたから。
最近では、LGBTのどれにも当てはまらない人のために、セクシュアルマイノリティ全般を表す言葉「Queer(クィア)」や、まだ自分の性についてよくわからないなど「Questioning(クエスチョニング)」の意味を込めた「Q」を加えて、「LGBTQ」と呼ばれることもあります。
はるな愛さん
私がテレビに出はじめたときは、まだLGBTという言葉も普及していなくて、オネエタレントが少なかった時代。いろんな番組に出させてもらって、私なりのLGBTについての考えを発信していました。
でも一方ではLGBTという言葉が広まることで、そこに無理やり当てはめられて苦しむようになってしまった方もいることを知ったんです。
田中
そうだったんですね…
はるな愛さん
やっぱりみんな違う人間なんですよ。
虹って、少しずつ違う色がグラデーションになることで「虹」になっていますよね?
これは人間も同じ。みんな少しずつ違うんです。みんな育った家が違って、着てきた服も食べたものも違って、今の“自分”ができています。
だからそもそもLGBTという言葉でくくろうとするのに無理があるんですよね。
「LGBT」というカテゴリではなく、その人の個性を見てほしい
田中
では、セクシュアルマイノリティの方とわかり合うためには、どうしたらいいんでしょうか?
はるな愛さん
まずは、「その人自身」を知ろうとしてみてください。
田中
その人自身を知る?
はるな愛さん
はい。LGBTというカテゴリではなく、その人の個性に目を向ける。
受け入れることは時間がかかるかもしれないけれど、まずは相手の個性を知ることが、性の違いを理解する一歩だと思うんです。
この記事を読んでいる人の隣にいる人が、もしかすると自分とまったく違う性の悩みを抱えているかもしれな…
ごめんなさい…
はるなさんの気持ちが伝わり、スタッフも涙しました
はるな愛さん
…みんな悩みは違うので、自分が当たり前と思っていることは、相手にとって当たり前ではないかもしれない。
だから「みんないろんな悩みを抱えているんだ」ということを知るのが、LGBTを理解するなによりの一歩だと思います。
田中
私…言葉の意味を知ることでLGBTの方を理解しているつもりになっていました…
でもそうじゃなくて、まずはみんなそれぞれ違う個性があることを知るのが、理解への第一歩なんですね。
はるな愛さん
はい。ぜひその人にしかない個性を探してみてください。
自分がマイノリティなら、コンプレックスを大切にしてほしい
はるな愛さん
ちなみにね、もう私の体は女性のようになってるんだけど、戸籍はまだ「大西賢示」で、男性のままなんですよ。
田中
なぜ女性に変更されていないんですか?
はるな愛さん
父にカミングアウトしたときに「男やったらとことんやれ」と言われたので、戸籍は男でいたいんですよね。
それに「大西賢示」という過去があるから、今のはるな愛があるんです。戸籍を消すことはその過去を消してしまうことになるので嫌なんです。
はるな愛さん
「なんで男に生まれたんやろう」ってずっと思っていて、男である自分を見たくなくて…。でも、そのコンプレックスが私の個性になって、夢だった芸能界にたどり着くことができました。
「ここさえなければいいのに」と思っている部分が、自分の個性だって気がつくと歯車が回って、人生が動きだすかもしれません。だからみんな、コンプレックスを大切にしてほしいなと思います。
私も、あなたも人生は自由。だからもっと気楽に、一度きりの人生を楽しみましょう。
「個性を知ろう」「人生はもっと自由でいい」
インタビュー中、はるなさんの優しい言葉に思わず涙があふれてしまいました。
あなたの隣にいる人は何が好きで、どんな人なのか。相手の個性を、そして自分の個性を、まずは愛していくこと。
その一歩で世界はもっと広がるのだと思います。
〈取材・文=田中さやか(@natvco)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)/撮影=長谷英史〉
お知らせ
はるな愛さんが出演する時代劇・歌謡ショーが7月2日から始まります。
日程:2019年7月2日〜20日
会場:御園座
一般発売:5月15日より開始
内容:一部/芝居「弥次喜多道中~夢の女と旅芝居」
二部/ショー「前川清スペシャルステージ」
お芝居のほか、二部の歌謡ショーではスペシャルゲストとしても登場。ぜひチェックしてみてください!
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