ビジネスパーソンインタビュー

「死にたくない」より「遊び」がパワーを発揮することも。けんすうが語る“仕事と遊び”

“遊びと仕事を一体化させる”にはどうすれば…?

「死にたくない」より「遊び」がパワーを発揮することも。けんすうが語る“仕事と遊び”

新R25編集部

2019/05/15

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これからは、遊びが仕事になる時代だ」。

多動力』(堀江貴文著、幻冬舎刊)をはじめ、売れているビジネス書にはこんなことが書かれていることが多い。

しかし同時に、「最近の若者は遊ばない」なんて言われることも…。「遊ぶ」ってよくよく考えると何をすればいいのか難しいし、さらに仕事とのシナジーを生むのは至難の業のような気がしてしまいます。

遊びと仕事を一体化するにはどうすればいいのか? 遊びから得た学びを、仕事に還流するには?

そんな疑問を抱え、取材をさせていただいたのは、なんだか遊んでるようにさまざまな事業をおこなっているように見える(失礼)、起業家のけんすう(古川健介)さん。

最近では「唯一の趣味」と語る漫画のWebサービス「アル」をリリースされ、まさに「遊びを仕事に」している真っ最中です。

等身大な語り口に定評のあるけんすうさんなら、R25世代に「いい遊び方」を教えてくれそうな気がしたのですが…?

〈聞き手=長谷川リョー〉

【けんすう(古川健介)】1981年生まれ。19才で学生コミュニティ「ミルクカフェ」を立ち上げ、大学在学中にネット企業の社長に就任。2006年、リクルートに入社。2009年に退職し、nanapi代表取締役に就任。2018年にはアル株式会社を設立し、2019年1月にマンガ情報Webサービス「アル」をリリース

【聞き手:長谷川リョー(はせがわ・りょー)】1990年生まれ。株式会社モメンタム・ホース代表取締役/編集者。新卒でリクルートホールディングスに入社後、2016年に独立。ビジネス・テクノロジー領域を中心に数多くのベンチャー経営者や最先端で活躍する研究者やクリエイターへ取材・執筆を重ねる。『SENSORS』編集長、『FastGrow』CCO。編集協力に『10年後の仕事図鑑』(堀江貴文、落合陽一共著 SBクリエイティブ)、『日本進化論』(落合陽一著 SBクリエイティブ)、『THE TEAM』(麻野耕司著 幻冬舎)など。Twitter: @_ryh

「ゲーム」「エロ」…遊びがフックになると、ビジネスは一気に加速する

長谷川

遊びを仕事に」は近年ビジネス書に頻出するワードながら、「何をすればいいか」まで落とし込めている若者はあまり多くないと思うんです。

けんすうさんはイベントやSNSで「遊びを仕事にすればいいじゃん」とおっしゃっていたり、最近では大好きな漫画の情報サイト「アル」を始められました。

「遊び」の原動力をうまく「仕事」に転化できているイメージがありますが…一般のR25世代はどうすればいいんでしょうか?

「働きたくない」という切実な質問にこの返し!

けんすうさん

僕はむしろ、「目的のない遊び」こそが、いい仕事になると思ってます。

「○○円稼ぎます」とか「○年以内に上場を目指す」みたいなことを言われるより、「なんか面白そうだからやる」ぐらいの、無邪気な原動力を持ったビジネスのほうが、エネルギーを感じます。

長谷川

なるほど。「無邪気な原動力」というと…?

けんすうさん

たとえばVRがここ数年で広まった理由は、実用性よりも遊び、たとえば「ゲーム」や「エロ」がとっかかりになってたからだと思うんですよ。

頭で良さを理解するものは、浸透が遅いのかなと。新しい技術が浸透するときってネットワーク効果(利用者数が増えるほど、利便性が上がること)が重要ですよね。なので、「にわとりが先か、たまごが先か」という問題が起こりがちなんですが、「遊びが先にあり、それで浸透したあとに実用が来る」というのが、うまくいきやすいと思っています。

そもそも、人間は「遊び」や「暇つぶし」に惹かれる生き物だと思うんですよね。

けんすうさん

自分が事業を立ち上げるときも一緒なんです。

「なぜ始めたのか」「なんのために」みたいに聞かれることが多いんですけど、正直僕は、「ただ面白そうだから」と思う気持ちを大事にしたいんですよねえ

長谷川

けんすうさんは昔からそうだったんですか? 大学時代、匿名掲示板「ミルクカフェ」を始められたのも、「遊び」が第一歩だった?

けんすうさん

完全にそうです。

長谷川

けんすうさんにとっての「遊び」って何なんですか?

けんすうさん

僕は、インターネット上で「人間のニッチなエネルギーが集まってる」のを見てると興奮するんですよ(笑)。それが一番楽しい。

「人が集まってるの見るの、楽しくないですか?」

けんすうさん

掲示板で、絶対にほかでは通じないようなテーマで、話の通じる人たちだけ盛り上がっているのを見るのが「遊び」って感じで楽しかったんです。

それ以降も、マネタイズのことなんて考えたことないですね。

ホリエモンは“模擬”タイプ!? 「遊びの4類型」とは

長谷川

でも、世の中のうまくいっている人は、「お金をいかに稼ぐか」とか「他の人との競争」が原動力になっているケースも多いように見えるんですが…

けんすうさん

いえ、それも「遊び」で説明できると思います。

えっ

けんすうさん

ロジェ・カイヨワという社会学者がいて、『遊びと人間』という著書のなかで「遊びの4類型」を提唱しているんです。

これがあらゆる仕事人に当てはまるんですよ! 1つずつ説明していきますね。

けんすうさん

人間がする遊びの1つ目が「アゴン(競争)」。創業時に「世界一の起業家になる」と豪語した孫正義さんのような、ビジネスにおける「競争」そのものを楽しめるひとはこの属性に入りそうです。

業績が上がりつづけることがうれしかったり、時価総額があがることを楽しめる人もここかもしれません。

2つ目が「アレア(偶然)」。これは、ギャンブルに代表されるような、一定のルールがあったうえでの「偶然」を楽しめる人のこと。ビジネスにおいても組織や市場の「不確実性」を楽しんでいる人はいますよね。「こうなったらどうなるんだろう」と実験思考でチャレンジできる僕や、2ちゃんねる創始者のひろゆきさんは、このタイプに当てはまりそうですね。

けんすうさん

3つ目が「ミミクリー(模擬)」。演劇やごっこ遊びを指す言葉です。面白そうなことをとりあえずなんでも体験してみる堀江貴文さんは、このタイプに当てはまるのではないでしょうか。

長谷川

たしかに…堀江さん、演劇やお笑いにチャレンジしてて、正直理由がよくわかってなかったんですが、そう言われると納得しますね。

けんすうさん

4つ目が「イリンクス(めまい)」。これは特殊なのですが、お酒を飲んだりドラッグをキメてクラクラになることで、一種の朦朧状態やパニック状態などを楽しむ行為です。

起業した人が、一度社長をやめてゆっくりしててもまたやりたくなったりするのは、ドキドキ感やスリル、刺激を求めてしまうということで、これかもしれません。

長谷川

「遊びの4類型」に当てはめると、けんすうさんにとって「上場する」や「年商◯◯円」は遊びになりえないだけで、それが「遊び」になっている人もいるんですね。

つまり、僕らが「めっちゃ仕事」だと思ってることも、人間がする遊びのひとつなのか…!

僕らが簡単に「仕事を遊び化」するにはどうすれば…?

長谷川

「遊びの4類型」、めちゃめちゃ勉強になります…! ですが、自分から環境を選ぶことのできないサラリーマンの人は、なかなか「遊びの4類型」を応用することができないのかなと思いました。

会社員が環境に左右されず、仕事に「遊び」を取り入れるためにはどうしたらいいのでしょうか?

けんすうさん

簡単な方法は「ゲーム化」ですよね。

長谷川

いわゆる「ゲーミフィケーション」。

けんすうさん

そうなんです。リクルートにいたころ、優秀な同期はみんな「ゲーム化」することで業務を楽しんでました。ひたすら数字を積み上げることを楽しんだり、いろいろなパターンで営業することを楽しんだり、と。

逆に、他者から設定された目標をこなそうとすると、どうしても甘えが生まれてしまったり、他責思考になってしまいます。そもそもつまらないので、エネルギーが出てこないですよね。

自分で勝手にKPIを設定し、勝手にPDCAを回すことを心がけると、「自分だけのゲーム」が生まれて楽しくなってくるんじゃないでしょうか。

長谷川

まさにゲームを「攻略」する感覚ですね。

けんすうさん

これは『残酷すぎる成功法則』という本に書いてあったんですが、雪山で遭難して死にそうになっていた人が、「あそこの木まで20分以内で行こう」というゲームを繰り返した結果、山から生還したことがあったらしくて。

勝手にゲームにして「遊び」を生み出したほうが、時として「死にたくない」と思うよりもパワーを発揮することがあるみたいなんですよ。

長谷川

それはすごい…

けんすうさん

「よい行動」をするために、ゲームフィケーションするのはオススメです。

よく「自分の性格が嫌だ」という人がいますが、性格はなかなか変えられない。でも、行動は変えられるわけです。

たとえば、優しい性格だけどめっちゃ人を殴る人と、優しくないけど席を譲る人では、後者のほうが他人から優しいと思われますよね。

長谷川

「行動」はゲームで変えやすいと。

けんすうさん

たとえば暗い性格の人でも「今日は10人に明るく挨拶をしよう」というゲームにすると、自然にできたりします。

こんな感じで、自分の行動をよくするために自分でゲームを設定しちゃうと、人生が簡単に好転するなーと思っています。

「キリギリス」を夢見る「アリ」にとって、残酷な時代がきている

長谷川

けんすうさんのお話を総合すると、やはりR25世代のビジネスパーソンも、仕事を「遊び化」していくべきという…

けんすうさん

いや、盛り上がったところ申し訳ないんですけど、「遊びを仕事に」ってすごく残酷なことを言っているなぁと思うんですよ。

長谷川

えっ…! それはなぜですか?

けんすうさん

「勤勉に働く人」と「遊んでばかりの人」の対比を描いた「アリとキリギリス」に置き換えると、今までは、アリ的に勤勉に働くだけで“食えていた”

でもこれからは、勤勉なだけでは仕事がなくなってしまうから、キリギリスのように「遊ぶ」必要がでてきてしまうわけですよね。堀江(貴文)さんのように。

長谷川

AIが進化して、勤勉な働き方だけでは食えなくなってくると。

けんすうさん

だから今、たくさんのアリが頑張ってキリギリスになろうとしている時代だと思うんです。

でも、ずっと「アリスタイル」で働いてた多くの人々が、遊び自体が仕事になる「キリギリススタイル」になろうとするのは、なかなかしんどいですよね。

さらに、遊んでいたからといって、それが仕事になるかどうかは割と運だったりします。

勤勉な人は言われたことをきちんとやっていれば仕事になったのに、「これからは遊びじゃないと仕事にならないっすよ。でも、あなたの遊びが仕事になるかどうかはわからないですけどね」って言われたら、きついです。

長谷川

それこそ、仕事を遊びのようにして活躍している人たちをネットで見て、無茶な「キリギリススタイル」に挑んでしまう人もいますもんね…

けんすうさん

僕は完全に「キリギリススタイル」なんですが、「アリスタイル」のように「プライベートの遊び」と「仕事」を切り分けてシナジーを生み出す…ということができないんですよね。

遊びを活用する思考がなくて、すべてに遊びのようなテンションで取り組んでしまうんです。

それが単に遊びで終わったものもあれば、仕事になったものもある、というだけなので…。勤勉に仕事をしてきた人たちにとっては、“正解がなさすぎてツライ”となりそうです。

長谷川

なるほど…。R25世代は、まずは自分が「アリ」か「キリギリス」か、自分のタイプを考えてみたほうがよさそうですね。

「ゲーム化してしまう」というテクニックはありつつも、「遊びを仕事にするのは、じつは難しいかもしれない」と話すけんすうさん。

このテーマ、なかなか一筋縄ではいかなそうです…。

明日公開予定の後編のテーマは「変化する“遊び”」。

「遊びがどう変化しているのか」「どんな遊びが求められているのか」といったお話で、流行中のオンラインサロン、『キングダム』などを分析していただきました

お楽しみに!

〈聞き手=長谷川リョー(@_ryh)/文=半蔵門太郎(@hanzomontaro)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=二條七海(@ryuseicamera)〉

けんすうさんが最近リリースした「アル」をチェック!

アルは「マンガファンの『次に読むマンガが見つからない!』という悩みを解決するために、『みんなでマンガ情報を投稿するサービスを作ろう!』という発想でできたサービス」とのこと。さっそく参加して遊んでみよう!

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